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彼女たちを知ってほしい。その思いを脚本に込めて(映画『遠いところ』名古屋舞台挨拶レポート)
映画『遠いところ』の公開記念舞台挨拶が7月8日伏見ミリオン座で開催された。
あらすじ
沖縄県・コザ。17歳のアオイは、夫のマサヤと幼い息子の健吾(ケンゴ)と3人暮らし。 おばあに健吾を預け、生活のため友達の海音(ミオ)と朝までキャバクラで働くアオイだが、 建築現場で働いていた夫のマサヤは不満を漏らし仕事を辞め、アオイの収入だけの生活は益々苦しくなっていく。マサヤは新たな仕事を探そうともせず、いつしかアオイへ暴力を振るうようになっていた。その後も悪いことが重なっていき、切羽詰まったアオイは、キャバクラの店長からある仕事の誘いを受ける。若くして母となった少女が、連鎖する貧困や暴力に抗おうともがく日々の中でたどり着いた未来とは?
脚本も担当した工藤将亮監督、來河侑希プロデューサーが登壇した舞台挨拶の模様をお届けする。
映画『遠いところ』舞台挨拶レポート
來河侑希プロデューサー(以下 來河P)
「この映画は2018年から取材を開始いたしまして、2022年の7月にチェコのカルロビ・バリ国際映画祭でメインコンペティションに選ばれました。2023年の6月9日から沖縄先行上映、そして7月7日から全国で上映となりました。本日は舞台挨拶をさせて頂ければと思います。スペシャルゲストを早速お呼びしたいと思います。工藤将亮監督です」
工藤将亮監督(以下 工藤監督)
「この映画を監督しました。工藤将亮です。よろしくお願いいたします」
來河P
「この映画のストーリーは実際にあったことなのでしょうか。それとも完全にフィクションなのでしょうか」
工藤監督
「本作は2018年頃から沖縄で僕と來河プロデューサーと沖縄の中曽根さんという女性のプロデューサーと実際に長期にわたり沖縄に滞在して取材を繰り返しながら書いていった本です。最初沖縄に行く前にある程度のプロットというか、大枠、あらすじみたいなものは決めて行ったんですが、沖縄で取材を繰り返すうちに実際に当事者の少女たちの話を聞いたり、児童相談所、社会福祉の方やいろんな方々から少女たちの話を聞いて全然形が変わっていき、いろんなエピソードを彼女たちから聞いて僕が脚本にそれを紡いでいった形になるので、ここで描かれている言葉、セリフやエピソードというのは限りなく実話に基づいている映画です」
來河P
「この映画の主演の花瀬琴音さんの芝居について、演出でこだわった部分はありますか?」
工藤監督
「演出でこだわったというか、演出の方法として実際に彼女たちに撮影する1ヶ月以上前から沖縄の実際にロケ地になったマンションを僕たちが借りて飾っていたんですが、そこに住んでいただきました。そこで当事者の女の子たちに彼女たち自身が取材を繰り返したり、一緒に生活したりする中で彼女たちに脚本の文字を覚えてもらうのではなくて、彼女たちに実際にフィールドワークをして頂くことを繰り返しながら、その撮影日になったらその日にやる台本を渡していくという手法で撮影をしていました」
來河P
「この映画は花瀬琴音さんと出会うまでに半年間いろいろな場所でオーディションをやりまして、沖縄でもオーディションをやりましてだいたい300人ぐらい来ていただきましたね」
工藤監督
「映画のオーディション全体だと多分1200人ぐらいいたと思うんですけど」
來河P
「沖縄ではそれぐらいではなかったですか?」
工藤監督
「沖縄ではそうですね300人、もっといたかもしれないですね」
來河P
「東京のオーディションも入れると1,400人ぐらいの中から選んだわけなんですが、半年ぐらいかかりましたよね。その時に沖縄の方ももちろん選択肢にいる中で花瀬さんを選んだ理由というのは何だったんですか」
工藤監督
