
EntaMirage! Entertainment Movie
どこまでも自由と愛に生きる(映画『ビーチバム まじめに不真面目』)
ここまで自制心なく、欲望のまま正直に生きることが出来たら、清々しい。どこか羨ましくもある。でも観ていたら途中から、あれ?彼も結局まっとうな人間なんじゃないかと思えてきて……。
世界のポップ・カルチャーシーンにインパクトを与える続ける天才ハーモニ・コリン。
絵画や詩、小説、写真などマイペースに創作しつつ、近年は人気ミュージシャンが出演するファッションブランド「グッチ」の一連のCMシリーズの監督や、ビリー・アイリッシュやリアーナ、グッチ・メインのMV・写真のディクレクションを務めるなど、50歳を目前にした今もなお、最前線のティーン・カルチャーと併走し続けている。そして、映画監督としては『スプリング・ブレイカーズ』以来待望の7年ぶりの長編映画『ビーチ・バム まじめに不真面目』がいよいよ公開となる。
あらすじ
ムーンドッグ(マシュー・マコノヒー)は、かつて天才と讃えられた詩人。しかし今は、謎の大富豪である妻ミニー(アイラ・フィッシャー)の果てしない財力に頼り、アメリカ最南端の“楽園”フロリダ州キーウエスト島で悪友ランジェリー(スヌープ・ドッグ)らとつるみ、どんちゃん騒ぎの毎日。浜辺でうたた寝し、酒場を飲み歩き、ハウスボートでチルアウトし、時たま思い出したようにタイプライターに詩を打つ。そんな放蕩生活を自由気ままに漂流していたが、ある事件をきっかけに、ムーンドッグは一文無しのホームレスに陥ってしまう。ホームレスになったからといっても変わらないのがムーンドッグ。放蕩生活を続けていく。
自由に生きる男たち
ムーンドッグを演じるのはアカデミー賞俳優マシュー・マコノヒー。どこまでも放蕩生活をする親父がはまっている。いい感じの腹の贅肉、ロン毛、距離感がたまらない(すごく近い)。ムーンドッグと一緒に遊ぶ愉快な仲間たちには、『テッド・バンディ』のザック・エフロンに、ハーモニー・コリンもカメオ出演した『mid90s』で監督デビューを飾ったジョナ・ヒルが友情出演、さらには伝説的ミュージシャンのスヌープ・ドッグ、ジミー・バフェットらが名を連ねた。
彼らは誰もムーンドッグを非難しない。自由に生きる彼をむしろ受け入れている。自分達とは違うと思ったものを排除しようとする風潮すらある今の世の中とは違う世界がある。
ハーモニー・コリンだからこそのポップなビジュアル
ムーンドッグの欲望まみれの生活が描かれるが、嫌みがない。ムーンドッグはひたすらその生活を楽しんでいて、なぜか観ているこちらも羨ましくなってくる。
毎日がルーティンの仕事にまみれ、自分と向き合う時間もないまま日々を過ごしている自分がなんだかずっとダメな生活をしているようにも感じる。
映画の様々な場所がまるでMVのようなかっこよさだ。流れる音楽は『グレイテスト・ショーマン』などの音楽で知られる巨匠ジョン・デブニーのオリジナル・スコアに加え、ヴァン・モリソン、ザ・キュアーなど世界各国から寄せ集められた。
ムーンドッグの着ている服、屋敷のデザイン、部屋のライトに至るまですべてがなんだか日常じゃない。いや、観ている自分達から観たら日常じゃないだけで、ムーンドッグからは日常なのだ。ムーンドッグは私たちから観る非日常の中を日常として生きている。私たちが色褪せた世界にしているだけで、本当はムーンドッグが観ている色が世界の正しい色なのかもしれない。
多方面のジャンルで異彩を放つハーモニー・コリンだからこそのものの捉え方、世界観が私たちに訴えかける。ギャスパー・ノエとのコンビで知られる天才撮影監督ブノワ・デビエ、『ネオン・デーモン』の美術監督エリオット・エスター、そして今ハリウッドで最も熱い視線を浴びる気鋭の衣装デザイナー ハイディ・ビヴェンスという精鋭達が監督の世界観を見事に具現化した。
ムーンドッグはどこまでも不真面目だ。だが、欲望に正直というところにおいては誰よりも真面目だ。
放蕩し、浮かんだことを詩にあらわす。
人間のシンプルな愛が彼の詩から響いてくる。
『ビーチ・バム まじめに不真面目』https://movie.kinocinema.jp/works/beachbum/
は4月30日(金) よりキノシネマ他、全国順次公開。
東海地区では5月7日(金)より愛知 センチュリーシネマで公開。静岡 シネマイーラでも順次公開予定。
おすすめの記事はこれ!
-
1
-
見返りを求める男と恩を仇で返す女。その先にあるもの(映画『神は見返りを求める』)
タイトルを聞いたとき「神は見返りをもとめない」ものじゃないの?と思った。ただ、そ ...
