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日常の中の非日常な恋に落ちて(映画『寝ても覚めても』東出昌大さん、濱口竜介監督インタビュー)

2018/09/11

昔突然消えた恋人とそっくりな男が目の前に現れて自分を好きになってくれたらあなたはどう応えるのだろうか。

同じ顔だからひかれるのか。そんなことはないはずなのに。心は求める。

柴崎友香の原作を前作『ハッピーアワー』でロカルノ国際映画祭、ナント国際映画祭などの主要賞を受賞して世界に名を知らしめた濱口竜介監督が設定を現在に置き換えて製作した映画『寝ても覚めても』。カンヌ国際映画祭で上映された話題作だ。

主演の東出昌大さんと濱口竜介監督が来名。映画製作の意図や思いを聞いた。

原作のイメージを損なわず作品を作る

Q.小説を映画化するにあたり、『原作を敷き写す』という言葉を監督は使われていますが原作を脚本化・映像化する上で気をつけたことはどんなことでしょうか?

濱口監督
「原作を敷き写すというのは精神的なところが強いです。原作が長編小説で300ページぐらいありますが、脚本はそれに比べるとテキスト量が少なくなります。それを一体どう圧縮するかというところであくまで精神的にここは外せないというところを外さないということをしました。まず人物はどんな設定にするか。麦と麦にそっくりな亮平がいて、その間で朝子の心が揺れるという大まかな枠組みとラストの展開を驚きながら納得しながら読んだのでその感覚は絶対になくしてはいけないと思いました。それと荒唐無稽な要素、同じ顔をした人間が二人いるという設定を現代でやるのは難しいと元から思っていて。興味のある題材なんですが現代でやるとなかなかリアリティがないかもと。ただ柴崎さんの小説自体は基本的に日常的なそこにあるものを描いていて、我々の生活と地続きなものを描いている文体と言うかタッチと言うか日常的でリアルなものと荒唐無稽なものを同居させるその物語の進め方自体を敷き写すというか真似をするというか受け継ぐように心がけました」

Q.原作は見るものを全部描写する視覚的な小説だと感じています。映像は元々視覚的なものですが、映像による視覚化をする上で気をつけたことはありますか?

濱口監督
「柴崎さんの小説を読むきっかけとなったのがその視覚的な文体にひかれたということだと思います。自分が映画を撮るようになってから読むようになったので。凄く肌馴染みがいい懐かしい感じがするんです。ファインダーを覗いているときの感覚に似ています。本当に見た通りに書く。それが面白くて自分に合うなと読者として思っていました。でもそれを本当に映画にするとなるとむしろ視覚的なイメージから離れないといけないなと。原作の始まりなんかすごく視覚的に書かれていて素敵なんですよね。高層階から大阪の街を見下ろすというところから始まるんです。プロデューサーも「このイメージ映像的でいいよね。」と話していたんですがこれをイメージそのままやってしまうと案外原作の小説に勝てないというか。小説のイメージをより少なく終わってしまうというか。小説の文章をそのまま再現するようなことはしないと決めていました。あくまで映画の描き方、あくまで映画の話の運び方によって先程言ったような核の部分を原作を読んだときと同じような、この場合観客の精神状態まで持っていくというか、あの時凄く驚きながらページをめくっていたような感覚と同じような精神状態を今度は映画で作っていくということに気を付けていました」

重要だったキャスティング

Q.その世界観を失わないようにキャスティングもされたんでしょうか。

濱口監督
「麦と亮平、朝子というのは一番キャスティングでは大事なところでそれを誰がやるかで映画が成功するか失敗するか決まると思うんですが、この麦と亮平の二面性というか違いを一体誰が自然に表現できるんだろうかと考えたときに一番に浮かんだのが東出昌大さんでした。東出さんにお願いして受けていただいてそこから企画が進み始めました。2014年の終わりなので3、4年前から始まったことになります。そこから朝子が演じられるのは誰なんだろうと。特に終盤の展開に凄く驚くんだけど朝子はこういう人だったということを映画の終盤までキープ出来るようなまっすぐな人を探していてオーディションで最終的に選んだのが唐田えりかさん。映画は初主演でした」

Q.今回2役ですが麦と亮平それぞれどんなキャラクターと解釈して自分でどういう風に演じようと思ったんでしょうか?

東出さん
「原作を読んだのは4年前だったんですがその時の麦の印象が凄くセンセーショナルでした。突拍子のないことをする、目の前に誰か来たから何の遠慮もなく排除するというあたりが爬虫類的で、ふっと現れてすっと消える。人間だったらいつかいなくなりそうな、そしてまた帰ってきても不思議じゃない超人的な存在だと思いました。亮平は原作の印象とは台本になった時に僕は印象が変わったんです。震災が描かれたことで朝子との私生活が映画で見えたことが大きかったかもしれないと思うんですが、優しいですよね。優しいですけどある意味では人に強く出られないところからくる優しさや包容力が強さにも見えるんです。好青年だなと感じていました」

Q.麦に関して理解できないところもあると思いますがそれは演じる上でも難しかったですか?

