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兄弟(姉妹)だから色々あって面白い(映画『犬猿』吉田恵輔監督インタビュー)

2018/02/01

一人っ子の私は兄弟がいる人たちを羨ましく思っていた。
絶対に勝てない親子喧嘩より勝てる希望のある兄弟喧嘩がしたかったし、
困ったときに助けを求められる最も身近な人物だからだ。

映画『犬猿』は二組の兄弟姉妹を描いているのだが
どうやら私が憧れていた兄弟像はほんの一部だったのかもしれない。
兄弟がいるならいたで葛藤もあるようだ。

印刷会社の営業として地道に働く弟・和成(窪田和孝)と
服役中だったが出所したトラブルメーカーの兄・卓司(新井浩文)。

容姿はあまりよくないが印刷工場を経営し、
何でもそつなくこなす姉・由利亜(江上敬子)と
物覚えが苦手で要領は悪いが男性からちやほやされる
タレント活動中の妹・真子(筧美和子)。
この二組の兄弟姉妹の関係が描かれている。

吉田恵輔監督が来名。
脚本や撮影について伺った。

(注:吉田監督の「吉」の字は正確には「士」の部分が「土」(つちのくち))

Q.姉妹と兄弟のバランスの取り方をどのように脚本の段階から
作っていったんでしょうか。

吉田監督
「理想としては四人全員が主役に見えるようにしたかったんです。
観てくださる方が「自分は四人のどこに当てはまるかな。」
という感じを抱いてくださるといいなと。
誰かに肩入れしてしまうとどうしてもその人中心の脚本になってしまうので
自分の視点を各人物側に変えながら書かないといけないんです。
といいつつ和成が一番話を回す中心にいるんですが、
和成自身が行動を起こさないのでバランスは
うまく取れてるんじゃないかと思います。」

 

Q.キャスティングが決まってからキャラクターの設定を
変えたところはありましたか。

吉田監督
「ほんのちょっとですね。基本は脚本ができた時と変わらないです。
プロデューサーにイメージしたキャストを伝えて
オファーしたところ皆さんオファーを受けていただけて、
決定稿を書き上げる時に筧さんの設定だけ
「胸だけしか取り柄がない。」とひどいワードを付け加えて(笑)
筧さんも決定稿を読んだらさらに悪意のこもったものが増えていて
カチンと来たと言ってましたね。
そこは自虐ネタで行こうよと。それを自分で言えるぐらいでないと
『バードマン』でアカデミー賞は取れない。
俺は『バードマン』を撮ろうとしてるんだと話して
筧さんをうなずかせたというか。
隠そうとするのではなく自虐ネタでさらにそこを芝居でおもしろくやる。
「やろうと思ってもできないでしょ?」というところまでやれば
勝てると思いました。」

 

兄弟×姉妹=映画化実現

Q.男女の兄弟姉妹がぶつかる話は新しいと思ったんですが
どんな構想があったのでしょう。

吉田監督
「僕も初めは男兄弟、女姉妹でそれぞれ別の話を考えていたんです。
それでも面白くなる自信はあったんですけど、
映画ってお金を集めないといけないじゃないですか。
その点ではどちらも苦しいなあと感じていた時に
話をくっつけたらどうなるんだろうと思いついて。
今まで兄弟か姉妹の話はたくさんあるけど
兄弟姉妹の出てくる話はやってないなと思って。
ただそれだけのことなんですけど斬新だなと。
「誰もやったことがない。だからお金集まる!ハンコ押して!」という
勢いで企画を出しました。
「四人の顔が並んでイメージが湧きやすいじゃないですか!」
と話したら成立しましたね。(笑)
この企画のおかげで男ならでは、女ならではのギャップ感も
面白く出せました。」

Q.監督は男性ですが女性の姉妹の関係はどのように掴まれたんですか。

吉田監督
「僕は自分の実体験を元に原作を書くんですが
大体主人公は女性なんですよ。「よく女の子の気持ちわかりますね。」って
言われますけど、そもそも男の子の気持ちもわかってないですからね。
わかってないということは男でも女でも関係ないんじゃないのかなと。
ただ見た目だけの差なんじゃないのかなという気もして。
血液型のA型っぽいとかB型っぽいというのが日本人だけという感覚と
近いというか。割ともしかしたら人間であれば男女に関係なく
共通点があるんじゃないかと思いますね。
といいつつ、作品の中ではちょっとはわかりやすくしています。
男だから力でいくとか、女だからじめじめいくとか(笑)」

