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己の信じる道を行く 映画『武蔵-むさし-』三上康雄監督インタビュー

2019/05/25

『蠢動―しゅんどう―』から6年。リアルな演出と、徹底的なこだわりで時代劇の熱や美しさを表現する三上康雄監督の新作が出来上がった。
新作のタイトルは『武蔵-むさし-』。武蔵と武蔵が出会う男達の命を賭けた闘い、その間で動く政治に生きる武士達の闘いが描かれる。

『蠢動-しゅんどう-』で三上康雄監督の細やかな時代劇製作に感動し、次作を期待していたところ新作『武蔵-むさし-』で三上監督にインタビューする機会を頂いた。
今回も様々な場所にこだわりが。製作のきっかけから撮影について伺った。

前から撮りたいと言っていた武蔵

Q.前作『蠢動-しゅんどう-』から6年、『武蔵-むさし-』制作に至る経緯を教えてください。

三上監督
「『蠢動-しゅんどう-』の中で登場人物の香川が言ってるじゃないですか。「俺は伯耆藩に武蔵円明流を学びに行く」と。あの時にもう『武蔵-むさし-』を作りたいと思っていました。『武蔵-むさし-』には『蠢動-しゅんどう-』を観た方には嬉しい人物も登場します(笑)。あの頃から武蔵を撮りたいと思っていたんですが、武蔵を撮るとなると話は大きくなるなと思いました。実際今回主要キャストだけで12名いますから。細かい出演者までキャスティングしたら何人になるの?この映画何分になるの?という感じで。いずれ撮りたいと思っているなら今撮らなきゃいけないと思って。思いきってジャンプしたんですが、時間はかかるだろうと思っていたら6年かかりました」

Q.史実を調べるところから始められたんですか?

三上監督
「史実を調べると今までの作品や映画で武蔵と小次郎の巌流島の決闘の立会人だった長岡佐渡は実は巌流島の50日前に亡くなっていたりするんです。ということは小説で描かれた諸々はフィクションなんだと。これはちゃんと掘り下げて調べないといけないなと思い、調べていったらとても面白くて。調べていくうちに面白い人物を見つけたんです。沢村大学という三十何回も合戦に参加して90歳まで生きた人なんですが、この役は『蠢動-しゅんどう-』にも出て頂いた目黒佑樹さんにお願いしました」

Q.小次郎の人生というのはあまり一般的には知られていませんよね?今回は小次郎の人生もしっかり描かれていて、武蔵と闘う意味が観る側にはっきり伝わっていると感じました。

三上監督
「小次郎も出身地を調べたら福岡県の彦山周辺が出身ということで、そこまで調べに行って人物設定しました。なぜ、彼が長剣を使うのか?これは中条流の富田勢源の弟子としての修行が生きているわけです」

Q.実際、小太刀と長剣の手合わせのシーンがあり、なるほどと思いました。

三上監督
「僕自身が、剣道、殺陣、居合い、武術をやってきて、今作は武術の先生と一緒に小次郎のこのシーンだけでなく他の立ち回りの形も考えました。それを先に映像で撮って役者さんに渡しています。形を決めること、シナリオ執筆、ロケハンを並行してやりました。立ち回りやロケ地を決めるとシナリオも書けるんです」

Q.吉岡伝七郎と武蔵の闘いで武蔵が燃えさかるかがり火を倒すという演出がありましたが、これはどのように生まれたんでしょうか?

三上監督
「史実によると伝七郎は本当に八角棒を持って闘いに現れたらしいんです。あれを振り回せる伝七郎って凄い人で、武蔵とどっちが強いかと考えたら伝七郎だと思って。この状況で武蔵が勝つにはどうしたらいいかということを考えると相手を混乱させるしかない。そこまで無口だった武蔵がまず口で伝七郎が腹を立てるようなことを饒舌に言い散らし、何とかして伝七郎から八角棒を奪う。自分の身体を犠牲にして受け止める。その後は刀での闘いになる。武蔵が自分を有利にするために自分の後ろのかがり火を倒して自分を見えなくするという戦術です。実際の撮影でも伝七郎役の武智健二さんは「見えないから怖い」と言っていました」

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Q.あそこで観ている側からも武蔵が見えなくなって有利になったのがわかりました。

三上監督
「観ている側から見えていないものは現場でも見えないんです。武蔵は身体能力はあるけれども、そこまで強いかはわからない。でも勝つ術を考え、勝つことが出来たという風にしたかったんです」

時間をかけた役作り

Q.作品の前半部分では武蔵の弱さが描かれているように感じました。武蔵役の細田善彦さんは武蔵の弱い部分を非常に巧みに演じられていますが、どんな演技指導をされたのでしょうか?

