ふたつのぶつかる主張を見つめた先で(映画『おクジラさま ふたつの正義の物語』)
2017/11/16
岐阜新聞映画部主催で開催されているCINEX映画塾も
今回で第13回。
ゲストに『おクジラさま ふたつの正義の物語』
佐々木芽生監督を迎え11月11日に開催された。
本作品の配給をしているである
岐阜出身の増田英明さんが聞き手と進行役で登場。
50分を越えるトークの一部をお届けする。
岐阜CINEXの客席の年代層は様々。
観客から質問を受けて監督が答えるティーチイン方式の時間でも
沢山の質問が挙がった。
クジラは人類共有の財産
増田さん
「ではご挨拶をお願いします。」
佐々木監督
「岐阜は海に面していない県ですが今日は興味を持って見に来てくださって
本当にありがとうございます。
IWC(国際捕鯨委員会)には現在87か国加盟していますが、
そのうち捕鯨をして何百頭も捕獲しているのは3か国だけです。
それは日本とノルウェーとアイスランドです。
IWCには海に面していない国もあります。
いつの間にかクジラは人類共有の財産だから捕っている国だけに
任せておけない、守りたいと思っているわけです。
今日はよろしくお願いいたします。」
話題はまだ数日前にニューヨークから帰ってきたという監督の経歴から。
増田さん
「監督の経歴を簡単に教えてください。」
佐々木監督
「北海道出身です。
高校時代に海外に留学したりしました。大学は東京で
映画会社に就職したんですが体を壊して辞めまして。
インドを放浪して、ニューヨークに行きつき、
住むつもりはなかったんですがニューヨークに住んで
かれこれ30年ぐらいになります。」
増田さん
「撮影するに至った経緯は?」
佐々木監督
「アメリカで捕鯨の話題になると大体反捕鯨の立場で語られます。
日本がひどいことをしているというグリーンピースが撮った映像を使用して、
彼らが主張している内容をそのまま報道番組で流しているんです。
私も仕事で捕鯨を扱った番組を納品することがあり、
何でこんなにほぼ100%と言っていいほど世論が反捕鯨なのか
不思議で仕方なかった時に映画『ザ・コーヴ』が公開されました。
非常に良くできた映画なんです。
こんなひどいことをしていいのかと思わせる内容なんですね。
考え方が一方的だし、作り手の主張をグイグイ推してくる。
私が嫌だなと思ったのはドキュメンタリー映画というのは影響力が
大きいんです。世論を動かすような力を作品によっては持っている。
映画の内容は日本人への偏見で全く日本人の自然観や食文化とか
伝統は理解されていないわけです。」

佐々木監督
「映画『ザ・コーヴ』は自分達が正義だと主張しています。
ハリウッド最先端の技術とスタッフを使って数億円という
ドキュメンタリーとしては破格の製作費用を使ってカメラを向けた先は
人口3千人の日本の漁師町の猟師達でした。
すごく力の差を感じまして嫌だなあと。これはまずいんじゃないかと。
嫌だなと。そう考えている内にこの作品はアカデミー賞を獲って。
でも日本からは全く反論がなくて。有効な反論は聞こえて来ませんでした。
このテーマはいろんな所に地雷が埋まっているような感じで
賛成と言っても反省と言っても逆の意見側から攻撃されるしと思いながらも
ずっと気になっていたんです。」
イルカとクジラはたくさんの種類が生息している
増田さん
「クジラとイルカってあんなに種類があるものなんですね。
4メートル以下のものをイルカ、4メートル以上のものをクジラと言うんですね。」
佐々木監督
「そうなんです。1970年代に「Save The Whale」キャンペーンが
大々的に繰り広げられたんですが
名称に「The」をつけるとクジラを一種類しかないものという
印象を受けます。編集してくれたアメリカ人の女性も
クジラもイルカも1種類だと思っていました。
これがこのキャンペーンのうまいところなんですね。
その一種類しかいないクジラがとても賢くて絶滅危惧種なのに
日本はそれを捕まえているからけしからんという話になっているんですが
実は正確に認められているもので86種類はいるんです。
ヒゲクジラとハクジラという種類分けられます。
イルカはハクジラに分類される肉食なので食べた魚が持っている
水銀が体にたまるというのが問題になったわけです。
欧米人にとっては家畜動物というのは再生産可能で
動物の命があるという考えがなくて食糧資源だと思われていました。
最近は家畜動物でも命があると考えられるようになってきているんですが。
クジラやイルカは世界を回遊している野性動物でしかも
賢い偉大な動物なのに日本近辺を回遊したからといって
獲っていいわけがない、食べないでほしいというのが
反対側の主張です。」
増田さん
「過激になるとサンママグロも同じことが言えますよね。」
佐々木監督
「そこまではまだ来ていませんが。
賢いから守るという考え方は日本では不公平だと感じますよね。
日本では八百万の神がいて万物に宿る。
それは山や草木や生き物にも宿るわけで人間はその中のひとつであり
魂はどれも平等だという考えが広く伝わってきている。
人間が優れているという考えではないわけですが
ユダヤ教やキリスト教では人間中心主義で自然界のヒエラルキーは
人間がトップに立っている。人間だけが理性を持っていて賢いので
動物を支配してもいいと唱えられてきました。
ただそれについては何度も学者の中で議論が繰り広げられて
人間に近い動物、群れを作るような社会性のある動物を保護していこうと
いうことになりクジラやイルカ、キリンやゾウ保護されたわけです。
クジラは群れはしないんですけど。」

