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第30回CINEX映画塾 映画『長いお別れ』中野量太監督トークショーレポート

第30回CINEX映画塾が6月30日岐阜CINEXで開催された。30回目の作品は『長いお別れ』。

直木賞作家・中島京子による同名小説を『湯を沸かすほどの熱い愛』の中野量太監督が脚本・監督した作品だ。認知症になった父とそれを支える家族の7年間が描かれる。

上映後のトークショーには『湯を沸かすほどの熱い愛』に続いて中野量太監督が登場。
映画制作についてじっくり語ってくれた。(聞き手:後藤岐阜新聞東京支社長)

中野監督
「はじめまして。そして3年前『湯を沸かすほどの熱い愛』の時も来てくださった方がいらっしゃるということでその方にはお久しぶりです。中野量太です。数週間前にお声をかけていただいて、前回も楽しかった思い出があって「行きます」と返事しました。なかなか映画を観た後にトークショー45分ってないんですよ。こんなに話せるところはなくていっぱい話して楽しかったなあって思ったのでまた来ようと思って来ました。観終わった後なので沢山話していこうと思います。よろしくお願いします」

後藤さん
「前回のトークショーの時に、あんなに素敵な宮沢りえさん、オダギリジョーさん出演の映画を撮って、アカデミー賞もお獲りになって。いろんなメジャーからオファーがかかって、少女漫画映画を映画化したりとか多大なギャラをもらう映画作家になるんじゃないかという話をしたら「僕はそんなことはありません!」というお約束をしていただき、今回『長いお別れ』を持ってきていただきました」

中野監督
「少女漫画原作で来なくてよかったということですよね(笑)」

後藤さん
「今回びっくりしたのは監督はオリジナル脚本に前回もこだわっておられて。『チチを撮りに』もそうだったですよね。ちょっと意外な気がしたのは原作ありきで来られたことですが、この作品を作るきっかけを教えてください」

中野監督
「確かに『湯を沸かすほどの熱い愛』の後は色々オファーが来まして。少女漫画原作もいっぱい来ましたが、やっぱり自分の中でオリジナルで作っていくというこだわりがあったので、お断りしていたんです。この作品も「こんな原作がありますがどうですか?」とお話をいただいて。最初は嫌だったんですけど、とりあえず読んでみるかと読んでみた作品なんです。僕が映画を作る上で一番心がけているのは今撮るべき映画、今やらなきゃいけない、見せなければいけない映画というのを撮りたいという思いがあって。読んでみると認知症がテーマになっている小説だったんです。僕の祖母も認知症でした。認知症ってこの後誰もが関わる時代が来るということがわかっているもので、だからこそ、今これをやらなきゃいけないと思ったんですね。それに認知症が大変で介護する方も大変だということはわかっていることじゃないですか。そうじゃないことがこの作品には書いてあったんですね。僕自身も薄々気がついてはいましたが、初めて知った体験というか認知症ってこういう風な捉え方があって、介護する方も介護される側から受け取るものが沢山あるんだなということを教えられて。だからこそ今撮らなければいけない映画だと思ったんですね。もしこの小説が認知症って大変だよってことばかり書かれていたら僕は絶対に映画にしていないんです。だからこの作品を撮ると決めた後もプロデューサー達と今の時代の最新の認知症映画を撮ろうと決めて取り組みました」

中野量太監督

中野量太監督

 

後藤さん
「今撮らなければいけない映画を踏まえて撮られたんですね。私の母も実は認知症でして。認知症に対する知識がないまま私は母に接してしまったんですが、この映画を先に観ていれば接し方も変わったのかなと思うくらい、認知症は見えないところで日々進んでいるんだなということも目の当たりにすることを踏まえて観させていただきました。それをとりまく家族の方を含めた前向きな監督らしい視点の映画が全国の方に届けられたのではないかと思います」

中野監督
「決して認知症が大変じゃないよとか、こんなに明るいことばっかりだよと言いたいわけじゃないんです。絶対に大変だし、苦しいんです。でもこういう部分があるんだよということを伝えなきゃいけないという思いがありました。取材とかでも色々進めていく中でまた新たに知ることがあって、認知症になったら人が変わってしまうという思いがあるかもしれませんが、壊れている部分はほんの数パーセントだけで、95%ぐらいは全く変わってはいないんですよね。昔だったら家族を忘れてしまうと「どうして忘れてしまうの?」という感じでしたが、今は認知症は病気であると。妻や子供の名前を忘れることは当たり前だと。でもこの人が私にとってきっと大切な人なんだよというところは消えないんです。名前はわからなくても95%ぐらいはそのままの人なんだからと。「記憶は失っても心は失わない」という言葉を聞いて、これがこの映画のテーマだとわかったんですね」

