
死なないスマホロシアンルーレットが始まる(映画『おとなの事情』)
携帯電話がなかった頃、隠しておきたいことは何処にしまっていたんだろうと
この映画を見て率直に考えた。
昔なら電話は着信履歴なんて残らなかったし(携帯がなかったし)
メールなんてこんなに気軽には出せなかった。(手書きだし)
そう。誰にも言えない秘密は自分の心のうちだけにしまおうと思えば出来た。
昔の方が色々と都合がよかったし、
真実を明らかにすることも難しくて面白かったのかもしれない。
今回紹介するのは今を生きるおとなのとある食事会の一コマを描いたイタリアの作品だ。
友情や夫婦の仲はこんなことがきっかけで大きな変化を見せるものなんだと
皮肉にもつい笑いながら見てしまう。
イタリア映画の最高賞とされるダヴィッド・ディ・ドナテッロ賞で監督賞、脚本賞に輝いた
コメディを得意とするパオロ・ジェノヴェーゼ監督が描く96分の会話劇。
すでにスペインでリメイクも決まっている話題作だ。
あらすじ
友人の家に食事会にやって来た7人。
食事会に家を提供したロッコとエヴァ夫妻。エヴァは娘のソフィアともめている最中だ。
母親と子供たちと嫁姑の言い合いはあるが幸せに暮らすレレとカルロッタ夫妻、
最近結婚したカジモとビアンカ夫妻。
そして恋人ルチッラを風邪で連れてこられなかったペッぺ。
いつも通り近況報告をしているはずがそれぞれの携帯にやってくる着信やメールを
包み隠さず公開するというゲームに興じることに。
はじめは隠し事なんて何もないと言っていたはずなのにメールが届く度、
着信がある度にとんでもない事実が明らかになっていく。
夫婦に秘密はない?
食事会にやってくるまでの夫婦の映像をまず監督は見せてくれる。
後半に向けての伏線がこの時点からいくつも張り巡らされており、
冒頭で見たときは何気ない夫婦の会話であるようにしか見えない。
細かく差し込まれる友人たちの視線のカットも意味深だ。
事実が明らかになったときその行為は別の意味を為す。
好きで結婚したはずの夫婦。
でも携帯の中身まで明かすことが出来ているかといえばそうではない。
スマホの中には秘密がたくさん隠れている。
スマホを見た、見られたが原因で別れるカップルもいる世の中で
エヴァが言い出した携帯のメールや着信を公開するゲームはまさに
『死なないスマホロシアンルーレット』
死ねないのが辛いぐらいの展開が待っているとも知らず
「隠し事なんてない。」という嘘を押し通そうと自分の携帯が鳴らないことを祈って
ドキドキする時間を過ごすことになる7人。
中には嘘を押し通そうと行動したことがさらに悪い方へと向いてしまう人物も出てくる。
イタリアのバイプレイヤーズによる会話劇
96分のうちほとんどがロッコの家での会話劇。
その会話劇をそれぞれのキャラクターを作り上げて臨んでいるのは
イタリアの名俳優たち。主演も脇役もできる実力派が勢揃いしている。
ペッぺ役のジュゼッペ・バッティストンは
ダヴィッド・ディ・ドナテッロ賞を過去に3回受賞しており、
カルロッタ役のアンナ・フォッリエッタは本作で同賞にノミネートされた。
映画というよりも一幕ものの舞台を見ているようなそんな感覚にとらわれる。
観劇後によく感じるあの何とも言えない居心地の悪さをこの映画でも感じてしまう。
演劇はハッピーエンドや分かりやすい結末がないものも多いからだ。
居心地は良くないがなんだか笑ってしまう。
悲劇こそ喜劇。まさにこれだ。
姿の見えない登場人物に一喜一憂
メールや電話を掛けてくる相手がどんな人間なのかを想像するのも非常に面白い。
ペッぺの彼女のルチッラ、ビアンカの元カレ、カジモの同僚など
相手はいつも通りの会話をぶつけてくるため、
一つずつ知らないことが暴かれていく。
友人たちが知らない、出来れば知ってほしくないことが明るみになり
感情のたがが外れてさらに真実を自ら溢れさせる人物まで出てきてしまう。
最後には思いもよらない展開も待ち受ける。
夫婦だから仲がよいとは限らない。
夫婦だから全て知っているとは限らない。
自分が相手にとって一番とは限らない。
「知って知らぬふりをするのが長続きするコツなんです。」
と昔ある家庭円満の奥さまが言っていたことを思い出した。
皆既月蝕の夜はターニングポイントになるとも言われている。
この7人にとってどんな転機になってしまうのか。
結婚とは何か。夫婦として生きるとは何かを
改めて考える作品だ。
おとなの事情 http://otonano-jijyou.com/ は
3月18日(土)より新宿シネマ・カリテ他で全国公開。
東海地区では3月18日(土)より名古屋新栄・名演小劇場、
4月29日(土)より岐阜・CINEX、5月に三重・進富座で公開。
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