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住宅顕信という俳人を知っていますか?若き俳人の心を描く(映画『ずぶぬれて犬ころ』本田孝義監督インタビュー)

2019/07/24

自由律俳句をあなたは知っているだろうか。
五七五にとらわれないリズムと自由な感覚で読まれた俳句だ。
「分け入っても分け入っても青い山」という種田山頭火が詠んだ句なら「ああ、教科書で見た」という人もいるだろう。

この山頭火や様々な自由律俳句を詠んだ先人たちに憧れ、日々の自分の思いを自由律俳句で詠み続けた男がいる。

住宅顕信(すみたく・けんしん)。彼はわずか25歳で夭逝したが、後年、彼が詠んだ句は沢山の人々の心をつかんでいった。

その住宅顕信の人生を描いた映画『ずぶぬれて犬ころ』が7月27日から名古屋シネマテークで上映される。

私はこの映画を観るまで住宅顕信という人を知らなかったが、観た後には映画に出てきた句以外にもっと句を知りたいと思った。

顕信の句を書き続ける現代の中学生に大好きな詩人の詩をノートに書いていた私の中学生時代を重ねていった。

この映画の監督・プロデューサーである本田孝義さんが来名。お話を伺った。

ふと思い出した『ずぶぬれて犬ころ』

Q.住宅顕信さんとの出会いを教えてください。

本田監督
「2002年に精神科医の香山リカさんが住宅さんのことを書かれた本が出版されているんです。その時にちょっとした全国的住宅ブームが起こって、それまでは俳句の関係の方の知る人ぞ知る存在だったんですが、俳句以外の方にも知られるようになりました。たまたま僕は2002年はドキュメンタリー映画を岡山で撮っていて。住宅さんは岡山の方で、ブームの時はもちろん岡山でも話題になっていたので香山さんの本と住宅さんの句集を読みました。その時はそれで終わっていたんです。こういう人がいるんだと。それが2014年頃に仕事で色々うまく行かなくなって精神的に落ち込んでいた時期に何故かという理由はわからないんですが、今回の映画のタイトルにもなっている「ずぶぬれて犬ころ」という句が頭の中に蘇ってきて。「ずぶぬれて犬ころ」という句は顕信が雨に濡れた犬を見かけて白血病の自分を仮託した句だと思うんですが、この句を詠んだ人はどういう人だったんだろうと気になり始めたというのが一番始めの出発点です。顕信さんの句は読んでいただければわかりますが、「頑張れ!」とかそういう句はないわけです。若い人には精神的に弱っているときに読むとその句が刺さるという方が多いみたいです。僕は若くなくて45歳の中年ですが、その心に刺さったんです」

Q.プロデューサーも今回は兼任されていますが、映画製作の経緯や苦労した部分を教えてください。

本田監督
「僕は今までドキュメンタリー映画を撮ってきていたので、この映画も最初はドキュメンタリー映画としての製作を考えていました。でも顕信さんのことが気になりだして、顕信さんの本を読んだり、顕信さんのご家族に会ったりしていたんですが、本人が30年以上前に亡くなっているわけですから、ドキュメンタリーを作るにあたってはご家族にお話を聞くとか、生前の顕信さんを知っている方にお話を聞くとかそういうことしかできないわけです。映画の面白さを考えた時に、これでは面白くならないと思って。だったら顕信さんのことを劇映画にした方が映画としては面白いなと思ったのが今回の転換点です。僕は学生時代におままごとみたいではありましたが、劇映画を撮っていまして。今回の劇映画を作ろうと決断させてくれたのは2013年に渋谷のヒカリエ開館一周年を記念に製作した『ヒカリエイガ』という8本のオムニバス映画のプロデューサーをやっていたことでした。8人の監督がヒカリエのフロア毎で短編を製作したんです。プロデューサーと言ってもお金のことはわからないんですが、監督が撮影するところから完成まで全て付き合って製作したものなんです。その現場で劇映画が面白いなと感じました。それで無謀なことに僕も出来るのではないかと思って(笑)。

本田孝義監督

本田孝義監督

 