後藤さん
「今回素敵だなと思うのはキャスティングですね。日本映画を支える最後の大物俳優山﨑努さん、今話題の蒼井優さん。演技力が研ぎ澄まされた女優さん、竹内結子さんも素晴らしいですし、松原智恵子さんはこの映画部にも『ゆずの葉ゆれて』という映画で来ていただいているんですが、岐阜県の池田町のご出身でとてもチャーミングな方なんです。監督は役者さんのキャラクターも自分の中に落とし込んで見事に映画にされているなと思いました。キャスティングや演出について教えてください」

中野監督
「オファーの順番は色々ありましたが、最初に決まったのはお父さんです。お父さんは山﨑さんで行きたいと考えてオファーしました。今回も改めて思ったんですが、キャスティングって縁だなと思って。実は山﨑さんは中島さんの原作をだいぶ前に読まれていたらしくて。読んだ時に、もしこの小説が映画化されるときは自分にオファーが来るのではと考えられていたそうなんです。これはご本人の中にこの役をやってみたいお気持ち、自分が演じたら面白いことができるのでは、そんな自信や感覚があるからこうした言葉が出たのではないかと。僕としてはそんなふうに考えていた山﨑さんにうまくオファーが出せたことが本当に縁だと思うわけですね。半分この映画は勝ったと思うわけで」

後藤さん
「監督は前作でもそうですが、自分でキャストを獲得していきますよね」

中野監督
「才能なのか縁なのかわかんないですけどまさにそう思ってくれている方にオファーを出せたということが嬉しかったし、山﨑さんは日本映画の歴史みたいな方じゃないですか。黒澤明監督の時代から全部知っている方が僕みたいなまだ無名な監督と仕事してくれるという。僕自身も山﨑さんのイメージが怖いというか(笑)」

 

後藤さん
「僕も去年『モリのいる場所』という東濃を舞台にした樹木希林さんと山﨑さんが共演した映画のインタビューをさせて頂いて。すごい人で、ファンだという思いをバーッと話したら「君はよく知ってるね」で終わってしまって(笑)。それぐらいの方を平気である意味、あの役でオファーできる監督はすごいなと」

中野監督
「僕は後藤さんと逆で映画少年でも何でもないので、山﨑さんが出ている作品をあまり観ていなくて、『タンポポ』を急いで観ました(笑)。でもどういう人かはわかっているので、会うときはすごく緊張したんですけど、山﨑さんはすでに台本を読んでくださっていて、脚本をめちゃくちゃ気に入ってくれていると耳に入ってきていたので半分勝ったなと思っていたんですけど(笑)、最初は鉄板焼き屋さんで会って、顔合わせみたいなことをしたんですが「君が量太君かい?」と下の名前で呼んでくださって。山﨑さんは僕の過去の作品も観てくださっていて、脚本もよかったと言ってくださって。僕も嬉しくて、お酒を飲んで調子に乗ってしまってあまり最後は覚えていないんですが(笑)」

後藤さん
「それはもうオファーを受けてくださった後にお会いしたということですね?」

中野監督
「そうです。一緒にいたプロデューサー曰く、最後は二人ハグして別れたよと。それぐらい僕を信頼してくださって、その後、家にもご招待いただいて山﨑さんと半日ぐらい映画の話をするという時間もとってくださって。関係性を作ってくださったので現場で僕は一切遠慮したことがないですし、言いたいことを言えなかったこともないです。山﨑さんとしっかり作品を作ることが出来ました」

後藤さん
「ではダメ出しもきっちり出されたと」

中野監督
「はい。そういう関係性で僕を引き入れて山﨑さんが作ってくれたというのが今考えるとすごい財産だなと思って。山﨑さんとは最後まで面白かったですね。すごいお芝居を見せてくれて。見るのが楽しくて楽しくて」

後藤さん
「認知症が徐々に進んでいくというプロセスは素晴らしかったです」

中野監督
「何が山﨑さんすごいって、映画って事情があって順番に撮るわけではないんですよ。今回は4つの段階があるので本当は順番にとって行く方が俳優にとっていいんですけど、初日がもうケアセンターの撮影だったので初日から漢字が書けなくてドリルをバーッて横に投げるという第3段階まで行っているシーンなんですが、それを初日に撮っているわけです。「山﨑さん、都合でこのシーンからですけど大丈夫ですか?」と聞いたら「大丈夫だ。俺はもう計算してあるから大丈夫だ」と。演技プランを完全に立てていらして大丈夫だと言われていたんだと思います。山﨑さんはお芝居を考えて作りこんでくる人だと思います」

