
教えてくれてあざーす!(映画『くも漫。」レビュー&名古屋舞台挨拶レポ)
漫画家中川学さんの実体験を描いた作品『くも漫。』が実写化。
「このマンガがすごい《オトコ編》 」「このマンガを読め!」
「マンガHONZ超新作大賞」など、2015年度の各賞にランクインし
大きな話題となった作品。
中川さんの『僕にはまだ友だちがいない』を映像化した
小林稔昌監督がメガホンを取り現在公開中だ。
まさか、こんなところで。とても恥ずかしい。でも男の性
いつ起こるかわからない恐ろしいくも膜下出血。
年齢に関係なく起こるこの病気。
主人公の学は引きこもりをようやく脱出し、
職に就いた。自分へのごほうびのつもりで風俗に行ったのだが
そこで突然くも膜下出血になって倒れてしまう。
運んだ救急隊員も医師も倒れていた正確な場所は家族には
告げないでいたが靴がないことで母親や親戚に怪しまれてしまう。
風俗で倒れたなんて言えない…。
妄想と現実の繰り返し
手術が終わった後から夢と現実が後からしかわからない状態で入ってくる。
なかなかグロかったりエグかったり、
見ている側もゾッとしてしまう。
ゆるくないキャラ「くもマン」は死への恐怖の偶像
主人公には見えるバットを持ったキャラ「くもマン」
くまモンではない。学の頭をバットで殴りくも膜下出血を起こさせた張本人だ。
学の近くで素振りをしていたり、脳みそを夢の中で踏んだり。
じりじりと学に迫る恐ろしさがある。
決してゆるキャラではない。まるで死神のような存在がくもマンだ。
音楽効果が絶大
音楽はGentle Forest Jazz Bandが担当。
いつか一緒にと監督が思っていたというビッグバンドにオファーしたところ
脚本内容を読んで快諾してくれたそう。
音楽の使い方が適材適所。重くならず軽すぎない。
作品とのジャストフィット感がすごい。
ジャズのスウィングとのコラボが面白い。
全編暗すぎないイメージを保つ。
辛いときこそ盛大に演奏を。
この作品にはジャズに通ずるものがあった。
くも膜下出血のことがよくわかる実はためになる映画
冒頭からことの過程を包み隠さず描くためR15指定だが
実はくも膜下出血が起こったらそれからどうなるのかを
詳しく伝えてくれる映画なのだ。
手術後にもまだ危険が残るなんて知らなかった。
『くも漫。』は大人のためになる医療ドラマとしてもじっくり
難しくなく楽しめる体験談なのだ。
監督は映画化にあたって原作者の治療に当たった医師にも
話を伺って撮影にあたった。
ドラマで出来ないから映画で。映画の製作の方向性の変化
はじめはテレビドラマとして企画された本作。
風俗を扱うこともあり許可が下りなかった。
それを救ったのは若手のドラマ制作者に映画をつくってもらおうという企画
ATP(全日本テレビ番組製作社連盟)若手映画プロジェクトだ。
自己制限をしないでおもいっきりつくってほしいという審査員の思いを組んで
監督はしっかりと風俗部分も描いた。
だからこそ原作の良さを損なわない作品に仕上がった。
ドラマから映画という体系が日本では一般化しているが
これからはドラマで出来ないから映画でやる。
映画からドラマという方向に変わっていくのではないだろうか。
脇役陣は演技派揃い
学の両親は平田満さんと立石涼子さん。
平田満さんの絶妙な表情が後半に行けば行くほどたまらなくなる。
大高洋夫さんは親戚の一人として学に迫り、
隣の患者役として坂田聡さんが怪しく存在する。
見る人が見れば演劇界のすごい人たちが一堂に会しているわけだ。
舞台挨拶で聞いた撮影裏話
2月11日に名古屋中川コロナシネマワールドにて
中川学役の脳みそ夫さん、妹役の沖ちづるさん、小林稔昌監督を迎えた
舞台挨拶が行われた。
脳みそ夫さんは自身のネタ『アラサー武士』の姿で登場。
もちろんネタも披露。その後も自身のネタを入れながらトークを盛り上げた。
沖ちづるさんは主題歌の『誰も知らない』だけでなく挿入歌も急遽披露。
心に響く美しい声に観客も癒された。
作品の裏話からいくつかご紹介。
主役決定は1か月前。
初監督で全てのことが初めてで大変だった小林監督。
主役が決まるまでがまず大変だった。
小林監督
「主役のキャスティングが決まったのが1か月前だったんです。
脳みその話に脳みそ夫さんはどうかって。」
脳さん
「僕に決まってからはすぐだったんですか?」
小林監督
「それからはすぐだったです。」
司会者
「台詞覚えは大変でしたか?」
脳さん
「いつもネタを覚えているのでシーン毎の台詞を覚えるのは大変ではなかったです。」
主題歌よりも先に女優として出演決定
司会者
「沖さんは主題歌を担当していらっしゃいますが出演とどっちが先に決まったんですか?」
小林監督
「出演の方が先です。今日はこんな感じで背筋をピンとしてますけど猫背になっていると
結構学の妹に合うんですよ。なので出演を先にお願いしました。」
沖さん
「撮影の時は役柄もお兄ちゃんですが脳さんに引っ張ってもらいました。」
脳さん
「僕も沖さんに引っ張ってもらいました。(笑)」
主人公のモノローグは自分の思い
小林監督
「ひとつ目の風俗に行ったときの主人公のモノローグ『どうにか思いに応えたい。』
これは僕の思いにも重なっています。せっかく頂いた機会。どうにか皆さんの思いに応えたい。
そう思って撮影していました。」
寒さに凍える病院
上田でのオールロケ。冬の撮影での苦労は?
脳さん
「あの病院は廃病院で暖房が入ってなくて気温が3度ぐらいしかない。その中での裸のシーンは辛かったです。」
小林監督
「裸になっているだけでも寒いのに救急隊員の役の方が滑舌が悪くて何度もやり直して。
脳さんも寒さのせいでキレかかってました。」
沖さん
「外のシーンから撮影が始まったんです。外も寒かったですが病院に行ったらさらに寒かったです。(笑)
私は本番待ちの間はダウンコートを着せていただけるのでいいんですが
スタッフさんはそのまま動いていて本当に寒かったと思います。」

左:小林監督 中央:脳みそ夫さん 右:沖ちづるさん
男性にはお薦めしたい。
突然だから防ぎようはないけど教訓になる。
女性にぜひ見てくださいとは言いづらい本作。でも…見てほしい。
わかってほしい。
人生何が起こるかわからない。
だからこそ見てほしいのだ。
映画『くも漫。』http://kumoman-movie.com/ は現在公開中。
名古屋では中川コロナシネマワールドで2月18日より公開。
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