
『リベリアの白い血』上映&トークショーレポート
リベリアという国がどこにあるか知っているだろうか。
今回、この作品を見るというときにしっかり調べるまで
正確な場所と歴史を知らなかった。
リベリアでゴムの栽培を朝から晩まで休むことなく行い
生計を立てていた主人公が豊かな暮らしを夢見てニューヨークに一人出稼ぎに出る。
『リベリアの白い血』(原題 OUT OF MY HAND)は
リベリアの今とニューヨークでの移民の生活を描き出す。
自主映画として作られたこの作品はベルリン国際映画祭のパノラマ部門に
正式出品されたのを皮切りに第21回ロサンゼルス映画祭の最高賞を受賞し、
インディペンデント・スピリット・アウォードのジョン・カサヴェテス賞に
日本人で初めてノミネートされた。
CINEX映画塾第12回。
ゲストに『リベリアの白い血』福永壮志監督を迎えた。
なぜ日本人がリベリアを舞台に作品を撮ったのか。
40分にわたるトークの一部をお届けする。
CINEX映画塾第12回福永壮志監督トークショー
Q.昨日から岐阜に滞在されていますがどこかにいきましたか?
福永監督
「岐阜城にいきました。台風も来そうで天気はあまりよくなかったですけど
見晴らしはすごくよかったです。」
Q.なぜリベリアを舞台に映画を撮ろうと思ったんですか?
福永監督
「僕は北海道出身で高校を卒業してアメリカに渡って14年、
ニューヨークに行って12年になります。
ニューヨークというところは夢や志を持って色んなところから人が集まってきます。
そんな移民の人たちにとても励まされました。僕も移民ですから。
移民という社会的なハンディキャップがありますがそれに立ち向かって
ここで生きている人たちをいつか映画で描きたいとずっと思っていました。
それからしばらくたってドキュメンタリーの仕事に携わることがありまして。
それがリベリアのゴム農園のことで、そこで見た過酷な状況の中で
たくましくひたむきに生きる人たちの姿に感銘を受けまして。
しかも僕らが日常使っているゴムという日用製品の裏側にあるもので
なかなか切り離せないことだなと考えさせられまして
2つのことを1つの映画の中で描くことで
僕が感じたことを皆さんに伝えられたらいいなと思って撮りました。」
Q.カメラマンの村上涼さんはリベリアでマラリヤにかかって亡くなられたと伺いました。
福永監督
「僕の妹の旦那さんなので義兄弟で、先輩でもあります。とても近い関係で
きっかけになったドキュメンタリー自体も元々彼のプロジェクトで
彼がいなければこの作品はうまれませんでした。
リベリア部分の撮影の後、体制を建て直して撮影再開するのに1年かかりました。
ニューヨーク部分は他の撮影監督に引き継いでもらっています。」
Q.リベリアでの撮影は大変だったでしょう?
福永監督
「キャストは現地リベリアで選びました。
脚本はリサーチも含めて1年かかって作ったんですが
芝居のできるリベリアのキャストとロケーションが必要不可欠で
選定のためにはじめ2週間の予定でリベリアに行きました。
リベリアで色々な人と会ってみてアメリカに戻ったら
せっかく取り付けた約束がふいになってしまいそうな状況で
撮影は出来ないんじゃないかと思いましてそのまま撮影に入りました。
リベリアには俳優協会があり、役者を紹介してもらいました。
3ヶ月ぐらいは滞在していました。」
Q.俳優協会があるということはリベリアでも映画は作られているんですか
福永監督
「演技経験のある方もいて、現地で映像も製作されているんですが
僕たちが思っているクオリティの映画ではないです。映画館もないですし。
俳優協会も政府主導で、俳優だけで生活できるというわけではないです。」
Q.リベリアの人がシナリオを書いたようにリアルでしたが。
福永監督
「リベリアの脚本家の方とまずシナリオを見直しました。
その後で役者を決めてその人が話しやすいように台詞の言い回しを
変えて行きました。撮影のスタイルはドキュメンタリーのように撮影しました。
教会のシーンの神父さんは本当の神父さんです。
戦争の時は裸で戦っていて終戦後はキリスト教に改心して
教会を説教で回っているという日本では考えられない生き方をされています。
撮影の時はこんなシーンですと説明はしましたが話していることは
全てアドリブで彼から出てきた言葉です。
拝礼の参加者は主人公と妻役の役者以外はみんなその地区に住んでいる人たちでした。」
Q.映画は昔から好きでしたか
福永監督
「好きでした。僕は北海道の室蘭の横の伊達市出身です。
映画館はなかったのでレンタルビデオショップで借りて見ていました。
日本では芸術に対する敷居が高くて映画を自分が撮るなんて考えもしませんでした。」
Q.どうしてアメリカに渡ったんですか?
