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コンビニは異世界!?コンビニで起こる不思議な出来事(映画『コンビニエンス・ストーリー』三木聡監督インタビュー)
日本のコンビニエンスストアとはとても便利な店である。値段は定価だが、大体何でも揃う。
そんなコンビニエンスストアがどこか違う空間と
つながっていたとしたら?
ドラマ「時効警察」、「熱海の捜査官」、映画『大怪獣のあとしまつ』を手掛けた三木聡監督の期待を裏切らない新作『コンビニエンス・ストーリー』は皆様よくご存じのコンビニエンスストアが舞台。
来名した三木聡監督にお話を伺った。
Q.マーク・シリングさんの企画を脚本化したということですが、三木さんの世界観に寄せて脚本を書き上げられたと思うんですね。企画にどう肉付けしていったのでしょうか。
三木聡監督(以下 三木監督)
「アメリカ人のマークさんは日本在住期間が長いとはいえ、日本のコンビニに違和感があったみたいで。外国の人から見るとなんか変な世界みたいなんです。何でもあって、しかも何かちょっと異世界感がある。それをマークさんがプロットというか、短いシノプシスにして。読んだときに脚本家ではなかったですが、加藤と惠子というキャラクターは元々いました。その加藤が山のコンビニに迷い込んで……みたいな話でした。マークさんも俺のことを多分知っていると思うので、その時ちょうど怪獣の映画をやっている最中だったのもあり、最初は実は別の脚本家さんが立って、ちょっと本を書いてもらったんです。プロデューサーも別の方がいて、今とは別の感じの話が進んでいました。というのもマカオのマーケットで出資を募ろうという話がありまして。外国の人がコンビニとか温泉とか、そういうものに対して覚える独特の違和感というか、意外感みたいなものがあって、そういうのは面白いねという反応を得ることができたものの、実際に出資を集められなくてちょっと企画が止まりました。そうしたらマークさんが別のプロデューサーと東映ビデオさんと話をして、企画が進んで。それなら監督が脚本を書いた方がいいんじゃないですかということになり、そこから書き始めました。六角さんのキャラクターとかは後から出てきたキャラクターです。マークさんのシノプシスには、旦那さんはあまり出てこなかったんだけど、惠子は結婚しているという感じだったと思います」
Q.脚本を書く方が脚本家を主人公にすると、妄想部分と現実部分が結構曖昧になるので、観ていて楽しいなと思うんですが、そういうテクニックも結構入っていますか?
三木監督
「そうですね。古くは『サンセット大通り』も主人公は脚本家、コーエン兄弟の『バートン・フィンク』も脚本家でしたよね。多分脚本家という立ち位置が、ちょうどその幻想との狭間を行き来するみたいな繋ぎ手としては、安易に言えばちょうどいいんです。脚本家という仕事自体もうっすら皆さんの認知があるわけじゃないですか。どういう仕事かわからないことはないので、そこの説明は多分いらないだろうと。ご覧になっていただくとわかりますが、いわゆる1950年代のフィルムノワールの延長線上で、今、2022年に三木が解釈するとこうなるという形の映画ではあるので、脚本家を主人公にするとハマるということで加藤というキャラクターを脚本家にしようというのは、割と初期の段階で決めちゃいましたね」
Q.脚本はどういう風に書かれているんですか?
三木監督
「とにかく設定があったら、そこにいろんな物を放り込む。とにかく何でもいいから、それを羅列していってちょっと眺めてみて、ここの一本の線って何だろうなと。その線を見つけるみたいなところが一番難しくて。意識して考えていることより無意識に考えていることの方が領域が大きいわけです。多分こういうことを今俺は感じているんだろうなという、その線みたいなものが一つ見つかると、一本の話になっていくという傾向はありますね。発見があるまでは、ただの羅列なので、意味が全く成立していないんです。その線が出てくるかどうかが脚本を書く上で一番超えなきゃいけないハードルです。その辺りの結論がなかなか出なくて苦悩しています。意味が成立して並んだときには、楽しいですけどね。逆に言うとその線にはまらない要素を今度どういう形で残すのかということでもあると思う。それが何だったかは単純にその線が並ぶだけだとつまらないじゃないですか。線から外れていった要素が必要ないという人もいるんですよね。でも線から外れているから面白いというところもちょっとあるんだろうなと思います。ただ、それに対してきっちり理論的に映画を見られる方だと、そこがおかしいだろうとなるんですが、ギャグとか、意味が崩壊していく面白さみたいなことは一貫して何かやっています」
Q.脚本家役の成田凌さん、ジグザグ役の片山さんがすごくはまってるなと思ったんですが、どんな風にキャスティングされたんですか?
