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今だからこそ、時代劇の人情、思いやりを伝えたい(映画『侍タイムスリッパー』安田淳一監督、沙倉ゆうのさんインタビュー)
口コミで話題となり、1館から120館へと上映館が増えた映画『侍タイムスリッパー』。
9月16日名古屋公開記念舞台挨拶の後に、安田淳一監督と助監督・山本優子役の沙倉ゆうのさんにお話を伺った。
映画『侍タイムスリッパー』名古屋公開記念舞台挨拶レポートはこちら
Q.お米を作っていると先ほど舞台挨拶でおっしゃられていましたが、お米を作りながら、監督業も並行してやっていらっしゃるのですか?
安田淳一監督(以後 安田監督)
「監督業は商売になっていないようなもので、映像の制作会社とかをやっていました。実家が米農家をやっていて、手伝いをしていたのですが、父が去年亡くなりまして、田植え前から稲を刈って、米にして届けるところまでの本格的な米作りを一昨年ぐらい前からやるようになりました。兼業農家です」
Q.では稲刈りで、これからが忙しくなる時期ですね。忙しい最中に映画の公開も入ってきたわけですか。
安田監督
「そうなんです。映画の全国公開が決まったのが驚くほど早かったんです。『カメラを止めるな!』みたいに単館上映を1、2か月続けてそれが2館、3館と増えていってと考えていたんですが、2館、12館、100館みたいな感じになっているんですよね。めちゃくちゃ早いです(笑)」
Q.計画では米の収穫が終わったぐらいに全国公開の予定で。
安田監督
「そうです。でもいくら頑張っても米作りは赤字なので、映画がちょっと当たらないと米作りもやめないといけないというぐらいの厳しい状況です。これ笑うところです(笑)。でも本当にお米は真面目に作っています。僕はSNSでお米のことと、この映画のことを同じ熱量で発信しています。テレビ局から取材の連絡があって、ついに『侍タイムスリッパー』にテレビの取材が来たと思って対応していたら、田んぼで発生しているジャンボタニシの被害の取材でした(笑)」
Q.時代劇×タイムスリップは過去にもいろんな作品がありますね。
安田監督
「タイムスリップ時代劇というジャンルは僕らの時代で言うと『戦国自衛隊』、最近だと『幕末高校生』『アシガール』もそうですし。いっぱいあるんです。そのジャンルの中で1番面白いもの、そのジャンルを代表するようなものにしたいなという思いで作ってきました」
Q.舞台挨拶で企画を話すのがうまくいかなかったというお話もされていましたが。
安田監督
「プレゼンはそんなに下手な方ではないんですが、あの時はもう…7分のうち自己紹介で5分使ってしまって」
沙倉ゆうのさん(以後 沙倉さん)
「話すことは原稿に全部書いてあったんですよ。普通に話せば7分ぴったりだったんです」
安田監督
「企画された担当の方にも怒られました。「なぜ原稿通り読まないんですか!応援していたのに」と」
Q.企画は通らなかったけど撮りたかったんですね。
安田監督
「映画を作る人にはわかるんですが、タイムスリップしてきた侍が、斬られ役になる話というのは、ほんまにおもろいんですよ。だから例えば『カメラを止めるな!』の上田監督とかがこういう設定を掴んだら、あっという間に面白い映画ができます。それぐらいアイデアにすごい価値があったので、この設定で誰かに先に撮られるのは嫌ですし、自分で絶対撮りたいと思っていました」
Q.監督の中には時代劇や斬られ役に対する強い思いがありますか?
