
かあちゃんの愛がたまらない(『湯を沸かすほどの熱い愛』)
作品のチラシのイメージが赤だった。
銭湯の風呂場に立つ女性は赤のエプロン。
そして昔の『トラック野郎』『仁義なき戦い』で
出てきそうなフォントで
『湯を沸かすほどの熱い愛』
と書かれている。
この話の主人公の双葉は赤色が好きな女性だ。
双葉の情熱はこの赤色のように美しい。
(舞台挨拶付き先行上映で鑑賞。ネタバレしない程度で
先行レビューいたします。)
あらすじ
双葉は銭湯を経営する夫が失踪し、高校生の娘・安澄を働きながら育てている。
ある日めまいで倒れた双葉は自分があと2、3ヶ月の命と知る。
悲しんでいる時間はない。体が動くうちにやることをやる。
そう決めた双葉はまず失踪した夫・一浩を呼び戻し、
銭湯を再開することを実行する。
戻ってきた一浩は小学生の女の子を連れていて…。
双葉かあちゃん、家族の幸せを考える
明日が当たり前に来ると思っていたのに
そうでなくなる日がこんなに早くやって来るなんて。
まだ早いと思っていたことも
自分がいなくなった先を思うと
実行に移すことになる。
双葉かあちゃんは強い。
死の恐怖にとらわれるよりも
病気を何とかしようとするよりも
自分の家族、周りにいる人々を幸せにするために動き出す。
血の繋がりとかそういうものより今一緒に生きている人々が
生きていけるように。
とんでもない事実が突然家族全員に降りかかる。
それでも双葉かあちゃんがいるから
皆、それを受け止めていく。
食事のシーンが度々出てくる。
はじめは二人だった食卓が変わっていく。
食卓に出てくるものが話の伏線のひとつ。
映画を見終わるとカニかしゃぶしゃぶが
食べたくなる人もいるかもしれない。
家族のことを何よりも考える双葉かあちゃんを
演じるのは宮沢りえ。
自分の弱いところは決して見せない。
だからこそスクリーン越しにそれを見る
私たちは胸を打たれる。
自分がいなくなったときあの子は
ちゃんとやれるだろうか。
あの人は大丈夫だろうか。
今言っておかなければ
きっとこの子はダメになる。
去らねばならぬからこそ、
果たさなければならないことがある。
卓越した演技力で
双葉というお母ちゃんを、妻を、娘を演じる。
舞台挨拶で見た宮沢りえさんの美しさとは
違う双葉の美しさがある。
娘の安澄を演じるのは『とと姉ちゃん』の好演も
記憶に新しい杉咲花。
お母ちゃん子の安澄は悩み深き高校生。
失踪して戻ってくる
どこか頼りないがなんだか憎めない夫・浩一はオダギリジョー。
双葉はなぜこの男を選んだのか。
次第にそれはわかってくる。
松坂桃李、駿河太郎が脇を固める豪華布陣。
双葉に出会うべくして出会う男たちを演じる。
銭湯には心が詰まっている
名古屋の舞台挨拶付上映には
宮沢りえさん、杉咲花さん、中野量太監督が登場。
本作が商業映画デビューの中野量太監督。
自身が初めて撮った映画も銭湯が舞台だった。
家族の愛の繋がりのあるところを舞台にしたくて
再度、銭湯を選んだという。
脚本は中野量太監督のオリジナル。
銭湯は実際に使っていた銭湯を使用。
番台のある銭湯は日本人の心。
行ったことのない人も懐かしさを感じずにはいられない。
配給がクロックスワークと聞いて
『アフタースクール』『鍵泥棒のメソッド』の
内田けんじ監督を思いだし。
内田けんじ監督が舌を巻く伏線回収の脚本なら
中野量太監督の脚本はじわっと気がついたら伏線が回収されている。
何の違和感もなく繋がっているシーンが
とてつもない事実に繋がるのだ。
家族としての距離を縮めるために中野監督は
撮影の前に宮沢さんと杉咲さんの距離を縮めようと
一緒に食事をしてもらったり
メールの交換をするようにしてもらったとか。
毎日面白い顔を送ることが日課になったそう。
敬語をやめるということも指示した。
こうして母娘になった二人。
撮影しながら中野監督自身が
宮沢さんと杉咲さんの芝居に胸を打たれた。
中野監督:
「作って見てもらって映画は映画になります。
とにかくこの御二人の芝居を見てください。
よかったらぜひSNSで薦めてください。」
杉咲さん:
「自分でこの作品を見たとき、自分の大事な家族や友達に
見てもらいたいと思いました。
私のマネジャーは映画の撮影の後に変わって今の方になっているんですが
この映画を見てもらった後にこの話をする度に泣いちゃうんです。
時間がたっても思い出に残る映画です。」
宮沢さん:
「この映画に携わって日常は当たり前ではない特別なもの。
薄紙のような奇跡が重なってきている。そう思うようになって
やることが毎日増えました。
明日じゃなくて今日やることが増えました。」
奇跡のような毎日が重なって今の暮らしがある。
そう思えばどんな過去も素敵な出来事に見えてくる。
双葉かあちゃんがとにかくサイコー。
双葉かあちゃんに自分の母親を重ねるシーンが
何ヵ所もあった。
親はいつでもいくつになっても子のことを思う。
タイトルの本当の意味は最後にわかるので。
劇場で笑いあり、涙ありの家族の映画を観に行ってほしい。
『湯を沸かすほどの熱い愛』
http://atsui-ai.com/index.html
10月29日から新宿バルト9他で公開。
名古屋地区は伏見ミリオン座、
イオンシネマ各務原他で公開
(岐阜CINEXでの公開は来年の予定)
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