
お母さんへの愛があふれとるよ、この映画(映画『母を亡くした時、僕は遺骨を食べたいと思った。』大森立嗣監督インタビュー)
岐阜が舞台の作品がまた一つ出来上がった。
岐阜と言えばアニメというイメージが強いが、今回は漫画原作の実写映画だ。
その作品とは岐阜市出身の漫画家・宮川サトシさんが自身の経験を描いた『母を亡くした時、僕は遺骨を食べたいと思った。』だ。
母・明子の闘病生活を通して、主人公・サトシが死と向き合い、成長していく姿が描かれる。そしてさらに、天国の母から“驚くべき贈り物”が息子の元に届くー母親の愛に最後まで涙が止まらない実話だ。
自ら脚本を書き、メガホンを取った大森立嗣監督に名古屋でインタビュー。原作について、撮影について聞いた。
映画にするために原作に加えたこと
Q.監督が自ら脚本化されていますが、原作を読んで映画にするために考えたことを教えてください。
大森監督
「原作はエッセイ漫画で一人称で書かれている作品だったんです。主人公とお母さんの関係が直接的に描かれていて、主人公はよく泣くんです。それが自分の中では最初は考えるところではあったのですが、お母さんが思っていることをちゃんと伝えたり、奥さんになる真里さんがサトシに気持ちを伝えるなど、他者がいるという設定をしっかり作れば映画に出来るのかなと思いました。お母さんのがんが告知されて、亡くなるまで。つまり死をどう見届けるかという部分と亡くなった後にそのことをどのように受け止めるかという二つに分けて物事を考えたことで構成が出来てきて素直に脚本が書けました。原作では他者の視点、死んで行く人がどう思っているかということはあまり描かれていないですが、映画ではお兄さんも主人公とは少し違う距離感で家族を見ている、主人公の気持ちだけではなく、周りの人たちの気持ちまで描けたのはよかったと思います」
Q.原作を読んだ方からすると原作に監督のエッセンスを少し足したという感じですか?
大森監督
「原作を読んだとき、死という出来事で人生全てが終わってしまうように感じたのですが、死が日常の延長線上にあってみんながそれを経験しなくてはいけないんだという部分を少し足した感じです。」
現場で感じたものを撮っていく
Q.安田顕さんは泣くことが多い役で凄い表情で泣いているなと思いましたが、監督から安田さんに演じるにあたってリクエストしたことはありますか?
大森監督
「僕がクランクイン前に安田さんにお伝えしたのはあまり作り込まないでください、準備し過ぎないでくださいということです。僕は現場で俳優さんと俳優さんが向き合った時に感じることを優先して撮影したいと思っていて。それを安田さんにもお伝えしたら「わかりました。僕がやってきたアプローチとは全然違いますがやってみます」と言ってくださいました」
Q.実際現場に入ってからの安田さんはいかがでしたか?
大森監督
「安田さんが泣くことを抑制していた感じです。ここは泣きすぎかなとか。お客さんの気持ちがついてきていないのに先に主人公が泣いてしまうのは違うと思いますので。そういうところを気にしていました。僕は積極的に気持ちを出すというより、どうしてもこぼれ落ちちゃう思いを撮りたいので、安田さんにそういう話をしていました」
Q.結婚が決まったシーンで踊るというのは演出ですか?安田さんのアドリブですか?
大森監督
「演出といえば演出です。ああいう小躍りをして欲しいという。脚本にも書いてありましたが、あの動きは安田さんが考えてくれました」
Q.原作者の宮川さんとお話もされていると思いますが、監督から見てどんな方ですか?
大森監督
「頭のいい方ですよね。漫画で観ているのと変わらない、ものの見方に可愛らしいさがあるんですけど、斜めから見ている感じの面白さがある方です」
Q.倍賞美津子さんの役は年齢の幅がかなりありますが、現場ではどんな話をされたんでしょうか?
大森監督
「倍賞さんはあまりメイクとかでビジュアルを作らない方なんです。そのままを見てほしいと。そういうところは気持ちが通じ合っていたと思います。僕がやっている純粋な映画作りに素直に関わってくださいました。倍賞さんの出番が終わって一度車に戻って行ったのに「やっぱり私みんなのシーンが終わるまで見てるわ」と言って戻ってこられたこともあります。本当にこの現場を好きになってくださっていました。倍賞さんとは初めてお会いしたのですが、出会えて本当によかったです。さっぱりした性格をされていますが、可愛らしいところもあって。撮影ではないところでも、「あ、木の実がなってる!」と少女みたいな可愛らしさで。自分で後からこの映画を見直した時に凄く倍賞さんがチャーミングに映っていたと感じましたし、好きなシーンばかりですね」
Q.石橋蓮司さんの父親役もぴったりだったなと思うんですが、キャスティングは思い通りに出来たんですか?
