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アーラ映画祭2024レポート 映画『福田村事件』トーク

2025/02/23

アーラ映画祭2024が2024年12月6日~8日に岐阜県可児市文化創造センターala映像シアターにて開催された。
12月7日の『福田村事件』脚本、プロデューサーの井上淳一さんのトークの一部をお届けする。

井上淳一さん(以後 井上さん)
「『福田村事件』脚本とプロデューサーを担当しました井上です」

アーラ映画祭実行委員(以後 実行委員)
「井上さんは可児市のお隣である愛知県犬山市のご出身ということで、この近隣地域や東海地区にとてもご縁があり、現在は脚本家、映画監督と幅広くご活躍されております」

井上さん
「実家から車で2、30分だったので、近くてちょっとびっくりしました。今日はよろしくお願いします」

実行委員
「関東大震災後の朝鮮人の虐殺の話は、この映画で私も初めて知りました。非常時の集団心理など、今の社会にも通じるものがあるとすごく感じております。『福田村事件』を映画にしようと思われたきっかけを教えてください」

井上さん
「今おっしゃったように、朝鮮人虐殺は知っていても、日本人が間違えられて殺された事件があったことをこの映画を観るまで知らなかったと観た方から言われましたが、僕も知らなかったんです。我々の映画は主にミニシアターというところで上映します。地方の劇場にも舞台挨拶に行くんです。この映画の共同脚本で、企画にも入っている僕の師匠の荒井晴彦さんは『Wの悲劇』の脚本家ですが、最近『火口のふたり』『花腐し』では監督もしています。「長野ロキシーという映画館に『火口のふたり』の舞台挨拶に行くから一緒に来いよ」と言われて、一緒に行ってトークをした翌日に長野の友人の車で移動しました。それが2019年の10月で、台風19号が長野県を襲った1週間後だったんです。川沿いを走ろうと言って車で走ってもらったらすごい惨状で、その時に友人がカーステレオでかけた曲が、中川五郎さんが歌っている「1923福田村の虐殺」という曲だったんです。そういう風景の中で曲を聞いて、荒井さんも僕もショックを受けました。当然2人とも初めて知りましたし。曲を聞き終わってすぐ荒井さんが「これは映画にするしかないじゃないか」と言ったんです。「登場人物も多いし、間違いなく2億はかかりますよ。誰がお金を出すんですか」と僕は思いました。というのも僕たちの映画の制作費はせいぜい1000万から2000万。たくさんかけたとして3000万です。この題材だとそんな金額では回収できないぐらい費用がかかります。まず福田村自体を作らなければいけないですし、行商団15人が福田村に来るまではロードムービーで、大正時代の風景を歩かなければいけない。でも荒井さんから「知った以上は作らないといけないんじゃないの?」と言われて、確かにそうだなと考え直しました。帰ってから福田村事件の資料があるか調べましたが、当時ネットではほぼなく、1冊だけ辻野弥生さんが書いていた「福田村事件」という本があったんです。でも絶版になっていました。ご本人なら絶版でも本は持っているのではないか、知り合いを辿れば辻野さんに繋がるのではないかとfacebookで調べたら僕の友達で、武蔵大学教授の永田幸三さんが、辻野さんの案内で今年の夏に大学生を連れて福田村でワークショップをしましたと書いていたんです。永田さんに頼もうと考えていたところで、翌日芝居を観に行ったら劇場で永田さんと偶然お会いして。別に僕は運命論者ではありませんが、これは運命だと思い永田さんに頼みました。それと同時に荒井さんにもやりますと伝えました。荒井さんは最初に話したように、日本で割と著名で、代表作だらけの人なんです。「お前もいい加減代表作を作らなければいけないからこの辺で勝負しろ」と荒井さんに言われて。僕が監督で、当然脚本は荒井さんと僕で書くつもりでしたが、脚本の一番先頭に名前がある佐伯俊道さんも映画の代表作がないから、脚本は佐伯さんで行こうという話になりました。佐伯さんはテレビドラマの脚本をたくさん書いていて(「小野田少尉の帰還」、「美空ひばり物語」)、映画の代表作がなかったんです。この3人で動き始めました」

