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カクテルとバーテンダーの人柄からうまれるBARという空間(映画『YUKIGUNI』)

明治時代に海外から日本に伝わり、時間をかけて日本で愛される飲み物になったカクテル。リキュールの絶妙な調整とシェイクの加減で美味しさが変わる、見た目も楽しめるお酒だ。その中には1951年に日本人バーテンダーが生み出し、海外のホテルバーでも愛されるカクテルがある。「雪国」という。そのカクテルはシンプルな材料で作られた美しいカクテルだ。「雪国」を作ったバーテンダー・井山計一さんは御年92歳。今でも自分の店「ケルン」でカクテルを作っている。彼の生活をとらえたドキュメンタリー『YUKIGUNI』が3月16日から名演小劇場で公開される。彼の周りには人が集まる。それはなぜなのか。様々な角度から彼と「雪国」を映し出す。井山さんに密着した山形県鶴岡市在住の渡辺智史監督が来名。お話を伺った。

Q.『よみがえりのレシピ』、『おだやかな革命』と人間の製造の根幹から豊かさを描く作品が続いたと思います。それに比べると今回の『YUKIGUNI』ははじめからお酒という嗜好品で豊かさを描いていたような気がするんですが、前作までと比べてテーマに向き合う姿勢は監督の中で違っていますか?

渡辺監督
「今までは色々な人を取材してテーマに寄り添って編集していたんですが、1人の人にフォーカスを当てて撮りたいという思いもあって。もちろん今回もいくつかテーマを決めて撮ってはいるんですが、最終的にどこに着地するか分からないまま撮っていた部分もありました。それを導いてくれたのが「BARは人なり」という言葉です。当初は高齢化社会とシニアの生き方、働き方という二つの社会派なテーマを軸にしていたのと、お酒がテーマで志向性が強くなるので一般の方が観ても楽しんでもらえる映画にしたいと思っていました。それに家と会社の間にあるもう一つの場所、サードプレイスとしてのバーの魅力をちゃんと伝えたいと思いまして。それを今までの語り口ではなく、バーにいるような雰囲気、語り口でストーリーを語りたくてこういった作品を作りました」

渡辺智史監督

渡辺智史監督

 

Q.タイトル『YUKIGUNI』のネーミングのこだわりはありますか?

渡辺監督
「雪国というと川端康成の「雪国」か吉幾三の「雪国」。これが検索にかかります。製作側の意図になりますがネットの検索結果の上位に来ないものは存在しないのと一緒なので違うものにしたかったんです。それにこの映画をカクテル「雪国」のイメージとタイトルでバーンとお客さんに撃ち込みたかったんです。アルファベットにして仮に入れてみたらぴったりだったのでこれで行きましょうということでアルファベットで差別化を図りました。海外の東南アジアなどのホテルバーでもこのカクテルはアルファベットで「YUKIGUNI」で出されているのでシンプルでいいなと思いこれに決定しました。井山さんを知らなくても「YUKIGUNI」は知っているという海外のバーテンダーさんもいらっしゃいます。ただこのカクテルが有名かどうかより、物語に共感して観ていただきたい作品です」

誰が観てもわかる作品を作りたい

Q.カクテルは以前から飲まれていましたか?おすすめはありますか?

渡辺監督
「元々飲んではいましたが明らかに映画を作り始めてから飲む量が10倍以上になりました。それぐらい以前は馴染みがなかったんです。この作品を撮ろうと思ってバーに行って、まずカクテルの種類から知ろうかと思ったんです。ただそういうお酒の蘊蓄を調べたりすると、専門的な話になってしまうのでもっと初心者、一般の人からの目線で伝わるバーの物語にしたいという形に進んで行きました。カクテルはそのバーのマスターがおすすめするものを飲むようにしています。「雪国」は本当に飲みやすいですよ」

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Q.酒田市の歴史も挟んでいましたが、まちに対する思いもありますか?

