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映画『おいしい給食 Road to イカメシ』市原隼人さん、綾部真弥監督インタビュー
現在公開中の『おいしい給食 Road to イカメシ』は食のドラマとして人気のドラマシリーズの映画版第3弾。シーズン3から舞台は函館に移り、給食好きの中学教師・甘利田幸男は給食の献立にイカメシが登場する日を待ちわびながら、毎日の給食を楽しみに生きている。
主演の市原隼人さん、綾部真弥監督が来名。お話を伺った。
Q.「おいしい給食」シリーズも第3弾になりました。この第3弾を今回劇場版でやるということを初めて聞いた時の気持ちを伺いたいです。
市原隼人さん(以下 市原さん)
「すでに経験値がある分、体力的な面、精神的な面も含めて、やりきることができるかなという心配がありましたし、第3弾を創る意義をしっかり持ちやらなければならないという思いが強かったです。他の役が入っていない時に読みたかったので、約1ヶ月ほど脚本は読めなかったです。今回も基本は変わらず、お子様が観ても目を背けさせないように、人生のキャリアを積まれた方、ご年配の方までしっかり楽しんでいただけるような作品になっています。1989年が舞台ですので、今の日本人が忘れかけているような古き良き心、わびさびというものをふんだんに取り入れて、そこから見えてくる人間臭さがあります。SNSではなく、顔と顔を突き合わせながら、全ての物事を進めていくことによって見えてくる人間の隙というものがすごくチャーミングに描かれています。更に、ドラマでは見えてこなかったヒロインとの「おいしい給食」ならではのラブストーリー展開だったり、ライバル生徒とのより踏み込んだ人間模様も描かれています。国が違っていればルールも法律も基準も規律も秩序も全てが変わってしまう。同じ会社であっても、上司が違えば正解もそのルールもやり方も全て変わってしまうという社会の中で、何を信じていけばいいかわからなくなってしまう瞬間があると思いますが、その中でも信じられるものを映画で1つ作りたかったんです。その象徴となるものが「おいしい給食」という作品だと思っています。根底はコメディなんですが、社会派のしっかりとしたメッセージをお客様に届けられるようにしなければならないと思いました。笑わせるのではなく、笑われたい。滑稽な姿を見せて笑われても、好きなものを好きと胸を張って謳歌しようとする甘利田を観ていただいて、いろんな方に人生の活力にしていただきたいという思いを持って、今できる全てを尽くし腹を決めて、現場に入りました」

市原隼人さん
綾部真弥監督(以下 綾部監督)
「やはり最初はプレッシャーが強くて。シーズン1の時の映画版『劇場版 おいしい給食 Final Battle』は2020年の3月公開で、 4月7日に第1回緊急事態宣言が出て、すべての映画館が3、4か月閉まり、僕らの作品も自然と打ち切られてしまったので、その打ち切られた後に初めて映画館が再開する時に、僕も『劇場版 おいしい給食 Final Battle』を観に行って。そこに『おいしい給食』を楽しんでくれているファンの方が20人ほどいらして。 シーズン2を作って映画も作って、満席の劇場でかけたいという夢ができて、シーズン2に走っていけました。シーズン2はコロナ禍での撮影だったので、今までと同じように思うように撮影ができないというストレスと苦しみがあって。今回はすでに神野ゴウも卒業しているし、やりきってしまっていたので、シーズン3は果たしてどうだろうか、1、2以上に面白いものができるんだろかと最初は思っていました。面白くするには、本当に全て自分を絞り出して、「ごめんなさい、もう出ません」というぐらい、自分の全てを賭けなければいけないので、本当にこれはできるんだろうかというプレッシャーの方が強かったです。ただ、もう一度「おいしい給食」を作って皆さんから観ていただきたいという声がある以上は、自分を奮い立たせてやってみようかなと。でも、やるからには今までで一番面白い映画にしたいという自分とのプレッシャーの戦いがありました」
Q.給食前の校歌斉唱の時の甘利田先生のダンシングが作品を重ねるごとに大きくなっているように思うのですが、その振り付けはどのように生まれ、グレードアップしてきたんでしょうか。
市原さん
「約5年ほど前からこの作品が始まって、監督との信頼関係があってできることなんですが、給食を食べるシーンや、高揚して踊ってしまうシーンは全部自由に演技させていただいています。今回は、「函館」が舞台なので、北海道になぞったソーラン節の振りを参考にしたり、ドラマの各話のストーリーにちなんだ動きを入れていっていました」
Q.毎回、机に手をぶつける動作も、台本には無かったのですか?
