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映画祭は夢の時間。そこで起きる出来事も夢と言えるのか(映画『サン・セバスチャンへ、ようこそ』)
ウディ・アレンはとにかく精力的に作品を作る。その勢いは年を重ねても変わることはない。88歳だが昨年も映画を製作している。
2020年に製作された『サン・セバスチャンへ、ようこそ』がコロナ禍を経て1月19日に公開される。
今回の舞台はスペイン北部の街、サン・セバスチャン。
ヨーロッパのリゾート地であるこの地はカンヌ、ヴェネチア、ベルリンに並ぶサン・セバスチャン映画祭が開かれている場所としても知られる。
久しぶりのヨーロッパ撮影。ウディ・アレンがこの地で描く新たな恋模様とは?
あらすじ
かつて大学で映画を教えていたモートは、今は人生初の小説の執筆に取り組んでいる。映画の広報担当の妻・スーに同行し、サン・セバスチャン映画祭に参加したが、スーとフランス人監督フィリップの浮気を疑うモートはストレスに苛まれ診療所に行くことに。そこで人柄も容姿も魅力的な医師・ジョーとめぐり合い、浮気癖のある芸術家の夫との結婚生活に悩む彼女への恋心を抱き始めるが…。

© 2020 Mediaproducción S.L.U., Gravier Productions, Inc. & Wildside S.r.L.
男の旅は名作映画の世界とともに
主人公モートはサン・セバスチャンで昼も夜もモノクロームの夢を見るようになる。まるで自分が映画の中に入り込んだようなそんな不思議な体験に遭遇する。フェデリコ・フェリーニ監督の『8 1/2』、クロード・ルルーシュ監督の『男と女』、ジャン=リュック・ゴダール監督の『勝手にしやがれ』などの名作達。大好きな映画の登場人物がいたと思えば、映画の世界が自身と周りの人で表現されることも。モートは映画と現実の世界を往き来し、自分の生きる意味を考え始める。
映画で叶うことは現実では叶うとは限らない。冷めた夫婦なのに、妻の浮気の気配を感じとると気になってしまい、精神的なストレスで胸が痛くなるモート。しかし自身も美しい医師ジョーに一目惚れ。ジョーへの熱い思いを抱き、デートに誘う積極さ。妻を疑う行動は自分の行動を棚に上げた行動で、矛盾しているのだが、人を好きになるとはそういうものなのだと、ウディ・アレン監督が観客に言っているようにも思える。

© 2020 Mediaproducción S.L.U., Gravier Productions, Inc. & Wildside S.r.L.
モートが観る映画の世界はモノクロ。しかも作品によってスコープサイズが変わるところまで忠実に再現されている。サン・セバスチャンの自然と街並みを捉えたモートが生きる現実の世界はカラー。映画祭のシーンは実際にサン・セバスチャン映画祭で使用される会場で撮影されているそう。モノクロとカラーのコントラストも楽しい。モノクロの夢はモートに真実を告げているようにも見える。深層心理ではモートはとっくの昔にやがて来る現実を知っていたのではないか。「自分とは何か」という人生で何度も反芻する毎回答えの違う問いに今回モートはどんな答えを出すのか。
キャストには多彩な演技巧者が揃った。異国の地で久しぶりに心のときめきを見つけながら、人生の迷い道に再び入り込んでしまうモートに扮するのは、ハリウッドの名脇役でアレン作品の常連でもあるウォーレス・ショーモートが心奪われる医師ジョーには『私が、生きる肌』やハリウッド大作『ワンダーウーマン』で知られるスペインのエレナ・アナヤ、モートの妻スーには『バウンド』のジーナ・ガーション、『グッバイ・ゴダール!』『オフィサー・アンド・スパイ』のルイ・ガレルが映画界の寵児フィリップを演じる。

© 2020 Mediaproducción S.L.U., Gravier Productions, Inc. & Wildside S.r.L.
映画は夢。起こるわけがない奇跡も叶う世界。儚く、美しく、滑稽でもあり、真実を映す鏡でもある。
映画祭という大人の夢の祭りを通して、彼らはどう動き、どんな結末を迎えるのか。喜びも悲哀も描くウディ・アレンの手腕が見ものだ。
ブラックジョークも大好きなウディ・アレンの仕掛けは映画の最後まであるので、楽しみにしてほしい。
映画『サン・セバスチャンへ、ようこそ』https://longride.jp/rifkin/
は1月19日(金)より新宿ピカデリー他で全国公開。
東海三県では1月19日(金)よりミッドランドスクエアシネマ、ユナイテッド・シネマ豊橋18、ミッドランドシネマ名古屋空港、MOVIX三好、3月15日(金)より伊勢進富座で公開。
映画『サン・セバスチャンへ、ようこそ』
脚本・監督:ウディ・アレン
出演:ウォーレス・ショーン エレナ・アナヤ ジーナ・ガーション ルイ・ガレル クリストフ・ヴァルツ
2020年/92分/スペイン、アメリカ、イタリア/英語、スペイン語、スウェーデン語/カラー、モノクロ/ビスタ/原題:Rifkin’s Festival/日本語字幕:松岡葉子
提供:ロングライド、松竹 配給:ロングライド
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