
女の園に男が一人。さて何が起こる?(映画『ビガイルド 欲望のめざめ』)
女の怖さを知っているのは男より女だと思う。女はいつか敵になるかもしれないのになぜ群がって行動しているのだろう。
時には敵、時には味方。女性たちは美しき共謀者となり、男性を匿う。
『ビガイルド 欲望のめざめ』あらすじ
1864年。南北戦争3年目のアメリカ南部バージニア州の森の中。
帰る家のない生徒だけが寄宿する女学園で暮らすエイミーは一人の傷を負った北部の兵士・マクバニーを発見し、手当てするために学園に連れ帰る。戦争に男性たちは行ってしまい、女学園では女性たちが手を取り合って生活していた。キリスト教の精神に則って敵であっても助けるべきだと園長のマーサや教師のエドヴィナを中心に生徒たち5人は音楽室を閉めきって看病することにする。女性しかいない学園にやって来た男性に教師も生徒も色めき立って今まで抑えていた感情を表に出していく。
女性が見る男性。まなざしの行方
カメラは女たちの目になる。
マクバニーの顔を見る目。筋肉質な体を見る目。異性だと意識しながら見るその心をカメラ越しに伝えてくる。異性に興味を持つのは何も男性だけではない。女性だって同じなのだ。
男は髭を剃り、少しずつ見た目も怪我をした足もよくなり、開かずの音楽室が開く度に一人ずつ女性たちは男に声をかける。
それに応えて女性一人一人に優しい言葉をかけるマクバニー。女性に応じて対応を変化させながらマクバニーは女性たちの警戒心をとき、一緒に食事を食べたり、庭の手入れを手伝ったりするまでになる。
傷が癒えたら出て行ってほしい存在。でもいてほしい思いもある。
この間で揺れ動く女性たち。囁かれる愛の言葉に高揚する心を感じ、思いきった行動にも出るようになる。マクバニーへの思いが溢れるからこそ起こってしまった事件はとんでもない展開を生む。
ソフィア・コッポラ監督は女だから描ける、男性には理解できないであろう世界を描いた。
原作は『The Beguiled』。1971年に『白い肌の異常な夜』というタイトルで映画化されているが、今回のコッポラ作品は女性目線から描かれている。冒頭の森のシーンは黒澤明監督の『羅生門』を意識したものだそうだが美しくも怪しくもある森が女性たちを象徴しているように思えてならない。
南北戦争の頃のアメリカ南部
南北戦争の頃の南部は圧倒的に男性支配の環境だった。戦争に男性が行ったことで女性たちは不安もありながら自分たちだけになった自由も少し感じたのかもしれない。この女学園は森の中で戦火からも離れ、どこか隠頓生活のような趣も感じられる。ただ森の外には出られない。自由の中の少しの不自由を不満に思いつつ、自分たちは淑女なのだとお互いに言い続け、信じ生活している。そこにやって来た北部の男性は彼女たちに刺激を与えた。
白血球のマクロファージが外界から入ってくる異物を突然すごい勢いで囲って吸収してしまうようなあの感じがする。勢いがつけば欲望は止められず淑女だったはずの女性が変わっていく。
あの時代をリアルに表現する照明
この時代はまだ電灯の使用がない時代。夜になれば一気に暗くなる。部屋の中のシーンは全体的に暗めで人の顔の表情の見極めが難しい時もある。あの当時のリアルな照明が再現されているように思う。撮影時にはライトを極力使わず、自然の光とろうそくの光を使用して鮮明な明るさを避けた。明るくない夜のシーンでほのかな鮮やかさを出しているドレスが美しい。
美しき女優たちの共演
平静を保ちながら周りを出し抜いてマクバニーに近づこうとする7人。自分の立場や年令を精一杯利用してマクバニーに自分を見せつける。2人の教師と5人の生徒たち。
マーサ園長を演じるのはニコール・キッドマン。若手教師にコッポラ監督の『マリー・アントワネット』で主演しているキルスティン・ダンスト、マクバニーに積極的にアプローチをかける生徒には『ネオン・デーモン』で存在感を放ったエル・ファニングが起用されている。
年少組のマクバニーに父親を見るようなそんな接し方はかわいらしい。しかし大人になると男性として見てしまう。ニコール・キッドマン演じるマーサ園長の複雑な嫉妬がたまらない。教育者としてではなくマクバニーに近寄らせないように命令をしたり、酒を持ち出したり、マクバニーに近づくような態度があれば権力を使って生徒たちを止める。指示を出しているときの目付きが次第に変わっているのが面白い。平静さを保っているようで心の奥で他の女性への嫉妬の炎がじんわりと燃えているのだ。ニコール・キッドマンの芝居の巧さが滲み出る。
男と女がいる場所に事件は起こる。
共謀者となった女性たちを待ち受ける衝撃の展開をあなたはどう感じるだろうか。
『ビガイルド 欲望のめざめ』http://beguiled.jp は2月23日(金)よりTOHOシネマズ六本木他で全国公開。
東海地区ではTOHOシネマズ(名古屋ベイシティ、木曽川、津島、赤池、岐阜、モレラ岐阜)、センチュリーシネマ、ユナイテッド・シネマ(稲沢、阿久比、豊橋18、シネプレックス岡崎)、イオンシネマ(各務原、東員)、109シネマズ明和で公開。
おすすめの記事はこれ!