大森監督
「倍賞さんには明子役をぜひお願いしたいと言いました。石橋蓮司さんも同じです。希望した方にご出演頂けました」
Q.倍賞さんは原作者の宮川さんのお母様に似ていらっしゃるからキャスティングされたんですか?
大森監督
「原作にそう書いてあるということなんですが、僕はそれを忘れていて(笑)。倍賞美津子さんと仕事がしたいという思いが一番でした」
岐阜の空気を感じて岐阜で撮影する
Q.作品の舞台は岐阜でも映画やドラマになると関東近郊で撮影してしまうという作品も多いんですが、今回原作通り岐阜で撮影しようと思ったのはなぜですか?
大森監督
「岐阜が舞台なのに東京近郊で岐阜を撮るというのが僕にはちょっとわからないんです。それは自分の中でどこか嘘をついて作っている感じになるかと。ですから自然と岐阜で撮影しようと思いました。一番大きいのは俳優さん達が岐阜の本当の空気を見て吸って感じるというのが大事だと思うんです」

大森立嗣監督
Q.今回のロケ地は大垣市、池田町の緑が豊かな場所を選ばれていましたが、その理由は?
大森監督
「最初は岐阜市で撮影しようと思ってロケハンをしていたのですが、撮影する条件がいろいろとありまして、そこで大垣市の方や大垣市民病院の方がとても協力的だったんです。それに池田山のハングライダーの場所は必ず使いたいと思っていたんですね。あそこは凄くいい景色ですから。それなら撮影全体を大垣方面にまとめた方が効率的だと考えました」
Q.ラストの琵琶湖のシーンもサトシ、お兄さん、お父さんの印象的なシーンになっていますね
大森監督
「あれは原作にないシーンなんです。自然な流れで書いたシーンです。安田さん、村上さん、石橋さんにお任せして演じてもらっています」
Q.海なし県の岐阜から海ではなくて近くの琵琶湖に行ったというのがいいなと思ったんですが。
大森監督
「最初は海に行きたかったんですけど、近くにないんですよ。一番近かったのが琵琶湖です(笑)」
Q.死を迎える人と送る人がこの作品で描かれていますが、監督の死に対する思いを教えてください。
大森監督
「死を考えると普通はこわいですよね。それをどういう風にとらえるか。これは結構大きいテーマだと思います。日本の今の社会で死をどういう風に受け止めるかは大きな課題です。大きな宗教がある国ではないので、その宗教が指し示した死があるわけでもないし。死って永遠にわからないものだからそれを個人に求めるのはきついことだと思いますが、日本はそうなってしまっていますよね。この映画が具体的な死の例としてきっかけになればいいなと思うのですが、僕自身は「死は生の延長上に自然とあってかけ離れたものではない」とずっと思っています。高齢化社会になった今、ただただ長生きすることが幸せなのか。生活の質と言うのも考えないといけないし、いろいろと考えないといけない時期にきていると思います。がんになっても治療をしないということも選択肢としてはありますよね。どうやって看取っていくかとか死というものをどう扱っていくか。皆が考え始めなければいけないことだと思います。個人がこの映画のように死にどう向き合っていくかと考えることは、大事なことだと思うんです。この話については死の先にある循環まで話が広がりますから、宮川さんやるなあと」
なんて真っ正面から家族の死に向き合った映画なのだろうと思った。死は必ずやってくる。その日が来ることを年を重ねれば重ねる程考える。共に過ごしている人をその日が来るまで大切にしようと改めて思った。
『母を亡くした時、僕は遺骨を食べたいと思った。』 http://bokuiko-movie.asmik-ace.co.jp/ は2019年2月22日(金)より全国順次ロードショー。
撮影地となった岐阜県の映画館6館(岐阜CINEX、関CINEXマーゴ、TOHOシネマズ岐阜、TOHOシネマズモレラ岐阜、イオンシネマ各務原、大垣コロナシネマワールド)も2月22日(金)より公開。
『母を亡くした時、僕は遺骨を食べたいと思った。』
出演:安田 顕 松下奈緒 村上 淳 石橋蓮司 倍賞美津子
監督・脚本:大森立嗣
原作:宮川サトシ「母を亡くした時、僕は遺骨を食べたいと思った。」 (新潮社刊)
音楽:大友良英
主題歌:BEGIN「君の歌はワルツ」(テイチクエンタテインメント/インペリアルレコード)
配給:アスミック・エース 製作:「母を亡くした時、僕は遺骨を食べたいと思った。」製作委員会 助成:文化庁文化芸術振興費補助金
2019年/日本/カラー/ビスタ/5.1ch/108分
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