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第43回CINEX映画塾 『本気のしるし 劇場版』上映&トークショー レポート

2020/12/12

第43回CINEX映画塾『本気のしるし 劇場版』の上映が岐阜CINEXで開催された。ゲストはCINEX映画塾最多登場の深田晃司監督と朝の連続テレビドラマ小説『エール』で劇作家の池田先生も好演、『本気のしるし 劇場版』では主人公・辻が出会った浮世の借金の肩代わり返済を提案する脇田を演じる北村有起哉さん。テレビドラマを映画にした本作の製作の裏側を語ったトークの様子をお届けする。(聞き手:岐阜新聞社 後藤さん)

後藤さん
「私は一週間前に池袋でこの映画を観させていただきました。去年メーテレさんの30分のテレビドラマとして始まるという話は聞いていたんですが、私は東京に住んでいるので見れないなと思いつつ。 ついに深田さんもテレビに手を出しちゃったのかなと思っていたんです(笑)。それをまとめた『本気のしるし 劇場版』 を見させて頂いたらやっぱりすごいなと 。映画監督としての本領はここでも揺るぎなく発揮されていると感動しました。 まず深田監督からこの映画の成り立ち、脚本とかそういったところのお話を伺いたいと思います」

深田監督
「今、後藤さんの紹介にあったとおり、昨年10月から12月の間にメ~テレドラマとして23分×10話で作りました。30分のドラマにはCMがあるので大体本編は23分になるんですね。そうやって放映されたものです。ちなみに岐阜でも実は放送されているんですが、そのドラマを観ていた方というのは今日はどれぐらいいらっしゃるんでしょうか?」

(観客から手が上がる)

深田監督
「結構いらっしゃいますね。ありがとうございます。あれこれと手は加えていますが、基本的にはドラマと中身は同じなんです。去年あった『宮本から君へ』とか今年も大ヒットしている『劇場版 今日から俺は』のように撮り直したわけではなくて。ドラマ版を再編集したという形で劇場版というものを作らせていただいたんです。元々原作が好きでずっと映像化したいと思っていたんですけれども、これを連続ドラマにしたというのは方便というところもあって。 原作をきちんと映像化しようとするとどう考えても90分とか2時間では収まりきらなくて。でも普通に4時間という企画書を書いても映画では通るわけがないので連続ドラマがいいかなと思っていたら、ちょうど東京で一緒にやっているプロデューサーが原作を読んでくれてメ~テレに持って行こうということになり、成立した企画です。放映してみたら、おかげさまで結構評判が良くて、東海三県でしか放送できていなかったのでそれなら色々な地域の劇場に届けたいと思って劇場版を作ることになりました。ドラマ版のCMをカットしてつないでもちろん再編集はしているんですけれども。そうしたらカンヌ映画祭の方が気に入ってくれて。これは映画であるというお墨付きとしては一番わかりやすいお墨付きを頂いてしまったので、いよいよ公開に向けて背中を押された感じで。評判もよく想定よりも多くの映画館が手を上げてくださいました。これってなかなかの珍事だなと思うんですけど」

深田晃司監督

深田晃司監督

後藤さん
「時期的にもカンヌ映画祭は狙ったのではないかと思ったんですが」

深田監督
「いやこれは偶然ですね。それを逆算して去年の秋のドラマのオンエアをしていたわけではないので。映画館に届けようということで、私もプロデューサーも盛り上がって再編集して英語字幕もつけたところでじゃあ一応見せてみようと。こんなこと言うと「嘘つけ!」と思うかもしれませんが、本当に今回のカンヌ入選は自分たちでも意外で、びっくりでした」

後藤さん
「世界にこのテレビドラマ発の映画が行く、嬉しいことです。クオリティ高く作っておられるので映像表現としてはドラマでも映画でも特に関係ないのではないかなという風に監督は思われているわけですよね?」

深田監督
「北村さんは映画やドラマを横断して出られていると思うんですけれども、自分は本当にテレビドラマを撮ったことがないのとテレビドラマを普段不勉強でそんなに見ていないというのもあって、テレビドラマの作法で撮るということがそもそもできないですし、そのつもりもなかったので、いつも通り作りました。繋いでみたら多分いつも撮っているものになるんだろうなぁと思いながら 。とは言え、連続ドラマ10話というのは初めての経験だったのでそれは凄く面白かったですね」