市原さん
「アドリブです。脚本には無かったのですが、毎回「おいしい給食」にはこういうシーンがあるよね、こうだよね」と言っていただけるような、作品のチャームポイントのような、毎回「来ました!」みたいなお決まりの場面を作りたいなという思いで、勝手にそういう場を作らせていただきました。給食前の踊りは、最初はそこまで踊っていなかったのですが、シーズン1の時に綾部さんから「もう少し動いてみようか」という声をいただいて。そうか、そう言われるんだったらやってみようかなと(笑)」
綾部監督
「元々クラス全員の子供たちが校歌を歌って日直が「いただきます」と言うシーンは台本に書かれていて、甘利田の給食好きがバレてはいけないという設定だったんです。 今でも覚えています。シーズン1のクランクインから2日目がその給食のシーンだったんですが、初日にやった市原君の芝居がもう突き抜けた面白さがある甘利田でこれだけオーバーアクトで面白い芝居だったら、ただ自分をひた隠して校歌を聞いているだけじゃ面白くないんじゃないかなということで。当日、「校歌歌える?」「歌えるようにします」という話をして、その場で市原君がiPhoneで校歌をかけながら覚えて歌えるようにして、もう給食が楽しみということが溢れ出ちゃって、リズムに乗っちゃおうかと。手を洗って、校歌を歌っていただきますをルーティーンとして甘利田がやっていて、そこで若干気持ちが漏れちゃっているという。踊りでそれをやると回ごとのテーマを表現できるんです。全部振り付けは市原君が考えていて、僕らは振り付けは考えていません」

綾部真弥監督
Q.振付担当の方がいるのかと思っていました。
綾部監督
「敢えて言えば「この回は神野ゴウ君に初めて勝てるから、甘利田の敵意をむき出しにしてほしい」とかテーマだけを伝えて、その方向性だけ示した感じです。例えば今回の映画だと粒来くんに負けないぞという意識。その時の特徴ですよね。 ここはちょっと落ち込んでいるという設定だからその方向でとか、その確認だけ。お互い確認だけして。今回のシーズン3なんかはもう「ここは敵意で」と言えばもう市原君が色々やってくれるので、振付はほとんどしていないですね。どっちかというと市原君が乗ってできるような持っていき方をするというのが僕の仕事かなと(笑)」
Q.学芸会での演劇シーンにたくさん時間が割かれています。今まで甘利田先生は教室にいても実際授業しているシーンは少ない中、しっかり今回は演技指導しているように感じました。演劇を取り入れた理由を教えてください。
綾部監督
「台本を作られている企画プロデューサーの永森さんが、トッププロデューサーで、なおかつ脚本も書いていて、この作品の産みの親なんですが、最初から「ホワイトマン」をテレビドラマを伏線にして映画に持っていこうとお考えになっていて。それだったらうまく今の給食の状況と生徒たちの状況を描けるのではないかと。黙食で前向き給食を強制させられているという状態の中で「僕たちのパワーを見せつけてやる!」という流れにしましょうという風になっていったんです。つまり、現代のちょっと風刺というか、社会的な背景を見せつつも、それを子供たちのパワーで大人たちに訴えかけるという流れで劇中劇をやれば盛り上がるんではないかという。 実は「ホワイトマン」という劇は、全編の内、やっているのは10分の1ぐらいですけど、台本は全部作ったんですよ。ただ、これをやってしまうと、これだけでもう2時間になっちゃうような台本だったので、永森さんと相談してこのシーンとこのシーンを映画の台本に入れましょうと短く抜粋したんです。 それぞれちょっとだけにして、話の本筋からそれないようにしながら、最初は笑っていた大人たちが子どもたちの芝居に引き込まれるという、そこだけを最後は抽出したんです。そうすることによって、一つこの作品の中で山場ができるなと、そして「ホワイトマン」というのは、シーズン1から観ていただいている方には誰を指しているのかわかる言葉で、「おいしい給食」の象徴、メタファーとして「ホワイトマン」があります。「好きなものは好き」、敵を作っても曲げないということを表す「ホワイトマン」を入れることによって、甘利田と粒来ケンくん、神野ゴウくんというこの3人の密度の関係性も描けるし、オールドファンには絶対シーズン1、2を感じながら観てもらうことができるんじゃないかなという。絶対これは面白いシーンにしたいと言われて。生徒達の衣装も衣装部の人が独自に考えて、スタッフ1人1人が意見を出し合って、みんなで手作りで作ってくれたりして。本当にファンに向けてというか、映画の核を作りたいのと、これがあるとより面白くなるなという流れを組み込みたいという結構総合的な計画だったんです」
Q.市原さんはどのように演劇のシーンは演じられたのでしょうか。
市原さん
