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ヒーローが役目を終える時、真のストーリーが始まる(映画『さらば大戦士トゥギャザーV』松本純弥監督インタビュー)

3月23日から1週間池袋シネマ・ロサで上映される『さらば大戦士トゥギャザーV』。特撮ヒーローものかと思えば「特撮(ヒーロー)が壊れるとき、人間(ドラマ)が動き出す」と記されている。ヒーローがヒーローでなくなったところから始まるこの作品は自分のものの見方を問われているような気がする。作品内の特撮造形も大変深く、一筋縄ではいかないストーリー展開に見舞われる。この作品を作った監督はどんな人なんだろうと思った。監督の志向が聞きたいというのがきっかけで始まったインタビューをお届けする。

Mirageなお客様その⑥ 『さらば大戦士トゥギャザーV』松本純弥監督インタビュー

Q.特撮部分も非常に楽しませていただきました。特撮を見た初めての記憶は?

松本監督
「1991年、5歳の時に『ゴジラvsキングギドラ』を映画館で見たのがすべての始まりです。その時点では単純に「格好いい」くらいですね。そこから色々な特撮シリーズを継続視聴していましたが、ある程度の年齢に達しても不思議と「卒業」はしませんでした」

Q.今までの特撮の中で好きな作品、『トゥギャザーV』制作に影響していると思う作品を3つあげるとすれば。理由は?

松本監督があげたのは以下の3つ。
・『ハートキャッチプリキュア!』
・『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:破』
・『仮面ライダー龍騎』
特撮と聞いてみたが、返ってきたのはアニメ2本に特撮1本。詳しく解説していただいた。

松本監督
「順位はありませんが、まずは『ハートキャッチプリキュア!』ですね。
悪の組織が「人の悩みやコンプレックス」を怪物化させて、プリキュアがその心を浄化するという構図が素晴らしかったです。本心を吐露する怪物、一般論を盾にそれを馬鹿にする悪の幹部、それに反論するプリキュアという流れが毎回あるのですが、大人目線で見ると誰も間違ってはいないというのが心にグッときます。

2つ目は『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:破』です。
本作の脚本執筆に取り掛かる前に鑑賞しましたが、TVシリーズと決定的に異なる衝撃の展開に、驚いて熱狂しました。内容というよりは「これから何が始まるんだ?」という驚きの感覚を、自分の作品にも取り入れたいと強く思いました。もちろんTV版含めてエヴァンゲリオンシリーズは大好きで影響を受けています。

3つめは『仮面ライダー龍騎』です。15歳頃にリアルタイムで見ていたので、遠い原体験になります。ここまでハードな展開のヒーローものを見たのは初めてだったので、衝撃を受けました。「正義の問い直し」というよりは、「どんどん辛い目に合う主人公」という要素が強く影響しています。

松本純弥監督

松本純弥監督

 

Q.特撮だけでなくてアニメも相当見ていらっしゃいそうですね

松本監督
「見てはいますが「相当」というレベルではありません。戦隊・ライダー・プリキュア・ガンダムあたりは無条件で必ず見ますが、その他に関しては放送前に新番組情報をチェックして見るかどうかを選別します。主な選別基準は、監督・シリーズ構成などの人選と、ストーリーやPVを見た感想で、大体1クール中1-3番組くらいまでには見る番組を絞り込みます。逆に、見始めたら最終回までちょっと流し見になっても必ず見ますね。個人的に微妙だったとしても、何が原因なのか分析したいので」

特撮やアニメが好きという人は世の中にたくさんいる。しかし実際製作側に回るというのはどういうことがきっかけなのだろうか。そのあたりを聞いてみた。

Q.特撮やアニメが映像製作に松本監督を向かわせたと思いますか?

