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映画『ちょっと思い出しただけ』池松壮亮さん、松居大悟監督インタビュー

2022/02/15

ある男女の6年間のある一日を描いた映画『ちょっと思い出しただけ』。
クリープハイプの尾崎世界観が自身のオールタイムベストに挙げるジム・ジャームッシュの名作映画『ナイト・オン・ザ・プラネット』に着想を得て書き上げた「ナイトオンザプラネット」から松居大悟監督がイメージして製作された作品は元ダンサーの照生とタクシードライバー葉(よう)の関係を中心に描かれていく。

主演の池松壮亮さん、松居⼤悟監督にお話を伺った。

Q.クリープハイプの曲からインスパイアされたものを脚本にされたと伺いました。オリジナルだと自分の経験値も入れて書き込んでいくと思うんですが、脚本にどんな思いをぶつけられたのでしょうか。

松居監督
「この映画のきっかけは2年前の春にクリープハイプの尾崎世界観くんから曲が送られてきたことで、それがないと書かなかったと思います。この曲は一番最初の緊急事態宣言で大きなライブがどんどん中止になって、事務所が本当に潰れそうだという電話とかをする中で尾崎くんが覚悟を持って作った歌なんです。それが今までの曲調と全然違って人のことを思った優しいメロディーで。尾崎くんがバンドをやろうと思ったのは高校時代の大晦日の夜にジム・ジャームッシュの『ナイト・オン・ザ・プラネット』という映画を観て、朝方にバンドやろうと思ったそうで、クリープハイプというバンド名もその映画にちなんでいるんですが、そんな彼らが、事務所が潰れそうだ、やばいという時に「ナイトオンザプラネット」という曲を作ったことの意味、バンドをかけているような気がして。きっと尾崎くんは僕にミュージックビデオを撮ってほしいというニュアンスで送って来たと思うんです。僕はクリープハイプと10年ぐらい付き合いがあるんですが、最初の5年は一緒にミュージックビデオを作ったりしていたのが、ここ5年はやっていなくて。ミュージックビデオではなくて長編映画として応えたいというか、責任をとりたいと思ったんです。歌詞を分解してストーリーを作るのではなくて、この曲が最後に流れるストーリーを作ろうと。そういうところから台本を作っていきました。相手のことを思ったりとか、すれ違ったりとかするようなそういうラブストーリーを作ってみたいと思ったのはきっとコロナで人と会えなくなったから。コロナ禍になったからこそ生まれた物語だったと思います。会えないから嫌だな、苦しいなと思うけど、その分人と会えた時の喜びとか、嬉しさもあるなと。それでコロナ禍の現代から遡っていく構成にしようと思いました」

Q.『ちょっと思い出しただけ』というタイトルが絶妙だったんですが、どんな時に思いつかれたのでしょうか。

松居監督
「始めは違うタイトルだったんです。『星につま先』というタイトルで自分ではめっちゃいいタイトルだなと思っていたんです。『ナイト・オン・ザ・プラネット』が星の夜のいろんな場所の夜のお話で、これは星の中の小さな東京の夜の話、星の中のつま先だ!と思っていたら、みんなに「わかりにくい」と言われて(笑)。曲の中に「ちょっと思い出しただけ」というフレーズがあるのでこっちがいいと勧められて、クランクイン直前にこのタイトルになって。今はこれでよかったなと思っています」

Q.監督が書いた脚本を読んだ時の印象と今回の怪我でダンサーの道を諦めた男を演じるにあたってどんなアプローチをしたのか教えてください。

池松さん
「脚本は撮影に向かって随分と変化していったので、最初に読んだ段階では映画で観ていただいたものとは違うのですが、企画自身の可能性を感じました。これならば勝負できるんじゃないか、勝負しがいがあるんじゃないかという気がしました。ダンサー時代は照生が怪我をして踊れなくなることで圧倒的に戻れないあの頃がある。そして今世界には圧倒的に戻れないあの頃、コロナ以前がある。そのメタファー的になればいいなと思って演じていました」

