
猫との撮影の裏側を聞く(映画『ねことじいちゃん』立川志の輔さん、岩合光昭監督インタビュー)
心が温まるコミック『ねことじいちゃん』が実写化。監督は猫を撮らせるならこのひと。動物写真家・岩合光昭さん。主演には岩合さんがじいちゃんにはこの方しかいない!とお願いした落語家・立川志の輔さん。三河湾に浮かぶ愛知県西尾市の佐久島で撮影された映画について、このお二人に伺った。
Q.岩合監督が猫好きなのはわかりますが、志の輔さんはどうですか?映画の中ではすごく自然に接されていましたが猫は好きですか?
立川志の輔さん(以下志の輔さん)
「好きか嫌いかと言えば動物好きです。飼っている人がうらやましかったです。幼年期に遡りますがうちの親が飼ってくれなかったとか、いろいろ条件が揃わなかったというのもありますが、今まで一度も自分の意思では飼わなかったんです。でも飼っている人から話を聞くとやはり楽しいだろうなあって思うんですよね。撮影時は岩合監督が選ばれたスーパーキャット・ベーコン(タマ役)のおかげで僕にはストレスはなくて、「困ったなあ、この猫全然懐かないけど」ということもなかったです。猫には僕といることにストレスを感じることもあったかもしれませんが(笑)。この映画は猫の映画なので、猫に嫌われたら役を降りるか降ろされてしまうので(笑)、ふたりだけの撮影が2、3日あり、それを乗り切った時は嬉しかったですね。一番の境目をクリア出来たというか。嫌われてはいないらしいなと」
Q.実年齢よりも上の役でしたが、役作りの意識はされましたか?
志の輔さん
「「無理ですよ」と言ったんですが、プロデューサーさんが「今の技術ならなんとでもなりますよ」って言うんです。すごく明るく前向きな映画技術を信じ切っている発言というか。確かになんとかはなったのですが、メイクが一時間くらいかかりました。毎朝、島に着いて、メイクさんが選んだ音楽を聴きながら窓から見える佐久島の素敵な景色を観ている間にだんだん私が、立川志の輔から大吉さんになって行くのがすごいと思いました」
Q.監督は写真やドキュメンタリーで猫を撮っていると思いますが、今までの撮影方法と違いましたか?
岩合光昭監督(以下岩合監督)
「猫はメイクしないので(笑)、知らなかったのですが、「監督、どの辺に何本、白髪を置きましょうか?」とメイクさんに聞かれて、監督ってそんなところまで決めるものなのだと驚きました。」
志の輔さん
「メイクさんが台本を読みながら今日は病院にいるシーンと、病み上がりのシーンと病院に行く前と撮らないといけないからと、それぞれの状態に合わせてメイクを少しづつ変えているのを見て、映画的に素人だから「そこまでわからないんじゃないんですか?」って思ったのですが、わかっちゃうんですよね」
岩合監督
「わかっちゃいますね。映画は四季を描いているので、同じ洗面台の前にいるシーンでも、大吉さんは病気の前と後で明らかに違います。猫の撮り方に関してはドキュメンタリーの撮影では、スタッフもそんなに多くないので猫待ちで6時間も7時間というのも平気なんです。でも映画は50人以上のスタッフを抱えていますからそうはいかない。そういうこともあって、島の猫ではとても撮影が出来ないので動物プロダクションの猫になったんですけど、そのプロダクションのアニマルトレーナーの菊田さんの言うことを本当に猫がきくんですよ。彼と話して猫の位置や動きを決めていきました。そこがドキュメンタリーとの違いですね」
Q.映画を観ているとそんな演技がこなれた感じの猫はいなかったです
岩合監督
「そうですね。猫が好きな方に抵抗なく観ていただくために、やらせたと感じてしまうシーンは使わないように編集しました。猫の表情を見ればわかるのでそこはこだわっています。編集の方も猫好きな方で、撮影したシーンの話をすれば、「これですか」とパッとその映像が出てくるんです。そんな方とこだわって出し切りましたので、ディレクターズカット版はもうこの映画に関しては作れません(笑)」
