中野監督かく語りき(映画『湯を沸かすほどの熱い愛』トークショー)
岐阜の映画館で上質な映画を見てもらいたい。
その思いで立ち上がった岐阜新聞映画部。
今年も岐阜CINEXで上質な映画と東京でもこんなイベントない!という
企画を立ててくれる。
今年最初(1月21日)のトークイベントを取材した。
CINEX映画塾 第8回
『湯を沸かすほどの熱い愛』中野量太監督トークショー
今までとの違いは岐阜に中野監督はゆかりがないこと。
ゆかりがなければこれをご縁にということで。
中野量太監督も快諾。
今年の映画賞でいくつも脚本賞と監督賞を獲得している中野監督。
最後の最後まで驚く展開だった『湯を沸かすほどの熱い愛』(http://atsui-ai.com/)
上映後のネタバレOKなトークショーの一部をお届けする。
(まだ見ていない方は若干ネタバレ注意)
自分のオリジナル脚本で商業映画を撮りたい
中野監督:
「自主映画『チチを撮りに』が評価されてプロデューサーから
『オリジナルで撮ってみようよ。』と声をかけていただいて。
今日本映画をオリジナルで撮るってなかなかないんですけど
僕自身40歳を過ぎてもオリジナルにこだわっていたのでやっときた!って
なぜ自主映画を撮っていたかというとこのきっかけがほしくて。
商業映画を撮るきっかけがほしくて。
脚本だけがあって。そこから話が始まりました。
ではまずお母さん(双葉)を決めないといけない。
宮沢りえさんははじめから名前は上がっていたんですけど
オリジナル脚本でこれくらいの規模の映画でオファー出していいかと思っていて。
でも出してみようと脚本を送りました。」
・宮沢りえさんは『紙の月』以来の映画出演ですよね?
中野監督:
「脚本を読んでもらえればチャンスはあると思っていたんですが
ちょうど前の仕事が終わって次何の仕事をするかを考えておられたそうです。
脚本を読んでくださって午前中に読んで午後には出演を決めてくださいました。
やりたいけどまず監督に会わせてほしいとおっしゃられたそうで
すぐに会いました。宮沢さんは同い年でこの世界のトップランナーなので
初めてお会いしたときはすごく緊張しました。
宮沢さんは『監督同い年なんですね、Wikiで調べました。』って。
気さくに話してこられたんですが。
その際に宮沢さんが思っているこの映画についての方向性と僕が思っていることが
同じだということを確認して正式に引き受けていただけました。
芝居の指示はほとんどしていません。
ただラストシーンのために肉体的アプローチをしてほしいと
お願いしようとはしていました。
でも先に宮沢さんから申し出てくださったんです。
『申し訳ないけどラストシーンの撮影前に私に1週間ちょうだい。』と。
宮沢さんが双葉役に決まったことでこの映画はどんどん動き出しました。」

母として懸命に生きた姿を描きたい
中野監督:
「余命2カ月だけども懸命に生きた人の話を作りたかったんです。
死ぬ人の話というよりもとても濃い生活をした2カ月を。
だから死ぬところも撮っていません。でも想像以上に泣きましたという方が多くて。
でもそれは悲しいのではなくて人が人を思う気持ちで泣けたんじゃないかと思うんです。」
・他のキャストの方はどう決まったんですか?
中野監督:
「杉咲花ちゃんについてはあてがきで元々書いていました。
(注:あてがきとはその役者が演じると想定して書かれていることを言う。)
宮沢さんが決まって、それを杉咲さんに知らせたところ引き受けていただいて。
オダギリジョーさんや松坂桃李さんも脚本を読んで演りたいと言ってくださって。
脚本は本当にこだわって作ったのでそこに集まってきてくれたのがうれしかったし
俳優陣は有名無名関係なくいい脚本があればやるという姿勢で
待ってくれているんだとわかったのは今後の僕の映画人生に
無茶苦茶大きく影響しましたね。」
追い焚きがさらに感動を生む
追い焚き割引(リピーター割引)を岐阜CINEXでは実施中。
実はネットで言われていたこの追い焚き、SNSをチェックしていた
中野監督が考えたのだという。
中野監督:
「僕はほとんど伏線は脚本の段階で練りこむので撮影や編集で変わったりとかはしないです。
SNSで映画の年間ベスト10を書いてくださっている方の中に
『湯を沸かすほどの熱い愛(2回目)』と書かれていて面白いなと思って。
これは追い焚きだなと。
色んな感想や伏線の解説をSNSで読ませていただきました。」
先行上映の際もSNSで広げてほしいと話していた中野監督。
SNS上での話題になった作品だった。
伏線をわかって見る追い焚き。
すべてをわかってみるからこそさらに泣けてしまう。中野脚本恐るべし。
(先行上映時のレビュー&舞台挨拶レポはこちら→http://cafemirage.net/archives/159)
苦節16年。商業映画デビューまでの道のり
・映画監督になるまでの道のりを教えてください。
中野監督:
「昔から表現するのが好きで。何か企むのも好きで。
大学ではバンド活動をしていたんですが映画は普通に見ていたぐらいでした。
大学3年になって就職活動をやる気になれなくて。
いったい僕は何をしたいんだろと考えました。
表現をして喜ばせられる人間になりたいと思ったんです。
それの最高峰は映画だろうと。大学3年で「映画監督になる!」と
宣言したんですが、それは逃げてるだけだって言われましたね(笑)
でも全く映画に詳しくなくて。大学3、4年生の間に映画をたくさん見て
映画好きになったつもりになって日本映画学校に入ったんですが
校長の名前を知らなかった。今村昌平さんなんですが。」