後藤さん
「北村さんにはこのオファーはいつ頃されたんでしょうか。これはオーディションですか?」

深田監督
「オーディションではないですね。キャスティングという形でお声がけさせていただきました」

北村さん
「お二人が決まった後ですよね」

深田監督
「たぶん後ですね。土村さんの浮世役はかなり難航したので。もしかしたら浮世役が決まる前だったかもしれません。 森崎さんと土村さんはオーディションで決めました。森崎さんは結構早いタイミングでこの人いいなと思っていたんですけれども。土村さんの浮世役はすごく難航してこの辺で決めなければクランクインに間に合わないというタイミングで決まったので、もしかしたら北村さんはその前に決まっていたかもしれません。脇田役はキャスティングの方と誰がいいかなとお話をして。原作にもある役ですが、原作よりも年齢設定はちょっと高いんです。この人が出てきたらかなわないなというような感じが出る人ということで、北村さんの演技は自分も1映画ファンとしてもちろん知っていてお願いしました」

北村さん
「初めてのお誘いでした。監督によっていろんな好みがあります。それまで僕はちょっと勉強不足で監督の作品を見ていなかったので、監督の作品を見てこういう世界観なんだなあと感じたところで、こちら側ができる想像力でなるべく肩肘張らないようにやろうというところはありました」

北村有起哉さん

北村有起哉さん

後藤さん
「北村さんとしては枠組みはドラマと映画ということを考えれば映画の深田組に入るという認識で来られたわけですね」

北村さん
「そうですね。現場の雰囲気とかもそんな感じでしたし。仕上がりを見ても映画でしたね」

深田監督
「今回に限らず出る時にはドラマとか映画とかそういった意識があるということですか?」

北村さん
「テレビのような映画もありますし。監督がどういう世界観を持っているかという所になると思います」

深田監督
「それは確かに大きいですね」

北村さん
「テレビ局のディレクターさんもどうしても撮りたい人は外で映画を撮っているわけですよね。僕なんかは節操なくなんでもやっちゃうところがあって」

後藤さん
「北村さんは最近映画『生きちゃった』を観させていただいたんですが、石井裕也監督ともつながりがおありで」

北村さん
「そうですね。ここ最近はご縁があって。メ~テレで『乱反射』という作品に出演しましたが、あれもテレビドラマを後から映画として上映したという稀有なケースなものなので」

深田監督
「あれは2時間のドラマが2時間の映画になって。石井裕也さんに監督をオファーしている時点でこういうことになるんだというのは想定されてきますよね」

北村さん
「あの作品の映画化も嬉しかったです」

後藤さん
「北村さんが演じられたキャラでそのシーンを持っていくんです。『生きちゃった』のストーリーはネタバレになるので言えないんですけれども、最低の役を最高にこなすという素晴らしさを感じました」

漫画原作を映画化するということ

北村さん
「漫画家さんには失礼かもしれませんが、とりあえず漫画みたいにならないようにというのはありますよね?」

深田監督
「そうですね。自分は漫画原作は初めてなんですが、漫画を読むのはすごい好きなんです。でも漫画を映像化するって色々な作品を観ていてすごく難しいと昔から思っていて。小説は文字だからこそ想像力が広がる感じがするんですけど、漫画ってどうしても映画と一見似ている部分があるんです。フレームがあって構図があって人物、ビジュアルがあって。映画を撮っている方が「こういうのが漫画っぽいよね」とわざわざはまりこみに行ってしまう印象があって、結果コスプレ大会みたいになってしまったりとか。どれだけ似せるかというところにエネルギーが行ってしまうとあまり映画としてはいいものにならないなと思っているので、いかにエッセンスとか一番大事な部分というところはちゃんと残しながらいかに批評的に映画言語に翻訳していくかみたいなことを意識せざるを得ないんですけど、俳優さんによっても演じるときに原作を読む人、読まない人いますよね。北村さんはどっちですか?」