Q.和成の役の理解が難しいと感じますが
ご自身の周りで兄弟像をリサーチされたりしたんでしょうか。

吉田監督
「僕は埼玉のスラム街と言われるところで育ったので
ダメなお兄ちゃんを持っている人も知ってますし、
その人自体がダメなお兄ちゃんという
知り合いもいます。知り合いの話には面白い話もいっぱいありますので
そこからヒントを得たものもあります。
和成みたいな人って世の中で言えばまともな人なんですよ。
贅沢はしないし。質素に慎ましくちゃんと生きるみたいな感覚が正しいと
思っているけど根っこのところでは欲にまみれたい自分がいて
それを押さえつけようとしているというか。
さらけだせばいいのにそういう人の方がなんだか
根が深そうで気持ち悪いというか。
そういう人が割と自分の友達にいます。
ちょっと飲もうと言っても安い居酒屋に連れて行きたがって。
「食べるものないじゃん!」って言うと
「いや、腹に入ればみんな一緒だし。」と
言われてしまってなんだかなあって。
僕がブルジョワ的に思われても違うんですけど
ただセコ過ぎてもイラつくというか。」

Q.ニッチェの江上さんとは何か撮影前に話はされたんですか。

吉田監督
「今回が本当に初めての演技なので、頑張って練習しようねと
筧さんと一緒にリハーサルをしてもらいました。
本番になったら男二人がうまいし、その空気感につられるのもあるし。
リハーサルをやったときにこれではだめかもしれないと思ったのか
本番はすごく良くなって。
芝居の役のこういう感情で…という指示を出す以前の問題だったんです。
そこはもうちょっと深い所というかある程度芝居ができる人への
それは言葉であって。芝居が成立してない!というところからの
スタートだったんですけど、江上さんは勘はよかったと思います。
現場の空気を読んで気を遣ってくれました。」

 

Q.和成の車のシーンは和成の心の奥底が出ているところだと思いますが
監督から何か指示されたんでしょうか。

吉田監督
「そんなに言ったりはしなかったですね。
僕はあんまりしゃべらないんですね。
特に自分で本を書いているから芝居の上手い人を呼んでいて。
飛び道具の二人を入れることもありますけど(笑)
基本的にはすごい上手い人と飛び道具の組み合わせで作るんです。
上手い人に関しては自分で本を書いているので
何かあったら聞いてというだけでしかない。
だって書いてあるから。あとはとりあえず見せてと。
人によってはすごく聞いてくる役者さんもいますが
やってみないとわからないという感覚もあるし、
今話して現場に行って見たら気が変わる気もするし。
だからどういう気持ちで演じていたのかも知りません。
考えてやっていたのかもわからないんです。
窪田さんも新井さんもこちらの要求を察知する能力があるんじゃないですかね。
別にこっちが思っているのとは違うプランの演技を持ってきてくれたとしても
それは正解だと思いますし、僕が何かちょうだいと言ったものに対して
出してきた球がどれもいい球だなと思えて違っていると思うものはなかったです。」

Q.姉妹の家を印刷工場の設定にしたのはなぜですか。

吉田監督
「とりあえず男と女の二組の兄弟ものをと考えたことはいいんですが
普通では出会わないじゃないですか。
仕事を通じてならどっちか一人とは出会う可能性があると思いついて。
仕事場って結構難しいなと。僕はピカピカしているものが苦手で
ビルのエントランスとかよりも昭和テイストとかの
味わいのあるものが好きでそうすると工場とかがいいなあと思ったときに、
印刷工場は撮ってなかったなと。
自分の家の近所に印刷工場が多くて。そういうところがいいなあと。
印刷工場で働いている姉妹、おっ、いいなあと。
そこに来る人ってどういう人がいるんだろうと思ったら
どうやら印刷営業マンというのがいるらしくて。
本屋さんに行って印刷営業マンハンドブックというのを買って。
その本にはこういうクレームがあるとか
こういうクライアントには気をつけろとか
営業マンになるためのノウハウが書いてあるわけです。
それって和成がどういう目にあうかというのが書いてあるわけで
ああ、板挟みだわ。面白いなと思って。
でもそうすると兄貴が絡まないなと思って
最後に絡ませるように考えました。」

 