三上監督
「撮影前の3ヶ月を空けますと言ってスケジュールを空けてくれたんです。細田くんはサッカーをやっていて身体能力はあるんですが、殺陣は1回もやったことがなかったので、殺陣のベースは僕が教えました。殺陣には流派があるので変にクセがついてしまうと困ります。一から僕が教えて、その後殺陣をひたすら練習してもらったので、クセのない立ち回りになっています。3ヶ月の間、細田くんは殺陣の練習とジム通いしかしてない状態で、いい体になりました。今は戻ってしまってますけど(笑)。なのであれは細田くんじゃなくて武蔵なんですね」

Q.3ヶ月で三上監督と作り上げた武蔵なんですね。

三上監督
「細田くんは撮影中も毎晩僕のところに来て翌日の演技プランを聞きにきていました。武蔵についての質問もいっぱいしてきたので、僕も答えて。僕とシンクロして出来た武蔵です。細田くんでよかったのはあのナイーブさ。ナイーブさと強靱さを合わせ持った武蔵のキャラクター設定に合っていたんです」

Q.九字を切るシーンもありましたが、佐々木小次郎が修験者だったということは勉強不足でしりませんでした。

三上監督
「あれも史実なんです。吉川英治さんが書かれた『宮本武蔵』でも小次郎はいろんな場所に現れる。いろんな場所に行っていたのは修験者だったからなんですよ。修験者は峰を越えて移動するので、関所もフリーパス。越前にいたり、京にいたりしているのはそういう理由からなんです」

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Q.小次郎に松平健さんというキャスティングも意外で。でも松平健さんの佐々木小次郎が観られて嬉しかったですね。

三上監督
「ラスボス感は満載だと思います。最強ですよ。それが僕が目指したものです。挑戦者と王者の構図。吉岡一門を破らないとあそこにたどり着けませんが…」

Q.『蠢動-しゅんどう-』の時もですが、今回も一乗寺下り松のシーンの撮影や、畑のやせた大根など細かい部分までリアルさを感じます。

三上監督
「大根ですが、あれは畑ごと作りました。大根は品種改良されて、今は太い大根ですが、当時はあのサイズだったんです。その大根は今はないので、研究所まで行って種子をもらってきて、農家の方に種子を蒔いて育ててもらいました。根がしっかりついた大根を役者に抜いてもらいたくてそこまでこだわりました。作ったと言えば吉岡の憲法染もです。吉岡染は今はなくて、京都に吉岡の傍流の方がやっている染司よしおかという染物屋さんがあって、その方に映画のために憲法染を復元してもらいました。撮影終了後、御礼に撮影で使った吉岡の看板をプレゼントしました。修験者も本物で普段働きながら修行されている方に撮影のために頭を丸めていただきました。松平健さんにも朝3時に起きて筑波山の頂上での撮影に挑んでいただきましたし。いろんなことを準備していますが、さりげなく撮影しています。気づいていただけると嬉しいですね」

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Q.目黒佑樹さん演じる大学が巌流島の闘いを予想する時の刀の手を撮っているシーンも注目シーンですよね。観ている側にもその後の闘いが見やすくなりますし。

三上監督
「目黒さんもあのシーンを作るために道場に40回通われました。3分半ノーカットです」

Q.刀を袴に挿すところからの一つ一つの動きがしっかり決まっている。あれを3分半ノーカットでやるというのは殺陣を習ったことがある人なら大変難しい、半端ない緊張感があることがわかります。

三上監督
「事前にこの殺陣を見せていただいた時に刀の下げ緒がまっすぐじゃなかったので、目黒さんにそれをお話したら、目黒さんが1日2回の霧吹きと刀の重みでまっすぐに直してくださいました。目黒さんがそこまで細部までこだわって大学という人物を演じてくださいました。大学は後半では武蔵、小次郎に並ぶ大事な役です」

Q.監督の信じているものは何ですか?

三上監督
「僕はキューブリック監督が好きです。キューブリックの言葉に「セリフに語らせず、映像に語らせる」というものがあります。これを自分も貫いています。キューブリック監督は絶対キューブリックであり続けたことが凄いなと。僕も僕のやり方を絶対正しいと信じて撮影しています。これは変えるつもりはありません。これからも自分のやり方を信じて撮影していきます」

三上康雄監督

三上康雄監督

戦がなくなっていく世の中でなぜ武蔵は闘うのか。己の信じた目指す頂きは追いかければ追いかけるほど高くなり、闘う相手は増えていく。何が正しいかを見極めるのは自分であることを教えてくれる作品だ。

映画『武蔵-むさし-』https://www.musashi-movie.jp は5月25日 (土)から有楽町スバル座他で全国順次公開。
東海地区では5月25日から〈愛知〉イオンシネマ名古屋茶屋、名演小劇場、イオンシネマ豊田KiTARA、ユナイテッド・シネマ豊橋18、〈岐阜〉関CINEXマーゴ、〈三重〉イオンシネマ東員、〈静岡〉静岡東宝会館、シネプラザ サントムーン で公開。

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