Cafemirage

Cafe Mirage--岐阜発 映画・エンタメ情報サイト

カテゴリリンク

minato_1

EntaMirage! Entertainment Movie

神戸発「心の傷を癒すということ」の制作チームが再び心のケアを描く(映画『港に灯がともる』堀之内礼二郎プロデューサーインタビュー)

2021年に公開された映画『心の傷を癒すということ 劇場版』をきっかけに、表情豊かな港町・神戸から世界へ響く映像作品を届けようと立ち上げられた「ミナトスタジオ」の第一作『港に灯がともる』が1月17日(金)から全国公開される。震災後に生まれた主人公・灯(あかり)の苦しみや葛藤、成長を見事に演じているのは今作が初の映画主演作となる富田望生。製作は「心の傷を癒すということ」の製作チームが集結。20年以上にわたり、NHKの演出家として「カムカムエヴリバディ」など数々のドラマを手掛けてきた安達もじりが監督する。神戸で暮らす人びとへの膨大かつ綿密な取材を基に、アフター震災世代をリアルに描くオリジナルストーリーを作り上げた。公開に先駆け、本作を製作した堀之内礼二郎プロデューサーにお話を伺った。

Q.この映画がどのようにして生まれたのかを教えてください。

堀之内礼二郎プロデューサー(以後 堀之内P)
「この映画を作るきっかけになったのが、震災から25年目の2020年にNHKで放送された「心の傷を癒すということ」というドラマ(堀之内PがNHK在籍時に制作担当)です。主人公のモデルとなった精神科医・安克昌さんの実の弟である安成洋さんが中心となってドラマを元に劇場版を制作してこの3年ほど全国各地で上映会をやって来られました。その中で、ご覧になっていただいた方から「映画を観て、ようやく震災と向き合えるようになった」「震災を経験していなくても、自分の抱えている心の傷みたいなものがすごく楽になった」という声をお聞きして、映画や映像の力はすごいということを感じたそうです。その中に「これ1本で終わらせないでほしい、ぜひまた新しい作品を」という声も上がってきて、今度の阪神・淡路大震災30年というタイミングの時にまた新しい作品が作れないかという相談を受けました。それがこの企画の始まりです。作っていくならば、やっぱり「心の傷を癒すということ」の制作チームでやって欲しいと安さんからお声がけいただいて、再び同じチームで制作が始まりました」

Q.震災30年の区切りに作ると決めた作品のテーマは何ですか?

堀之内P
「震災から30年という節目のタイミングと、「心の傷を癒すということ」を受けて作るということが大事だったので、 「心のケア」と「震災」この2つをテーマに取材を始めていきました。神戸市の長田区という土地があります。そこは震災の被害を最も大きく受けた場所なので、そこに住まう方々の話を聞いていくというところから取材が始まりました。長田区で取材していると様々なルーツを持った方がたくさん住んでいらっしゃる土地だということがわかりました。 在日韓国人や在日ベトナム人、その他の国の方もたくさんいらっしゃるんです。そういった方々が繋がりを持って一つのコミュニティを作っているという場所を題材にしてストーリーを練り上げられないかということで、在日三世の主人公の家族という設定が軸になっていきました」

Q.主人公の灯を震災後に生まれた設定にしたのはなぜでしょうか。

堀之内P
「神戸市の半分以上の方が既に震災を経験されていないそうです。この割合はこれからどんどん増えていくわけです。それでも神戸に暮らしている方と話していると、多くの方が「あれは震災前だったね」、「これは震災後だったね」という風に、震災を意識しながら暮らしている方が多いんですね。経験していなくても、震災のことを思っていたり、ちょっと重く感じていたりとか、そういった方々の心に寄り添うようなストーリーが作れたらいいなと思い、今回のストーリーの根幹に設定しました」