Q.これまでの作品の中でこんなにラブストーリーを正面からストレートに描かれたことはなかったのではないかと思うのですが、どんな思いで描かれたのでしょうか。

松居監督
「コロナ禍になってすぐぐらいはとても明るいコメディをやりたいとか、こういう状況だからこそどういう映画を届ければよいかを考えて。この曲を聴いたりとか、今みんながどういう映画を観たいだろうと思った時に決して派手ではないけれど何もない日々とかさりげない感覚とかそういうものを掬い取るような、家にいて、育てた鉢植えが育って嬉しいとかそういうことで喜べるような物語がいいなということをなんとなく思って。それと今まで真ん中を進むことをずっと避けてきたんですね。それこそ家族ものとか恋愛ものとかはやらずに隅の方とか裏側とかを撮ってきて。そこに対する恥ずかしさというか照れ隠しというか。『くれなずめ』も友達の話ですけど照れ隠しで最後ふざけるとか。でももう36歳ですし、照れ隠しはいいか、正面からやろうと。そういう時代になったというか、自分がそういう年代になったんでしょうね(笑)」

Q.実際撮影されていかがでしたか?

松居監督
「面白かったですね。ちゃんと真ん中をやるならかつてのメンバーとやりたくて。池松くんや尾崎くんもそうですし、カメラマンの塩谷くんもそうですし、初期の頃ずっと尖ったことをやっていたメンバーとやりたいなと。離ればなれになっていたからこそ一回再会するときにまた尖ったことをやるより、真ん中をやってみたいなと。面白かったですし、自分達らしい真ん中をやれているような気がしました。これまでの流れもあって、自分達が胸を張れる作品がみんなのおかげで出来たような気がします」

Q.松居監督とは昔から交流があって、作品にも出演されていて、松居監督の変化も感じてこられたのではないかと思います。今回の変化は池松さんから見てどう感じられていますか?池松さんが本作で挑戦したことはありますか?

池松さん
「松居さんは自分のやる気スイッチといいますか、ツボを押してくださる方です。今回に関してはすごく個人的なことですが、コロナ禍でステイホームを強いられ、リモート映画など業界の多くの人が可能性を探っている中、どうしても国内で自分の気持ちがフィットすることが見つけられず、どちらかというとコロナ禍の中で今だからこそと海外に目が向いていて、海外に出て活動していたのですが、去年の夏たまたまロシア映画の撮影が3か月延期になったところに松居さんから連絡をいただいて。その時に感じたのは僕は今31歳ですが、同じ2010年代を共にした自分たちが新しい何かを、面白いミニシアターを作っていくんだと躍起になっていたあの頃、つまり青春に決着をつけようと言われたような気がして。また新しいチャレンジをしながら2010年代を総括しようと言われたような気がしました」

Q.今回の撮影の中で心に留めていたこと、決めていたことはありますか?

松居監督
「チーム感というよりも物語としてラブストーリーではあるんですけど、ピークのシーンだけで終わらないようにするということを大事にしていました。例えば水族館デートの中で踊りを踊ったらもう次のシーンに行く。ドラマチックなシーンが連なって行った方が気持ちいいですし、映画としてはそうしたくなるんですけど、日常とか思い出すことは派手な出来事よりも割と些細なことの方が多いよなと。踊るけど、警備員に見つかって逃げ回る方が自分の中ではむしろ大事だったり、車の中でケンカして、そのシーンで終わってもいいんだけど、その後にちょっともやもやした気持ちで駅でぼんやりしているところをしっかり撮ろうとか。そういう日常に戻っていく過程も含めて丁寧にやろうということは思っていました。あとは映画に出てくる人達を全員愛せるようにしたいと思いましたし、最後に流れる曲が素敵に聞こえればいいなと思っていました。出てくるものや人全員が主人公になればいいなと。2人だけの物語にしてしまうと、他を抑えたくなるんですけど、むしろ逆でみんな魅力的にしたいなと意識していました」

Q.劇中のやりとりが自然で、どこまでが脚本なのかと感じましたがどのように現場で作られていたのでしょうか。

松居監督
「セリフ的には結構ちゃんと話しているんですよ。台本通りやっていて、その間の隙間をみんなが埋めてくれたりしましたし、決定稿になる前に伊藤さんとも話しましたし、池松くんとはみっちり話しましたし、尾崎くんとかプロデューサーとかいろんな人とやり取りして、どんどん全員が役に向かって行くというより、台本も役も自分たちに近づけていくという作業をした気がします」

池松さん
「これは昔からそうですし、松居さんの主宰する劇団を観ていただければわかるのですが、そういう作り方をしています。役が育っていくことや場が育っていくこと、人と人とがカメラの前に立った時に起こることを欲してくれるので、そこまでにすでに演出が入っていて、リアクションとリアクションの先にあるト書きにないもの。演じているうちに出てくる脚本とは違った言葉や言い回し、そういうものを掬い取ってくれたと思っています」

