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悠久の流れ長江・何度も巡り合う男と女(映画『長江 愛の詩』)

2018/02/17

中国・長江。
世界の三大河川に数えられるこの河は全長3600キロ。中国を横断する。その河に2009年に三峡ダムが完成し、中国の経済状況に大きく影響した。

この河を舞台に描かれたのが第66回ベルリン国際映画祭で銀熊賞(芸術貢献賞)を受賞した『長江 愛の詩』だ。長江の源流を目指して旅を始めた主人公が不思議な女性との出会いと別れを繰り返す。

 

あらすじ

死去した父の跡を継いで小さな貨物船の船長になったガオ・チュン(チン・ハオ)は機関室で『長江図』と題された詩集を見つける。それはガオの父親が20年前の1989年から所有していたものだった。仕事で上海から長江をさかのぼる旅に出かけたガオは行く先々で出逢うアン・ルー(シン・ジーレイ)という名の女性と再会を繰り返していく。

三峡下りならぬ三峡上り。父の詩集にはどんな意味があるのか。

長江といえば三峡下りが有名だ。
李白が詩に読んだ美しい景色のいくつかは三峡ダムを作ることで犠牲となり人々が住んでいた村と共に水中に沈んでしまった。中国は歴史や伝統を守ることよりも経済発展を望んだ。三峡ダムが出来たことで重慶まで大型の船舶が上ることが出来るようになり中国の内部で経済に変化が起こりつつある。

この作品ではその変化した長江を上り、三峡へと向かう。出発地で見かけた女性・アンを次の港でも見かけたガオはアンに誘われるままに、一夜を共にするが、その後もガオは何度かアンに遭遇する。父親が残した詩集『長江図』は三峡に至るまでの港や三峡の様々な場所で読まれたものであり、その詩が読まれた場所にアンが現れていることにガオは気が付く。20年前に読まれた場所になぜアンは現れるのか。

この詩集は父が書いたものなのかそれとも違う人が書いたのか。父の残した詩集に導かれるようにガオは長江をさかのぼっていく。

父の死の弔いをしながら船で長江を上るガオを演じるのは『東京に来たばかり』で日本のドラマにも出演、繊細な心情の変化を演じられる俳優チン・ハオ。家族を失った孤独な男が一人の女性をひたすら求めて長江をさかのぼる、その求める思いがひしひしと伝わってくる。なぜ彼は今まで一人で生きてきてしまったのか。何も語られないのがこの作品の謎でもあり、良さでもある。

 

長江を上るにつれ、若返る不思議な女性・アン

上海で出逢った時は疲れた大人の雰囲気を醸し出していたアン。だが上流に上っていくにつれ、アンはいきいきとして若返っていく。ガオの船がアンの生活をさかのぼっているようなそんな感覚にもなる。ガオの前で不思議な行動も起こすアンは本当に人なのかどうかそんな疑問が湧く人もいるのかもしれない。

女性の年代毎の美しさを一人で表現したのはシン・ジーレイ。中国でリメイクされたドラマ『ホテリアー』に出演し注目を集めてから映画にも多数出演している。

長江を撮りたい。構想10年の大作

『長江図』に書かれている詩がいくつも登場する。そして映画全体も詩的で美しい。

幼少期に見た長江を映像に収めたいと考えたヤン・チャオ監督は長江を行く船の上で寝起きをしてシナリオを構築していった。映画の準備期間は10年に及ぶ。
練りに練ったことで脚本は分かりやすくはない方に向かっていった。ガオが見ている景色はどこまでが今で、どこが昔の話なのか。アンは一体何者か。観る側への情報は限りなく少ない。観る人によって想像することは全く違うだろう。

しかし、長江のいくつもの表情が映しだされてくるとその想像すらも必要がないと感じてしまう。経済の発達で都会になった街の間を流れる顔、三峡ダムで堰き止められる顔、むき出しの岩と岩の間をうねりながら流れる顔。三峡ダムが出来たことで長江の周りも大きく姿を変えている。その姿もしっかりと映し出され、中国の現状が見えてくる。

カメラマンは世界中の監督から支持された人

ヤン・チャオ監督が選んだカメラマンはリー・ピンビン。日本でも『珈琲時光』、『ノルウェイの森』でカメラを担当。世界中の監督から支持されるカメラマンだ。雄大な長江は詩への造詣も深い彼の手で35ミリフィルムに収められている。リー・ピンビンによる夜の色は場面によって違った趣を出しているが特に美しいのは長江を船で進むときの夜ではないか。何千年もかけて出来上がった美しい景観が夜の暗さと船の照明によって独特な妖しさを生む。

長江を捉えた美しい描写がベルリン国際映画祭で評価された。ぜひ映画館で見てほしい。普通のバージョンでも十分素晴らしいが4K版も製作されており、YEBISU GARDEN CINEMA では4K版で公開される。

三峡ダムが出来たことで新たな世界を作る中国。
三峡ダムの内部の風景は近未来の造形物に感じる。未来のために歴史あるものは消えていかなければならないのか。
長江の歴史を感じる風景は次第に消えゆき、経済発展のために長江自体もその蛇行する流れを変えることになるかもしれない。

変わり行く中国を雄大に流れ続ける長江。そこを渡る男と長江のほとりで生きる女。
ヤン・チャオ監督は今の長江を映し出し、世界中に投げ掛ける。

『長江 愛の詩』http://cyoukou-ainouta.jp は2月17日(土)よりシネマート新宿、YEBISU GARDEN CINEMA、シネマ・ジャック&べティ他で全国公開。
東海地区では名演小劇場で2月17日より公開。

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