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女ってなんでしょうね。(映画『タイトル、拒絶』)
『タイトル、拒絶』というタイトルがまず気になった。
「ワタシの人生に、タイトルなんて必要なんでしょうかーーーーーー?」
キャッチコピーでさらに惹かれて観てみたら心の傷を抉られた。
12月19日から名古屋駅西口・シネマスコーレで公開の『タイトル、拒絶』。
山田佳奈監督の初長編作品が映画監督の登竜門的映画館と言われるこの場所で上映されるというのが感慨深い。
女ってなんでしょうね。女の人生の幸せってなんでしょうか。
女として生きるって…。
あらすじ
雑居ビルにあるデリヘルの事務所。華美な化粧と香水のにおいをさせながら賑やかに話している女たち。 女たちは冷蔵庫に飲み物がないとか、あの客は体臭がキツイとか、さまざまな文句を言い始め、世話係のカノウ(伊藤沙莉)はその対応に右往左往する。 店で一番人気のマヒル(恒松祐里)が仕事を終えて店へ戻ってくる。何があっても楽しそうに笑う彼女を見ながら、カノウは『カチカチ山』を思い出す。「マヒルちゃんはウサギで、自分はタヌキ。みんな賢くて可愛らしいウサギにばかり夢中になる。性悪で嫌われ者のタヌキの役になんて目もくれない」。ある日若い女が入店してきて、それまで何となく均衡が取れていた店の中での人間関係が崩れていく。
この部屋はふきだまり
デリヘルの事務所には様々な理由でそこにいる人間がいる。
デリヘル嬢を志願して来たのに行為の場になって怖じ気づいて逃げ出し、今は世話係として働くカノウ。お金を貯めて自分の思い通りになる人を雇うという夢があるNo.1デリヘル嬢のマヒル。デリヘル嬢だけど、世話係兼運転手の良太に恋するキョウコ、似た者同士だと言われ、キョウコを避けながらも心が揺れる良太、客には中出し禁止と言いながら、自分は店の女と関係を持つ山下、自分がなぜ怒られるのかと問い詰め騒ぎだすアツコ。世話係をしながら自らも金持ちの女に売りを行うハギオ。

©DirectorsBox
集まった人間は皆「こんなところにいる人間だから」と自らがいる場所と自分に対して肯定的ではない。ただこれでしか生きていけないこともわかっていて抜け出せない。まるで風に流されてふきだまりに追い込まれたかのようにそこで生きている。
タヌキが見るウサギ達の本音の世界
自らをカチカチ山のタヌキ=脇役だというカノウは自分が出来ない、商品として女でいられるデリヘル嬢達をウサギ=主役、憧れとして見ていたが、デリヘル嬢達が自身のエゴや心の闇を明らかにしていくことで次第に考え方を変えていく。
デリヘル嬢の本音を私たちが普段聞くことはない。この映画で語られる彼女達の言葉は彼女達の心の叫び。匿名でSNSやブログで書かれたセックスワーカー達の思いがつまっている。商品として女を生きる女性達の力強さを感じることが出来る。
ロ字ックの舞台戯曲を映画化!
監督、脚本は劇団・ロ字ックの主宰でNetflix『全裸監督』の脚本も担当している山田佳奈。2013年にロ字ックで上演した作品を映画化した。長編映画は初めてだが、本作でも第32回東京国際映画祭日本映画スプラッシュ部門でワールドプレミアム上映を飾り、海外でも話題を呼んでいる。
カノウを演じるのはこの役を誰にも渡したくなかったという伊藤沙莉。ドラマ『獣になれない私たち』での明るいOLや、ドラマ『いいね!光源氏くん』の光源氏との恋にときめく女子と映画やドラマの話題作にメインキャストとして立て続けに出演しているが、ブレイクまでは、脇役として様々な役を演じてきた。その中で彼女を印象づけるのはハスキーボイス。時には強い口調にも聞こえ、寂しくも聞こえる。『獣道』の時からずっと魅力的だと思っていた。本作でも遺憾なくその魅力がカノウの叫びとして発揮される。東京国際映画祭では東京ジェムストーン賞に選出された。笑顔の裏に深い闇を抱えるマヒロを演じる恒松祐里、キョウコ役の森田想、良太役の田中俊介の演技も光る。

©DirectorsBox
誰しもが物語の主人公だといわれるときもある。
しかしヒロインになれない女だっている。どんなに頑張ったって、どんなに求めたって欲しいものが得られず、脇役しか歩めない女だっている。
かわいいからいい、不細工だからだめ?愛嬌を振り撒ければイイ女、人見知りはイケてない女?
女らしくなれない筆者はカノウに自身を重ね合わせ、クライマックスのカノウの気持ちに同調した。でも女として見てもらえないのも寂しくて、そう思ってしまう自分が嫌いで。観ているとそこに自分がいるみたいで苦しい。そんな生き方でも人生は人生だ。不器用でも生きていくしかないことも知っている。
デリヘル嬢の世界というと腰が引けて観られない人もいるかもしれないが、観て欲しい。彼女達は鏡の向こうの私たちかもしれない。
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