今村昌平賞をもらったから今がある
中野監督:
「映画学校時代の卒業制作で学年では1人しかもらえない今村昌平賞をいただきました。
いまだかつて名前を知らなくて受賞したのは僕ぐらいです。(笑)
2000年に卒業後、助監督として働いたんですが全然使いものにならない助監督で。
ポンコツで。助監督は現場がスムーズに進むために動かないといけないので
芝居を見ている場合じゃない時もあるんですが
僕は芝居を見ていて。途中でクビになってましたから。2年でドロップアウトです。
しばらく映画から離れて全然関係ないテレビのアシスタントディレクターをやっていました。
でもやっぱり映画を撮りたいと思って自主映画を撮り始めたのが2005年です。
撮れば賞をもらえる。でも監督デビューにはつながらない。
よくあきらめなかったなって思いますが日本映画学校で
今村昌平賞をもらっていたから我慢できたんだと思うんです。
いつかそうなるって思えたというか。
数年経って、商業映画監督としてオファーが来るような自主映画を作ろうと
最後の勝負として作ったのが『チチを撮りに』なんです。
これが賞をもらってオファーが来たんですが16年かかりました。」
商業デビューで原点に戻る
・この話を書こうとしたきっかけを教えてください。
中野監督:
「実はこの話は日本映画学校時代の卒業制作(『バンザイ人生まっ赤っ赤』)
と同じ結末なんですよ。なぜその時それをラストシーンにしたかというと
昔、インドを旅しまして。
インドでは人が亡くなるとガンジス川のほとりで焼くだけなんです。
知らない人もいる中で焼かれて流されていく。
僕自身小さい時から家族の死が多くてよく火葬場に行きました。
どっちが幸せなのかなって考えたんです。
みんなで見守られながらなのかガンジス川での状態なのか。
やっぱりみんなに見守られた方がいいなと。でも日本ではそれは難しい。
バレないように焼かれて、家族に見守ってもらうには
と考えた時にあのラストのシーンになったんです。
今回商業デビューするにあたって最も自分らしい映画にしようと思ったら
原点に立ち返ることになりました。
卒業制作のラストシーンをもう1回やろう。
ラストシーンに説得力が出るようにそこに行きつくまでの映画をしっかりつくろうと。」
子役へのこだわり
・探偵さんの子供の役の子はすごくいい味を出していますがオーディションで選んだのですか。
中野監督:
「オーディションで選びました。僕は小学校高学年より下の子は
芝居ができるとかというより子供らしいとか愛らしいとかで選びます。
オーディションなのにあの子はじっとしていられない子で。
でも自分の番になるとしっかりやるんです。
終わってからも出来ない子がいると『これはこうだよ』と教えだして。
自由だけどそれがよくて。助監督には『絶対やめてください。現場であの子大変ですよ。』
と言われましたがとってもかわいらしくて、なので僕が選びました。
確かに現場では大変でしたけど(笑)、探偵役の駿河太郎くんとは撮影前から遊んで
仲良くなってもらっていましたからとても自然な親子の芝居になったと思います。」
もう一人気になる伊東蒼ちゃんについてはイベント後に独自に監督に聞いた。
中野監督:
「『ここに…いたいです。』のシーンをオーディション会場で実際にやってもらいました。
実際にやらせたら普通の子はできないんですけどあの子は出来たんです。
小学生以上にはちゃんと台本を渡して芝居をしてもらっています。」
宮沢さんや杉咲さんの芝居を一番近くで見ていた伊東蒼ちゃん。
現在公開中の『島々清しゃ』はこの後に出演した作品だ。
パンフレットと小説でさらに追い焚きしたくなる
中野監督:
「パンフレットにはシナリオが付いていますのでとってもお得ですが
小説はいろんな人から見た話になっていて
映画では描かれていない、双葉と一浩の若い頃の話も入れてあります。気になりますよね?
それを読んでまた追い焚きしていただくのもいいと思います(笑)」
そんな発言もあったからかサイン会も盛況。「追い焚き○回目です。」という声や
「子供を連れてきてよかった。」など直接観客が監督に感想を伝え一緒に記念撮影も。

地方だから。来てもらったからにはしっかりと話してもらう。
そして地方でがっちり観客の心をつかんでもらう。
岐阜新聞映画部主催のCINEX映画塾はその作品やゲストの思いを
しっかりと観客に伝え、来ていただいたゲストにも楽しんで帰っていただく企画だ。
このイベントをもっと知ってもらうために今後も取材は続けていく。
岐阜CINEXに来ていただきたい。
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