©Minato Studio 2025

©Minato Studio 2025

Q.映画に出てくる丸五市場は長田区にあって、映画の中でもかなりシャッターが閉まった店が多いようですが、実際はどんなところなのでしょうか。

堀之内P
「あれはリアルな姿です。神戸は太平洋戦争の空襲と、阪神淡路大震災で2回過去に大きく被害を受けています。でも丸五市場というところはその2回とも被害を免れたので、100年以上の歴史がある場所なんです。その中で発展しにくいような環境に置かれてしまったということもあり、あそこを離れてしまった人もいますが、すごく市場への思いがある人も多く、ぜひ残していきたいという声もありますし、新しく若者が入ってきて新たに店を開く動きも出てきていて、これから丸五という場所が、再び盛り上がっていくようなことになればいいなと思います」

Q.ではその焼けなかったことも含めて丸五市場のお話はいろんな方に聞かれたんですね。 

堀之内P
「はい。例えば震災が起きた1995年の1月17日は火曜日だったんです。丸五市場の定休日も火曜日。だから火を使っていなくて、火事が起きなかったんです。周りの焼け出された人が丸五市場に集まって、炊き出しや物資の補給をずっとやっていったんです。映画の中でも、土村芳さんが演じる平良というそばめし屋の店主が「ここは人を助ける場所だった」と話しますが、本当に多くの方々、国籍とかルーツとか関係なく、普段はちょっと近寄らないような方々であっても、お互い人と人として付き合って助け合っていけるという場所が生まれて。当時のことを知っている方は、「あの時あの瞬間、ユートピアが生まれたんだ」と語る方もいらっしゃって。丸五市場という場所が大事な場所だったと思っている方々はたくさんいらっしゃって、 そういった方々の言葉や思いを映画のストーリーに反映していきました」

Q.映画の中では昔の風景を捉えたアルバムも出てきますね。

堀之内P
「アルバムは実物なんです。普通のドラマや映画だと作り物にすることが多いんですが、 写真はお借りした実際の写真で、当時長田で暮らしていた方々のイベントやお祭りの様子が写っています。写真展で展示されている写真もお借りしたものがほとんどです」

©Minato Studio 2025

©Minato Studio 2025

Q.「心の傷を癒すということ」は心のケアをする側からの視点でしたが、今回は灯という心の病を抱える女性が主人公です。当事者側から描こうとしたのはなぜでしょうか。

堀之内P
「「心の傷を癒すということ」を受けた作品ということもあって、心のケアをテーマにすることは必然でした。前回が心のケアをする側のドラマだったのに対し、今回はケアを受ける側を描く、ある種対になる作品として作ろうと考えました。逆側の立場、気持ちを大事に描くことに挑戦してみよう、心の復興を描きたいという思いは、割と自然な流れでありました」

Q.脚本は安達監督と川島天見さんの共同脚本ですが、取材したことをどのように取り入れて脚本を作ったのでしょうか。

堀之内P
「そうですね。まず安達監督が中心となって取材を進め、それを基にベースの設定を作って、川島さんがセリフを書きながら、 お二人で濃密にキャッチボールをしてもらいました。ある程度形になったら一旦プロデューサーチームとともに話をして、またフィードバックしてという形で進んでいきました」

Q.主人公・灯の心が非常に複雑に動き、難しい役柄だと思いますが、富田望生さんに灯役をお願いした理由を教えてください。

堀之内P
「これまで作品でご一緒したことはなかったんですが、富田さんのことはずっと僕たちは意識していました。いろんな役を演じられているのを拝見して、役者としてすごい力を持っていらっしゃる方だな、ぜひ一緒にお仕事したいという思いが前々からあったんです。ただ、僕たちは先にキャスティングを決めるのではなく、物語を作って、この役を誰に演じてもらうというところをすごく大事にしながら作品を作っています。キャスティングは考えずにまず脚本を作りました。そして今回できた物語の中で、この灯という役はとても難しく、繊細な芝居の力だったり、思いの強さが必要な役だということを改めて感じて、ではこれを誰に演じてもらったらいいかと考えた時に、富田さんの存在が自然に頭に浮かびました。富田さんだったらこの役を受けて、向き合ってくれるんじゃないかと思ってご相談したら、快く受けてくださいました。作品は富田さんなしでは成立しなかったと思うぐらいに本当に真摯な向き合い方をしてくださって、素晴らしい芝居をしてくださいました」

