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映画『花腐し』綾野剛さん、荒井晴彦監督インタビュー

11月10日(金)公開、映画『花腐し』。松浦寿輝の原作を荒井晴彦監督が脚色。ピンク映画の監督・栩谷(くたに)と脚本家志望の伊関。二人の男が思いを寄せた女優・祥子。三人の人生が交錯する。

栩谷役の綾野剛さん、荒井晴彦監督にお話を伺った。

Q.荒井監督がこの原作の中で1番大事にした部分、 脚色をする上で1番こだわった部分を教えてください。

荒井晴彦監督(以後 荒井監督)
「最初、原作を読んで、栩谷と伊関が喋っているだけなので、困ったなと。 とにかく雨は外せないし、最後に祥子が現れて、栩谷が後を追うように階段に足をかけたというのが小説の終わりなんですよ。そこに合わせよう、そこだけは外せないなと。小説のラストに合わせれば、結構あとは脚色してもいいんじゃないかと。原作では栩谷は、倒産寸前のデザイン事務所を経営しているんです。デザイン事務所とか、よくわからないので1番自分がよく知っている映画監督と脚本家志望に変更しました。いつもその設定なら楽なんですが、そうはいかないので。でも、今回はいいやと。ホン・サンスの作品はいつも主人公は映画監督で大学の先生ですよ。羨ましいです(笑)。原作をだいぶ変えたじゃないかと言われますが、大きな骨格は残したつもりです」

Q.ではその骨格を決めてその骨格を生かすような脚色をされたわけですね

荒井監督
「生かすというか、ラストの設定に持っていくには話の真ん中をどうしようかなと。心中、死体から話を始めようかなと。死んだ女について語る映画ですと」

Q.モノクロとカラーを取り入れた理由を教えてください。

荒井監督
「これは昔からやりたくて。普通の映画は現代がカラーで、過去だとセピアになったりモノクロになったりしますが、大体過去の方が輝いていたんじゃないのかというのがずっとあって。歳を取ると、青春時代に戻りたいかと言われると微妙なところはありますが、楽しかったなというものもある。それで、大瀧詠一さんの歌を使って、「想い出はモノクローム、色を点けてくれ」とお客さんに説明したんです」

綾野剛さん(以後 綾野さん)
「マキタスポーツさんが、歌っていらっしゃるんです」

荒井監督
「本当はあそこで一緒に栩谷も歌っているんだけどね」

綾野さん
「僕はギターを弾いていました」

荒井監督
「ギターを渡されて、いきなりやっていたね」

綾野さん
「楽しかったです」

荒井監督
「あれはDVDに入れるかね(笑)」

荒井晴彦監督

荒井晴彦監督

綾野さん
「構いません(笑)」

Q.では栩谷として弾かれていたんですね

綾野さん
「マキタスポーツさんが芝居中にアドリブで「弾いてみろ」と仰って。思い切ってやるしかないなと。本来であれば「いや、弾けません」の一言で終わってもいいんですが、栩谷がギターを弾けるということに違和感がなかったんです。情報が少ない人物だからこそムードがある方なので、直感で弾くことを選択しました」

荒井監督
「そこは計算外だったから。これを残すともう1回歌うし。そうなると綾野が歌ってばかりいる映画になってしまうので(笑)」

綾野さん
「祥子と歌うところも、現場で荒井さんが「歌える?」と仰って」

荒井監督
「そうそうそう。あれはシナリオになくてね、現場でね」

綾野さん
「テストをあまりしない現場でしたので、本番中にチューニングしていくという感じでした」

Q.綾野さんはモノクロとカラーの演出をどう感じられましたか?

綾野さん
「過去がカラーって残酷じゃないですか。いい思い出も葛藤した記憶も、全てがカラーとして残っている。映画的演出として表現されているからこそ、現在のモノクロでは、情報過多なサービスは必要ないと判断しました」

Q.荒井監督の脚本を読まれていかがでしたか

綾野さん
「久々に匂いが沸き立つ“脚本”に出会いました。圧倒的完成度の高さと、読み物としても完成されている強度。これを映像化する上で、この完成度をどこまで追求できるのかという畏怖や、緊張感がありました。最終的には現場に全て委ねられるので、荒井さんに「栩谷って、どう生きたらいいですか」と聞いたら「脚本なんていうのはただの書き物だから自由にやればいいんだよ」と潔くおっしゃって、その時「栩谷が目の前にいる」と思いました。そこからずっと荒井さんを観察しながら栩谷を丁寧に形成していきました」

綾野剛さん

綾野剛さん

Q.綾野さんが見る柄本佑さんの俳優としての印象は?

