
『パリ13区』『カモン カモン』モノクロの魅力を知りたい二作品
4月22日(金)公開の作品には偶然にもモノクロ映画が2作品ある。
『ジョーカー』のホアキン・フェニックス主演の『カモン カモン』と『ディーパンの闘い』のジャック・オディアール監督の新作『パリ13区』だ。
この2本を紹介したい。
巨匠とニュージェネレーションの合作は今を生きる人たちの関係性を描くー『パリ13区』
あらすじ
コールセンターでオペレーターとして働く台湾系フランス人のエミリー(ルーシー・チャン)のもとに、ルームシェアを希望するアフリカ系フランス人の高校教師カミーユ(マキタ・サンバ)が訪れる。二人は即、体を重ねる仲になるものの、ルームメイト以上の関係になることはない。同じ頃、法律を学ぶためソルボンヌ大学に復学したノラ(ノエミ・メルラン)は、年下のクラスメートに溶け込めずにいた。金髪ウィッグをかぶり、学生の企画するパーティーに参加した夜をきっかけに、元ポルノスターでカムガール(ウェブカメラを使ったセックスワーカー)の“アンバー・スウィート”(ジェニー・ベス)本人と勘違いされ、学内中の冷やかしの対象となってしまう。大学を追われたノラは、教師を辞めて一時的に不動産会社に勤めるカミーユの同僚となり、魅惑的な3人の女性と1人の男性の物語がつながっていく。
カンヌ国際映画祭パルムドール『ディーパンの闘い』のジャック・オディアール監督は今年70歳を迎える。待望の新作は『燃ゆる女の肖像』で一躍世界のトップ監督となったセリーヌ・シアマと、若手注目監督・脚本家レア・ミシウスと共同で短編小説をもとに脚本を手がけた。
舞台は高層マンションがあるパリ13区。
モノクロであることでガラッとパリのイメージが変わる。パリというとおしゃれで歴史ある街というイメージがあるが、この作品のパリはその歴史を感じさせない。色が持つ温度を排除している。エミリーが中国語を多用していることもあり、どこかアジアの国なのではないかとも錯覚するが、これが今の様々な国の人々が移り住み多国籍文化が溢れているパリなのかもしれない。
大胆な女性達の行動、男女の性生活をリアルに捉えており、情事のシーンにも注目したい。艶感たっぷりな動きは振付師も入れて撮影されている。
体を重ねたからといって分かり合えるわけではない。気持ちはどうすれば伝わるのか。現代の愛とは一体何なのか。投げかけられている気がした。
映画『パリ13区』 https://longride.jp/paris13/ は4月22日(金)より新宿ピカデリー他で全国順次公開。
中京地区では ミッドランドスクエアシネマ、MOVIX三好で4月22日(金)より、伊勢進富座で7月9日(土)より公開。
ホアキン・フェニックスがジョーカーの次に選んだ振り幅の広い役柄は…?ー『カモン カモン』
あらすじ
ニューヨークでラジオジャーナリストをしているジョニー(ホアキン・フェニックス)は、ロサンゼルスに住む妹から数日間息子のジェシー(ウディ・ノーマン)の面倒を見てほしいと頼まれる。9歳のジェシーはジョニーが独身でいる理由や自分の父親の病気のことなどを遠慮なく尋ね、ジョニーを困惑させる。始めはどうジェシーに接したらいいのか分からなかったジョニーだったが、二人は次第に打ち解ける。ジョニーは仕事のために戻ることになったニューヨークへジェシーを連れて行くことにする。
『20th century woman』のマイク・ミルズ監督は自身の子育ての経験の中で見舞われた想定外の出来事から今回の設定を生み出した。父親でもなく、結婚もしていない。子ども達にインタビューする仕事をしているが、この年まで子どもと生活をしてこなかった男が、甥っ子との生活を通して、1から子どもの面倒をみるということを学び、自身の気持ちの変化にも向き合うことになる。
ジョニー役にと監督がラブコールした相手がホアキン・フェニックスだった。脚本を読んで最初は出来ないと断っていたホアキンだったが、監督と何度も読み合わせを重ね、脚本を練り上げて行った。
ジョニーがインタビューする子ども達の声や英国アカデミー賞で助演男優賞にノミネートされたジェシー役のウディ・ノーマンの自然な芝居から大人達を繊細かつ冷静な目で見つめ、自身の将来を考える子どもの姿が描かれていることにも注目したい。
ジョニーとジェシーが仕事で移動するアメリカの四都市がモノクロで映し出される。ロサンゼルス、ニューヨーク、デトロイト、ニューオリンズ。アメリカの様々な場所を渡り歩くロードムービー的要素もある。子育ては普段の生活の中で当たり前にあることだが、モノクロにすることでマイク・ミルズ監督は日常を物語にする。このモノクロの世界の物語が普段の生活が掛け替えのないものだと気づかせてくれる。

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映画『カモン カモン』https://happinet-phantom.com/cmoncmon/
は 4月22日(金)よりTOHO シネマズ 日比谷ほかで全国公開。東海3県では4月22日より109シネマズ名古屋、ミッドランドスクエアシネマ、伏見ミリオン座、ユナイテッド・シネマ(豊橋18、岡崎)、TOHO シネマズ(木曽川、赤池、東浦、津島、モレラ岐阜)、ミッドランドシネマ名古屋空港、4月23日より伊勢進富座で公開
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