北村さん
「僕は読まないですね。今回の映画は特に余白がすごくあって。余白の部分をストップウオッチで計ったら相当な時間になると思うんですけど、これがやっぱりすごいところなんです。漫画はページをめくることで余白を自分でコントロール出来てしまうじゃないですか。映画って早送りもできないし、2倍速も出来ない。分かりやすく説明的な心の声が全部ナレーションになっていたりとか、そういうことで見やすい作品が増えてきてしまっているけれど、こういう作品を敢えて突きつけられると時間があっという間だったりしますよね」

深田監督
「そうですね。余白は多いけど、幸い今回の作品に関しては4時間という長さはあまり意識せず、体感時間結構短めで観てくださっている方が多いですね」

北村さん
「最初テレビドラマとしてこれをやっていた時にはテレビドラマ業界的にはあり得なかったりするような感じなんじゃないですか?」

深田監督
「そうみたいですね。そこに結構ビックリしてくださった方が多いんです。地方局のメ~テレでの深夜ドラマなので。これがキー局のゴールデンタイムで流れていたらどうなっていたかわかんないですけど、深夜に流れて驚きつつも楽しんでくれて」

北村さん
「音量が壊れたのかなというくらい絞りすぎて」

深田監督
「いわゆる自分も認識している一般的なドラマで多いなというもの、例えば音楽やナレーションで感情や状況を説明するとか、寄りの絵を多くするとかそういった慣習は守っていなくて。別にルールを破ってやろうという反骨精神でそうしたわけではなくていつも通りやっているだけなんですけど。観た方で驚かれた方もいたようですが、ネット上での感想を見る限りはアップが少ないから見辛いよとか音楽がないからわかりづらいよという声はほとんどなかったので、作る側の思い込みってどこかであるんじゃないかなと。テレビだからこうしなきゃいけないというところがあるんじゃないかと思っているんです。まあこれがキー局のゴールデンで流れたらクレームが殺到していたかもしれないので(笑)。わかんないんですけど。大丈夫でしたよね?テレビで観たときも」

北村さん
「一昔前か二昔前かには割とこういう作品は普通にあったんですよ」

深田監督
「自分も1980年生まれだからそんなに詳しくないんですが、60年代、70年代には増村保造がテレビドラマを監督していたりしてましよね」

後藤さん
「そういった中でメ~テレさんのスタンスも素晴らしいですよね。監督のリズムを受け入れて。ここはこうして欲しいというような注文はなかったんでしょうか」

深田監督
「ほぼなかったですね。少しありましたけど、例えば撮影中にあまりにも寄りのカットが少ないということで不安にさせてしまった瞬間があったみたいで。「監督、ちょっと寄りが少ないのでは?」という風に言われたんですけれども、それもすぐ諦めてくれました」

後藤さん
「監督はその時なんて言ったんですか?」

深田監督
「「そうですかね、大丈夫じゃないかと思いますけどね」と言ったら「あ、そうですよね」と返ってきました。なのでのびのびとやらせてもらった感じです 。テレビドラマを他に撮ったことがないので分からないんですけど、主演の二人もオーディションできちんと演技を見させて選ばせてもらえて、自由にさせてもらったんだなと思っています。結果的にはメ~テレさんの深夜ドラマの中では結構いい数字になったみたいなので、結果オーライといった感じです」

後藤さん
「主演のお二人のキャスティングについてはかなり難航したんでしょうか」

深田監督
「森崎さんに関してはそんなに難航しなかったです。というのも4、5人お会いしてそれぐらいで森崎さんが来てくれて。もうぴったりだということになって決まったので。ベースとしてはどのキャスティングにも言えるんですけれども自分一人で演じなくて、共演者の人とちゃんとコミュニケーションをして演じられる方がいいなと思っていて。台本を読んだ時点で演技を決めてしまうのではなくて自分の中で台本を咀嚼してアウトプットできる人がいいなと思っていて、森崎さんはそれが出来ていましたし、外見も含め総合的によかった。浮世役は本当に難航するだろうなと初めから思っていて。プロデューサーともそう話していたんですけれども、やっぱり難航して。何が難しかったかと言うと浮世って男性の気をそそるようなことを言ったり、「私、辻さんに油断しているのかな」みたいなことを酔っ払って言ったりするんですよね。これはオーディションの時にやってもらったシーンなんです。多くの俳優さんが来て下さったんですけれども、男女の恋愛の駆け引きみたいなものが見えるような芝居をされる方が多かったんです。上手いけど恋愛ゲームみたいに見えてしまう。その中で土村さんの芝居は駆け引きも何もしていなくてその台詞を素直に心から発しているように聞こえたんです」

