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しょったんが開いた将棋界への新たな扉(映画『泣き虫しょったんの奇跡』)

人生の様々な時間に出会った相手からの一言が自分の記憶に深く残っていることはないだろうか。その言葉を原動力に再起をかけた男がいる。

瀬川晶司30歳。諦めかけた夢に向かって歩み出す。

なることが難しいプロ棋士の世界

藤井聡太七段のニュースや羽生善治竜王の国民栄誉賞受賞もあり、最近将棋は人気で、プロを目指す人も増えているという。プロ棋士への道はとても厳しい。奨励会に入って21才までに初段、26才までに四段にならなければならない。もしくはアマチュア名人となってプロ棋士と戦って勝ちあがる。この2つしか方法はない。

2006年までは後者はなく奨励会からプロになる道しかなかった。26才までに四段になれなければ一生プロ棋士になることはできなかった。それまで打ち込んでいた夢が藻屑と消えるのだ。

瀬川晶司は奨励会の年令制限で一度将棋を諦めた。アマチュアとして30才を越えて将棋を再開した彼は周りの後押しで前例のないアマチュアからプロ棋士になるという新たな道を開く。弱いけど強い。強いけど弱い。

『泣き虫しょったんの奇跡』が今熱く描かれる。

奨励会を知る監督が描く将棋の世界

監督・脚本は自らも9歳から17歳まで奨励会にいた経歴を持つ豊田利晃監督。奨励会に入ることも残ることも並大抵の努力だけでは難しいことを知っている。そんな監督が原作に惚れ込み、リアルな将棋界を描くこの作品の主演に選んだのは『青い春』から豊田作品には4作目の出演となる松田龍平。彼自身が今年35歳を迎え、しょったんこと瀬川晶司の生き方を体現していく。

松田龍平の佇まいが瀬川晶司五段その人の佇まいに重なる。瀬川五段に会い、瀬川五段自身から将棋指導を受け、将棋を打つ時のしぐさやくせを研究した。

出会った人々がしょったんに残した言葉が印象的にリフレインされる。彼のために異例のプロ編入試験が開催されたことには周りの後押しがある。それには静かだが大好きな将棋に向き合う姿を見せるだけでなく、物腰の柔らかさという人から好かれるしょったんの人間性があった。彼にならその夢を任せられる。そう思ったアマチュア棋士たちが奔走する。

好きなものを追いかけて 少年時代~奨励会時代

将棋が好きな自分を認めてくれる父や担任教師、お互いをライバルだと思っている幼なじみの悠野との切磋琢磨も描かれる少年時代はしょったんと悠野の少年時代を演じた窪塚愛流と後藤奏祐人の芝居が光る。そしてそこにいる(敢えて演じるとは書かない)國村隼やイッセー尾形がとにかくいい。

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夢を追って入った奨励会。自分との戦い。諦めたくない。しかし刻々と迫るタイムリミット。
大好きな将棋のはずなのに次第に苦しくなっていく。

プロ棋士になるはずだった人たちが続々と奨励会を去り、夢を諦める。

自ら諦める人、諦めざるを得ない人。勝ち抜かなければいけない世界に耐えられない人。違う世界へ向かう人。

そんな人たちの描写もこの作品は忘れてはいない。

座って向き合っているあの一畳に収まりそうな空間で一手一手に精神を集中して勝負にかける思い。
「負けました」
負けたら必ず言わなければいけない。言いたくはないのに悔しい思いと一緒に出てくるこの言葉。奨励会の大会で、自分の未来や自分自身を失うような喪失感を味わう彼ら棋士たちはどれだけ疲弊したのだろう。

わずかな出演時間でも妻夫木聡、早乙女太一、新井浩文、永山絢斗、染谷将太、駒木根隆介、渋川清彦が将棋界に残る男、去る男達を様々に演じてくれたことで私達は仲間でもある奨励会メンバーの中で生き残る厳しさを感じることが出来る。

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諦めない心

そしてしょったんも勝てず、奨励会を去る。青春を捧げた将棋は社会では役に立たない。晶司は奨励界を辞めてから大学に行き30才を越えて将棋とは無縁の会社に就職する。

しかし。諦めたままでは終われない。好きな気持ちは心の中に残っていた。

小さな頃から抱いた夢のすべてを叶える人間はほとんどいない。大好きなことを職業にしたいと思いながら自分には無理だと思い趣味で留めてしまったり、諦めるが故に嫌いになってしまう人もいる。

出来ないと思うきっかけはなんだろう。
自分の力不足を感じた途端に訪れる恐怖心、その時知る心の弱さ。
逃げることが大事なときもある。

違う世界を見てきてもそれでも好きで諦めない人は自分が一度打ちのめされた記憶よりも好きという思いが勝る人だと思う。

しょったんも一度は将棋から遠ざかった。離れてみて分かる将棋の面白さ。自分が夢中になれるものを改めて知った。やっぱり好きだから諦めきれない。今までの慣習を破って新たな道を開いていく姿が清々しい。

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奇跡を描いても粛々と

将棋を指す音が心地いい。駒を指す一つ一つの音に気持ちがこもる。派手な演出は全編ない。

原作を読んだだけで音楽を作ったという音楽担当の照井利幸(元BLANKY JET CITY)は、豊田監督が描いた映像の世界観にぴったりと合わせてきたという。音楽が寄り添うように流れる。負けたときも勝ったときも人物たちの心をしっかり捉える。その分、対局した二人の間の空気を感じることが出来るだろう。

岐路に立たされたとき人は必ず自分の人生を選択しなければならない。

夢を一度は諦めた人もいるだろう。

この映画は将棋界に起きた奇跡を描きながら好きなことを辞めなかった男の”軌跡”も描いた。

自分には奇跡は起こらないかもしれない。
そう思ってやる前から諦める必要はない。
あなたが頑張った”軌跡”を必ず誰かが観ていてくれるはずだ。

『泣き虫しょったんの奇跡』 http://shottan-movie.jp
原作:瀬川晶司「泣き虫しょったんの奇跡」(講談社文庫刊)
監督・脚本:豊田利晃
音楽:照井利幸
出演:松田龍平 野田洋次郎 永山絢斗 染谷将太 妻夫木聡
松たか子 イッセー尾形 小林薫 國村隼

9月7日(金)より全国ロードショー。
東海地区では9月7日よりTOHOシネマズ(名古屋ベイシティ、木曽川、赤池、津島、モレラ岐阜)、ミッドランドスクエアシネマ、ミッドランドシネマ名古屋空港、伏見ミリオン座、ユナイテッド・シネマ(豊橋18、岡崎、稲沢、阿久比)、コロナシネマワールド(安城、小牧、豊川、半田、大垣)、イオンシネマ(長久手、東員)、
11月24日より伊勢進富座で公開。

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