「まず1つの要因としては何百人もいる中で東京でオーディションをやった時に最初から彼女はぶっちぎりに良くて彼女にやっていただきたいという気持ちは持っていたんです。もう一つは実際に沖縄のコザに住んでいるような演技者ではない、素人の方たちも含めてオーディションをしていたんですが、沖縄の人にこのアオイという役を演じてもらうのはかなり危険性があるなと思ったんですね。沖縄のこういった問題、この部分を描くにつれて当事者にかなり近い位置に住んでいる素人の方にこの責任を負わすのはかなりリスクがあるということを途中で自分で気づいて。それ以降はもう花瀬さん一択という感じです」
來河P
「僕も取材にずっとついて行っていたので、本当に印象に残っていますが、この映画は「ドキュメンタリーのようだ」とよく言われることがあります。もちろんドキュメンタリーとフィクションは全く撮影方法も違いますし、そもそもアプローチの仕方も違うと思うんですが、監督の取材の仕方が取材をしている感じで取材をしないというか。「あれ?これそういえば何をしていたんだっけ?」というぐらい本当にアオイのモデルになった人の取材もそうなんですが、本当に一緒に遊んでいるような、自然にそうなっていた感じで取材していますよね。取材で気をつけていることはありますか」
工藤監督
「僕たちは児童相談所の職員や、社会福祉の機関の人間ではないですし、教育者でもないです。ましてや政治家でも警察とかでもないので、一人の人間としてこの子たちにパーソナルな部分を聞くにあたって、本当にまず腹を割って普通の会話ができるところからでないと、こういったエピソードを聞けないと思っていたので、そこからのスタートだなと」
來河P
「いきなりカメラを向けたりすることも取材では全くしなかったですし、持っていくこともなかったのではないかなと。本当にメモもほとんど目の前では取っているような感じもしなくて。ただ客観的に聞いてきたものを脚本に反映させていたという感覚がすごくあり、取材対象を傷つけないという感覚が強くあるんだなと。僕は本当にそのやり方にびっくりしたんですが、どこでどうやって脚本を書いたのでしょうか。話を聞いて、普通の会話をしていく中でどういう風にこれは脚本になるなと判断したのでしょうか。コツがあれば教えていただいてもよろしいですか」
工藤監督
「アオイのモデルになった子が何人かいましたが、その子達と仲良くなって、話を聞いていくうちにアオイと自分を同化させていって、自分がアオイ達の気持ちになるまで自分とシンクロさせて脚本を書いていく。シナリオに関してはそういう段階で書いていきました。限りなく彼女たちの目線で書くという明確な答えを導き出しているわけではないんですが、僕が好きな映画は大体お客さんが観て、自分で何か持って帰る映画だったんですよ。アオイのような子たちが実際にいることを知ってもらいたい。死ぬと死なないでやっぱり違うと思うんですよ。そういうことは映画でできる1つの可能性だと思っていて。それがお客さんとの対話だと思っているんです。この映画は絶望して撮ってしまったら、多分絶望なんですよ。ですがこの子たちが希望になる、映画のラストが希望になっていることで、どういった社会がなければダメなのかをほんの少しでも考えるきっかけになってもらえれば嬉しいなと思っています」
沖縄での問題のように見えているが、そうではない。これは日本のどこででも起きている。一人の若き女性、そして母親であるアオイの生き方から今の日本を描いている。アオイが生きるために選択したこと。もっと他に方法があったのではないかとも思うだろう。しかし、彼女にはそれしか術がなかった。自身で選択した生き方が間違っていたと思っても、戻れない。遠いところに行きたい。その心の叫びは観る人の心に痛いくらいに届くだろう。
映画『遠いところ』 https://afarshore.jp/ は現在伏見ミリオン座他で全国順次公開中。

左:工藤将亮監督 右:來河侑希プロデューサー

監督・脚本:工藤将亮
出演:花瀬琴音、石田夢実、佐久間祥朗、長谷川月起、松岡依都美、小倉綾乃、NENE、奥平紫乃、高橋雄祐、カトウシンスケ、中島歩、谷健司、岩永洋昭、米本学仁、浜田信也、尚玄、上地春奈、きゃんひとみ、早織、宇野祥平、池田成志、吉田妙子
配給:ラビットハウス
PG12 ©2022「遠いところ」フィルムパートナーズ
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