北村さん
「ずるく見えすぎちゃうおそれがあるっていう事ですよね。こずるい感じに見えてしまう危険性があるというか」

深田監督
「男女の駆け引きってお互い対等だから出来るって事がありますよね。恋愛ゲームみたいなものは男女が対等な関係であるから成り立つゲーム。浮世さんはそれが出来ない方なので」

北村さん
「天然ですよね」

深田監督
「なので男性も彼女を上の立場から守ろうと思うし、浮世もそうすることでしか生きてこれなかった。原作を読んだ時にもすごくそれが面白かったんですけれども。擬態みたいだなと思って。男性社会の中でそうすることでしか生きていけない女性がカエルが周りの色に合わせて無意識に色を変えて行くみたいになんとか合わせて生きていこうとする。そういう風に演じられる人が土村さんだったんです」

北村さん
「とんでもない女ですよね」

深田監督
「散々脇田にイジられまくりますけど」

後藤さん
「脇田はこの二人が地獄に落ちれば200万も簡単に取れるぞと」

北村さん
「浅はかな人ではないのでそうじゃないと思いますね。そうでなければふらっと来てまたふらっと去っていくようないろんな距離感で来ないと言うか。やりようによっては出来たかもしれませんが」

深田監督
「見ようによっては脇田も浮世のことが好きなのかなという説もありましたが」

北村さん
「なんか勝手な裏設定で。脇田の変な浮世への執着は何だろうと。例えばその肉体の障害とか精神的な偏りがあるとか勝手に想像して。想像することはセリフにも何も書かれていませんし、自由ですから。想像するとなんかちょっと見えてくるぞと」

深田監督
「そういうことは役作りをする時に考えるんですか」

北村さん
「あります。ちょっとしたとっかかりになったりとかして。原作監督関係なしで作っちゃおうと」

深田監督
「そういうのいいですね。監督としてはそういうのはありがたいです」

北村さん
「なんかこう寂しげな。なんでこいつこんなに寂しいんだろう。というようなそういうことを想像するのがなかなか楽しかったです」

後藤さん
「深田監督は俳優さんには役の背景とかそういったことは話されないんですか?」

深田監督
「聞かれれば話したりするんですけれども、基本的にはこちらからお伝えするということはあまりないですね。特に背景とか生い立ちとか。これはいろんなやり方があるので、自分のやり方が絶対正しいとは思っていません。脚本を書くときによくキャラクターの履歴書を作りなさいというのが一つの方法論としてあったりするんですが、自分はあれがちょっと苦手で時々そういうことを突き詰めているドラマとかを見ると履歴書通りにしかキャラクターが動かないなと思う時があって。でもそんな履歴書通りに人は育たないですし、そんな背景を逆算できてしまうということはなんかどこかで人間の奥深さみたいなものを殺してしまっているような気がして、本当にフィクションの存在になってしまう。あまりにもキャラが立ちすぎてしまうのは自分としては警戒していますが、ただ俳優さんが役作りのために考えることについてはそれぞれのやり方で自由だと思っています。キャスティングしたりオーディションで選んだりという時には、自分の中ではその人の考えていることとかその人の生きてきた人生というのもひっくるめてキャスティングしているつもりです。脚本に書かれているそのフィクションな役と俳優さんが混ざり合って、自由に新しい個性を作ってくれた方が面白いと思っているので、聞かれれば答えますけれども、聞かれない限りは積極的には話しません」

両方観たくなる映画版とドラマ版の違い

後藤さん
「他の配役もキャスティングが素晴らしいです。宇野祥吉さん、石橋けいさん、福永さん。やっぱりキャラがはまっている感じですね」

深田監督
「原作のファンの方にも喜んでいただけて。脇田さんはこの辺の人たちとはほとんど絡まないんですよね。宇野さんは一回だけ。しかもドラマ版は絡んでいるんですが、映画版でカットしちゃったんですよね」