後藤さん
「日常を描く中で山﨑さんと蒼井さんの排便のシーンも見せ方というのはディスカッションされたんですか?」

中野監督
「しました。今回は認知症が大変なのは当たり前。それは違うとは僕は言わない。でもそれだけじゃないという部分をフューチャーして映画化するんですが、大変な部分も逃げるわけにはいかないと思って。最初は訪問介護でお風呂に入るシーンとかも入れていたんですけど、やっぱり説明になってしまうんですよね。今回はもうそれをうんちのシーンに集約しようと思ってやったので最初から山﨑さんにどうしてもこれを撮りたい。だからおしりもちゃんと見せて撮らせてくださいとお願いしたら「わかった」と言ってくださって。でもあれは決してヨリで撮ろうとは思わないわけですよ。ヒキだけれどもちゃんと撮らなきゃいけないと。遠慮なく僕はお尻に味噌を塗りました(笑)。合わせみそです(笑)」

 

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後藤さん
「山﨑さんが劇中本を読んでいるというのは原作を読んでいないんですが、原作にはあるんですか?」

中野監督
「原作には全くないです。今回実は原作が8編の連作短編から成る小説なんです。一本の話ではないので一本の話にするにはいろんなものを削ってオリジナル要素を沢山足しているんです。それを原作の中島京子先生が許してくださったんです。最初にお会いして話していたら「小説と映画は違う表現媒体だから自由にやっていいよ、原作にあるおかしみだけは忘れないでね」と言ってくださって。なので僕はめちゃくちゃ自由にやったんですよ。だから三角帽もそうだし、三本の傘もそうだし、電車の中のプロポーズやパソコン越しのSkypeとかも全部オリジナルなんです」

後藤さん
「映画がそういう風に付加してくれると原作までそういう意味合いを持っているのかと原作を読んでみたくなりますよね」

中野監督
「かなり売れてるらしいですよ(笑)。多分原作との違いを楽しんでいただけると思います。根底に流れるものは一緒ですがかなり変えていますので。原作では三姉妹ですし、孫も3人いましたけど1人にしてしまいました」

後藤さん
「蒼井優さんもすごかったですね」

中野監督
「蒼井優さんとはいつか一緒にやりたいと思っていたんです。何がすごいって感情表現の幅が広いんです。だからすごく独特な感情表現をする、独特のその人の表現をしたら唯一無二のキャラクターになるんですよね。それに心が僕らは魅かれるわけで、監督としてどうしてもやりたくてオファーを出したら受けてくださって」

後藤さん
「どの映画を観ても蒼井さんはきらきらしていて。この作品でも順番に家族に寄って行く感じや前向きだけど仕事も恋愛もうまくいかない感じがピュアにフラットに出せる方で」

中野監督
「今回の役って今まで多かったエキセントリックな役と違って普通の役で、あんまり大きく感情も動かないので難しいとは思ったんですが、見事に細かい感情の表現を演じてくださいました。縁側の「ゆーっと」と「くりまる」のシーンは大好きなシーンです。僕はいつも芝居をつけていて芝居は一人でするものではないと思っていて、相手がいて成立するものでそこが上手くいけば二人の芝居がどんどん高まっていくんです。あのシーンを見ていたら監督として嬉しくて」

後藤さん
「あれはオリジナルなんですか?」

中野監督
「小説では電話越しのやり取りなのですが、映画的にはどうしても二人を会わせたくて、縁側で直接話す設定に変更したんです。」

後藤さん
「あのシーンは映画では二人が対峙していないと絶対ニュアンスが伝わってこないシーンですよね」

中野監督
「下手な役者がやると意味が伝わってこないシーンになるんです。ただ意味のわからないセリフを言い合っているというシーンになってしまうんですね。あそこは言葉は通じないけど心は通じ合っているというのを二人は見事に演じてくれているなと思っていて。ちょうどこの時中島京子先生が見に来てくださっていて、モニターを見て目を潤ませていたんですよね。やったと思いましたよ(笑)」

後藤さん
「松原智恵子さんの代表作にもなりましたね。雰囲気が良くて。目の病気のあとのシーンとかも笑わせようとしているわけではなくて松原さんのかわいらしさで自然と笑ってしまう。本気から出てくる部分がいっぱいあったんですが、松原さんの演出は難しかったのではないですか?」

