
迷うのも決めるのも私(映画『29歳問題』)
あらすじ
2005年の香港。あと1ヶ月で30才を迎えようとしているクリスティは仕事にやりがいを感じている。長年付き合っている恋人チーホウとの結婚を考えていないわけではないが結婚の話となるとチーホウとギクシャクしてしまう状態。認知症の症状が出始めている実家の父は昼夜問わず家に帰ってこいと電話をしてくる。仕事では部長に昇進、でもプライベートはうまくいかない…。と思っていた矢先、大家がクリスティが住んでいた部屋を売ってしまい、急な退去命令が出る。次の家が見つかるまでと案内されたのは大家の甥の友人ティンロの部屋。ティンロがパリに旅行に行き、1ヶ月はいないので使っていいという。同じ日に生まれたティンロの生活を知ったクリスティは自分とは全く違う生き方があることを知る。
もうすぐ30歳
ひとつ年を取るだけなのになぜこんなに不安になるのか。29歳とは不思議な年だ。昔に比べれば30歳までに結婚していないとダメとかそういうことは言われなくなった。
だがやはり30歳とは節目であり、色々思うこともある。仕事も恋愛もしたい。そして結婚も。30歳を手前に女性なら将来のことを色々考えるのは普通だ。30歳という年齢は女性にとって大きな意味を持つ。今でもこの年までに結婚すると決めて伴侶との出会いを求めている人もいる。クリスティのように仕事で出世の階段を歩み始める人もいる。かと思えばティンロのよう思い立って旅立つ人もいる。
20代と30代。この間には大きな河がある。どうその河を渡るか。戻ることはできない人生という旅でここから先の計画を立てることになる。
全く生き方が違う二人なのに交差する人生
仕事も恋も頑張ってきたクリスティ。30歳目前で部長に昇進し、さらに仕事に本腰を入れたいのにプライベートな部分が邪魔をする。結婚相手とは喧嘩ばかり、認知症の父も倒れる。わずか3週間の短い間にクリスティには人生最大の試練が訪れる。
出世には関係のない小さなレコード屋で働きながら大好きなスターへの思いとともに生きるティンロ。幼なじみチョンと友達以上恋人未満の関係で仲良く付き合いゆったりと過ごしてきた。しかし30歳手前で今まで自分は本当にやりたいことをやってきたのかと考えなければいけない出来事に直面する。
クリスティもティンロも自分で決めて歩んできた人生だが、その人生を見直す時期がこの年にやって来た。
全く違う生き方をしてきた二人。出会うはずがない二人が一つの部屋で交差する。クリスティがティンロの日記を読むことで次第に近寄っていく。過去をあまり振り返らなかったはずのクリスティが父親や恋人との昔を思い出し、自分の生き方を考えるようになっていく。
私にとってクリスティもティンロも魅力的だ。
恋も仕事も頑張るキャリアウーマンと笑顔になれば幸せになれると柔らかな笑顔で周りもポジティブにさせてくれるティンロ。二人の様々な部分に共感できる。
仕事が好きといいながら朝出勤するまでは「休みたい」を連呼し、大好きな俳優ゆかりの土地に行けばファンでなければわからない感動を覚える。そんな人生を送ってきた。
懐かしき香港スターに思いを馳せる
この作品には様々な香港スターやドラマ、映画の名前が出てくる。人気グループBeyond、レオン・ライ。ウォン・カーウァイ監督そして
特に出てくるのはティンロが敬愛する歌手・張國榮(レスリー・チャン)。
2005年にはすでにレスリー・チャンはこの世にいなかった。だが残された曲や映画は今でも愛され続けている。
レスリー・チャンを好きなのは監督自身だという。レスリー・チャンへのリスペクトが随所にある。
クリスティにもティンロにも監督の体験や経験がもりこまれている。
初監督 斬新な演出が光る
監督はキーレン・パン。今回が映画初監督。
キーレン・パン監督は去年あいち国際女性映画祭2017に参加していた。
女優としても活動してきた彼女はバイタリティ溢れる女性。あんな素敵な女性になりたいと憧れる女性だった。
大学で演劇を学び、留学もしてさらにそれに磨きをかけ舞台俳優として長年香港の演劇界を引っ張ってきた。自身にも起こったこの29歳問題を脚本にし、一人芝居として何度も上演。そして今回12年を経てその作品を映画化した。演劇では良く使う手法を演出で提案したそうだが、はじめは映像スタッフから驚かれ反対されたというが結果的には斬新だと評価されることとなった。それがどの部分なのか考えながら見ると面白い。劇中クリスティが観ている私たちに話しかけたり、リズムに合わせて会議が進んでいくなど演出が工夫されている。
監督自身が愛し続けた作品だからこそ演技指導も行き届いており、一人芝居では想像の部分でしかなかった部分が具現化されて広がっている。様々な複線も入れ込まれ、終わるときにはもっとあのシーンしっかり見ておけばよかったと思えるだろう。
2005年の30歳は今年43歳だ。40歳という節目も越えてクリスティとティンロは今どんな生活をしているのだろうと観終わってから考えた。いつの時代も29歳とは大きな節目にあたる。
クリスティやティンロが将来を考える姿が自分にも重なってくる。あなたはクリスティとティンロどちらに近いのだろう?
29歳。恋愛から結婚そして仕事。
どれが自分にとって大事なのか…
これからの自分を生きる上で悩み、そして決断する。
人生のターニングポイントに向き合うすべての女性のための映画だ。
映画『29歳問題』は現在公開中。
東海地区では6月2日(土)より愛知・名演小劇場で公開。
http://29saimondai.com/index.html
おすすめの記事はこれ!
