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近くて遠い。だから苦手。でも母親。(映画『わたしのお母さん』)
2022/11/10
切っても切れない関係・親と子。あなたは親のことを好きと言えるだろうか。
11月11日公開の映画『わたしのお母さん』は親が苦手な娘の複雑な心の中を描いている。
あらすじ
三人姉弟の長女で、今は夫と暮らす夕子は、急な事情で母の寛子と一時的に同居することになる。明るくて社交的な寛子。夕子はそんな母のことがずっと苦手だった。不安を抱えたまま同居生活がスタートするが、昔と変わらない母の言動に、もやもやした気持ちを抑えきれない。そんなある日、ふたりの関係を揺るがす出来事が起こる。
親とは時に甘えたくなり、時に面倒なものにもなる。
仲良く暮らす親子もいれば、親子の関係を断絶する人もいる。そして苦手でも完全に離れることは出来ず、たまに会うが距離を置いている人もいる。主人公・夕子はこのパターンの人間と言えるだろう。
女手一つで子ども3人を育て、社交的で誰とでもコミュニケーションを取ることが出来る母・寛子と寛子に苦手意識を感じる長女・夕子。夕子は母親から何か言われると黙ってしまう。言いたいことはあるがじっと黙っている。お姉ちゃんなんだからとずっと甘えることが出来ず、言いたいことも言えずに育ち、いつの頃からか距離を取った方が傷つかないと用事がなければ会わずにいたが、再び母と暮らす日がやってきてしまった。
母との間にわだかまりを抱える娘・夕子を演じるのは、『八日目の蝉』で25歳にして日本アカデミー賞最優秀女優賞を受賞し、演技力が絶賛される井上真央。母・寛子役には、実力派俳優としてキャリアを重ね、『G.I.ジョー:漆黒のスネークアイズ』でハリウッド進出を果たした石田えり。夕子の妹・晶子役に阿部純子、弟の勝役に笠松将という注目の若手俳優と、宇野祥平、ぎぃ子、橋本一郎などの個性派俳優が脇を固める。『人の望みの喜びよ』がベルリン国際映画祭ジェネレーション部門でスペシャルメンションを受賞した杉田真一監督が、親と子の姿を静かに繊細に捉える。
井上真央の受けの芝居が光る作品だ。
夕子は寛子とあまり話さず、押し黙っているシーンが多い。母が家に来ることになり、荷物を押し込んで狭くなっている自分たちの寝室の中で1人ホッとしている姿、寛子と接した後の夕子の顔に見えるどっと溜まった疲れに、気の遣い方が現れている。寛子と対峙する時の夕子の目からその複雑な心の中の様々な感情を見ることが出来るだろう。
「自分のことしか考えていない」と寛子は昔と変わらぬ口調で夕子に言う。寛子には悪気などない。夕子が小さい頃からその言葉に傷ついてきたことに寛子は気がついていない。もしかしたら夕子が自分に距離を感じていることも気がついていないかもしれない。石田えりが演じた寛子は明るく、決して意地悪ではないし、世間から見れば優しいお母さんにしか見えない。しかし、夕子にとってはわかってもらいたいのにわかってくれない母親だ。夕子は自分からも言い出すことが出来ないために、ずっとお互いの気持ちが伝わらない。近くにいても一番遠い距離にいる2人。親の心、子知らず。子の心、親知らず。近い関係だからこそ言わなければ分からないこともある。しかし近い関係だからこそ、言えない。
ラストで起こる出来事が夕子の気持ちに整理をつけることになるのだが、そこに母への思いが詰まっている。
この作品は愛知県でも撮影された。夕子が寛子を出迎えているのは刈谷駅だと気がついた。
映画『わたしのお母さん』 https://www.watahaha-movie.jp/ は11/11(金)よりユーロスペース他で全国公開。
東海3県では伏見ミリオン座、刈谷日劇で11/11(金)より公開。
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