福永監督
「アメリカに行くと決めてまずミネソタに留学しました。
高校3年の頃、自分の視野を広めてみたいと思って決めました。
日本は型にはめたがるというか常識があって
その型にはまるのは嫌で。
やりたいことが決まっていないのに偏差値だけで
大学を決めなければいけない。しかも編入したくてもそれが難しいので
やりたいことはない学部なのに4年居続けないといけない。
それが自分には向かないと思ったんです。
行った先の大学では自分の興味のある授業が選べました。
その授業の中で同じ学生がカメラで写真を撮っていたんです。
自由にアートに向き合っていて。
ここでなら自分がやってもいいかもしれないと思えました。
それで映像の勉強をしようと決めました。」
Q.映画を撮るまでは何をされていたんですか?
福永監督
「映像の勉強をするためにニューヨークに行きました。
ニューヨークの映像会社で1、2年働いて、
今はフリーランスで映像の編集の仕事をしています。
映像の監督をしていたときもあったんですが、映画から離れていることに
ある日はっとしまして。映像と映画は全く違うもので映画に向き合うのであれば
大変な労力を注がないといけない。そう思って撮ったのがこの作品です。
自主映画ですが、アメリカの支援者がいて、
クラウドファンディングもやりましたし、自分の貯金も使って映画を作りました。」
Q.映画祭はいくつも応募したんですか?
福永監督
「はい。それしか方法を知りませんでした。大きなコネがあるわけでもありませんし。
撮ってみたら思っていたものと違うものになっていたところもありますが
撮っている間は上映のことや配給のことは考えず
がむしゃらに撮っていくつも映画祭に申請しました。
幸いにも世界三大映画祭と言われるベルリンで上映されて。
そこで何か変わるかなと思ったんですが全然そうでもなくて。
ロサンゼルス映画祭の最高賞を受賞してやっとアメリカの配給がつきました。
アメリカでは2015年の冬に上映しています。」
Q.日本での上映はどのように決まったんですか
福永監督
「アメリカの配給会社は日本での上映経験がなかったので
日本での配給権は僕が持って色んな方に相談しました。
でも商業力のある映画でもないですし、
監督も無名なのでなかなか見つからなくて。
知人からの紹介で蔦さんにお会いしたら
ちょうど自分の作品以外も配給してみたいと思っていらっしゃったそうで
完成から2年半経った今年の8月5日の東京を皮切りに
地方でも上映に漕ぎ着けました。
わかったのはいくら海外で賞を受賞していても
日本で上映されないと日本の人には知ってもらえないということです。
配給権を持って頑張って交渉してよかったなと思いました。」
蔦さんとは以前CINEX映画塾で上映した『蔦監督』の監督・蔦哲一朗さん。
蔦さんの配給会社で上映が決まり、
今回縁のある岐阜でも上映が決まった。
Q.次回作について教えてください
福永監督
「アイヌの若者について撮りたいと思っています。
外から日本を見たときにアイヌや沖縄は元々独自の文化、精神世界があって
それが今日本の一部になっているという世界で唯一の文化なんですけど
理解されるべきではあるんですが日本でもあまり知られていない。
僕自身が北海道出身ですし、僕だから撮れるものがある。
このリベリアの映画を撮り終わって次を考えたときに
この題材を撮りたいと思うようになりまして。
また商業性の低い映画を作っているといわれそうなんですが
その時になってみないと自分で撮りたいものがわからないですし。
カンヌ映画祭主催の若手育成プロジェクトに選ばれまして
パリに4ヶ月行って日本の脚本を書いてきました。
北海道でまた色々な方にあってキャストも決めていきたいと思っています。」
新作も楽しみな福永監督。また岐阜に帰ってきてくれることを
心待ちにしたい。
『リベリアの白い血』岐阜CINEXは明日まで。
横浜ジャック&ベティ、シネ・ヌ―ヴォ大阪は23日より公開。
他の上映スケジュールは公式HP(https://liberia-movie.com/)をチェックしてほしい。
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