後藤さん
「この映画版というのは結構ドラマ版をカットしているんですか?」

深田監督
「ドラマ版を見て映画版を見たという方は気がついたと思うんですが、前半を結構カットしています。ドラマ版が映画にちゃんとなるのかシビアに判断したくて、CMとかをカットしてとりあえずそのままつないでみたところやっぱりそれだけでは映画になっていないなと言うのが率直的なところで。ドラマは23分ごとに山場を作って次に繋ぐということを繰り返しています。それをただ一つにしても、とても単調になってしまう。メリハリがない構成になってしまったので、意味合いが反復しているシーンとかはカットしました。逆に23分の縛りの中で使いたかったけど、使えなかったシーンを足したりしていったら結局プラスマイナスゼロで。ほぼドラマと同じ長さになったんですけれども」

北村さん
「水道屋さんのシーンはなくてもあまり気にならないんだなと思って。僕が台本を読んでいたからというのはありますが。これは絶対あるぞというようなところでブツッと切れて。ちょっと後のシーンで「またあんな目にあうぞ」 みたいなことを辻に言われる。ああもうこれでいいんだみたいな」

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深田監督
「この話はドラマ版を見ていない人には何のこっちゃという感じなんですけれども。ドラマで言うと第2話。結構山場のシーンで、映画の方でもちらっと残っているんですが、水道屋さんが訪ねて来てヤクザの取り立てが来たと思って浮世が怯えているんですが、ただ単に忘れ物を取りに来た水道屋さんだったというところですね。ドラマ版では実はこの先があって。水道屋さんにその後浮世がまた手をぎゅっと握って道具を返してしまっているんですよね。それを水道屋さんが浮世をデート誘い、浮世は断りたいけど断れないまま喫茶店まで行って辻に助けを求めるというシーンがあるんです。それをカットしたんです。浮世の男性を無意識に期待させてしまうようなキャラを示すために入れたシーンだったんですけれども映画版にしたときにそこまでしなくても伝わるなあというところがあったので、カットしました。連続ドラマの構成としてはちゃんと成立しているシーンなんです。ぜひドラマ版も DVD が出ているので見ていただきたいです。 奥野瑛太さんがすごくいいです」

後藤さん
「映画版にした時には音も監督は相当こだわっていらっしゃいますよね」

深田監督
「音は今回が一番時間がかかりました。手直しというレベルではなくてほぼ一から作り直しましたね。ドラマの時にはオンエアまでの時間が限られているというのがあるので、限られている時間をどう使うかとなったときに、とにかくちゃんとクリアにセリフを聞かせるように音は作っていたんです。生活音の中でも見られるというのを前提にしているので。だから、そこまで効果というのは追い込まないでセリフがきちっと聞こえることを重視して作っています。映画の場合は映画館の中で聞くので、ドラマの時の音のままだと音が薄くなってしまいます。効果音を増やしたり、セリフとのバランスも逆にセリフが立ちすぎないようにちょっと調整したりとかアフレコとかもさせてもらったりしたんですが、ここが一番時間がかかりました。テレビと映画館でこんなに違うものなのかと。気楽に劇場版を作るとか言って大変になっちゃったなと思いました」

後藤さん
「音楽の量はどうなんでしょうか?」

深田監督
「ドラマ版もすごく少ないんですけれども、それよりもちょっと少ない感じです。もちろん付け足したところもありますね。浮世が駅前でベンチで寝ていて辻に声をかけられて逃げるところ。あそこでちょっとリズミカルな音楽が流れるんですけれども、あれは1話目と2話目の境なんです。なので1話目のおわりで音楽が切れて2話目は音楽なしから始まるんです。1話目と2話目の境を繋ぐために音楽を入れたりとかそういう工夫をしています」

後藤さん
「冒頭のシーンからパワハラ問題とか女性の立場に関することの意見が結構この映画には象徴的に出されていったシーンがいっぱいあっていいなあと思っているんですが、阿部純子さんが出てくる公園のシーンがありますよね。辻さんがビンタされるところ。あそこは浮世のような人がいてもいいんだと感じられる場所ではあるんですが、もともと原作からあるんでしょうか?」

深田監督
「これは原作にもありますし、絶対に削ってはいけないというシーンです。むしろ原作のそのシーンをよりフォーカスして転換点になるように入れ込んだというところもあります」