中野監督
「難しかったというか。松原さん、本当にかわいらしい方で、現場でも娘二人ときゃっきゃ言ってるんです。三姉妹みたいでしかも松原さんが三女なんですよ。僕の母と同い年なんですけど。脚本ではもっとお母さんは飄々とした感じで描いていたんです。でも、初日になんかうまくいかなくて。松原さんが一生懸命演じていて窮屈そうで。1日目の撮影が終わった後で僕も思い切って演技プランを変えようと思いまして。これは松原さんの持っているかわいらしさとかその魅力をお母さんにあてた方がいいと思って2日目に演技プランを変えて初日の一部分を撮り直しました。だからそれは僕にとって賭けだったんですけど、松原さんらしさを出すには何テイクも重ねて持っていきました。テイク10なんてこともありました。あのかわいらしさを出せたのかどうかは編集するまではわからなくて。最初のプランを崩したのでシーンがつながった時どうなるのか怖かったんですけど、繋いでみたら面白かったです」

後藤さん
「病室でお父さんが首筋を撫でるシーンがあるじゃないですか。あのシーンも松原さんにしか言えないセリフなんですよね」

中野監督
「ばらしますけど、あのセリフはアフレコなんです。編集していてあのシーンが好きでどうしても一言足したくなって。アフレコで入れたんです。効いてますよね」

後藤さん
「竹内結子さんのキャスティングはどんな感じで決まったんですか?」

中野監督
「蒼井さんが決まった後で、またベクトルの違う魅力のある方にしようと竹内さんにお願いしました。ストレートで独特な芝居がはまると本当に魅力的で。Skype越しにお父さんに話すシーンは本当にいいですよね」

遊園地で回る山﨑さん

後藤さん
「遊園地のシーンもすばらしかったですね」

中野監督
「ちょっと懐かしい雰囲気の遊園地を探していて。なおかつ時代が変わるたびに何かを回して時間経過を表現しているんですが、あそこもメリーゴーランドの屋根を回したくて、回る遊園地を探したら千葉県野田市にありまして。遊園地はイメージに合うものを本当に探しました」

後藤さん
「あのシーンで泣いた方はたくさんいらっしゃると思いますよ」

中野監督
「でも撮る時は気を遣うわけですよ。山﨑さんも82歳とかなのでメリーゴーランドに何周なら乗れるだろうって。あんまり上下していたら山﨑さんが落ちてしまうんじゃないかと思って。1周目はこういう芝居をしてくださいとか指示をして3周で終わる予定だったんですが、止めずに4周、5周って回したんですね。山﨑さんが手を挙げているシーンは多く回したので山﨑さんがアドリブでやってくれたシーンで、僕が3周でやめていたら出なかったシーンです」

観客からの質問より

観客
「なぜ最後は孫の崇で終わるんでしょうか?」

中野監督
「今回認知症というテーマもありますが、三世代を描いているんですね。お父さんお母さん、娘たち、孫って。家族って引き継がれていくものだと思うんです。たとえ一番上の世代が死んでも次の世代が引き継いで家族ってそうやって巡っていくという思いを映画に込めたかったんです。そうするとこのテーマをやるには最後は未来がある一番若い世代で終わるべきだなと思ったんです。原作を脚色していますが、ラストのシーンはいじっていません。原作も最後は崇で終わるんですよ。これを読んだ時に「うわっ」て思ったんです。未来のある孫で終わると言うのがとてもいいなと思ってそれを引き継ぎました。原作の中島先生も同じ思いなのではないかと思います。家族は巡っていく。受け継がれていけば別に悲しいことではない。親は必ず死ぬもので意志を引き継いでいけば家族として何らおかしなことではないと思うし、ちょっと可視化した方がわかりやすいかなと思って、お父さんが使っていた落ち葉のしおりを、次女の芙美が引き継ぐ。そして最後、孫の崇が青葉を拾うというくだりをオリジナルで入れました。最後は崇で終わらないとこの映画は終われなかったんです」

観客
「山﨑さんにダメ出しをされたと先ほど言われていましたが、どのシーンでされたのかを教えてください」

中野監督
「順番に撮っていなかったので、漢字ドリルのシーンを初日に撮ったと先ほど言いましたが、演技プランがあった山﨑さんはその後は間違わなかったですが、初日だけはちょっと僕らの意見が合わなくて。最初はもっと漢字ドリルのシーンでかなり症状が進んだような芝居を山﨑さんがされたんです。「えっ」と思って。第3段階でその芝居をされてしまうと僕の中のプランでは合わないので「山﨑さんそれは違うんじゃないですか?」と初日に言ったのが最初です。ここはもうちょっと何を考えているのかわからないような芝居の方がいいですとお願いしたんです。基本的に山﨑さんの芝居にダメ出しすることは少なかったです。どちらかというとテイクは少なくて、テイク1か2で終わることが多かったですね」

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思いは伝わる、親から子へ。祖父から孫へ。家族を描く中野監督の作品は今回も随所に仕掛けが隠れている。映画を観ながら自分の家族を思い、自然と涙が出る。ハンカチは必携だ。

映画『長いお別れ』は現在公開中。

上映劇場は公式サイトを参照。

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