-
2
-
3年ぶり開催!第9回MKE映画祭レポート
第9回MKE映画祭が6月18日岐阜県図書館多目的ホールで開催されました。 3年ぶ ...
-
3
-
生き続けていくことはいけないことか(映画『PLAN 75』)
少子高齢化社会となった日本には様々な問題がある。老老介護、孤独死、虐待という家庭 ...
-
4
-
映画『冬薔薇(ふゆそうび)』伊藤健太郎さん、阪本順治監督登壇名古屋舞台挨拶レポート
映画『冬薔薇(ふゆそうび)』の公開記念舞台挨拶が6月11日名古屋ミッドランドスク ...
-
5
-
女子高生、日本の経済にもの申す!(映画『君たちはまだ長いトンネルの中』なるせゆうせい監督インタビュー)
2019年に発売されネット上で話題を呼んだ漫画「こんなに危ない!? 消費増税」を ...
-
6
-
自身の信念のもとに冤罪を暴く(映画『オフィサー・アンド・スパイ』)
捏造、冤罪。あってはならないのだが、どの時代にも起こる出来事だ。 フランスで起こ ...
-
7
-
木竜麻生さん登壇!メ~テレ映画祭『わたし達はおとな』先行上映舞台挨拶レポート
今年開局60周年を迎える名古屋のテレビ局メ~テレは映画製作にも非常に力を入れてい ...
-
8
-
今も受け継がれる神曲・市船Soul。それは魂がこもる大切な曲(映画『20歳のソウル』)
ある番組の吹奏楽の旅を観る度に号泣している。 私は決して吹奏楽部ではない。コーラ ...
-
9
-
OUTRAGE×現代の若者 名古屋で生きる人達(映画『鋼音色の空の彼方へ』舞台挨拶レポート)
コロナ禍を経て、名古屋発の映画が奇しくも同じ日に2本公開された。一本は先日紹介し ...
-
10
-
僕らの映画はここからはじまったばかり(映画『護り屋「願い」』舞台挨拶レポート)
名古屋発の映画が『護り屋「願い」』が5月20日に公開された。 映画『護り屋「願い ...
-
11
-
人気映画を支えてきた特撮、特殊効果のクリエイター達(映画『クリーチャー・デザイナーズ 特殊効果の魔術師たち』)
映画にはさまざまなジャンルがある。その中でも私たちを日常にはない興奮に誘ってくれ ...
-
12
-
「灰色の家族」という台本(物語)が呼び覚ます忌まわしい記憶 KURAGE CLUB新作『灰色の家族』上映会開催
名古屋の自主映画団体KURAGE CLUBが新作『灰色の家族』の上映を5月22日 ...
-
13
-
撮りたいという強い思いの結晶がいよいよ公開(映画『山歌』)
山の中を漂流して暮らす人々が戦後あたりまでいたことを知ったのは「やすらぎの刻」と ...
-
14
-
第61回CINEX映画塾『ぼけますから、よろしくお願いします ~おかえり、おかあさん』信友直子監督トークレポート
第61回CINEX映画塾『ぼけますから、よろしくお願いします ~おかえり、おかあ ...
-
15
-
『あした、授業参観いくから。』+安田真奈監督ショートフィルム選 シアターカフェ 舞台挨拶レポート
『あした、授業参観いくから。』+安田真奈監督ショートフィルム選 が4月30日から ...
-
16
-
映画『N号棟』公開初日 萩原みのりさん、後藤庸介監督登壇 舞台挨拶レポート
とある地方都市に、かつて霊が出るという噂で有名な団地があった。このとある地方都市 ...
-
17
-
阿部サダヲ×シリアルキラー榛村大和が更なる魅力を生む(映画『死刑にいたる病』白石和彌監督・阿部サダヲさんインタビュー)
白石和彌監督の作品にはいつも心を持っていかれる。 5月6日(金)から公開の新作『 ...
-
18
-
ゴールデンウィークに『あした、授業参観いくから』+安田真奈監督ショートフィルム選 上映 シアターカフェで
安田真奈監督とお会いしたのはあいち国際女性映画祭だった。 『36.8℃ サンジュ ...
-
19
-
『パリ13区』『カモン カモン』モノクロの魅力を知りたい二作品
4月22日(金)公開の作品には偶然にもモノクロ映画が2作品ある。 『ジョーカー』 ...
-
20
-
白石和彌監督、阿部サダヲさん登壇! 映画『死刑にいたる病』名古屋先行上映舞台挨拶レポート
映画『死刑にいたる病』舞台挨拶付き先行上映会が4月16日、名古屋ミッドランドスク ...
-
21
-
第60回CINEX映画塾『Trinity』『truth』堤幸彦監督、広山詞葉さん、生島翔さんトークレポート
第60回CINEX映画塾『Trinity』『truth』が3月27日岐阜CINE ...
-
22
-
映画の街・岐阜が動き出す 映画『逆光』とのコラボで柳ケ瀬が70年代一色になる?! 映画『逆光』試写会 トークレポート
4月4日、岐阜ロイヤル劇場にて映画『逆光』の試写会と須藤蓮監督の舞台挨拶が行われ ...