左:増田プロデューサー 右:佐々木監督
佐々木監督
「ですから太地町で捕っているのはイルカなんですね。
ただ太地町で捕っているイルカは映画の中でも説明していますが
絶滅危惧種ではありません。
知らない人たちはクジラとイルカが同じものということも知りませんし、
こんなに種類がいることも知りません。
ですからある一つのくじらやイルカが絶滅危惧種となったために
太地町で捕っているものは絶滅危惧種だと思い込んでしまうんですね。
そのあたりは全く『ザ・コーヴ』では説明されていません。」
観客より
「アメリカでは牛を食べることをどう思っているんですか。慰霊はしないんでしょうか。」
佐々木監督
「欧米では牛は家畜なので慰霊はしません。
「いただきます。」と言ってご飯を食べ始めますが
日本ではそれは命を与えてくれた生き物自体への感謝で言っています。
キリスト教やイスラム教も食べる前にお祈りはしますがこれは神に対してなんです。
自分の著書にも書いたんですが、どっちの考えが正しいとかではなくて
根本的に自然観とか動物との共存の考え方が
キリスト教的な考え方の国と八百万の神を信じる神道や仏教の混ざった国では
違うと思うんです。
欧米ではなるべく牛に痛みのない死をと考えて今は体制を
取っているそうですが、日本の捕鯨もそれは考えてこなかったわけではないんです。
太地町でのイルカの殺し方についても『ザ・コーヴ』で隠し撮りされたような
酷いやり方をしていたのは本当にあれが最後ぐらいのもので
今は映画の中で語られていたなるべく痛みのない方法に
変わっています。」
実は一日で起こった出来事
増田さん
「どれぐらいの時間撮影していたんですか?」
佐々木監督
「撮影した時間は6年ですが2010年だけで
テープが65本あったので65時間ほどあります。
右翼団体に勘違いされていた中平さんが現れて
スコットに話し合いをしようと言ったり、警察が来てルールだけでなく礼儀も守れと
話していたのも同じ日2010年の11月のある1日なんです。
キャストが濃いので、キャスティングしたんですかと聞かれますが違います。
全くこちらはそんなつもりはなく、カメラを回していました。
長い時間テープを回すのはそういう出来事が来る瞬間を収めるために回しています。
IWCに行って取材した部分もあるんですが今回は一切入れずに編集しました。」
観客より
「ジェイさんの思いは監督の思いと重なるのではないですか?」
佐々木監督
「鋭い質問ですね。ジェイと出会ったのは2014年です。
太地町に住んでいる外国人がいると聞いてお会いしました。
話をしているうちにあの2010年の話し合いの会議にも出ていたということを知り、
テープを探したところバッチリ映っていたんです。
膝を引きずって歩いているところまで。
ドキュメンタリーは公平な立場で現状を伝えなければいけない。
そして見る人たちのナビゲートになるような人がいなければいけない。
始めは私が語りでナビゲート役として入ることも考えたんですが
ジェイにあって、ジェイにその役割を担ってもらおうと思いました。
見た方から「合わせ鏡みたいだね。」と言われたことがあって。
そうだなと思うんです。立場が逆なんです。
私は日本人で長く海外に生活していてジェイはアメリカ人なのに長く日本に住んでいる。
お互いの考え方がわかる人間としては
この今の状況をどうにかしてあげたいという考えが一致していました。」
グローバリズムとローカリズム
観客より
「ジェイが作品の中で話しているこの太地町のようなコミュニティが
なくなることの方が悲しいと言っています。
これは監督がこの作品に込めた思いでもありますか。」
佐々木監督
「この映画の中で対立構造があるとしたら
欧米と日本とかそういうわけではなくグローバル対ローカル。
これは今世界中で問題になっていることなんです。
ローカル側の声というのはグローバルな所、情報のネットワークには
なかなかあがってこない。SNSや動画を使って自分達の思いを伝えることが
苦手なんですよね。発信できなくて思いがかき消されてしまう。
そういう状況が世界中にはたくさんあります。
そういうことがある現状を伝えたくてこの作品に込めています。」

上映後ロビーにて 作品ポスターと佐々木監督
この映画は物事をある一面から見て一方的に主張しているものを
鵜呑みにしてはいけないことを教えてくれる。
相手はどう思っているのか。双方の間で冷静な目で真実を見極める
必要があることを教えてくれる。
SNSで流れて来る内容は本当のことなのかどうか
判断するのは私達自身だ。
伝統は受け継がれていく。人々の興味はいつしか違う場所に向かう。
「町のことは町に住む人間で決める」
と町長が答えた小さな町は揺さぶられながら新たな道も探り始めている。
『おクジラさま ふたつの正義の物語』(http://okujirasama.com)は
岐阜CINEXで11月24日まで上映中。
11月25日からは太地町の隣である新宮市のジストシネマ新宮と
和歌山市のジストシネマ和歌山でも上映される。
映画の内容をさらに詳しく知りたい方は佐々木監督の映画と
同名の著書もチェックしてみてほしい。
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