東出さん
「演じやすかったとはならないですがとにかく変わった奴だなあとは思いました(笑)。本当に地球外生命体のように全く未知の人間かと思いきや、原作でも映画でもそうなんですが麦の人間性をわかっている人間を味方につけている。不思議でしたね。この仕事をやっているとどう見られているのかというのを少なからず意識するんですが、この劇中の麦もどう見られているかをわかっている。不思議だなと思いましたね」

Q.麦と亮平の演じ分けはどのようにされたんでしょうか?極端な差をつけたわけではないと思いますがしっかりと別人でした。

東出さん
「演じ分けをしようと思ったんです。原作にも容姿の違いがありましたし、使う言葉も違う。生まれも育ちも違うから声音も違うんだろうなと思って。高い声なのか低い声なのかとかの差異をつけようかなと。「作為的なお芝居をするとそれにしかならない、お芝居をしているという風にしかならない。だから東出さんという楽器から素直に声が、このセリフが出てこればそれぞれに見える」と映画撮影の前にあったワークショップの始めごろに監督がおっしゃっていました。そこで考え方を切り替えて1つの作品中に2つを演じ分けるのではなくて今までの自分の出演作を振り返っても2つとして同じ役はなかったので、それと同じように偶然監督とキャストとタイトルは同じだけど同時期に2本の作品を撮っているかのようなそれぞれ全く違う役、作品だと思って現場で過ごしていったら違いが出たというようなことだったと思います」

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キャストの素が見えるような演技を求めて

Q.ワークショップの期間はどれくらいでどんな感じだったんでしょうか?役作りにどう役立ちましたか?

東出さん
「他の作品に比べたら圧倒的に多いんですけれども濱口監督が以前撮られた『ハッピーアワー』はワークショップで作られたんです。1年半でしたっけ?」

濱口監督
「あれはワークショップは半年、撮影は8ヶ月ぐらいですね。今回は東出さんは他の映画作品の撮影に入っていたのでトータルで1週間ぐらいでした」

東出さん
「その『ハッピーアワー』の本を読んでいたのでワークショップはもっとやりたいと思いましたし、短いワークショップでもみんな今回はカメラ前に立った経験がある人達だったので、そのまま撮影に飛び込もうと。飛び込むのも楽しみでした」

濱口監督
「ワークショップの内容は大きく分けて2つあって1つは本読みなんです。ひたすらニュアンスを抜いて読む。棒読みするというとちょっと違ってきてしまうんですが、セリフをフラットに読む。文字面をただ読み上げる。感情的なニュアンスをこめないで読み上げるその練習期間みたいな感じで現場でも続けていました。これが柱としてあって、もう1つはサブテキストを書いていて。これは登場人物の過去の関係性を書いたものなんですがキャラクターが仮にインタビューに答えたらこう答えるんじゃないかとかそういうしゃべり言葉の情報を渡して役の情報を増やしてもらった上で役者同士で架空のキャラクターを演じながらインタビューし合ってもらったりする。ワークショップを役者とキャラクターが馴染む時間として充てていました。役者さんはあくまでそれぞれの目的のためにやっているんです。東出さんと唐田さんは全く初対面のところから始まっているんですが、どれだけ役に立つかわからないものを二人でやっている。そのあやふやなものを二人と他の20代のキャストも参加してやっていただいて。結果として役者さん達が時間を重ねていくことでそれぞれのパーソナリティもわかるし、幸運なことにそれぞれの魅力に気づいていくというか。人間としての信頼関係がどんどん生まれていった感じがあって。それがそのまま撮影に持ち込まれたという印象です。その信頼関係が一番の基盤になって役者さん同士の演技があくまで相互の反応としてセリフを言い合ったり演技をし合ったりしているという支え合っているような関係性が生まれた気がします」

東出さん
「何十回、シーンによっては百何十回とニュアンスを抜いて本読みを繰り返すことによって監督は目を瞑って聞いてらっしゃって「今の声はいいです。今の声よりさっきの声がいいです」と言われるんです。今もさっきもニュアンスを抜いてやってる。やっていることは変わらないはずなのにいい声悪い声というのが監督の中にあるんだというのが、新しいことを言われているなと思いました。「相手のお腹の中に垂れた鈴を鳴らすように今度は言ってみてください」とか。「今のいい声ですね」と言われて今のと前のはどう違うのか。体の力が抜けていたからかなと思って体の力を抜いてやると「東出さん、大丈夫ですか?疲れてないですか?」って監督に言われて(笑)。色々試行錯誤を繰り返しました」

濱口監督
「単純に相手のお腹の中に鈴が垂れていると思って、自分がそれを鳴らしているイメージを持って読んでみてくださいと。それに正解はないんですがそう言って読んでもらうと自分が理想と感じている発声をしてもらえるんですね。多分なにがしか自分のお腹を意識するからだと思うんですが。自分が好きな声が出てくるというか。ちょっと密度がある声が出てくるのでその声が聞こえてくるとそれがセリフの入って来やすい声になっているのでそれでお願いしました」

