風は思いを乗せて(映画『風の電話』モトーラ世理奈さん、諏訪敦彦監督インタビュー)
2020/01/29
岩手県大槌町のガーデンデザイナーがもう一度死別した従兄弟と話したいと願って自身の庭に設置した「風の電話」をご存知だろうか。
様々な場所からこの場所を目指す人がいる。
震災で家族を失い、伯母と広島で暮らしていた高校生のハルはヒッチハイクで旅に出る。
1月24日公開の『風の電話』。諏訪敦彦監督、主演のモトーラ世理奈さんが来名。作品撮影について伺った。
Q.作品を撮った経緯を教えてください
諏訪監督
「実は自分の企画ではない作品というのがこれが初めてなんです。企画・プロデューサーの泉さんが発案者で、彼は「風の電話」のことを知ってぜひ映画化したいと情熱的に思い、企画を立ち上げ、僕に監督のオファーが来ました。それがスタートです。僕は「風の電話」のことを知らなくて、話を頂いて初めて知って。何もかも初めてのことでした。というのは持ち込まれた企画を監督することも、「風の電話」という題材自体も今までに僕がやってこなかった題材で、どうすればいいんだろう?という戸惑いもあったんですが、逆にこれはどうすれば撮れるというのがすぐにわからなかった分、自分としては興味が湧いたというか。とりあえずやってみようということで始めました」
Q.モトーラさんは「風の電話」の存在は知っていましたか?この作品への参加のきっかけはオーディションだと伺いました。どんな思いでオーディションを受けられたのでしょうか。
モトーラさん
「私も「風の電話」はこの映画で初めて知りました。こういう映画のオーディションがありますと資料をもらって、台本を読んでそこで初めて「風の電話」を知りました。台本を読んでいる途中で辛くなってしまって。私は家族が亡くなってしまう話や親子が離れ離れになる話が苦手で…。小さい頃から自分の中で一番辛くなってしまう話なんです。私の家族はみんな元気なんですが、今回も台本を読んでいたら辛くなってしまって。やりたくないな、出来ないなって思いながら受けたんです」
諏訪監督
「本当は来たくなかった?(笑)」
モトーラさん
「そうですね…(笑)」
Q.モトーラさんをハル役に決めた決め手は何ですか?
諏訪監督
「一次オーディションの時はお会いして少し芝居を見るという感じだったんですが、僕の中ではその段階ですでに決まっていました。もしかしたら会う前から決定していたかもしれません。この人しかいないなという予感があったんです。モトーラさんの今までの作品を全て観ていたわけではないですが、オーディションに来るということで資料を見た時に、ハルはこの人だなと僕の中では決まっていました。実際お会いした感じも思ったとおりで、確信しました。この映画は普通の映画の撮り方ではなく、台本がないので、台本がない時にどう芝居してもらえるかを確認したくて二次オーディションにも来てもらいました。その時が即興芝居をやるのが初めてだったみたいですが、芝居は素晴らしかったですね。佇まいとかその場所にいる姿に思わず視線が引き付けられてしまうんですね。オーディションの時は何か聞いてもすぐ答えが返って来なくてすごい時間がかかって。でもそれを待っていることは全然退屈ではなくて。この人の中に流れている時間というのがあるんだと分かったし、とにかくその間も彼女を僕らが観ていられるということは映画にとってとても大事なことだし、僕は彼女でなければこの映画は撮らないというぐらいの気持ちでした」
Q.主演以外のキャストも豪華ですが、どういう理由でキャスティングされたんでしょうか?
諏訪監督
「モトーラさんが最初に決まって、途中で会う人は誰にするかを考えました。結果的に渡辺真起子さん、三浦友和さん、西島秀俊さんは僕の過去作の主演で言ってみれば同窓会みたいな感じで(笑)。僕も過去の映画を振り返るという意味で彼らにいて欲しかったんです。皆さん20年ぶりぐらいなんです。ハルという人を見守ってほしい、一緒にいてほしいという気持ちが大きかったです。西田さんは泉プロデューサーのアイデアで、初めて出演して頂いたんですが、山本未來さんもそうですし、初めての出演の方も面白かったですね」
Q.モトーラさんはそういった方々と初共演ですが、芝居してみていかがでしたか?