松本監督
「いいえ。最初に映像制作を始めたのも、確固たる意志ではなく巡り合わせみたいなものでしたし、
特撮と映像制作は直接繋がってはいないと思います」

Q.巡り合わせですか。それはどんなことだったんでしょうか。

松本監督
「そこまで大した事では無いのですが、大学まで「自分で映画を作る」なんて選択肢があると知らず、かと言って映画制作を仕事にしたいという思いも無かったので、普通に軽度の映画ファンとして過ごしていくつもりでいました。大学時代に自主映画というものの存在を知り、「就職するまでの遊びでやってみるのもいいか」というスタンスで軽く足を突っ込んで、今に至ります」

Q.演じる方をやりたいとは思わなかったですか?

松本監督
「宣伝でヒーロースーツを着たりはしていますが、今も昔も全く思いません。ストーリーを作りたいと思っていました」

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Q.ヒーローものというのは勧善懲悪展開が当たり前ですが、本作の主人公正はあることをきっかけに自分がヒーローでいられなくなり、アイデンティティに揺さぶりをかけられます。ヒーローがヒーローでいられなくなるという設定がまず興味深いです。この考えはいつ頃から松本監督の中に生まれたのでしょうか?

松本監督
「この考えが本作制作のきっかけとなっています。はっきりと言いたくはないのですが、これに相当する出来事がありました。主人公・正は自分自身を投影している部分がかなり大きいので、正直この作品は精神的なドキュメントのようなものです。こういった「自伝的作品」、「自分の情念を焼き付けた作品」というのは特にインディーズ作品で多いと思うのですが、このジャンルでしかもこの作品構造でやってしまうというのが自分の変なところ、馬鹿なところなんだと思います」

Q.勧善懲悪に否定的というわけでもないですよね?

松本監督
「もちろん勧善懲悪・お約束ベタ展開も大好きです。『カメラを止めるな!』の上田慎一郎監督と一緒に作った短編特撮コメディ『正装戦士スーツレンジャー』がそれにあたりますね。これまた全力で楽しく作りました。何というか、矛盾する「ヒーローを疑いなく信じる心」「ヒーローを冷ややかな目で見る心」の両方が自分の中で同居しているように思います。これはいわゆる「少年の心を持った大人」の類ではないと思います…。自己分析は難しいですね(苦笑)」

Q.制作に5年と伺いました。撮影自体はいつごろ行われたのでしょうか。また一番どこに時間がかかったのでしょうか?

松本監督
「撮影自体は主に2011年から2012年頃に行われました。作業面で最も時間がかかったのは編集ですね。ただ、いわゆる「正しく真っ当な理由」だけで時間がかかっていた訳ではありません。
この辺は、前売り特典「電脳ひみつ大百科」に詳しく記載していますので、良ければ読んでみてください」

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Q.電脳ひみつ大百科・・・これはネーミングですでにそそられる特典じゃないですか。懐かしさがツボに来ます。懐かしさと言えば本作のヒーローのサポートがおやっさんで喫茶店のマスターだったり、キャラ設定は昭和の仮面ライダー設定に則した感じを受けました。そうした理由は?

松本監督
「これは根本にも関わってくるのですが、自分たちの自主体制で真正面から現代ヒーローをやってしまうと、現行の「ニチアサ」(注:日曜の朝にテレビ朝日系で放映されているスーパー戦隊シリーズや仮面ライダーシリーズを指す)ら最前線ヒーローの超劣化コピーになってしまうのが見えていました。そこで、自分たちの至らない制作体制でどうやったら爪痕を残せるか、と考えた時にたどり着いたのが、当時後追いで好きになっていた昭和ヒーローをベースにして、彼らをいきなり現代方向に飛ばす事です。精密さや完成度でより遠くに行くのではなく、変化の絶対値でカバーする作戦ですね。故に、わざとステレオタイプ・記号的な設定や描写にしています。しかしながら、今振り返ると昭和ヒーローの勉強がまだ足りていなかったですね」

Q.カメレオールさんが怪人なのに誰よりも人間くさくて愛すべきキャラです。ウルトラマンシリーズに出てくる怪人のような憎めなさがあります。さっき聞きませんでしたが、怪人で好きなキャラベスト3を教えてください。