綾野さん
「佑くんの事が個人的にファンというのもあって、本当に魅力的な方です。芳醇な声で撮影中ずっとうっとりしていました」

©️2023『花腐し』製作委員会

©️2023『花腐し』製作委員会

Q.栩谷と伊関の会話シーンが多いですが、伊関役の柄本佑さんと相談をして撮影に臨まれましたか。

綾野さん
「よく聞かれますが、基本的にどの作品においても俳優同士で相談して何かを確定することはなかなかないです。なぜなら、監督がいて、各部署がいて、総合芸術なので。 まず脚本に書かれているセリフをテストの段階で吐露するように感情を往来させながらチューニングしていきます。何を喋るかは脚本上決まっていますが、どう生きるかは決まっていないので。現場で全てが揃った中で、自然とお互いチューニングしあっているという感じです。事前に相談や共有が必要なのはアクションや性的描写のシーンです。性的描写についてはインティマシーコーディネーターの方にも入っていただき、事前リハーサルをして、どういう動きが必要か、どういったものを撮りたいか、何ができるかできないかを、丁寧に汲み取っていきました。段取りの積み重ねをどう映像化していくかということも大切です。そういうこと以外は本番中やテスト中にチューニングをしていき、監督が最終チューニングをします。今回の現場では佑君もほなみさんも完成されていますから、自然と入っていくことができました。当たり前に、昔からやっていたかのようなムードになれたのは、それぞれの向き合い方がものすごく合ったといいますか、近い感覚でいられ、親和性があったんだと思います」

Q.さとうほなみさんが大胆に演じていらっしゃったんですが、さとうさんの女優としての印象も教えてください。

綾野さん
「ほなみさんはとにかくエンジンの大きい方で、すごく直感的なんですが、地に足がついている。シンプルに言うととてもかっこいい方です。素敵でした」

Q.家の前にお墓がある家、道、バーに昭和の設定ではないのに昭和を感じました。ロケハンのこだわりであったりとか、美術さんに装飾を依頼する上でどう要望されたのでしょうか。

荒井監督
「とにかく古いアパート、玄関が広くて、階段があってとイメージに合うアパートを探してくれと。それを必須条件にしたんですが、たまたまあったんです」

Q.都内にあるんですか?

荒井監督
「そうなんですよ。西早稲田にあって。まだ住んでいる人が何人かいらっしゃるんですよ。家賃3万円ぐらいで」

Q.立ち退きは求められていないんですね(笑)

荒井監督
「ないです、ないです(笑)。ただ部屋が狭いんですよ。人が住んでいるから部屋の中は別の場所で飾って作って撮影したんだけど、あのアパートはよかった。 昭和って言われると思っていたけど、しょうがないんですよ。僕はいまだに昭和だと思っているので。平成令和は知りませんみたいな(笑)」

Q.こんな場所がまだあるんだと懐かしく思いました。

荒井監督
「そのアパートへ行く道も小説だと大久保の辺りだと思うんですが、大久保辺りは、今はコリアンタウンみたいになっているから、その要素もちょっとは入れたけれど、実際は荒木町で撮りました。荒木町というのは、くぼ地になっていて小さな階段が多いんですよ。だから昭和っぽいのかな。現代を描いているのに、どうして昭和になっちゃうんだろうね」

Q.雨のシーンが非常に多かったと思うんですが、印象に残っているシーン、大変だったというシーンを教えてください。

荒井監督
「大変だったのは新宿のゴールデン街というところで撮影をしまして、撮影が深夜なので、年寄りなのに終電集合でした。それで実際にカメラが回ったのが3時過ぎ。それで雨を降らしたのはいいんだけど、 カメラの滴は垂れてくるし、ザリガニも撮らなきゃいけないし、しかもそのシーンはカラーですからね。絵を見ると綺麗な色ですが、ずぶ濡れで、キャストは転がらなければいけない。その後朝までホテルのシーンをそのままやりました。あれって、昼頃終わったのかな?」