Q.富田さんと父親役の甲本雅裕さんがぶつかるシーンは印象深いです。その後も灯の気持ちを伝えるために長い時間を使っていて、嘘のない時間を感じました。

堀之内P
「今回、映画を試写で観ていただいて、「芝居じゃないみたい」とか「ドキュメンタリーを見ているみたい」という感想を何度も頂きました。僕達もそんな感覚があって、富田さんには芝居を超えた芝居をして頂いたというか、本当に灯という人間を生きていただいた感じです。撮影期間中、ずっと神戸で生活をし、神戸の水を飲んで、神戸の空気を吸って、神戸を歩いて……ということをやっていただきました。僕らも撮影していて、芝居ではないように感じることが度々あったんです。カットがかかってもその役から戻ってこられなくて、動けない状態になるということもたくさんありました。父親とぶつかるシーンのあとトイレに籠るシーンは安達監督が富田さんに対して「ずっと待っているから、何分いてもらっても構わない」と伝えたんです。 富田さんはそれを聞いて、それなら10分でも20分でもいようと思っていたらしいんですが、実際やってみると、自分でも早く戻らなきゃ、お父さんを待たせているという灯の意識もあり、早く戻らないとと必死に自分と戦うわけです。必死で呼吸を整えて、自分と戦って、やっと出てこられるようになる。その間ずっと見守るという選択を安達監督はしていたんですが、完全に灯として生きている富田さんの様子をただカメラで撮っている、という状況でした。あのシーンは灯が戻って来るのを待っている甲本さんも別のカメラでずっと撮っていました。甲本さんも微動だにせず、じっと灯の呼吸を聞いているんです。その場で生きているお二人を透明人間になって見ているような感覚で現場にいました」

©Minato Studio 2025

©Minato Studio 2025

Q.灯が上を向くポスタービジュアルが素敵です。これはどんな状況で撮られたものですか。

堀之内P
「撮影期間中、ずっと写真家の平野愛さんに撮影の様子を記録して頂きました。平野さんはフィルムで写真を撮られる方なんです。 シャッター音が入るので、基本的にはカメラが回っていない瞬間に写真を撮ってもらったんですが、 カメラを構えている時間より、灯ちゃんと話をしたりとか、スタッフと話をしたりする時間の方が長いというぐらい、 僕らの保健室の先生というような存在で、完全に制作チームの一員のような関係性になっていました。このポスタービジュアルは平野さんが撮った写真です。この写真はまさに灯とお父さんがぶつかるシーンの直前です。家に向かう階段を上がろうとしているんですね。階段を上がって、部屋に入ってお父さんとぶつかってというシーンの直前で、富田さん本人も周りのスタッフも、このシーンはめちゃめちゃ大事なシーンだということもわかっているんです。そんな空気感を感じながらも、めちゃめちゃいい顔をしていると感じた平野さんが「よーい、スタート!」がかかる直前に1枚だけ撮った写真です。この写真は現場にずっといてくださった平野さんだからこそ撮れた写真だったと思っています。平野さんには2000枚ぐらい写真を撮っていただいたんですが、その中でも、監督と富田さんが、この写真がこの映画の顔になると二人で一致した写真です」

Q.「心の傷を癒すということ」は劇場版が作られて、全国の学校を始め、色々なところを回って上映していましたが、この作品もそういった活動を続けていかれる予定ですか。

堀之内P
「200回以上にわたる「心の傷を癒すということ」の上映会を通して、映画の良さというのは、本編だけでなく、上映後に交わす気持ちや言葉のやりとりにもあるということがわかりました。なので劇場で観ていただいて、あとはまた全国各地で何年にもわたって上映会をしていきたいなと思っています。紙芝居のように手渡しで届けて、受け止めてということをすることでしか生まれないものがあると思いますので、そういった活動をずっと続けていきたいなと思います」

堀之内礼二郎プロデューサー

堀之内礼二郎プロデューサー

映画『港に灯がともる』 https://minatomo117.jp/ は1月17日(金)より新宿ピカデリー、ユーロスペース他全国順次公開。東海三県では伏見ミリオン座、ミッドランドスクエアシネマ、ミッドランドシネマ名古屋空港で1月17日(金)より、岐阜CINEXでは2月15日(土)より、伊勢進富座で3月14日(金)より公開。

キャスト:
富田望生
伊藤万理華 青木柚 山之内すず 中川わさ美 MC NAM 田村健太郎
土村芳 渡辺真起子 山中崇 麻生祐未 甲本雅裕

監督・脚本:安達もじり  脚本:川島天見  音楽:世武裕子
製作:ミナトスタジオ  配給:太秦

-EntaMirage!, Entertainment, Movie

おすすめの記事はこれ!