その『ヒカリエイガ』に関わっていた方が今回の映画にも関わってくださって。カメラマンの鈴木昭彦さんは井口奈己監督の短編の撮影をされていて、脚本の山口文子さんもその映画の中の1本の脚本を書いていました。一度仕事をしたことがある方たちにお声がけして劇映画の製作に入っていきました。ドキュメンタリーは一人で撮って一人で編集すればなんとかなるものでしたが、劇映画はそうはいかなくて。人数が多くなるので製作費がかかります。企画書を書いて東京や岡山の方にお話をしていたんですが、なかなか製作費が集まらなくて。企画だけではなくて先に脚本を作った方が支援する方側の目安になると助言をいただいて、脚本を作って支援のお願いに動いていましたが、2年ぐらいはなかなか集まりませんでした。自主映画って大体そこで終わってしまうんですが、クラウドファンディングでなんとか支援を募ることが出来ました。それと岡山にあった実家の空き家を製作費の足しにと思って売りました」

Q.自由律俳句を主題にした映画は今までなかったと思うんですが、公開して反響はありましたか?

本田監督
「俳句をやっている方が見に来てくださっていると聞いていますし、実際劇場でお会いした方にお話をお伺いすると自由律俳句を初めて知りましたという方が多かったです。今回の映画の場合、顕信さんの句が33句出てきます。小堀明彦という少年がセリフとして言っているシーンと文字で出てくるシーンがあるんですが、文字で出てくるシーンで言うと、観ている人に無理に読ませようとはしていません。出来た時に顕信役の木口さんと話したんですが、読みたくなければ読まなければいいし、読みたければ読んでという感じで句が出てくるので俳句を知らない方でも映画に入りやすかったのかなとは思います。俳句を詠む方とお話しした時に話したことだと、俳句って文字を読んだ時に、読む人によって読むリズムが違うんですね。音声とかがついていると決まってしまうので、それをやらなかったことが結果的によかったのかなと」

現代の少年を通して顕信を詠む

Q.いじめられている少年の話を顕信の話にくっつけたのはどうしてでしょうか。

本田監督
「これは僕のアイディアではなく脚本家の山口文子さんのアイディアです。山口さんは短歌を詠む歌人でもありまして。作品内に出てくる33の句を選んだのも山口さんです。そこは歌人のセンスに任せました。上がってきた脚本はさすがでした。281句の中からストーリーの中に入ってくるものを選んでこられていました。脚本を書く前にプロットという大まかな設定の書かれたものを書くんですが、山口さんに「なぜ本田さんは住宅さんのことを映画にしたいんですか?」と聞かれました。とにかく顕信さんの伝記の映画を作りたいと山口さんに伝えたら、あがってきたプロットがいじめられている中学生が顕信さんに出会うというもので。僕としては顕信さんだけで行こうと思っていたので2日ほど悩んで、顕信さんが現代でどう受け止められるかということを映画で描くというのもいいかなと思って、山口さんにそのままお願いしました。公開してみてこの設定には賛否両論ありますが、僕が思っていたよりは受け入れられている感があります」

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Q.明彦役の森安奏太さんは他の作品にも出演されているんですか?

本田監督
「大きな役をやったのはこの映画が初めてだと思います。彼は岡山の中学生で、テアトルアカデミーという芸能事務所の岡山校に所属していました。顕信の妹役の原田夏帆さんもテアトルアカデミーですし、母親役の八木景子さんはテアトルアカデミーの先生です。なので森安くんも原田さんも演技の基礎のレッスンは受けています。去年の4月に高校進学をしたんですが、本格的に演技の勉強をするということで上京しています。森安くんとの出会いは奇跡的で。映画の準備のために岡山によく戻ってきていたんですが、テアトルアカデミー岡山校の第1回の舞台発表があって見に行った時に、この映画の少年役は誰がいいかなと思いながら観まして、脇役だったのに森安くんが気になったんです。森安くんばかりみていました。その時の主役が原田さんだったらしいんですけど(笑)。彼だったらいじめられている少年を演じられるかなとか、力強く話すシーンもあるので、上演後にお客様と話す森安くんも観察して、彼なら出来るかなと思っていました。でも彼にそのままオファーしたわけではなく、お父さん役の仁科貢さんと少年の母親の田中美里さん以外は全てオーディションをしています。少年もいじめている側の生徒もテアトルアカデミーの人達を中心にオーディションを受けてもらって。もちろん森安くんにも受けてもらって。やっぱり森安くんしかいないかなということで決めました」

Q.顕信役の木口さんは役作りで痩せられたんですよね?

