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カンヌ国際映画祭75周年記念大賞を受賞したダルデンヌ兄弟 新作インタビュー(映画(『トリとロキタ』)
パルムドール大賞と主演女優賞をW受賞した『ロゼッタ』以降、全作品がカンヌのコンペに出品され、世界中で100賞以上を獲得するという偉業を成し遂げているベルギーの映画監督ジャン=ピエール&リュック・ダルデンヌ監督(ダルデンヌ兄弟)。彼らはさらに第75回カンヌ国際映画祭で75周年記念大賞を受賞した。受賞作品『トリとロキタ』が3月31日(金)より公開される。
あらすじ
地中海を渡りヨーロッパへやってきた人々が大勢ベルギーに暮らしている。トリとロキタもベルギーのリエージュへやってきた。トリはまだ子供だがしっかり者。10代後半のロキタは祖国にいる家族のため、ドラッグの運び屋をして金を稼いでいる。偽りの姉弟としてこの街で生きるふたりは、どんなときも一緒だ。年上のロキタは社会からトリを守り、トリはときに不安定になるロキタを支える。偽造ビザを手に入れ、正規の仕事に就くために、ロキタはさらに危険な闇組織の仕事を始めるが……。
お互いを支えあう絶対的な絆。実の姉弟以上のトリとロキタの絆と、移民達の生活を描いた本作について6年ぶりに来日したジャン=ピエール&リュック・ダルデンヌ監督(ダルデンヌ兄弟)に話を聞くことができた。
タルデンヌ兄弟インタビュー
Q.『トリとロキタ』のテーマを決めた経緯、きっかけを教えてください。
ジャン=ピエール・ダルデンヌ(以下 JP):今から2年ほど前に新聞でとある記事を読みました。保護者を伴わない数百人単位の移民の子供たちがヨーロッパに渡ってきて消息を絶っていて、誰も彼らがどうなったか分からないという記事でした。消息が分からなくなる理由は、彼らが闇社会に取り込まれてしまっていたり、売春させられていたり、最悪の場合、殺害されていることもある、ということでした。その記事を読んで、私たちは自分たちが住んでいる国々でこうしたことがあっても、誰もそのことについてそんなに心配をしていないことに、このようなことがあっていいのかと強い憤りを感じました。そこで、このトリとロキタという、保護者のいないふたりの未成年の移民たちの話を“友情”を通して、彼らがいかにこの劣悪な環境で戦いながら生きているのかを描こうと思いました。

Q.パブロ・シルズ、ジョエリー・ムブンドゥのふたりをキャスティングしたポイントや演出について教えてください。
リュック・ダルデンヌ(以下 L):トリ役には車の中に隠れるシーンがあるため、ある程度小さい、細い子供を探していました。ロキタ役は、当初はもっと恰幅がよい女性を想像していましたが、キャスティングでジョエリーに出会い、「背の高い女性もいいな」と思い彼女にしました。ふたりの並びはまるで「ローレル&ハーディ」(*)のようです。
序盤にベッドを挟んでふたりが追いかけ合うシーンで、私たちはパブロに「ベッドの下を潜り抜けてまた戻って」と指示を出しました。リハーサルを何度もするなかでパブロが肩を使って回転するのがとてもよかったので、それを実際のシーンでも使いました。
*)日本では「極楽コンビ」の名で知られる、サイレントからトーキー時代にかけて活躍したアメリカのコメディアンコンビ。
Q.リハーサル期間はどれくらいかけたのでしょうか。リハーサルではどんなことをしましたか。
JP:『トリとロキタ』のリハーサル期間は約5週間でした。ロキタが大麻栽培の倉庫に閉じ込められ、そこにトリが潜り込み、ふたりが再会するシーンは、リハーサルで決まった動きでした。シナリオでは“ようやく再会したふたりは抱き合う”と書いてあったのですが、パブロが「抱き合うんじゃなくてグータッチのほうがいいと思う」と提案しました。実際に撮影してみると、その方が美しいし、このシーンに合っていました。シナリオ通りに彼らが抱き合ってしまったら、ロキタの顔がカメラに収まらなかったけれど、グータッチだとロキタの笑顔を撮ることができたのです。
Q.ロキタが拘束される大麻栽培施設は、狭く暗くとても印象に残りました。
JP:簡単に言うと“現代の奴隷”という表現をそのまま映し出しています。そして同時に友情が描かれています。ロキタは狭い空間に閉じ込められ、孤独です。そこでただひとりの支えであるトリのことを想うことで、その友情でなんとかその孤独に耐えているのです。一方でトリは様々な障害を乗り越えてロキタに会いに行きます。この施設のシーンはストーリーのひとつの要素として成り立っています。この施設については、実際にあった大麻栽培施設を参考に設定しました。
Q.完成した本作を観て一番最初に感じたことはどういったことでしょうか。
L:私たちがこの映画を初めて見たのはブリュッセルにあるシネマパレスという映画館でした。そのとき、「あっ、映画が呼吸している」と感じました。フィルムノワールのように映画にスピード感があり、そして「ようやく映画が完成した。ここに存在している」と感じました。
Q.どういった点を大切にして映画を制作されたのでしょうか。
L:私たちはこのふたりの主人公を小さな男の子と思春期の女の子という独立した“人間”として観てもらいたいと思いました。“ある移民”のひとつのケースではなく、アフリカからやってきた黒人であるふたりの人生がこの映画で描かれているのです。彼らが着ている服やアクセサリー、彼ら独特のまなざしや、彼らが使う言葉を通して、観客たちは彼らを唯一の存在であると思えるように描いています。そうすることで、映画を観た方々が彼らのことを思い出してくださると思います。