安田監督
「あります。まず福本清三さんのことが大好きです。僕は大学生時代から知っていて、前作『ごはん』に出ていただいた時も本当に謙虚で、人柄が素晴らしいんです。時代劇そのものに関して言うなら、僕達50歳代ぐらいの世代的な記憶として、学校から帰ってきて、夕方にテレビをつけたら「遠山の金さん」の再放送がやっているという時代で、身近なヒーローとして金さんがいたんです。今は、ちょっと何かあるとネットで叩くみたいなギスギスしたものがありますが、時代劇で描いている、例えば困った人がいたらみんなで助ける、長屋の人みんなで一生懸命助けてあげるというような、市井の人の思いやりを時代劇は濃く描いていましたから、その世界観をどうしても今、再提示したい。時代劇のチャンバラだけじゃない魅力を出したいと思っていました」
Q.テレビドラマの立ち回りで撮られているシーンがたくさんあります。真正面から捉える長回し撮影。そして、剣会の皆さんがすばらしい動きをされていますよね。
安田監督
「批判的に言うわけではないんですが、絶対したくなかったのは、剣劇が出来ない俳優さんたちが軽そうに刀を振って、それをハンディカメラで動き回って撮ることです。それはすごくないものをすごく見せる演出法なんです。本当にすごいものをどっしりと三脚で構えたカメラで撮っていく昔ながらの方法、立ち回りを連発で撮るというのは、テレビ時代劇でのシーンで採り入れていますし、最後の立ち回りは、いわゆる黒澤明監督の剣劇の取組みのように細かくカットを切っています。今のアクション剣劇もいいんですが、昔の立ち回りの美しさとか、かっこよさとか、型の重さとか、腰の低さとかを全部表現できたらいいなと思っていました」
Q.立ち回りの腰の低さ、腰が下りているというのは長く剣劇の鍛練をやっていないとできないですよね。山口馬木也さん、冨家ノリマサさん、剣会の皆さんは本当に長く鍛錬されて、時代劇にも長く携わる方々ですし、立ち回り全般が安定の低さ、巧さです。
安田監督
「剣会の方たちには驚かされます。殺陣師の清家一斗さんを筆頭に、立ち回りを変えたいというとその場で殺陣をすぐつけて動いてくれます。あるシーンの6パターンの立ち回りを1日で撮っているんですが、あれは剣会があってのことです。ただ、それが撮影初日で、僕が立ち回りを初めて撮ったので、真夏に5、6テイク撮ったんです。僕は5、6テイクは普通に撮るスタイルなんですよ。いつもと同じことをやろうとして、2パターン目あたりで清家さんから怖い顔で「監督、テイクは2回まででお願いします」と言われて。後で聞いたら、剣会の方々相当怒っていました……」
Q.真夏にあの立ち回りは大変ですね……。
安田監督
「だからほんとにすいませんでしたと。一緒に芯として立ち回りされた庄野﨑謙さんがすごいいい方だったんです。朝から夕方までずっとやりきって、一切愚痴を言わない爽やかさ。さすが仮面ライダー(デュランダル)。庄野﨑さんが勘違いしたまま初日に僕に撮らせてくれたから乗り切れました」
Q.清家さんも剣会の方々も最後まで頑張ってくださいましたね。
安田監督
「清家さんもすごく巧い。気合いが入っておられました。「脚本はもうドストライクです。大好きです」と言っておられたので、「最後の立ち回りで、お父さん(清家三彦さん)を超えてみましょうか」とお話しました」
沙倉さん
「昨日清家さんと話していた時に聞いたんですが、清家さん、一本まるまる自分自身で立ち回りをつけるというのが、初めてだったみたいです」
安田監督
「いつもお父さんと一緒にやっているからです。清家さんの指示で剣会の方々も動いてくださいました。僕の指示だけでは絶対に動きません。それを僕は知らなくて。撮影始まるまでになぜ誰も教えてくれなかったのかなと」
沙倉さん
「危ないからです。それが太秦では普通だからですね」
安田監督
「剣会の方と殺陣師の方の関係はすごいですね。動いて欲しい時は清家さんに全部確認して撮りました」
沙倉さん
「絶対に清家さんに恥をかかせるような立ち回りはしないんです。観た人は全部清家さんが作った殺陣だと思いますからね」
Q.現場のこともよく把握されていて、助監督の仕事も沙倉さんはかなりされていたというのがわかりますね。
沙倉さん
「本当の助監督の仕事は多分できていないんですが、潤滑油ぐらいにはなったのではないかと」
安田監督
「本当に山口さんと冨家さんは彼女のことをエンジェルとか、癒されるとおっしゃっていたのでよかったです」
沙倉さん
「クライマックスのシーンは、 控え室とか外ではみんな結構盛り上がって色々話していたんですが、境内に入った途端にもうピリピリの空気感で。3日間ずっとそれが続いていてすごかったです」
安田監督
「僕が結構独創的に現場で好きなことをやってしまうんです。あの時もカメラマンになってしまっていて、お二人をほったらかしにしていまして。終わった後にあれはないとか悪口を言われていたと思うんですよ。そこに沙倉さんが行った場合、「いや、監督はそうじゃないんですよ」とは言わないんですよ。 「そうですよね。私もあれダメだと思います」とか言って一緒になって悪口言って、 その結果お二人のガスが抜けるという。フォローしてへんもんな、絶対(笑)」
沙倉さん
「でも一応、「ああ、そうですよね。でも監督はああなんですよ」とかは一応言っているんですけど(笑)」
Q.山口馬木也さんにぴったりの役だと思ったのですが、当て書きですか?