Q.ベーコンさんのよかったところ、ここはすごいなと思うところを教えてください
岩合監督
「僕は今まで数万匹の猫に会っていると思いますが、5本の指に入るすごい猫だと思います。それだけあって志の輔師匠も「映画の撮影が終わったら、家に来ればいいのに」とおっしゃっていて、僕も同時に「家に来ませんか」と言ったのですが、アニマルトレーナーの菊田さんが「今から稼いでもらわないといけないので駄目です」とおっしゃられて(笑)。本当に素晴らしい猫なんです。彼がいなかったらこの映画出来なかったと思います。ひとつだけ困ったのは普段キャットフードしか食べていないので、魚を食べなかったことですね。なので1週間ぐらいかけて鯛だとか平目だとか、こんなに美味しい切り身を与えていいのかなと思いながら島で採れた魚を食べてもらい練習してもらいました」
Q.大吉さんのお腹の上でお昼寝するタマのシーンがあったと思いますがあれはどんな感じで出来上がったんですか
志の輔さん
「監督が「台本にはないのですが、タマとの密な関係を撮りたいのでふたりで遊んでもらえませんか」というので、急きょ撮影しました。カットがかかってもお腹の上にいたタマをそのままにしていたら、寝息が聞こえてきて。結果、監督の狙い通りの不思議な感じに生きたカットになりました」
Q.猫との散歩のシーンも練習されているんですか
志の輔さん
「リハーサルはぬいぐるみで行うんです。散歩のシーンでは私一人がぬいぐるみを引きずりながら道をずっと歩くわけです。部屋の中のシーンは周りにはスタッフしかいないのでいいですが、外のシーンでは佐久島の人たちが見学している中、カメラはずっと遠く方にいるので見ている佐久島の人達は「志の輔さんどうしちゃったんだろう」って思っていたでしょうね(笑)。本番ではベーコンが登場するのですが、テイク2ぐらいでちゃんと歩いてついてくるんですから不思議ですよ。多分リハーサルを見ていて「ああやって歩くのか」って思って本番に臨んでいたんでしょうね」
Q.佐久島は猫島と言われていてたくさん猫がいますがその猫達も見学に来ましたか
岩合監督
「来ましたね。猫が良く出没する場所で撮影していると覗きに来るんですが、すかさずアニマルトレーナーの菊田さんがスカウトしてるんですよ、うちに来ないかって(笑)。ちゃんと出演オファーをして登場してもらった猫もいます。ブッチという猫なんですが、数年前に佐久島に行った時に出会った猫で、その時いい写真を撮らせて頂いて。今回も出てくださいとご主人にお願いしたら「いいわよ」と言っていただけたので、タマが砂浜を散歩しているシーンで出会う、おばあちゃんと猫として出演いただきました」
Q.縁側で大吉さんが語ったりしているシーンが素敵でした。今はなかなかない縁側ですが、あることでとても作品で生きています。このシーンにこだわりはありますか
岩合監督
「そこを見ていただけで嬉しいです。装飾や美術の方が喜びます。あの家には元々縁側はなくて、この映画のために作ったんです。原作で描かれている家には縁側があってその雰囲気がとても好きだったので、装飾美術の方にお願いして、撮影の3週間前から島に入っていただいて作っていただきました」
大吉さんとタマを中心に猫に囲まれて島に生きる人達の生活が映画の中に描かれる。豪華役者陣が揃った本作。猫の名演技ももちろん、役者陣の芝居もしっかりと味わってほしい。
『ねことじいちゃん』http://nekojii-movie.com/info/top は2月22日(金)より全国公開。
東海地区ではミッドランドスクエアシネマ、ミッドランドシネマ名古屋空港、MOVIX三好、ユナイテッド・シネマ豊橋18、イオンシネマ岡崎で2月22日(金)より公開。半田コロナシネマワールド、伊勢進富座は順次公開予定。
撮影の風景や佐久島の猫達を岩合監督が撮影した写真を集めた写真展も3月21日(祝)まで名古屋のテレピアホールで開催中。
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