観客から
「ドラマ版よりも余白があって、観客に考えさせるために再編集された感じなんでしょうか」

深田監督
「そうですね。ドラマ版の時には各話で山場みたいなシーンを想定しないといけないということと、もちろん一気見される方はDVDやネットで見られるんですけれども、基本的にはテレビで一週間空けて観るということを想定して情報量を汲んでいくというのがあるので、一週間経てば2、3割は忘れるだろうということを前提にして情報を入れていくんです。一気見だとそれは覚えていられるのでカットしていたわけですね。一番分かりやすいシーンで言うと脇田の事務所で「何があったのか聞かせてくださいよ、生きるとか死ぬとかそういう話が大好きなんだ」と言って辻と浮世の馴れ初めを聞くというところでドラマ版の方だと回想シーンを入れているんですね。これが唯一メ~テレさんから回想シーンを入れて欲しいと言われたというところです。1話目の出来事からもう3話目なので踏切の出来事をフラッシュバックしないとさすがに分かりづらいんじゃないかということで、映画で自分は回想シーンを入れたことはないんですが、「確かにそりゃそうだよな。3週間前の話だしな」ということで入れたんですけれども、劇場版でカットしています」

観客から
「お二人から見て浮世はどうなんでしょうか?好きか嫌いでもいいです」

北村さん
「いや、多分僕はダメでしょうね。自分がどうなっちゃうのかというのを想像しちゃうと怖いですよね。多分惹かれます。だってそういう話ですよね」

深田監督
「そうですね、周りの人間がみんな惹かれていく話ですから。でもきっとイライラする人もいるだろうなぁと思って作ってはいるんですけど、原作を読んだときから自分はイライラはしていないんですね。だからドラマオンエア時に『本気のしるし』と検索してみると関連ワードで「イライラ」というのが出てきて、本当に夜中にみんなイライラしながら見ているんだなと知った感じで。イライラしながらつい見続けてしまう人が多かったですが、たまに脱落する人もいたようです。自分は多分惹かれるタイプだと思います」

北村さん
「今聞いていて思ったんですけれども、隙だらけって隙を見つけられるかどうかも男次第でしょう?」

深田監督
「それを隙かどうかというのを判断するのは勝手な男性目線ですよね。だから阿部純子さんに思いっきり辻は引っぱたかれるんです。あのとき、自分も引っぱたかれたような気持ちになる人もいるのではないでしょうか」

観客から
「映画の中にたくさん「すいません」が出てきて自分でも沢山すいませんを使っているなあと、改めて気をつけないといけないなと思いました」

深田監督
「そういうところからすると、自分と浮世は似ているところがあるんだなあと思いますね。すいませんって口癖みたいに言ってしまう。アルバイトしている時とか「すいません」って言うと「本当にすいませんって思ってないだろう!」って言われたりとか怒られるとかで負のスパイラルに入っていくというのはよくありました」

北村さん
「でも英語で言うアイムソーリーじゃないでしょう?「すいません」って」

深田監督
「翻訳の方はかなりいろんな表現で工夫して翻訳をしてくださったようです」

北村さん
「僕もよくサービス業のアルバイトをしていて「すいません」と言ってテーブルを拭いたりしたわけです。それはお客さんにとっては君は何も悪いことはしてないって話ですよ。当然のことをやってるわけじゃないかと。なんか面倒くさい客の気分になったりもするわけです。「すいません」という言葉は何かスーッと入っていく言葉だったりしますよね。辻は「すいません」と言われてかなりカチンと来てましたもんね」

深田監督
「でも言っちゃうんですよね。口癖になっちゃうから。口癖になっているのが分かるからまた周りに怒られるんですよね。土村さんのうまい所は本当に申し訳なさそうに言うんですよ。それがまたいいところなんです」

北村さん
「そこは監督の大事なラインでしょう」

深田監督
「「すいません、すいません」ってあんなに言いながら毎回本当に申し訳なさそうで男性が守ってあげなきゃという気持ちになってしまう。石橋けいさんのセリフで「自分が優位に立てる女が欲しかったの?」みたいなものがありますが、核心を付いているなって思いますよね」