綾野さん
「そうですね。午前中だったと思います」

荒井監督
「それが2日目か3日目のことで。これからどうなるの?と(笑)」

綾野さん
「(笑)。雨は一見弊害に思えますが、雨が自分の体に染み込んでいくことで体温を調整していくと、生きているという実感に繋がっていく。栩谷にとっては重要な要素だった気がします。そして、雨ふらしチームの技術が本当に素晴らしくて、カメラの前とか役者に当たっている部分だけで済ませてしまうのではなくて、50メートル以上先まで雨を降らしていました。感動しました」

Q.先程話されていた栩谷が歌うシーンについて、急に監督から現場で振られたということでしたが、栩谷はどうして歌ったのでしょうか。

綾野さん
「男の長い言い訳だと思います。それなりに栩谷は祥子に寄り添っていた。本当にサービス精神がない人で、無愛想ですが、彼なりの寄り添いがまさにデュエットするということだった。多分、歌ったのも初めてでしょう。現代の栩谷がそれを覚えているかはわかりませんが。カラーだからこそ、残酷で美しい眩しさがありますよね」

荒井監督
「彼女は嬉しそうな顔をしているじゃないですか。「え。歌うの?」というところから。真ん中のカラオケのシーンで一緒に撮ったんだけど、長い曲で6分以上あるんですよ。あそこで6分は使えないんです。でももったいないわけですよ。 別にね、俺が演出しているわけじゃなくて、2人が歌っているだけなんだけど、非常にいいシーンで、泣けてくるだろうという。それで、よしあそこで使おうと。ずるいと言われていますけどね、あそこで泣かせるのは」

綾野さん
「現場でもそういう話をしました。荒井さんは構成で考えないんです。「やってみたら、6分あるんだよな」と全部その場で思いついたように仰っていたんですが、実際出来上がったものを見た時に脚本の通りになっていたんです。僕たちが歌うことは、初めから荒井さんが感じられていたものだったんだと思うと、すごいですよね」

Q.ピンク映画へのオマージュがたくさん込められた映画だと思いました。どんな思いを込められたのかを教えていただけますか。

荒井監督
「僕はピンク映画出身なんですよ。若い頃は若い頃で、そんなにいいところじゃなかったです。だから、ピンク映画のノスタルジーと言われるとちょっと違う。愛憎はありますけれども。親しくしていた若い連中がピンクをやっていて、映画に出てくる。もっと出したかったですね。 その連中がいた国映という会社があまり撮れなくなっていた頃がちょうど10年ぐらい前で。ピンク映画を上映する映画館もどんどんなくなってという時と、東日本大震災が重なって、それから民主党から自民党になってという、ある意味日本が変わっていった時期を重ねて、なくなっていくピンク映画に対するレクイエムをやってみたいなと。 これが1番大きいんですが、戻ってこないもの、死んだ人に対する気持ちをダブらせて、喪失という戻ってこないものに対する思いを込めました。「脚本は直せるけど人生は直せない」という言葉は誰かが使っていますが、だからこそ逆に映画を作るんだという。人生でできなかったことを映画で、あるいは脚本でやる。「あ、こうすればよかったな」ということを映画でやっているのかも知れないですね」

綾野さん
「僕が感じた“これぞ脚本”の意味が、今結実した気がします。完成されていたというのは、ある種のレクイエムだったのだと。完成された脚本に下から撮影という“炎”をあてて、もう一度あぶり出す作業でした。煙になっていくのは残酷ですが、あぶり出された匂いはちゃんと残る。今作はそういう映画に仕上がったと確信しています」

二人の男が愛した女。男達の姿から女の人生が見えてくる。あの時の人生の選択は果たして。過ぎ去った過去は愛おしく、せつない。観終わってしばらく作品の余韻にひきずられる。

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映画『花腐し』https://hanakutashi.com/ は11月10日(金)よりテアトル新宿他で全国公開。東海3県では伏見ミリオン座、ユナイテッド・シネマ豊橋18、109シネマズ明和で11月10日(金)より公開。岐阜CINEXでも順次公開予定。

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