三木監督
「片山くんは『音量を上げろタコ!なに歌ってんのか全然わかんねぇんだよ!!』のときにオーディションで出会いました。よく「時効警察」とかを見てくれていて、麻生久美子に憧れてとか、「時効警察」の事件の犯人全部言えますみたいな話をしていました。オーディションで、阿部サダヲの口から噴出する血を浴びる女の子を探していて、叫びオーディションみたいなことをやっていたんですよ。その時に片山さんは「ギャー!」って意外とテンションの高い叫び方ができて面白いなと思って。結局、片山さんには別の役割で出てもらったんですが、今回はある種、現実なのか非現実なのか曖昧で、ジグザグはあのメイクだし、年代もいつなのか、いつ生きているのかもよくわからないところに、片山さんの芝居の表現方法があったら面白いんじゃないかなと。いつもは大体キャスティングは脚本が上がってからしているんですけど、ジグザグは片山さんがはまるだろうなと思って、割と早いタイミングでお願いすることになりました。ジグザグは結構テンションも必要じゃないですか。そのテンションみたいなものも面白いし、成田くんがフラットな芝居から、コントロールしていくのがうまい役者さんなので、加藤と同棲している相手としては、ああいうテンションの芝居ができる人がいいんだろうなあと思っていました。いろいろやってもらっていますが、一歩踏み出すのに勇気がいるって感じじゃなくて、「はーい」と言ってやっている感じ。片山さんには思い切りやってもらっていましたけど面白かったですね」
Q.成田さんは三木組初参加ですが、きっかけはあったんですか?
三木監督
「成田くんとのきっかけは「時効警察」を2019年に久しぶりにやったときに、二階堂ふみさんに出てもらっていて。「この前、成田凌くんと一緒だったんですけど、成田凌くんは監督の映画をよく観ていますよ」と二階堂さんから現場で聞いていたんです。そこから1年ぐらい経ってからキャスティングに入ったんですが、この映画の現存世界の中で実は加藤が一番まともといいますか、現実を繋ぎとめていく役なんですね。はっちゃけたキャラクターとか、前田くんみたいに本当にこの世に存在しているのかしていないんだかみたいな芝居とまた違うアプローチをしなきゃいけない。加藤という、現実を生きている脚本家という芝居のフラットなところも含めて日常性みたいなところから異世界に踏み込むときに、成田くんが持ち合わせているポテンシャルがいいよねという話になって。芝居のうまさももちろんあるし、そこで成田凌が結びついてきたんです」
Q.実際に現場で一緒に仕事されていかがでした?
三木監督
「こういう理屈だから、こういう動きになるとかってあるじゃないですか。俺の書く話だから、動きとか、セリフの言い方が突拍子もなかったりするんだけど、そこをリアルに繋ぎとめて作っていくのは役者の力量なんですよ。トリッキーな出来事とか動きとか、カットに合わせた動きとか、それを日常の中からさもその人物が生きているかのように作っていくという、その計算を彼は現場でもしてくれました。例えば段取りで、ここでひっくり返るときにどういう形でこの動きをしようと思ってこっちにひっくり返るのかと聞いてきたりもするし、「こう思うんですけどどうですか?」みたいな話も提示してくれる。出来事と出来事の間をうまく繋ぎとめていくというのはおもしろいやり方だし、そこをちゃんと丁寧にやっていく役者さんだなという印象はありましたね」
Q.成田さんが三木さんの作品を好きなんだなと感じるところはありましたか?
三木監督
「俺の書く話は引っかかっちゃうと説明しようのない話になるわけだけど、「なんでこうなんですか?」という聞き方ではなくて、「こうなんですよね?」という前提で入ってきてくれているのは、そこの理屈は飛び越えた上でわかっていて、この動きをするんだったら、こういうことなのかっていう答えを自分なりに導き出していたからだと思います。そこから聞いてきたり、向こうから提案があったりというやり方で芝居を作っていったので、彼は理解しているとは思いました。少なくとも理屈を考えることは諦めていたと思います(笑)」
Q.全体的に昭和っぽいなと思いましたが、何か狙っていますか?