1759598539764_1 1
いつでも直球勝負。『おいしい給食』はエンターテイメント!(映画『おいしい給食 炎の修学旅行』市原隼人さん、綾部真弥監督インタビュー)

ドラマ3シーズン、映画3作品と続く人気シリーズ『おいしい給食』の続編が映画で10 ...

©️2025『おーい、応為』製作委員会 2
もう一人の天才・葛飾応為が北斎と共に生きた人生(映画『おーい、応為』)

世界的な浮世絵師・葛飾北斎と生涯を共にし、右腕として活躍したもう一人の天才絵師が ...

taiga_B2poster_0710_fix_ol 3
黄金の輝きは、ここから始まる─冴島大河、若き日の物語(映画 劇場版『牙狼<GARO> TAIGA』)

10月17日(金)より新宿バルト9他で全国公開される劇場版『牙狼<GARO> T ...

『アフター・ザ・クエイク』ビジュアル 4
「空っぽ」から始まる希望の物語-映画『アフター・ザ・クエイク』井上剛監督インタビュー

村上春樹の傑作短編連作「神の子どもたちはみな踊る」を原作に、新たな解釈とオリジナ ...

IMG_2338_ 5
名古屋発、世界を侵食する「新世代Jホラー」 いよいよ地元で公開 — 映画『NEW RELIGION』KEISHI KONDO監督、瀬戸かほさんインタビュー

KEISHI KONDO監督の長編デビュー作にして、世界中の映画祭を席巻した話題 ...

image (1) 6
明日はもしかしたら自分かも?無実の罪で追われることになったら(映画『俺ではない炎上』)

SNSの匿名性と情報拡散の恐ろしさをテーマにしたノンストップ炎上エンターテイメン ...

IMG_2332_ 7
映画『風のマジム』名古屋ミッドランドスクエアシネマ舞台挨拶レポート

映画『風のマジム』公開記念舞台挨拶が9月14日(日)名古屋ミッドランドスクエアシ ...

©SHM FILMS 8
あなたはこの世界観をどう受け止める?新時代のJホラー『NEW RELIGION』ミッドランドスクエアシネマで公開決定!

世界20以上の国際映画祭に招待され、注目されている映画監督Keishi Kond ...

48e68d79b718232277b1e5de3297914f 9
『ぼくが生きてる、ふたつの世界』の呉美保監督が黄金タッグで描く今の子どもたち(映画『ふつうの子ども』)

昨年『ぼくが生きてる、ふたつの世界』が国内外の映画祭で評価された呉美保監督の新作 ...

僕花_main 10
映画『僕の中に咲く花火』清水友翔監督、安部伊織さん、葵うたのさんインタビュー

Japan Film Festival Los Angeles2022にて20歳 ...

IMG_2204_ 11
映画『僕の中に咲く花火』岐阜CINEX 舞台挨拶レポート

映画『僕の中に咲く花火』の公開記念舞台挨拶が8月23日岐阜市柳ケ瀬の映画館CIN ...

僕花_main 12
23歳の清水友翔監督の故郷で撮影したひと夏の静かに激しい青春物語(映画『僕の中に咲く花火』)

20歳で脚本・監督した映画『The Soloist』がロサンゼルスのJapan ...

25-08-06-09-10-43-381_deco 13
岐阜出身髙橋監督の作品をシアターカフェで一挙上映!「髙橋栄一ノ世界 in シアターカフェ」開催

長編映画『ホゾを咬む』において自身の独自の視点で「愛すること」を描いた岐阜県出身 ...

IMG_1793 14
観てくれたっていいじゃない! 第12回MKE映画祭レポート

第12回MKE映画祭が6月28日岐阜県図書館多目的ホールで開催された。 今回は1 ...