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脚本家と監督の駆け引きが魅力 『XXX KISS KISS KISS』シアターカフェで上映中

名古屋大須のシアターカフェで『XXX KISS KISS KISS』が25日まで上映されている。

シアターカフェは大きくない映画館だ。控え室もない。
入ったところで早々に矢崎仁司監督と脚本家集団チュープロの3人
(武田知愛さん、中森桃子さん、大倉加津子さん)に迎えられた。

運が良ければ上映前だって話ができるのがシアターカフェという空間のなせる技だ。

短編5編の連続上映と聞いていたのだが、上映前に矢崎監督に
「五人の監督が撮ったような短編集みたいだけど、繋がってるから」
と言われた。確かに。本当に繋がっていた。
オムニバス5話だけど切れ目がない!
ということは…3時間ぶっ続けで上映されるわけだ。

脚本家集団チュープロのメンバーが矢崎監督に直談判し、
企画された『XXX KISS KISS KISS』は短編5作だが1つのつながった作品である。
「五つのキスの話は、オムニバスと言われるけど、これは一本の映画です。」
とニヤッと笑いながら矢崎監督が話したように
前の話が終わったのかがわからないまま次の話に展開してくる。
『世にも奇妙な物語』のようなストーリーテラーもいないので
次の話に進んだのかの境目がわからない。

前の話の余韻を残しつつ、
始めに出てくる次の話のタイトルから話を勘繰りながら見ていくことになる。

前と繋がっている何かが随所にある。
そしてどこでテーマの‟KISS”が出てくるのかも楽しみながら見る。

チュープロメンバーから上映後にこの作品製作の経緯を聞くことができた。
「前作『1+1=11』の時に出会ったご縁で、矢崎監督のもとに
キスをテーマにして書いた脚本を、図々しくも撮っていただけないかと
持ち込んだのがきっかけです。最初は漫画のような脚本だからと
断られましたが、1年本打ち(脚本を詰めること)をして撮影していただきました。」

1年の長い打ち合わせを経て撮影に。しかし低予算での撮影になる。
自主映画でギャラもない。それでも脚本を読んで俳優たちが集まった。

矢崎監督の『無伴奏』にもこの撮影のあとに出演した松本若菜、
名バイプレイヤー中丸新将、草野康太他、細やかな部分まで演じられる役者が
5つの作品に出演している。

シアターカフェで行われた上映後の舞台挨拶での言葉や
後から話したときに聞いた話を混ぜながら紹介する。

 

『儀式』 脚本:武田知愛

武田さん
「セリフはリズムよく流れるように書いてきたのですが、
引っかかるように書いてほしいと矢崎監督に言われて、それを目指しました」
武田知愛さんは監督のアドバイスを受けてそれまでの書き方を変えた。
それでも矢崎監督は脚本を書いた通りには撮らなかったという『儀式』。
図書館で働く主人公が同棲しているミュージシャンとのこれからを
憂鬱に考えている一方でミュージシャンは気ままに生きている。
セリフではなくト書きで役者の姿を映し出すシーンが多い。
多くを語らない主人公(松本若菜)と
自由に生きるミュージシャン(加藤良輔)が同棲しているその不思議さ。
どれが儀式に当たるのかを考えるのも楽しい。
男と女ってやっぱりわからないよねと思う話だ。

『背後の虚無』 脚本:朝西真砂

ボーイズラブも感じさせる話だった。
巻きタバコを両側から吸うってなかなかドキドキする。
しかも柿本光太郎と安居剣一郎というイケメン二人がそれをしているとなると
余計にドキドキする。
オートバイの後ろの席というのは女性の輝ける席だと思っていたが
そうではなかった。がっしりと腰に回される腕がどうもいやらしく感じる。
結末はなかなかの展開でタイトルの意味がよくわかる。

 

『さよならのはじめかた』 脚本:中森桃子

夫の言う「あれ」が何なのかがわかる妻。
話さなくても相手の考えていることがわかる夫婦。
夫は妻がいないと何も出来ないような感じではあるが
妻の気持ちを察しているようにも感じる。
長年二人で暮らしてきて老後を過ごす夫婦。
話の核心は話していないがこの夫婦にも別れが来るのだとわかる。
5作品の真ん中の作品は大人な作品だ。

