
ここは地球に愛される農場(映画『ビッグ・リトル・ファーム 理想の暮らしのつくり方』)
自分達で一から作る生活というのは軌道に乗るまでがとても大変だ。
「自然と共存する農場を作る」
妻の夢に共感した夫は投資家たちの力を借りながらロサンゼルスから1時間のところにある広大な場所を手に入れた。しかし、土地は荒れていて全く生物が育たない。そこから時間をかけて農場を作り上げていくことは簡単なことではなかった。
映画監督だった夫のジョン・チェスターはその8年の軌跡を逐一記録として映像に収め、一つのドキュメンタリー映画を作った。それが映画『ビッグ・リトル・ファーム 理想の暮らしのつくり方』だ。
きっかけは一匹の保護犬
ロサンゼルスのアパートに住んでいるジョンとモリーの夫妻は殺処分寸前の犬を保護し、トッドと名付け、一緒に生活し始めるが、トッドの鳴き声が原因でアパートを追い出されてしまう。どこに住んでも近所迷惑になってしまい、料理家の妻モリーは、それを契機に本当に体にいい食べ物を育てるという夢を持って夫婦で郊外へと移り住むことを決心する。しかし、そこに広がっていたのは200エーカー(東京ドーム約17個分)もの荒れ果てた農地だった。
師匠の教えを信じて
大きな場所を手に入れ、荒廃した土地を有機農法の一つであるバイオダイナミック農法を用いて再生し、循環させる農業を営む計画を立てていた妻のモリー。自分たちで石ころを排除したり、地下水を汲み上げて灌漑設備を整えたりしていたが、なかなかうまくいかず、バイオダイナミックスの第一人者であるアラン・ヨークに助言を求める。死んだ土を生き返らせるというアランの言葉を信じてモリーは一度植えた植物を伐採し、土と一緒に混ぜ合わせる。鳥や豚、羊を飼い、それらの糞を葉や草と混ぜ、大量のミミズに分解させて自然の肥料にしていく。地面を覆う被覆作物を植え、それを家畜が食べ、糞をし、それを肥料に果実を育てる。モリーはアランを師匠と仰ぎ、アランの言葉を信じて突き進んでいく。本当に出来るのかと半信半疑な気持ちで手伝いながら夫のジョンは少しずつ変化していく農場を映像に記録していった。
自然の摂理に向き合うために観察する
一つ何かが順調に進んだと思えば何かがうまくいかないということの繰り返しの数年間。
果実を食べる鳥たち、樹木を枯らすカタツムリ。家畜を食べにやってくるコヨーテ。人間が駆除して一旦は収まってもまた同じことが起こる。命を大切にしようと犬のトッドを助けたはずなのにコヨーテを撃ち殺してしまったジョンはどうすればうまく共生できるのかを改めて考える。モリーとジョンは動物たちや鳥たちを観察し、カモはカタツムリが大好きであること、コヨーテは土地を荒らすホリネズミも食べることに気がつき、次第に農場内の食物連鎖の流れをうまく変えていくことに成功する。
生物達はどうすればよいのかを人間に教えてくれていたのだ。
干ばつや突然の水害を被りながらもジョンとモリーは自分たちと同じ考えを持つ仲間たちに支えられ、8年目には豊潤な土地から生まれた果実を出荷する大きく豊かなアプリコット・レーン農場を経営していた。
これからも地球で生きていくために
地球で生きている生物の一つとしてこれからも長く持続可能な社会を作る。モリーの「自然と共存する農場を作る」という夢は世界で今推奨されている活動スタイルだ。サスティナブルという言葉を聞いたことがあるだろうか。サスティナブル(英語: sustainable)とは、人間の活動が自然環境や資源に悪影響を与えず、かつその活動を維持できる様を表している。人間の利益のために生態系を無理矢理歪めることをせず、生態系の循環の中に人間がうまく入り込み、自然の流れに合わせて自分達の食糧を得ることが理想の姿だ。
その正しい循環を得るには確かに時間はかかる。だが人間がしっかりと地球の生態系に向き合い、取り組めばちゃんと地球は応えてくれる。
地球に優しい生き方をモリーは目指し、ジョンはそれに共感して映画にし、世界に広めた。アプリコット・レーン農場には世界中から見学者が訪れるという。
ジョンとモリーのように実践するのはすぐには難しいが、小さなことから、身近なことから自分に出来る活動をしたいと思った。少しでもゴミをなくす、電気を節約する、人に優しくする。
みんなが少しずつやれば小さな力も大きくなる。
ジョンとモリーの活動を通して自然や生き物との本当の共生の意味を教えられた気がした。
映画『ビッグ・リトル・ファーム 理想の暮らしのつくり方』http://synca.jp/biglittle/は現在全国順次公開中。
3月28日より愛知 伏見ミリオン座、ミッドランドシネマ名古屋空港、MOVIX三好で
4月25日より三重 伊勢進富座で公開。岐阜CINEXでも順次公開予定。
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