松本監督
「うーん。これは出すのに苦労します。何故かと考えると、自分が魅力的だと考える敵は、個人としてのキャラクターや性格ではなくて、物語構造やテーマの中でどう位置しているかで決めているのだと思います。そういった意味でよければ、きっと他にもいるはずですが、今思いつく範囲で記憶に残っているのは『LEGOムービー』のおしごと大王『SSSS.GRIDMAN』の新条アカネ、『ガッチャマンクラウズ インサイト』のゲルサドラですかね。
おしごと大王については物語のクライマックスで、彼の動機は「世界観の整った美しい作品を作りたい」というものであることが明らかになります。ネタバレは避けますが、それが語られる文脈もあって「確かにその通りだ。むしろ自分もそうしているじゃないか」と気付かされるんです。

新条アカネも、気まぐれに怪獣を生み出す理不尽な悪役…かと思いきや、この物語の核心が明らかになりクライマックスを迎えるとき、彼女もまた自らの孤独や無力感と戦い始めます。彼女とグリッドマンの関係性も良いですね。

ゲルサドラに関していえば「空気」でこちらも非常に特殊な悪役というか、我々大衆を映し出す鏡のような存在ですね。これに関しては下手に語ると火傷しそうなので、作品を見てみてください(笑)」

Q.映画祭でも話題になったこの作品がいよいよ東京のシネマ・ロサと名古屋のシネマスコーレで上映されます。上映に至る経緯を教えてください。

松本監督
「どちらも直接のきっかけは映画祭です。池袋シネマ・ロサに関しては、美術賞を頂いた「福岡インディペンデント映画祭」で劇場の方に見て頂いたのが直接のきっかけです。そこから話が進み、2018年秋から冬頃に公開が決定しました。名古屋に関しては、「湖畔の映画祭2018」にて作品賞・監督賞・そして職業怪人カメレオールが助演俳優賞を頂いたのですが、その審査員を担当されていたのがシネマスコーレの坪井さんです。その後、映画祭の特集上映として2018年冬にスコーレで上映させて頂いた際に、今回のお話を頂きました」

Q.本編のその後のスピンオフ上映がシネマ・ロサで企画されていますがこのスピンオフはいつ撮影されているんですか?シネマスコーレでも上映されるんでしょうか。

松本監督
「このスピンオフは、2016年の作品完成時に制作しました。如何せん本編の完成までに年月がかかっていて、「今やったら、こうはならないから」という言い訳めいた考えが頭にありました。そこで、今の実力がどの程度なのか把握するためにもスピンオフを制作しました。シネマスコーレ公開時も上映するつもりですが、毎日スピンオフを上映するかは未定です」

Q.次回作の構想はありますか?

松本監督
「構想というか妄想レベルであれば存在します。ただハードルがかなり高い企画なので、詳細はここでは触れないでおきます(笑)。『正装戦士スーツレンジャー』の影響で、昭和特撮コメディという方向での仕事を求められることが発生してきたのですが、「大前提としてエンターテインメント・大衆娯楽であること」「しかし、打ち出したい価値観に甘くならず、批判に晒して一度壊すこと」
最低限この2つが両立する作品を作っていきたいですね。今はそう思います」

私たちはいつから昔憧れた正義のヒーローを純粋に見ることが出来なくなったのだろう。同じように好きだから見ているはずなのに気が付けば悪役の気持ちがわからなくもないなあと考えたり、正義のヒーローなんて世の中には存在しないんだと思ったり。私たちは年を重ねる毎に色々な経験を経て、物事には裏表があるだけではなく裏表がはっきりしないグレーな部分があることを知ってしまったのだ。今日はヒーローでも明日は敵かもしれない。今日は表でも明日は裏かもしれない。はっきりとしない社会を生きるには正義の味方になる覚悟も悪役になる覚悟も必要なのかもしれない。だから『さらば大戦士 トゥギャザーV』は間違いなく大人が見るべき特撮が舞台の人間ドラマなのだ。

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映画『さらば大戦士トゥギャザーV』は3月23日より池袋シネマ・ロサにて1週間限定公開。4月6日より名古屋シネマスコーレにて公開。舞台挨拶などの詳細は公式HP
https://www.together-v.com/を参照してほしい。

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