Q.照生のキャラクターの物腰がとても柔らかいですね。話をうんうんと聞いてくれる。すごくいいなと思うのですが、これはどうやって生まれたのでしょうか。池松さんだからこのキャラクターになったんでしょうか。

松居監督
「葉がタクシーの運転手。運転席から動かないまま言葉のやり取りをしている人で、照生は言葉がないところで身体表現をしている人。光に照らされていたダンサーが、照明さんとして光を照らす人になっていく。光を照らすという一方でセリフを必要としないというのがいいなあと思っていました。言葉でいっぱい言う人じゃない照生という人間像がなんとなくイメージ出来ていて、最初から池松くんにお願いしたいと思っていたので、そこに向かって書いていたりもしつつ、芝居で照生という人物を池松くんが生きている人物にしてくれた気がします」

Q.照生の話し方の語尾にとても柔らかさや色気を感じますが、話し方も工夫されていたりしますか。

池松さん
「うちの父親と弟と僕の話し方がまるで一緒なんですよ。だから多分血です(笑)。真面目に話すと、普段から自覚的にやっている部分と感覚的にやっている部分があって、その両方が表現として出てきています。話し方を狙って変えることは決してやりませんが、役柄を感覚的に掴む中で、話し方や、呼吸などが変わってくるのは確かです。自覚的なものとしては、松居映画の主人公として不器用であることは鉄則なので、20代でにやったこととは違う不器用さ、目の前にあることに対する処理能力は器用で上手いんだけど、全部持ち帰って心に溜めてしまうような柔らかさと不器用さを持っていれたら面白いかなと思っていました」

Q.伊藤さんとの掛け合い、お二人のリズム感、雰囲気がすごい素敵なカップルだなと思って見ていたんですが、その中でも印象的だったシーン、エピソードなど伊藤さんとの裏話があれば教えてください

池松さん
「松居さんが伊藤さんの声がとてもお好きなんですね。タクシーの中で「私のどこが好きなの?」と聞かれてキスされながらも色々答えていくシーンがあるんですが、その中で、「声も好きだし」というセリフがあるんですけど、そもそも僕も変な声だし、主題歌を歌う尾崎さんの声も変だし、松居さんも伊藤さんもみんな声が特徴的で変だなと思っていて、ちょっとほっこりさせようと思って本番だけ、「その変な声も好きだし」って言ってみたんですね。そうしたら、カットがかかった後で伊藤さんに怒られました(笑)」

松居監督
「「変って何!?」って言ってましたね(笑)」

Q.作品の中に出てくる小道具にこだわりを感じました。ケーキが何種類も出てきたり、毎回時を刻む時計だったり、その中でもバレッタは葉の置いていったものかと思いきや、照生が使っていたものでした。バレッタを照生が使っていた設定は元々脚本に書かれていたのでしょうか。

松居監督
「はい、書いていました。ちょっと話が戻るんですが、もともと男女の設定が逆だったんですね。男がタクシードライバーで、女がダンサーから照明さんになるという話だったんですが、池松さんと伊藤さんが決まりそうだとなった時に、ちょっと待てよと思って。伊藤さんがタクシードライバーで池松くんがダンサーから照明さんになった方が何かグッとくるなと思って。役の設定を入れ替えた時にバレッタを男性用の何かに変えると何かがなくなってしまうような気がして、このままにしようと。設定は前の設定の余韻があるんですけど、色々男だから、女だからどうこうみたいなものから解き放ちたかったということも正直あります。自由さといいますか、男だからつけない、男だから違うとかではないものもあるよなと思った時に、照生が葉からもらって大切にしていて、別れたけど捨てづらくてみたいな感じが二人っぽくていいなと思って。鼈甲のバレッタは照生のものにしようと決めたんです」

あの日、あの時。ふとした瞬間に思い出す。戻れないからこそ愛おしい。そしてあの日があるから今がある。

エンドロールで流れるクリープハイプの「ナイトオンザプラネット」が沁みた。

映画『ちょっと思い出しただけ』
https://choiomo.com/
はテアトル新宿他で現在公開中。
東海3県ではミッドランドスクエアシネマ、イオンシネマ(名古屋茶屋、長久手、津南)、ユナイテッド・シネマ豊橋18、TOHOシネマズ(木曽川、津島、モレラ岐阜)、コロナシネマワールド(安城、大垣)、ミッドランドシネマ名古屋空港、MOVIX三好で公開中。

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