Q.映画の中に震災のエピソードが取り入れられた意図は何だったんでしょうか。

濱口監督
「共同脚本の田中幸子さんが初稿の時に書いてこられたんですね。もちろんそれはこっちのオーダーがあったからなんですが。原作は1999年から2008年ぐらいの話でそれは麦、亮平、朝子の物語なんですが一方で社会的なことが書かれているんです。アメリカの9.11とか今の我々はあまり意識していないけど確かにあった地震とかが書き込まれていたりして。先程の敷き写しの話ではないですが、現在に置き換えて踏襲してほしいと田中さんにお願いしてオーダー通りにあがってきたんです。オーダーした時点で震災を扱うことになるだろうなとはなんとなく思っていたんですが、正面から扱うとはあんまり思っていなかったです。自分が書き直していいというフェーズになった時にもそこは変えられない。実際あったことだし、田中さんはオーダーに対して結構100%の形で物語に必要な要素として入れていてこれを消すのはおかしいと思ったというのが一番の理由です。僕としては東北でドキュメンタリーを撮った経験もあって顔が浮かぶ人達もいるので、その人達に見せて恥ずかしくないようなものにしなきゃいけないということで映画の中で一つの背景とかアイテムという意味ではなくもうちょっと映画の本編に重なってくるように東北にボランティアにいく描写を加えたり、物語の非常に重要な場面で東北に向かってもらったりとかそういうことは最終的に入れ直したりしました」

Q.芝居とは感じない自然な演技がある作品の中に演劇のシーンや芝居をやっている友人の設定を残しているのには意味はありますか?

濱口監督
「山下リオさん演じるマヤさんが女優をしているのは原作通りなんですよ。それが素直に脚本に入っています。脚本を通じて役者さん達に何かメッセージを送ったのか送らなかったのか(笑)。自己言及的になるので難しいところではあるんですが、結構そういうことを過去作でもやって来たのでやってもマイナスにはならないというのがまずありました。あのシーンで重要なのは話しているのは瀬戸康史さん演じる串橋とマヤなんですがその事で何か影響を受けて感じているのは亮平と朝子なんですよね。なのでこの時間の中で朝子が発言し、亮平はそれを聞いて朝子の人間性を理解し、亮平が話すのを朝子が聞いて朝子が亮平の人間性を理解する。二人の精神的な距離がちょっと近づくというところなんです。このマヤと串橋が真剣に話せる話題がどうしても必要になるということで危ういなと思いながらそういう設定で書きました。人が真剣に話せることってそんなに多くないのでキャラクターによって大事なことということで演技の話になりました」

Q.音楽が日常と非日常を表現していたと思いますが

濱口監督
「それはtofubeatsさんのお力ですね。こっちが音楽的な言葉を全然持っていないのでとても曖昧なことを言ってオーダーしたものに対してtofubeatsさんが「こういうことですか?」と的確な答えを返してくれた感じがあります。それぞれの場面で落ち着いた日常を表現するような曲や何か不穏なことが起こりそうな曲やその間にある曲をtofubeatsさんが繊細に作ってくださって日常とも非日常ともつかないこの映画の雰囲気というのが生まれていると思います」

Q.作品を作る上でこれだけはとこだわったものはありますか?

濱口監督
「役者さん。キャスティングもそうですし、言ってもらうセリフということもそうですし。演技なんですけど、役者さんその人自身の魅力が出てきたときに一番芝居は良くなるという思いがあります。役者さんが自分自身を表現するということは非常に難しいことで、役者さんが邪念なく出来るような環境を作る。時間の制限があるので非常に難しいですが、それを一緒にやってくれるスタッフがいたのでそこを考えていました」

東出さん
「毎日悔いのないような日々を過ごしていました。帰り道に「ああ今日もよかった」って。「ああやれば良かった、こうやれば良かった」って思うこともあるんです。今でもあるんですけど『寝ても覚めても』の現場では思わなくはないけど「これでいいんだ」って。自分に対してそこは譲らなかったです。それだけ毎日120%だったんだと思います」

左:東出昌大さん 右:濱口竜介監督

左:東出昌大さん 右:濱口竜介監督

 

ラストの展開は観る人の恋愛観で反応が大きく異なることが予想できる。
そしてラストカットの先にあるものとは?
エンドロールとともに流れてくるtofubeatsの歌の歌詞もしっかり聴いてほしい。

『寝ても覚めても』http://www.netemosametemo.jp

出演: 東出昌大 唐田えりか 瀬戸康史
山下リオ 伊藤沙莉 渡辺大知(黒猫チェルシー)
/仲本工事/田中美佐子
監督: 濱口竜介
脚本: 田中幸子、濱口竜介
原作:「寝ても覚めても」柴崎友香(河出書房新社刊)
音楽: tofubeats
主題歌:tofubeats「River」(unBORDE/ワーナーミュージック・ジャパン)

9月1日(土)よりテアトル新宿他で全国順次公開。
東海地区ではミッドランドスクエアシネマ、TOHOシネマズ(名古屋ベイシティ、モレラ岐阜)、MOVIX三好、ユナイテッド・シネマ豊橋18、イオンシネマ(長久手、岡崎、常滑、桑名)、伊勢進富座で公開。公開スケジュールは公式ホームページ参照。

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