「作品のテーマの一つである、全員が主役だという思いで、演劇の部分、学芸会の部分はいつもとはまた少し違うドキュメンタリー的な感覚で子どもたちと向き合いたいと思いまして、本番の撮影までに少し時間をいただいて、今までの「おいしい給食」とはちょっと違うギアを入れて、真剣勝負だという思いでやらせていただきました。毎シーズン撮影が始まるまえに、子どもたちとまずお話しさせていただいています。本気で泣いて、本気で悔しがって、本気で笑う。物事の根源を大切にし続けることで見えてくるものを探してみてくださいと。オーディションの中から来てくださった生徒の方々に、自分の存在意義を見つめていただきたくて。大事な青春の思春期の2ヶ月を共にするわけですから、役者としてもそうですし、人として何か土産話になるものだったり、何か経験を持ち帰っていただきたいという思いで、ドラマや映画がなぜ存在して、なぜ何年経っても廃れずあり続けるのか。誰のために何をするべきものなのか。そして今回は何を伝えるべきなのか。今回の「おいしい給食」という作品が世の中に対してどうあるべきなのか、自分はその作品に対してどうアプローチする必要があるのか。自分の存在意義というものを探してみてくださいというお話から始まって撮影に入りました。なので、そのシーンは僕の考えを体現すべく、本来の等身大の子どもたちと向き合うような感覚でいました」
綾部監督
「体育館で2日間にわたって撮ったんですよ。最初はまずリハーサルも兼ねて、子どもたちしか映らない壇上のシーン、2日目にお客さん向けやお客さんを入れた子供たち、先生たちのシーン。初日は子どもたちしか映らないんですよ。体育館でこの芝居を作って、少しだけ撮るという撮影なんですが、出番がないけど市原君は来てくれて、現場で子どもたちに声をかけて励ましながらしっかりと見てくれていたんです。 もう撮影はドラマから始まって本当に集大成、最後のクランクアップの辺りで、普通はもう疲れているし、出番がなければ俳優は来ないんですが、現場にわざわざ来てくれて、しっかり子どもたちを見てくれて、声をかけてくれているということがあるから引き出せたこともあります」
市原さん
「本当に一生懸命頑張っている子どもたちの姿を、ドキュメタリーとしても汲んで観ていただけたらと思います」
Q.甘利田先生の芯、色々変化がある中でも変わらないものを教えてください。
綾部監督
「甘利田先生は給食が大好きで、一生懸命おいしく食べて、子供に負ければ負けたと認める。これは絶対に変えない。基本的には多分『男はつらいよ』、「孤独のグルメ」もそうですが、やっぱり長く続くものの秘訣は絶対に変えてはいけない定番シーンがあることだと思います。この作品だと給食が好き、好きなものは好きというという、甘利田のキャラクターです。僕らも次回作への意欲があるので、少し変わる部分、マイナーチェンジする部分というこのバランスは脚本作りから現場での芝居や仕上げを含めてものすごく気を付けています。変えちゃいけないことと、マイナーチェンジするところ。今回なら生徒が変わったり、ちょっとストーブを使い出したり。いつもと同じようだけど、ちょっと違うという。繰り返される日常がこんなに1つのことを愛することだけで、日常の彩りが生まれて、豊かになる。甘利田先生から僕もそれを教わっている気がします」
市原さん
「シーズン3を創るにあたって、どう進化していくか、どう変化していくべきかをまず考えました。でも行き着いた答えは、変わらないことが甘利田幸男である意義なんだなというところにたどり着きました。令和の時代に甘利田幸男という役を演じる意味がそこにあるのかなと。一貫して変わらない。甘利田先生はシンプルだけども、世の中はシンプルではないというようなセリフが出てくるんです。今の世の中はシンプルじゃない。悔し涙を流す方も多かったり、理不尽なことばかりで、本当に矛盾だらけの世の中で、何か意見を持っていてもどんどん言えなくなってしまう時代になってきて、昭和という大衆の時代から個の時代になっていく中で、みんなで共有して持っていなければならないものがだんだんなくなっていって、人間臭さと言いますか、本来持っている社会の性質とか本質というものを失っていっている。そんな中でも甘利田はシンプルなんです。言っていることは当たり前のことしか言ってないんですけども、そういうシンプルなセリフに確信を突かれるというところがありまして、そこを変わらないでいつまでも持って言えるというところが僕の憧れでもあります。どんな時代になっても甘利田のように変わらず、ブレないアイデンティティ、本質的なものを持っていたいなと思います」
Q.市原さんの理想像ですか?
市原さん
「そうです。こういう風に生きていけたら、もっと人生楽しいんじゃないかなと。難しく考えすぎて、いろんなことを言えなくなったりとか、人を守るためなのか、人を傷つけるためなのか分からないルールがどんどん増えていって。もちろんそれでいい方向に進んでいく時もありますが、本来人間が持っている可能性が隅に追いやられていく、狭められているような時代をすごく感じるんです。変わらずにいてくれる甘利田先生を通じて、世の中はシンプルでいい、人生をもっと謳歌していいんだなと、純粋にそう思っていただけたら嬉しいです」
映画『おいしい給食 Road to イカメシ』https://oishi-kyushoku3-movie.com/ は現在全国公開中。東海三県ではセンチュリーシネマ、イオンシネマ(大高、名古屋茶屋、ワンダー、豊田KiTARA、長久手、常滑、各務原、津南)、ミッドランドスクエアシネマ、ユナイテッド・シネマ(豊橋18、岡崎、阿久比、稲沢)、コロナシネマワールド(安城、小牧、豊川)、Movix三好で公開中。
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