-
1
-
アーラ映画祭は3月20日から22日に開催!
アーラ映画祭が岐阜県可児市文化創造センターアーラで開催される。 今回は3月20日 ...
-
2
-
『his』撮影地でドライブインシアター開催!
かつて恋人同士だった男性2人の8年ぶりの再会から物語がスタートする映画、『his ...
-
3
-
コケシに捧げる愛の歌?(映画『コケシ・セレナーデ』)
2019 年初の長編自主映画となる『みぽりん』がカナザワ映画祭2019「期待の新 ...
-
4
-
第46回CINEX映画塾『実りゆく』田中要次さん×八木順一朗監督トークショーレポート
第46回CINEX映画塾『実りゆく』上映&トークショーが12月6日岐阜C ...
-
5
-
ポストホロコーストで残された人々を描く(映画『この世界に残されて』)
2020年米アカデミー賞国際長編映画賞ショートリストに選出され、ハンガリー映画批 ...
-
6
-
明けましておめでとうございます!
Cafe Mirageの記事をご覧いただいている皆様 あけましてお ...
-
7
-
昭和から平成。裏社会を生き抜いた男の物語(映画『無頼』)
さまざまなアウトサイダーたちの姿を一貫して描き続けてきた鬼才・井筒和幸監督の新作 ...
-
8
-
第45回CINEX映画塾『喜劇 愛妻物語』足立紳監督・代情明彦プロデューサー トークレポート
第45回CINEX映画塾『喜劇 愛妻物語』上映&トークショーが11月28 ...
-
9
-
女ってなんでしょうね。(映画『タイトル、拒絶』)
『タイトル、拒絶』というタイトルがまず気になった。 「ワタシの人生に、タイトルな ...
-
10
-
そこは奇跡が起きる場所(映画『音響ハウス Melody-Go-Round』)
ビートルズがアビーロードスタジオを愛し、あの横断歩道を渡る写真のアルバムを始め、 ...
-
11
-
第43回CINEX映画塾 『本気のしるし 劇場版』上映&トークショー レポート
第43回CINEX映画塾『本気のしるし 劇場版』の上映が岐阜CINEXで開催され ...
-
12
-
隣人はどんな人?(映画『ミセス・ノイズィ』)
集合住宅に住めば必ずいる隣人。 隣人との良好な関係を保つのも、生活をする上で大切 ...
-
13
-
映画『ばるぼら』は大人のファンタジー(映画『ばるぼら』手塚眞監督インタビュー)
彼女は魔女かそれともミューズか。 都会の片隅で耽美派の小説家・洋介が出会ったばる ...
-
14
-
ホテルローヤルを映像化。武正晴監督のこだわりとは?(映画『ホテルローヤル 武正晴監督インタビュー』)
ラブホテルとは日常から切り離された場所だ。一種の別世界。ここでの二人の時間は他人 ...
-
15
-
瞽女として生きた一人の女性の物語(映画『瞽女GOZE』)
日本には、盲人ながら三味線や胡弓を弾き唄い、巡業を生業とした女旅芸人がいた。「瞽 ...