Q.窪田さんと新井さんの役者としての化学反応は監督の目から見てどう感じられましたか。

吉田監督
「特に喧嘩のシーンの言い合いのところなんですが
「自分の方が芝居上手いし。」
「いや、俺の方が上手いし。」っていう感じで
やり合っている感じがするんですけど、
「やりすぎるとなんかずれるよね。」って
お互いバランスを取りながら戦っているというかちょっと面白かったですね。
「あ、プロとプロが戦ってる!」という感じで。
「新井君がすごい!」って思ったら
「窪田君が食って掛かろうとしてる!」という
迫力があって。ただこっちがすごすぎると
カットバックする姉妹は大丈夫か。
これから撮るけど大丈夫かって思いながら見てましたね(笑)」

 

Q.兄はキレやすく、弟はおどおどしている。でも二人で言い争っていくうちにキレる感じは
同じDNAだなって思いますね。

吉田監督
「ま、それは本に書いてあるから逆算して芝居しているんだろうと思いますけど
「今はこれぐらいにしておきますね。」なんてあえてお互い言わないけど
なんとなく雰囲気で出してくる感じがありますね。
だから感覚というかバランスというかが絶妙にいいんですよね。
窪田君はものすごくいい子で笑顔で優しい感じ。
だからこういう役回りちょうどいいんじゃないかなって。
だけどそういう人ほど一歩間違えると危ないかも知れないぞって言う。
新井君は顔面が強いですよね。(笑)
姉妹が顔面を突き合わせるシーンを最初の方に撮っていて
兄弟のシーンは最後の方に撮るので顔面強い人が後だから
これもバランス大丈夫かなあと思いながら撮っていました。」

 

冒頭のキラキラ感あふれる予告編の思惑

Q.冒頭違う作品かと思ってしまった『恋とな』予告を入れ込んだのはなぜですか。

吉田監督
「映画の1カット目をどうするかなと。
初めは和成の車のシーンから始まる予定で
カーラジオから『なごり雪』がかかって
著作権を払っているのにこれから一番いいところという直前で
ぶった切ってやろう、やらなくていいことをやろうと思っていたら
プロデューサーから「無駄なことはやめてください。」って言われて。
それじゃあ車の中から始める意味がない。
絶対やっちゃいけないことをやってみようかなと思って
決定稿であの予告編を差し込んでしまいました。(笑)」

Q.監督が撮りそうにもない作品ですよね(笑)

吉田監督
「そうなんですよ。なので出演している健太郎くんから
「これどんな設定なんですかね。」って聞かれて
「俺だってわかんねえよ。多分タイムリープ系なんだよ。
こういうときはとにかく叫べばいいんだよ!」
とか言いながら自分も何を撮っているか全然わからなくって。
「なんかそれっぽくない?キラキラしてない?」
とか言いながら楽しく撮影しました。
これが実はクランクインで、
1日目は『恋とな』で2日目から『犬猿』が始まるという(笑)
『犬猿』はしかもすべてハンディカメラで撮影しているのに
『恋とな』だけは特機カメラとかを使っていて
一番贅沢な撮影をしているという。」

顔も見たくない関係 → 犬猿の仲

Q.『犬猿』というタイトルはいつつけたんですか。

吉田監督
「これはプロデューサーのアイディアです。
僕はタイトルをつけるのが苦手で。
初めは『顔も見たくない』というタイトルだったんですが
それだと難しそうに見えるのでもっとキャッチーな感じないですかね?
って言われたんですけど思いつかなくて。
プロデューサーから『犬猿』ってどうですか?
と提案があって。それにしようと。
ただ、この『犬猿』っていうタイトル、自分でエゴサーチみたいに
‟犬猿サーチ”しようとすると
この作品だけではなくて「芸能人が犬猿の仲」とか
そういうのが入ってきてしまうんですが(笑)
僕は気に入っています。」

吉田恵輔監督

吉田恵輔監督

 

同じ親から生まれたのにどうしてこんなに違うの?
自分に似ているところもあるから
自分にないものを持つ血を分けた相手が好きになれない。
天敵でもあり、よき理解者でもあり、いや…だからムカつく。

離れたくても離れられない腐れ縁な関係。
あなたならこの四人の誰に共感するだろうか。

映画『犬猿』http://kenen-movie.jp/
2018年2月10日よりテアトル新宿ほかで全国ロードショー。
東海地区では愛知・センチュリーシネマ、ミッドランドシネマ名古屋空港、
安城コロナシネマワールド、ユナイテッド・シネマ豊橋18
岐阜・大垣コロナシネマワールド、静岡・シネシティ ザートで2月10日より公開。
三重・伊勢進富座、静岡・シネマイーラは順次公開予定。

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