井上淳一さん

井上淳一さん

実行委員
「今、井上さんが監督でという話でしたが、映画の監督は森達也さんです。なぜ森さんが監督することになったのでしょうか」

井上さん
「どうやってお金が集めるかが問題でした。企画が動き出したのは2019年の10月でした。明けて翌年2020年に荒井さんの『火口のふたり』がキネマ旬報のベストワンに輝いたんです。キネマ旬報のベストテンは劇映画とドキュメンタリーの部門があります。その年のドキュメンタリーのベストワンは森達也さんの『i-新聞記者ドキュメント-』でした。突然話に森達也さんが出てくるのですが、僕たちがネットで福田村事件のことを調べた時に唯一ネットで読むことが出来たのが、森さんが何年か前に書いた福田村の文章だったんです。森さんは劇映画ではなく、テレビのドキュメンタリーにしたかったようですが、差別だけでも大変なのに、内容が内容なのでテレビでは出来ないと言われたという記事を書いていたんです。表彰式でその話を森さんにしたところ、「僕も劇映画として福田村事件をやろうとずっと企画を持って動いていました」とおっしゃったんです。それを聞いて僕は自分が監督するよりも、これは森達也の初劇映画作品だとアピールすれば、お金が集まるかもしれないと考えました。森さんが監督で、自分達をそのまま受け入れてほしいと話をして。佐伯脚本、僕がプロデュース、荒井さんが企画という形でいいかと持ちかけたところ、森さんが了承してくれて、この体制で動き始めました。偶然が重ならなかったらこの映画は出来ませんでした」

実行委員
「素晴らしいスタッフが結集したこともありますが、キャストも豪華ですよね」

井上さん
「お金に関してはクラウドファンディングもやりました。なんと劇映画史上初めて4000万近くのお金が集まりました。本当にありがたかったです。ただ誰も出たがらないんじゃないかと思いました。日本のタレントや芸能人、役者は政治的発言をしませんし、そういう作品に出ると仕事がなくなると言われているんですが、ほぼ全員何のためらいもなく出てくれました。この映画を作るのははっきり言ってめちゃめちゃ大変だったんです。お金を集めるのも大変、シナリオを作るのも、撮影も死ぬほど大変、編集も大変だったんですが、どうしても上映しようとしたのは2019年の2月に森さんと会って、企画が動き出してすぐコロナ禍になって、皆さんご記憶にあると思いますが、他県ナンバー狩りとか自粛警察とかが出てきて、なんだ、今も昔と全く変わっていないじゃないか、今こそこの映画が必要だと思ったからです」

観客から
「作品の内容はほぼ事実ということでしょうか」

井上さん
「全て事実ではなくフィクションもあります。資料はほとんどないわけです。何もないのでこれはもう作るしかない。ただ、あえて15人のうち9人殺されたとか、そういう数字は嘘はついていません。最初にこれは荒井さんたちと殺す側の話をやろうよと決めていました。殺される側も殺す側も、実はこの事件に限らず普通ですよ。みんな多分、良き父であり、良き母であり、良き息子であり、良き娘だと思うんです。そういう人が、特にこの福田村事件は、関東大震災とその後の流言飛語によって、殺す側と殺す側に分かれてしまう。でも記録は残っていないわけですよね。だから当時の大正時代の村はどうだったかというのはフィクションです。もちろん、その行商団の中で行われていることも、いろんな行商談の資料は読みましたが、ほぼフィクションです。最後この映画の肝になる「朝鮮人なら殺してええんか」という台詞。これは当たり前ですが、そんなことは多分言っていないんです。団長役がクランクイン直前まで決まっていなくて、永山瑛太さんが一番最後に決まりました。オーディションではふさわしい方がいなくて、偶然キャスティングプロデューサーが永山さんと知り合って、オファーして決まったんです。瑛太さんが台本を読んだ時に、「何かが足りない」とおっしゃいました。何を書き足せば納得するだろうと思ったんですが、行商の途中での芝居に厚みを持たせることではないと直感的にわかって。もしかしたらあそこが殺される瞬間なのではないか。この人たちは日本人だと言われた時に、ずっと差別されていたこの被差別部落の人はどう反応するんだと考えてこのセリフが出たんですね」