渡辺監督
「酒田市は僕が住んでいる鶴岡市の隣なんです。知っているようで知らない町。特に夜の街は知らなくて。飲み歩く町でもなかったですし。北廻り船で江戸末期に一番栄えた町でそこからどんどん鉄道が出来て交通が変わったことで、今はどこにでもある地方都市になっている。そこに暮らしている井山さんのカクテルを飲みに全国から人がやってくるんです。その光景を初めて観た時“カクテル巡礼”だなって思ったんですが、なぜここまで来るのか、なぜ満足して帰っていくのか。どうしてだろう?と思ったのが撮影のきっかけなんです。それが観る方に伝わる形に出来たらそれはバーの魅力とお客さんが感じたことを映画で伝えられるんじゃないかって。撮影をしながら僕自身が井山さんの魅力に引き寄せられて行きました。井山さんは町おこしになればという思いでも出てくださっていますが、撮る側からすると酒田の町おこしというわけではなくバーの魅力を、バーに行ったことがない人でも共感できる物語として撮りたかったんです」

井山さんがいたからこそ。出会い多き作品

Q.井山さんとのお付き合いは何年ぐらいになるんですか?

渡辺監督
「丸3年半ですね」

Q.井山さんの奥様の葬式のシーンも捉えていらっしゃいました

渡辺監督
「そのあたりも井山さんは全然気になさらない方で本当にありがたい被写体です。ついついお風呂に入るところまで撮ってしまいました(笑)」

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Q.小林薫さんにナレーションを依頼した理由は?

渡辺監督
「この映画がまさに昭和を生き抜いてきた井山さんの物語ですし、酒場の物語なんですよね。『深夜食堂』も食堂といいながら瓶ビールが置いてあって皆さん何か食べながら飲んでいる酒場なわけです。井山さんのバーもあの『深夜食堂』に近い雰囲気なんですよ。そこで『深夜食堂』に主演していた小林薫さんにお願いしました。バーテンダーを描いたものって映画ではなかったんです。お店に来る人の会話や人生が、まるでカクテルのように混ざり合うような酒場の映画が描けたらいいなと思ってこういう形になりました」

 
Q.映画の中に流れるジャズがとてもマッチしていました。出演されている方が演奏されていますね

渡辺監督
「カクテルの大会を観ると多いと材料が6種類から8種類だと言われています。昔は物資が不足した時代で、混ぜ合わせる材料は2、3種類ぐしかなかったのだそうです。材料がなかった時代よりは味が今は複雑になっています。歌の世界も今は百花繚乱で、似てるなと思ったんです。時代を超えて愛されているものってシンプルだし、記憶に残りやすい。素材も多くはない。映画もそうしたくてあまり多くのエピソードを詰め込まず「BARは人なり」をゆったりと流れるジャズのリズムで見せたいと思いました。ギターとサックスだけのシンプルなものにしています。それがマッチしたんじゃないでしょうか。井山さんの息子さんがジャズのイベントを開かなかったらこの出会いはなかったですね。まさに酒と酒の出会い、人と人の出会いです」

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Q.井山さんはまだお店に立たれているんですか

渡辺監督
「立ってますね。週5日、きっちり3時間半。お客さんがいると4時間の日もあります。シェイクはしない日もありますが、お酒のリキュールの調整は全部井山さんがやっています。お酒が飲めない方なのでストレス発散はパチンコと甘いものを食べること、足つぼマッサージと温泉が癒しの場です。今でも、地元の食材にこだわったトンカツ屋で、とんかつをペロリと食べます。本当にお元気です」

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「是非酒田へ行って井山さんの「雪国」を飲んでみてほしいです」と渡辺監督は締めくくった。
インターネットの注文でなんでも手に入る現代だからこそ。そこに行かなければないもの、その人にしか出来ないものの貴重さが際立つ。
映画『YUKIGUNI』http://yuki-guni.jp は
3月16日(土)より愛知・名演小劇場で公開。

公開に合わせて名演小劇場ではトークイベントも開催される。
『YUKIGUNI』公開記念トークイベント
3月16日[土]13:00の回(上映終了後)
登壇:田原春久さん (AUTHENTIC BAR Kreis クライス)、田中伴英さん(名古屋東急ホテル)、角田孝男さん(BARサフラン)、渡辺智史監督 (映画「YUKIGUNI」)

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