モトーラさん
「衣装合わせの時に初めてお会いしたんですが、緊張しました」
諏訪監督
「現場で緊張しているようには見えなかったけど」
モトーラさん
「そうですね。緊張したら芝居が出来なくなってしまうので」
諏訪監督
「堂々としていました。貫禄がありました(笑)」
モトーラさん
「現場にいるときは特に三浦さんと西田さんは撮影期間が短かったので、あまり深くお話をするというよりはカメラが回ってない時もハルと三浦さん演じる公平や西田さん演じる今田の距離感でいました。撮影中は私としてではなくハルとして会っていたんだなと思います。特に西島さんとは撮影が一緒の期間が長かったんですけど、一回も西島さんと話した記憶がなくて森尾と多分話していたんだろうなと」
諏訪監督
「撮影が終わった後、皆さんが口を揃えてモトーラさんを絶賛していました。あの年でこの「受け」の芝居が出来るってすごいと」
Q.撮影は順撮りですか?
諏訪監督
「ほぼそうです。映画の中に残っている部分だけなら順撮りになっています。広島で始まって、「風の電話」でクランクアップです。本当に旅している感じでみんな出番が終わってクランクアップしていくんです。芝居し終わって、「お疲れさまでした!」となるとそこにハルが取り残されるわけです」
Q.ハルを演じるにあたって、どう役にアプローチされたんでしょうか?
モトーラさん
「震災で家族を失うまではハルはどこにでもいる女の子で、友達がいて、学校に行っていた普通の女の子だったんだよなと思って。私も普通の女の子だから一緒だなって。ハルも私も家族が好きだし、そう思ったらハルを演じるにあたって、そんなに難しく考えることなく演じることが出来ました。広島でハルが生活している家に行って広子おばさんに会って、ハルが今どんな生活をしているのかを感じて段々ハルが出来上がっていた感じです」
Q.西田さんの部分は全て西田さんにお任せだったと伺いました。
諏訪監督
「西田さんとは衣装合わせでご挨拶して、こういう内容ですと軽く打ち合わせをしました。西田さんは福島出身で、福島に対していろんな感情があって。それでこの映画を引き受けてくださったんですけど、言いたいことがあるんですよね。それを表現してくださればいいと思って。だから完全に即興です。しかも「よーいスタート!」を言う前に始まっていました(笑)。そのままカメラは回しっぱなしでした。僕が高校生の頃、西田さんが脇役でNHKのドラマに出ていたのを観ていたと西田さんにお話したんです。『新・坊ちゃん』という坊ちゃんのドラマで、その時の芝居がすごくて。高校生ながらこんな俳優がいるんだって驚いた記憶があるんです。今回もやっぱりすごいなと思いましたね。僕から西田さんにお願いしたのは一つだけです。何か歌ってくれませんかと。「じゃあ新相馬節を」と言って歌ってくださいました。警察日記の話は西田さんの本当の話なんです」
Q.難民が出てくることはこの作品の本筋からは少し離れているかもしれませんが、入っていてよかったと感じました。
諏訪監督
「意図的に見えて欲しくないなとは思っているんですが、これは脚本を一緒に書いてくれた狗飼恭子さんの第一稿が基になっています。第一稿は現場には持って行かないんですが、話が全て書かれたものなんです。作品の流れはこの第一稿から変わらないんですが、そこに森尾が難民の人達と繋がりがあってという設定が出てきて面白いなと。それで東京芸大の同僚で、演劇人の高山明さんが企画している東京修学旅行プロジェクトというものがありまして。そのクルド編のガイドが映画に出てくるアリーさんという方でした。彼らは解体の仕事をしていて、クルド文化は石の文化なので、土を掘って出てきた石を見て「これは東京大空襲の時のもの」とか全部歴史が分かるらしいんです。実際にはそんなクルド人が3000人ぐらい日本で暮らしています。しかも正式な滞在許可はなくて、仮放免という身分で暮らしていることを初めて知りました。ヨーロッパでは難民問題は目の前にある問題なのに、日本にいるとそれが見えない、知らない。でも普通にいる隣人なんだという感覚は大事だなと思って。「風の電話」は旅の映画だからこういう日本も切り取ってみたいと思ったんです」
Q.あのシーンのクルド人は役者ではないんですね?
