
映画『こはく』井浦新さん×横尾初喜監督 名古屋 シネマスコーレ 舞台挨拶レポート
井浦新という役者は観る作品によって出てくる色が違う。役そのものが出す色を井浦新という人を通して更に精彩に色が感じられる。
大河ドラマ『平清盛』、ドラマ『アンナチュラル』、朝の連続テレビ小説『なつぞら』と最近はテレビドラマへの出演も多い彼だが、映画での佇まいはやはり一層魅力的だ。
映画『嵐電』に続いて現在公開されている映画『こはく』では小さい頃に出ていった父を東京から帰ってきた兄(大橋彰・アキラ100%)と探す弟を演じている。
一度親となり、別れ、新たな命の親になる。それでも父がいないという寂しさが拭えず、ずっと何かが欠けているような、自分の孤独感を感じながら生きている男。
家族とは何か。抱える孤独と自分を大切に思ってくれる人々とどう生きていくか。私達も持つ孤独感と親への思慕の思いが描かれる。
映画『こはく』名古屋公開を記念した舞台挨拶が名駅・シネマスコーレで行われた。
超満員の劇場での舞台挨拶には主演の井浦新さん、横尾初喜監督が登壇。
その様子をお届けする。
横尾監督
「監督をやりました横尾です。よろしくお願いします!」
井浦さん
「ただいま、みんな!若松監督の映画以外で僕、初めてシネマスコーレに来ました。変な気分です(笑)。皆様、今日は朝6時から並んでくださった方も沢山いらっしゃって、こんなに満席のお客様に観て頂いて心からありがとうございます!皆さんの大切なお時間を、労力を使って頂いて、でも皆さんの心に必ず届くであろう映画だと僕達は確信して自信を持ってお届け出来たと思います。初日に足を運んでくださってありがとうございます」
拍手の後、しばしの間。
井浦さん
「監督、どうしましょうか?若松監督の映画館ですよ」
横尾監督
「いやあ、もう。恐れ多いです。『こはく』を選んで頂いて凄く嬉しいです」
井浦さん
「木全支配人がようやく若松監督作品以外で僕の作品をかけてくださって。他のもいっぱいやっているんですけど(笑)」
木全支配人
「もう(笑)。ちゃんと映画の内容に行ってください!」
井浦さん
「この作品は監督の半生を題材にしているんですよね?」
横尾監督
「はい、自伝で。母子家庭で僕は育って。父親を知らない自分がいて。兄貴にある日「俺はめちゃくちゃお父さんを恨んでいる」という話を聞きまして、それが僕には凄い衝撃で、そこから父親ってどんなだったんだろう?ということをベースに作らせてもらった映画です。回想シーンも僕が覚えている断片のお父さんの記憶をベースに作っています」
井浦さん
「監督の実際お母さんが言ったこととか細部までそうですね。僕が演じた亮太そのものは監督の分身のような存在であり、亮太の家族の状況とかやってきたこととかは監督の体験ベースなんですよね。前妻との間の子どもの話とかも」
横尾監督
「はい。実際ベースに置かせてもらって、本当に一番はじめから覚悟を決めてやったので、自分が父親を知らずに最後のクライマックスをどう作ればいいんだろうって。最初の方の段階ではクライマックスを作ってはいたんですけど、きっとこうならないなと現場に入って。タイトル『こはく』って心の中に固まっているあたたかい思い出という意味でつけているんですが、意識的にも、無意識的にも蓋をしていたところに自分が気がつかないまま現場に入っていたら、そこを新さんが開けてくるわけですよね。「開けなさいよ、あなた」みたいな感じで(笑)。穏やかな感じにですけど」
井浦さん
「監督が腹を括って自分の人生さらけ出すわけですから、中途半端が一番良くないであろうと。自分自身の話ベースで美しい話にするって見ていられなくなるんじゃないかとかいろんな思いが僕にはあって。せっかく監督の分身である亮太を演じさせてもらうにあたって監督は作品全体については俯瞰して見ていても、亮太に関しては主観で見てしまうので、とにかく監督が描く亮太とは違うものをどんどん生んで行かないと行けないんじゃないかとか、演じる上でせっかく目の前に監督という答えがあるんだから、そのまま答えをもらうんじゃなくて、その答えの奥にあるご本人が気がついていないことこそ掘り起こしてそれを映像にしていきたいなと。監督にとっては映画を撮ることだけでもきつい、映画を撮りながら自分と向き合わざるを得ない状況になっていて熱を出して撮影中に倒れたりされまして」

井浦新さん
横尾監督
「あの時はアドレナリンが出ていてあまり覚えていないんですけど、また改めて新さんと話していると、「あ、そういえば熱出したな」と(笑)」
井浦さん
「撮影の時はなんとか立っていられましたけどね、それぐらい皆さんが見て頂いた通りの作品から滲み出ているあたたかさとか優しさ、柔らかさそのままなんですよ、監督は。監督の存在って映画で感じたものなんですけど、監督自身の優しさとかの奥底にあるのは自分自身でも気付かす蓋をしてしまった苦しさとか悲しさとかを僕は心理カウンセラーみたいに「はい、ここ開けていきましょう、さらけ出して行きましょう」って(笑)」
横尾監督
「あー…そこも開けるんですか?というやりとりを毎晩やりました。順撮りに近い感じで撮影して最後のクライマックスで、僕もお父さんに会えてないんですけど、会わせてもらった気がして自分も号泣して、カットをかけ忘れて彰さん、倒れるっていう(笑)」
井浦さん
「あそこの撮り方はちょっと特殊でしたからね。順撮りでも、僕らもクライマックスに向けてワンシーン、ワンシーン大切に撮ってきて、あのシーンだけはテストなし、一発本番でお父さん役の鶴見辰吾さんとも本番まで会わないようにして、何がじゃあ起きるのか実験してやったんですけど、観て頂いて分かると思うんですが、兄ちゃんが、普段裸になっている人が(笑)、凄いんですよ。僕も自分で「不器用だ、不器用だ」って言うんですが、僕より不器用な人がいたから「やばい」と思って。「凄いぞ、この人」と思って。その不器用な人が心を込めて苦しみながら演じている姿が兄ちゃんそのもので、観て頂いて伝わったと思うんですけど、彰さんの芝居が。あのシーンは彰さん凄かったですよね。あのシーンを始める前に2時間ぐらい準備がかかって。「凄い時間がかかるなあ。ああ、もう!」って僕は思っていたんですが、彰さんは誰とも話さないで車の中に入って出てこなくてずっと気持ちを作っていて。それを一気にドーンと出すんですけど、監督がカットをかけないから彰さんあの状態だったので過呼吸になってしまって。カットと聞こえた瞬間にバタンと倒れて。「はあ、はあ。よかった!もう一回は出来ない…」って言われていましたね。命懸けだったんですよ、あのシーン」
横尾監督
「凄いシーンを撮らせて頂いたなと思いましたね、僕は。天気にも本当に恵まれて2週間ぐらいの撮影でずっと晴れていたんです。その日だけ兄弟の気持ちを察したかのようにヒョウが降ったんです」

横尾初喜監督
井浦さん
「あのシーンをやる直前に。意味が分からない。春です。桜も咲き終わっているのに」
横尾監督
「なので、準備にもちょっと時間がかかりつつ。お父さんと会うシーンを撮り終わった瞬間に虹がかかったんです。奇跡が沢山あった映画でした」
映画『こはく』 http://www.kohaku-movie.com/ は名駅シネマスコーレで8月2日まで公開。
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