観客から
「井浦新さんの役は元教師ですが、過去に色々あって、故郷では教師ではなく、百姓をします。なぜこの役は登場するのでしょうか」

井上さん
「井浦新さんにはシナリオができていない段階からお願いしていました。僕は若松プロにいたので、井浦さんは仲間です。「井上さんがそこまで言うならやりますよ」と言ってくださいました。ちょっと想像してください。瑛太さん演じる団長の「朝鮮人なら、殺してええんか」という台詞がなかったら、シナリオのピークは、新さん演じる澤田智一の「この人たちは日本人なんです!」と、彼がやっと口を開くことなんです。あれがピークになるはずだったんですよ。だから新さんが僕の中ではずっと主役のつもりだったんですが、その次の瞬間に、瑛太さんに否定されることによって、一気に無効化するわけです。この映画の裏テーマとして、インテリや心ある人がずっと沈黙していて、ある瞬間にやっと意思表明をすると、遅きに失しているという、インテリの無力感みたいなことをちゃんと描くというものがありました」

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観客から
「この映画はどれぐらいの規模で上映されて、どんな反響があったのでしょうか」

井上さん
「この映画は、コロナ禍でミニシアターが直撃弾をくらって非常に苦しい状況だったので、ミニシアターを応援したいということで、当初は全国のミニシアター60館ほどで上映しました。幸運なことにヒットしたので、シネコンでも上映されて200館弱ぐらいの規模で上映されました。興行収入では、ミニシアター公開映画として人数で言うと20万人ちょっと届かないぐらい、自主上映も含めるともっといっていると思います。興行収入的には3億弱ぐらいです。僕たちはいつもこういう映画を作っていて思うのは、今日ご覧になった方もこういう映画に関心のある方たちなんです。虐殺や差別はいけないと思っている方たちなんですよね。届く人にしか届かないという。この映画の影響力としては、この映画の公開は2023年の9月1日ですが、それと前後して、千葉県の柏市長と野田市長、ほぼ舞台になったところの2つの市長が、今まで何も言わなかったのに謝意を表したりして、市町村レベルには届きました。でもその上には届きませんでした」

観客から
「問題もあったんですか?」

井上さん
「色々ありました。出た問題は三つで、一つはハンセン病の扱い方、もう一つは被差別部落の人達の行商の描き方、もう一つは裸が多い。これに関しても、今の基準で言うとそうですが、当時は大正時代、娯楽も今みたいにないので、性は大きな部分を占めました。今の基準で性が邪魔、性愛シーンが邪魔だと言われたのは、ちょっと僕は不本意でした」

実行委員
「最後に井上さんから一言お願いします」

井上さん
「この後、脚本と監督を担当した『青春ジャック』を上映します。いつも『福田村事件』は満席で、『青春ジャック』になると空席が目立つという経験をしております。僕の師匠の若松孝二という人が、「映画は作っただけでは完成しない、人に観てもらって初めて完成する」と言って名古屋にシネマスコーレという当時は56席の映画館を作って、その映画館ができた時の、そこに集まった人たちの青春群像を描いています。『福田村事件』の3ヶ月後に撮影しています。『青春ジャック 止められるか俺たちを2』ですが、実は『福田村事件2』ではないかと言われておりまして。同じメンバーが揃ったというのもありますが、僕はこの映画と『青春ジャック』で精神は全く変わっていないと思います。今日はシネマスコーレの主人公、当時支配人、今代表の木全さんもトークに参加してくださいますのでぜひ見てください。ちなみに『福田村事件』を今日初めてご覧になった方、どれぐらいいらっしゃいますか?ヒットして、配信してDVDを発売していても、観る機会がない方もいらっしゃいますよね。だからこういう機会を作っていただけることが本当に嬉しいです。その前にやっぱりミニシアターでこの映画がちゃんと上映されるということが大切なので、なかなか可児市から名古屋へ行くのは大変かもしれないですが、シネマスコーレだったり、キネマ・ノイだったり、いい映画館がいっぱいあるので、ぜひ映画を観に行ってください。観ることで、世の中を少しは良くすることに寄与することができるかもしれません。今日はありがとうございました」

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