本田監督
「僕から痩せて欲しいとは彼には言っていないんです。というのも木口さんには10代から演じていただいていて、病気になってからだけを演じていただくわけではないんです。撮影期間が13日間しかないので10代から痩せていても困るなと思ったからです。本人は白血病なのでどうしても絞りたいと。撮影中は周りが弁当を食べている中でサラダしか食べていない状態で十何日間撮影していました。撮影は順撮りではなかったので木口さんは大変だったと思います」

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Q.木口さんとどういう感じで顕信を作っていったんでしょうか?

本田監督
「僕自身が劇映画が初めてでどうしていいかわからなかったので木口さんがこうしたいということに応えていた感じです。例えば木口さんが顕信さんのご両親に役作りで会いたいと言われれば、住宅家に行ってご両親と会っていただいたり、顕信さんと文通していた方が関東にいるのでその方とお話をしたり。また白血病がどんな病気なのかもっと知りたいとも言われたので東京の白血病の患者会に行って話を聞いたりしました」

Q.住宅さん本人に寄せた感じなんでしょうか。

本田監督
「木口さんとしては寄せたいと。写真を見たからと言って外見は寄せられないんですが、木口さんにとって実在の人物を演じるのは今回が初めてで、僕はその点はあまり気にしていなかったんですが、役者の木口さんにはそれがすごくプレッシャーで。ご両親もご健在ですし、顕信さんを知っている方々に対して失礼のない芝居をしたいと木口さんは言われて。木口さんは真面目で誠実な方なので寄せるというより失礼のない芝居がしたかったということなんです。木口さんで本当によかったですね。映画の中で木口さんが着ている作務衣は顕信さんの遺品なんです。実際に着ていたものが30年経っても綺麗に残されていて。僕から使わせてもらえないかとお願いして作務衣や法衣、袈裟、万年筆などをお借りしています。住宅家に木口さんと伺った時にその顕信さんの作務衣を木口さんに着てもらったら丈がぴったり合ったんですよ。それもあってお借りしました。木口さんには聞かなかったですが、そのぴったり合った話を別の役者さんに話したらそれは役者にとってはとても嬉しかったはずだと言われました」

Q.長回しのシーンが多いんですがこれは始めからそう決めていたんでしょうか?

本田監督
「決めてはいませんでした。劇映画が初めてで13日間しか撮影期間がないので現場で迷っていては時間切れになってしまうと思い、全シーン絵コンテを書きました。撮影前にカメラマンの鈴木さんと打ち合わせをして撮影に入りました。最初の1週間は撮影が終わったら翌日の撮影の打ち合わせもしていたんですが、2日目ぐらいから絵コンテが全く役に立たないということがわかって。絵コンテが崩壊しました。ただカメラマンの鈴木さんとコミュニケーションが取れたということでは意味があります。劇映画経験がないので脚本のセリフを見ながら頭の中でカットを割っていたんですが、現場で役者さんが入って演技をし始めると、ここはカットを割らない方がいいんじゃないかと思うところが出てきて。なおかつカメラマンの鈴木さんは不自然なことをやりたくないというスタンスの方なので、出来るだけ自然な演技を撮るためにこれはカットは割らない方がいいということになり、どんどんカット割りが減っていきました。手持ちで撮っているのは6カットであとはカメラを固定した撮影方法で撮っていくようになりました」

Q.名古屋公開に向けて一言お願いします。

本田監督
「僕の映画が久しぶりに名古屋シネマテークで上映されます。舞台挨拶は28日に行います。僕だけではなく、教頭先生役の脇田敏博さんも登壇します。脇田さんは名古屋の方ですが、オーディションを岡山まで受けに来てくださったんです。俳句に興味のある方も、ちょうど夏休み中の公開ですので、ぜひ若い方にも観ていただきたいです。親子で観に来てくださると嬉しいですね」

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映画『ずぶぬれて犬ころ』http://www.zubuinu.com/

7月27日(土)から8月2日(金)まで名古屋・シネマテークで連日10:30より公開。28日には舞台挨拶も予定されている。

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