見ているこちらに想像させる間が沢山あり
心がいっぱいになる。
夫婦を演じるのは名バイプレイヤー中丸新将と塚田美津代。
作品ビジュアルになっていた夫婦の写真を見た後に
見つめ直すと一層心が震える。

脚本は中森桃子さん。
劇中に流れるラジオがとてもリアルだったが、ラジオを使うことは監督からの指示だそう。
中森さん
「監督に『NHKの朝の放送を聞きなさい』と言われ、毎朝録音して聞いていました。」
矢崎監督
「録音して聞いているんじゃダメなんです。
あの時間の周りの音も聞いて書いてほしいんですよね。」
書く人にも臨場感を感じながら書いてほしいと求める矢崎監督だった。

目は見たものを記憶する。
私は今日見た素敵な作品を作った監督と脚本家さんの笑顔を忘れない。

『いつかの果て果て』  脚本:五十嵐愛

夜の川での男女+少女の出来事。
矢崎監督
「『低予算なのに夜のシーンばっかじゃない!』と照明の大坂さんに言われて
さすがに最後のシーンは夜明けになりました。」
チュープロも主に賄いスタッフとして現場に参加。
この撮影時はおにぎり作りも昼夜逆転作業だったとか。

なまめかしい女性の足が最後まで頭にこびりついた作品だった。
女性のことが気になってついてきた男は
このシーンの前に女性とどんな情事を繰り広げたのかも気になるところだが
不思議な話だった。結局どこまでが現実だったのか。
『四十九日のレシピ』でも複雑な感情を抱える役を演じていた萩野友里が
春を売るトラブルメイカー役。トラブルに遭いながらも女が気になりついてくる男性を
草野康太が演じている。

『初恋』 脚本:大倉加津子

一匹の金魚と暮らすトムラ。
自分で経営していた金魚屋が潰れて借金の取り立てにもあっている。
ある日、外からアイスクリームが投げ込まれる。
昔アイスクリームを3人で分けあった。
初恋の苦い思い出を作った京子が立っている。
大人の魅力も醸し出す京子を見てトムラの心はざわつく。

矢崎監督のこだわりも見られる作品だ。
矢崎監督
「台所のある玄関側とベッドのある窓側は別の場所で撮影しているから、
俳優さんは大変だったと思います。でも、あの窓から見える風景は
撮りたかった。撮影は一本三日の予定でしたが、結局一週間かかったかな。
初日に撮影の石井さんから『長編撮ってるんじゃないですよ。』って
言われました。」
脚本は大倉加津子さん。
金魚に塩をかけた話は本当に大倉さんの経験談らしい。
「テレビでやっていたのを自己流でやって…失敗しました(笑)」
と上映後に教えてくれた。
トムラ役は川野直輝さん。
「川野さんが演じてくれたことでトムラはとても魅力的になりました」
とも大倉さんは話していた。
撮影の合間にはチュープロが作った激辛チャーハンおにぎりを気に入って
川野さんは食べてくれたとか。
矢崎監督
「冒頭の京子の草むらのシーンは脚本になかったんですが人と人が出会う前に
お互いの一人のシーンが欲しくて撮影しました」

同じ町の中にいきる人たちの話にしたいとチュープロメンバーに
矢崎監督は作品の登場人物たちの相関図を渡したという。
その相関図とチラシを持ってチュープロの3人を上映後に撮影した。

左:大倉加津子さん 中央:武田知愛さん 右:中森桃子さん

矢崎監督にも撮影をお願いしたところしっかリと作品もアピールしていただけた。

矢崎仁司監督

山梨を舞台に様々な人たちが交差する。
その中でKISSはどんな意味を持つのか。
矢崎仁司監督と脚本家集団チュープロの挑戦作が満を持して
名古屋で上映されている。

 

『XXX KISS KISS KISS』 http://filmbandits.net/xxx/ は
名古屋大須シアターカフェで上映されている。
次回上映は6月24日(土)と25日(日)。
席数が多くないのでシアターカフェHPでの予約をお勧めする。

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