諏訪監督
「あのシーンだけはフィクションでは出来ないので彼らに出てもらいました。モトーラさんにも事前に会ってもらって一緒に話してもらいました。あのシーン自体は1時間カメラを回しっぱなしにしていました。彼らの話は本当なんです。福島にボランティアに行って、突然入国管理局に収監されてしまっていつ出てくるか分からないということも本当なんです。西島さん、モトーラさんだけがあの場所でフィクションの人で、大変だったと思います」
モトーラさん
「撮影前に家にお邪魔して話もしたんです。撮影では一時間カメラが回りっぱなしの中話していたんですが、ネスリハンちゃん達の話には時折「自分もそれ分かる!」というような話もあり、ハルとしても元々のハルが戻って来た感じでもあるので同世代での会話は楽しくて、別れる時は悲しかったです。それまで私も日本にクルド人が3000人もいるとは知らなかったですし、クルド人自体のことも知らなくて。会って話してみたら私自身もハーフなので共通する話題もあって普通に話せました。日本人の中には外国人のことを人によってはこわいなと思っている人もいるじゃないですか。私はハーフですが日本で育っているし、日本人という意識が強いんですが、ハーフというだけで珍しいものを見るように退かれることが多くて。私は普通に日本人なんだけどなって思うんです。今でもたまにそう思うんですが、外の人に対して差別意識を持っている人がいるなと思っていて。ただその人達も同じ人間で、通じるところがあると思うんです。クルド人の方達がこうやって日本で同じように暮らしていることを私はこの映画で知って、彼らのことが同じ日本で暮らしている人間として、この映画を通じて沢山の人に伝わればいいなと思っています」
Q.印象的な女性の声が映画の中で流れてくるシーンがありますが、何か意図がありますか?
諏訪監督
「それは音楽担当の世武裕子さん作曲です。彼女とは古い付き合いで、いつか一緒にやりたいねと言っていました。世武さんは日本では数少ない映画音楽の教育をフランスで受けた方なんです。だから映画音楽のプロで、今回は自由にやっていただきました。ただどこに音楽を入れるかという打ち合わせだけをして別れたんです。「何か使いたい楽器はありますか?」と聞かれたんですが、特にないと言って別れてしまって。後から出来れば人の声を使ってほしいと思ったんですが、それは世武さんには伝えませんでした。おまかせしたんだから黙っていようと。上がってきたデモ音源を聞いたら世武さんのコーラスが入っていて。声を使ってくれたんですね。よかったなと思って。あの声がずっとはるに寄りそってるという印象を作っているんですよね。世武さんも音楽としてやりたいことが出来たと満足そうでした」
Q. “ハル”がさすらうことで日本の様々な場所の今が見えた気がします。
諏訪監督
「彼女の場合、目的のある旅ではないわけです。どう生きていいかも分からない。そういう旅の場合、道中が大事なわけです。その時に何が見えてくるかというとその人の存在そのものなんです。彼女がさすらうことで日本を見たかったんです。今回映画を通して日本は傷だらけだなと思いました。それは広島と福島という被災地だけではなくて、地方に行けばコミュニティは壊れていてお年寄りしかいない、人が歩いていない町もあるし、傷ついていると。被災地もきれいにはなってきていますが、妙に人がいない。しかしカメラで撮っても特別なものや傷が映るわけではないんです。8年という歳月の中に傷は埋まってしまったんですね。それはなくなってしまったのかというとそんなはずはないわけです。映画の中で重要なのはハルが昔の同級生の母親に会うシーンです。あのシーンには明らかに8年という歳月が現れます。8年経てば傷は癒えるのか。そういう面もありますが、あのシーンで現れているのは8年経ったことでより大きな傷が生まれるということだってあるということです。死んだ自分の娘が大きくなった姿が分からない。ハルを見たことで自分の娘が大きくなっていたらとまた傷が生まれます。8年経ってあまり報道もされず、忘れられていっていますが、傷は消えていません。映像で人の悲しみや傷が映ることは多くありませんが、映画になら出来ることはあると感じてから僕の『風の電話』が見えてきました。その原動力になったのはモトーラさんに出会えたことです」
まるでドキュメンタリーを観ているような感覚になるのは役者の思いに嘘がないから。
ハルになって旅をするモトーラ世理奈の家族への溢れんばかりの思いにあなたは何を思うだろう。風の電話は今日も思いを風に乗せていく。
映画『風の電話』http://www.kazenodenwa.com/は1月24日(金)よりミッドランドスクエアシネマ他で全国公開。
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