Q.いつも映画の舞台はリエージュです。おふたりにとってどんなところなのでしょうか。
L:スタジオのようなところです(笑)。
JP:私たちの映画に出てくる主人公はリエージュで見かける人たちです。リエージュは経済危機の影響を受けている街で、社会から疎外された人たちが多く住んでいます。そういう人たちを私たちのカメラの中心に据えるのです。こういった人たちは今のままの世の中では、もっと増えていくと思います。
Q.いつも社会性の高いテーマを扱いますが、ドキュメンタリーではなくフィクションで語ることの意義とは?
JP:『トリとロキタ』ならルーカスがロキタを虐待するシーンがありますが、あのようなシーンはドキュメンタリーでは撮ることができません。また、登場人物が何を考えて何を感じているのかの内面を描くことがフィクションでは可能です。
L:私たちの映画ではドキュメンタリー的な部分もありますが、フィクションだからこそカメラの位置や、登場人物とどれだけの距離をとってどういう場所で撮影するのかということが自由にできます。『トリとロキタ』で描いたようなドラッグや大麻栽培などのギャング映画的なシーンはドキュメンタリーでは絶対に撮れませんし。
Q.カンヌ国際映画祭75周年記念大賞を受賞し、掛けられた言葉や嬉しかった言葉はなんですか?
L:具体的にどんなことを言われたのかは思い出せません。ただ、賞をいただくことはいつも嬉しいことです。今回カンヌ国際映画祭75周年記念大賞ということでとても素晴らしいことだと思います。私たちにとってもそうですし、私たちが撮ったこの『トリとロキタ』にとっても素晴らしいことだと思います。この映画が賞をうけることによって、より多くの観客にこの映画をみてもらうことができると思います。
Q.久しぶりの日本はどうですか?美味しいものなど食べましたか?
JP:日本料理はすべて美味しいと思います。毎回来るたびにそれを楽しませてもらっています。実は『その手に触れるまで』(2019)のときに日本に来る予定でしたが、新型コロナウイルスの感染拡大のため残念ながら叶いませんでした。6年経って今回ようやく日本に来ることができました。
Q.最近の日本の話題で関心のあるものはありますか?
JP:今回私たちが『トリとロキタ』の取材を受ける中で若い学生さんから聞いた話ですが、日本にコンゴから来ている移民の家族がいて、その家族の子供たちが日本で生まれているのにビザがもらえず困難な生活を強いられているということを知りました。なかなか高等教育を受けるのも難しく、その支援を得ることも難しく、なんとか高校まで卒業しても大学には進学するのはほとんど不可能だと。そんな話は本当にあってはならないことだと思いました。

トリとロキタ二人の絆だけを描いているわけではない。ベルギーに移民としてやって来た人々の生活を描き、現代の移民への対応を問う。ストーリーがシンプルだからこそ、ダルデンヌ兄弟が投げかけた問題は観る人の心にしっかりと入ってくる。同じ人間なのになぜ扱いが違うのか。学ぶ権利も働く権利もビザがなければ得られない。忘れてはいけないのはこのようなことが世界中でも、私たちが住む日本でも起こっているということだ。裏社会と関わりながら生きるトリとロキタはスリリングな展開に巻き込まれていく。社会問題を扱いながら映画としてもラストまでハラハラする展開が用意されている。過酷な運命の中、懸命に支えあい生きる彼らに未来はあるのだろうか。
映画『トリとロキタ』 https://bitters.co.jp/tori_lokita/
は3月31日(金)よりヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館、渋谷シネクイント他で公開。東海3県では3月31日(金)より伏見ミリオン座、4月28日(金)より伊勢進富座で公開。
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