安田監督
「初めからこれは山口さんで当て書きしたわけではないです。初めは山口さんには冨家さんの役がいいと考えていて。主役は誰かいないかなと思っていました。山口さんが主役でもいいんですが、山口さんを超えるスター感がある役を誰がやるの?と。ある時にテレビのリモコン操作を間違えて、NHKプラスに切り替わって。NHKプラスでやっていた時代劇にゲストで出てきた俳優さんがすごいイメージに合って。それが冨家ノリマサさんだったんです」
Q.お二人とも時代劇でのキャリアも長いですし、いいキャスティングです。存在感があります。
安田監督
「このお二人がまた熱い。こっちが困るぐらい入れ込んでくださって、素晴らしかったです。山口さんが冨家さんに驚くシーンがあるんですが、5回テイクを重ねているんですよ。「5回とも山口さんの腕に寒イボが立っていた」とスタッフから言われまして。なかなかそんなことできないですよね」
Q.え?でも本編のあのシーンはバストショットでしたよね。
安田監督
「そうなんです。そのシーンを僕はバストショットで撮っていました(笑)。終わってから言われても。途中から僕は山口さんと喋っている感じではなくて、高坂ご本人と喋っている感じでした。キャラクター作り、演技メソッドも完璧で、段取りもできる。今の芸能界でも本当にトップクラスの実力のある俳優さんです」
Q.魅力的な俳優さんですね。
安田監督
「山口さんの目つき、目元は特徴があるじゃないですか。優しい芝居をしている時はすごく優しい目なんです。例えば優子ちゃんに喫茶店でお願いをする時はすごい柔和な顔なのに、この場で倒すと思って立ち回りしている時は蛇みたいな目になっているんです。だから、すごいですよ」
沙倉さん
「目の前にあるものからもらっているといつもおっしゃっていました」
安田監督
「例えば役者さんが泣くシーンは、自分の辛い過去を引っ張ってきて、その記憶で泣いたりする人がいるんですが、山口さんは演技メソッドが完璧ですから、この目の前にあるもので、感情がぱっと出てくると。冨家さんもとにかく役柄を愛してくださって、この役をもっと深めるにはどうしたらいいかすごく考えてくださいました。もうこの二人の芝居に触発される感じでした」
Q.ちょうど喫茶店での高坂と優子のシーンの話が出ましたが、そこの沙倉さんの芝居がすごい好きなんですよ。あのシーンは別に高坂にカメラが向いたままでもいいのに、優子さんの方に向けていますよね。高坂の話を聞きながら優子の目に涙が浮かんでくるカットが印象的です。
安田監督
「確かにあのシーンは高坂を撮っていてもいいんですが、僕は作り手の気持ちもわかってほしかったんです。時代劇は特にルーティーンみたいに決まった流れの話を作って、マンネリと言われてなかなか評価してもらえないんですが、お客さんが高坂が話す気持ちで 観てくれたら、僕も作り手だからすごく嬉しくなるだろうなと。作り手である優子の表情を入れました。元々撮影の段階では山口さん側も撮っているんですが、編集時にそうしました」
Q.作り手側の方が観ても嬉しいシーンです。
安田監督
「これでいいんだろうかと思っている分野の人にも、しっかりとこうやって届いてくれればいいなと。頑張っていれば誰かがどこかで見ていてくれるというのは、彼女が体験するシーンとしてもすごく良かったと思うんですね」
Q.作品や映画に対する愛が感じられる作品ですよね。
安田監督
「時代劇やもの作りだけに対する愛情ではなく、これは過去に生きてきた人への思いを込めて書いた作品になりました。ベタな展開の作品ですが、皆さんにたくさん観に来ていただけたら嬉しいです」

左:沙倉ゆうのさん 右:安田淳一監督
随所にある時代劇や先人たちへの熱い思いが堪らない映画だ。地道に一所懸命に。
ライムライトに当たる人達を懸命に支える人達がいる。ちょっと癖もあるけれど、いい人ばかりなのはお二人からのインタビューでもわかる。
困った人がいれば助ける。それが日本の心。
『侍タイムスリッパー』の裏側の人情現代劇を知ることが出来た。
映画『侍タイムスリッパー』https://www.samutai.net/ は絶賛全国上映中。
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