三木監督
「おっさんが書いているから、昭和になっているんだと思うんですけど、全体にはノスタルジックな場面設定とかフィルムノワールということもあったので、前提的には音楽もそうだし、音響効果の音とかも、いわゆる新しいものというよりは全体の画面に合わせています。専門的なことを言うと、ジグザグと加藤が同棲している部屋のシーンはアンジェニューという昔の16ミリのフィルムカメラのレンズを今のデジタルカメラにくっつけているんです。そうするとなんか妙なボケとかフレアーとかが入って、ちょっと解像度が落ちるんだけど、独特の雰囲気があります。そういう意味では全体的に調整はしました。もうちょっと言うと80年代ぐらいの単館系とかでやっていた感じの世界を作っていく上での手がかりにはしましたね」
Q.前田さんの演技についてはおまかせですか?
三木監督
「彼女は物事の本質にたどりつくスピードがすごく速いんですよ。それを理解した上で芝居はやるべきものなのかわかんないんだけど、とにかく僕が持っているイメージのところにたどり着くスピードが前田くんは速い。天性の才能があるんだろうなって思いました。前田くん演じる惠子が生きているか、死んでいるかわかんないから怖いよねという感想を試写を観た知り合いからもらって。それが表現なのか感性に従ってそれをやった結果がそうなのか、本人に聞いてみないとわかんないんですが(笑)」
Q.現実なのか別の世界なのかも惠子がわからなくさせているところはありますよね。曖昧な存在というか。
三木監督
「「熱海の捜査官」というドラマもそうだけど、今回は異界と生きている世界が地続きな曖昧な感じ、それで結論をあまり明確に作らない方向にしようと。どういう風に解釈するかと意味づけする本能、意味のないことに対する恐怖みたいなものが人間にはあるから、意味のないものを提示されたときには、そこに意味を無理やり持ち込もうとするじゃないですか。あの感じを映画を観たときの体験として、持ってくれれば嬉しいです。お客さん自体がその体験として、その意味を補完しようとすることは昨今あまり映画ではやっていなかったので、今回せっかくの機会なのでやるのは面白いかなと」
Q.メインビジュアルを見ると日本のコンビニというより、異国なイメージがします。映画『バグダッド・カフェ』を連想しました
三木監督
「1回本当に『バグダッド・カフェ』の舞台のあの場所に行ったことがあるんですけど、あれはモハーヴェ砂漠のちょっと端の方に立っているんです。そこへ行く途中に街道沿いに雑貨屋みたいな日本のコンビニとはちょっと違う形の店があって、それを再現する形で建物の中に商品を入れて作っています」
Q.店の中だけスタジオで撮影されたわけではないんですね
三木監督
「ではないです。ライティングも独特の色合いじゃないですか。店の周りのススキ畑も黄色っぽい映像として撮影の高田さんが作って合わせていますし、店内も物の配置を考えたり、実はあの上に LEDライトがあるんです。LEDはコンピュータ調整ができるので、原理的には16万7000色という色合いが出せるんだけど、そこの色調整が全部できるようにLEDの蛍光灯を天井に全部仕込んでいます。美術の林さんがいくつかアメリカ中西部の雑貨屋とかの写真を参考写真にして作りあげています。そもそも日本かどうかすらわかんない。作品の中で最初に出てくるコンビニの方がマーク・シリングさんのイメージに近いと思うんですけど、山の方のコンビニはもう思い切って外国なのかどこなのかわからない形にしようと言って美術プランを立てました」
Q.日本人からみると異世界感がありますね
三木監督
「そうなんです。マークさんが持った違和感とは逆転する形を狙って作っていこう、逆に外国の人が観てどう思うのかということはあります。あれ?日本のコンビニっぽくないよねと」
Q.店の中で加藤が駄菓子のみつあんずを買っていましたが、品揃えは日本のコンビニですね(笑)
三木監督
「駄菓子売ってますよね。でもあんず棒なくなっちゃったんです。1960年代生まれなので、駄菓子が好きで。コンビニにも最初は置いてあったんだけど、売れないのか俺の好きなものは大抵なくなる(笑)」

三木聡監督
映画『コンビニエンス・ストーリー』 https://conveniencestory-movie.jp/ は8月5日より全国公開。東海3県ではミッドランドスクエアシネマ、ミッドランドシネマ名古屋空港、MOVIX三好で公開。
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