観客から
「今回自分の脚本ではなく原作ものだと思うんですが、自分のカラーを出してはいけないとかそういった制約はあったんでしょうか」

深田監督
「漫画原作は初めてなんですけれども、原作ものは初めてではないんです。3回目なんですね。フランスのバルザックの原作ものと平田オリザさんが原作の『さようなら』この二本です。自分が撮りたいと思って選んだ作品なのでそんなにやりにくさみたいなものはないんですが、原作ものをやるときに意識するのは原作を好きでやるので、原作のエッセンスをちゃんと出していけるかという所と同時にどれだけその作品に対して批評的になれるか。今回で言うと原作にあるジェンダーへの問題意識です。20年前に青年誌の文脈でこれを書いていたというのが凄く面白くて、だからこそ2019年に映像化するということにやりがいがあるんです。そこをきちんと自分の考えでフォーカスしアップデートしていくということができないといけないかなと。ただ単に模写すればいいというわけではないですし、コスプレ大会みたいになるのも違いますし、そういったところは気にかけているところですね」

観客から
「森崎さんは王子系のキャラだと思うんです。後半はちょっと変わっていくんですが、最初の見た目は綺麗で優しい。森崎さんにしたという決め手というのが先ほどお話ししたもの以外にあればお話ください」

深田監督
「森崎さんについてはオーディションに来てくださるよりも前は『レディプレイヤー1』しか見ていなくて。その作品だと王子のイメージということもないと思うんですけれども。とにかくスピルバーグと仕事をした人だというところがミーハーにすごいなと思っていて。3つのシーンをオーディションでやっていただいたんですね。浮世と出会うコンビニのシーンとファミレスで酔っ払った浮世から油断しているのかなと言われるシーン、そして浮世に怒鳴る港のシーン。総合点がすごい良かったなと思っていて。まず一つは単純に見た目ですよね。原作の持つ辻のイメージに近かった。あと三つのシーンをやってもらって、仮面をかぶってよそよそしい感じから激昂しているシーンまで自分の言葉で話せる人だという印象を受けました。外見的な部分とそういった演技力的な部分というのが噛み合っていて。ホームレスになった所の芝居も驚きました。あそこの森崎さんの芝居は本当にいいですね。素晴らしいです。あそこまで自我みたいなものを捨てて、しかも甘さみたいなものもいい感じに残っていて。本当にいい俳優さんだなあと思いました」

北村さん
「監督とも話したんですけれども、僕の森崎さんに対するイメージもちょっと違ったんですよね。「強!」って思ったんですよ」

深田監督
「北村さんとの最初のシーンがマンションの下で浮世が連れて行かれるところなんですよね。脇田が辻に対して膝蹴りをするシーン。あの走りすごかったですよね」

北村さん
「めちゃめちゃ速いなと思って。ブワってきて。声も大きいし、こっちの輩と3対1なのに結構無鉄砲な感じで来るから。あ、こういう人いそうだなぁと二股とか三股とかやりながらもなんかどっか満たされていないような。すごくずる賢くもなさそうだし、何かこういうサラリーマンいそうだなあという感じでしたよね」

深田監督
「そういう点でも辻と浮世というのは似た二人なんだなあと思うんですけども、唯一想定していなかったのが最初のほうのシーンで石橋けいさんとのベッドシーンの後、森崎さんは上半身裸なんですけれどもめちゃくちゃよい筋肉で。あれはオーディションでも気づけなかった。脱いでもらったら凄かったっていう(笑)」

後藤さん
「最後にお二人から一言ずつお願いします」

北村さん
「まだまだマスクが取れない時期が続きそうなんですが、劇場があれば必ずお客さんは来てくれる。僕は演劇とかもやっている人間で、昨日も浅草の劇場で朗読劇をやっていたばかりなんです。やっぱりこういう場所は僕らにとっては大事な場所で今年それをつくづく思いました。これからも灯火は消しちゃいけない。少しずつこういった地道なやり方で 今後とも邁進して皆さんに少しでもいろんな作品を映画館で見て頂きたいと思っております。本日は誠にありがとうございました」

深田監督
「北村さんの話の流れから行くとコロナ禍になって多くの映画館が休館せざるを得なくなって大変だった中でミニシアター・エイド基金というクラウドファンディングを濱口竜介監督や他何人かとやっていたんですね。おかげさまで3万人近い支援者から3億3000万円ぐらい集まったんですけれども、おそらくこの中にもその基金に参加していただいた方がいらっしゃると思うんです。この場を借りてお礼を申し上げます。本当にご支援ありがとうございました」

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