-
1
-
ロイヤル劇場存続をかけてクラウドファンディング開始! 【ロイヤル劇場】思いやるプロジェクト~ロイヤル、オモイヤル~
岐阜市・柳ケ瀬商店街にあるロイヤル劇場は35ミリフィルム専門映画館として常設上映 ...
-
2
-
第76回 CINEX映画塾 映画『波紋』 筒井真理子さんトークレポート
第76回CINEX映画塾『波紋』が7月22日に岐阜CINEXで開催された。上映後 ...
-
3
-
岐阜CINEX 第17回アートサロン『わたしたちの国立西洋美術館 奇跡のコレクションの舞台裏』トークレポート
岐阜CINEX 第17回アートサロン『わたしたちの国立西洋美術館 奇跡のコレクシ ...
-
4
-
女性監督4人が撮る女性をとりまく今『人形たち~Dear Dolls』×短編『Bird Woman』シアターカフェで上映
名古屋清水口のシアターカフェで9月23日(土)~29日(金)に長編オムニバス映画 ...
-
5
-
映画『私の大嫌いな弟へ ブラザー&シスター』公開記念 アルノー・デプレシャン監督舞台挨拶付き上映 伏見ミリオン座で開催決定!
世界の映画ファンを熱狂させる名匠アルノー・デプレシャンが新作『私の大嫌いな弟へ ...
-
6
-
自分の生きる道を探して(映画『バカ塗りの娘』)
「バカ塗りの娘」というタイトルはインパクトがある。気になってバカ塗りの意味を調べ ...
-
7
-
「シントウカイシネマ聖地化計画」始動!第一弾「BISHU〜世界でいちばん優しい服〜」(仮)愛知県⼀宮市にて撮影決定‼
株式会社フォワードがプロデュースし、東海地方を舞台にした全国公開映画を毎年1本ず ...
-
8
-
エリザベート40歳。これからどう生きる?(映画『エリザベート1878』)
クレオパトラ、楊貴妃と並んで世界の三大美女として名高いエリザベート皇妃。 彼女の ...
-
9
-
ポップな映像と音楽の中に見る現代の人の心の闇(映画『#ミトヤマネ』)
ネット社会ならではの職業「インフルエンサー」を生業にする女性を主人公に、ネット社 ...
-
10
-
豆腐店を営む父娘にやってきた新たな出会い(映画『高野豆腐店の春』)
尾道で小さな豆腐店を営む父と娘を描いた映画『高野(たかの)豆腐店の春』が8月18 ...
-
11
-
映画『フィリピンパブ嬢の社会学』11/10(金)より名古屋先行公開が決定!海外展開に向けたクラウドファンディングもスタート!
映画『フィリピンパブ嬢の社会学』が 11月10日(金)より、ミッドランドスクエア ...
-
12
-
『Yokosuka1953』名演小劇場上映会イベントレポート
ドキュメンタリー映画『Yokosuka1953』の上映会が7月29日(土)、30 ...
-
13
-
海外から届いたメッセージ。66年前の日本をたどる『Yokosuka1953』名古屋上映会開催!
同じ苗字だからといって親戚だとは限らないのは世界中どこでも一緒だ。 「木川洋子を ...
-
14
-
彼女を外に連れ出したい。そう思いました(映画『658km、陽子の旅』 熊切和嘉監督インタビュー)
42才、東京で一人暮らし。青森県出身の陽子はいとこから24年も関係を断絶していた ...
-
15
-
第75回CINEX映画塾 『エゴイスト』松永大司監督が登場。7月29日からリバイバル上映決定!
第75回CINEX映画塾 映画『エゴイスト』が開催された。ゲストには松永大司監督 ...
-
16
-
映画を撮りたい。夢を追う二人を通して伝えたいのは(映画『愛のこむらがえり』髙橋正弥監督、吉橋航也さんインタビュー)
7月15日ミッドランドスクエアシネマにて映画『愛のこむらがえり』の公開記念舞台挨 ...
-
17
-
あいち国際女性映画祭2023 開催決定!今年は37作品上映
あいち国際女性映画祭2023の記者発表が7月12日ウィルあいちで行われ、映画祭の ...
-
18
-
映画『愛のこむらがえり』名古屋舞台挨拶レポート 磯山さやかさん、吉橋航也さん、髙橋正弥監督登壇!
7月15日ミッドランドスクエアシネマにて映画『愛のこむらがえり』の公開記念舞台挨 ...
-
19
-
彼女たちを知ってほしい。その思いを脚本に込めて(映画『遠いところ』名古屋舞台挨拶レポート)
映画『遠いところ』の公開記念舞台挨拶が7月8日伏見ミリオン座で開催された。 あら ...
-
20
-
観てくれたっていいじゃない! 第10回MKE映画祭レポート
第10回MKE映画祭が7月8日岐阜県図書館多目的ホールで開催された。 今回は13 ...
-
21
-
京都はファンタジーが受け入れられる場所(映画『1秒先の彼』山下敦弘監督インタビュー)
台湾発の大ヒット映画『1秒先の彼女』が日本の京都でリメイク。しかも男女の設定が反 ...
-
22
-
映画『老ナルキソス』シネマテーク舞台挨拶レポート
映画『老ナルキソス』の公開記念舞台挨拶が名古屋今池のシネマテークで行われた。 あ ...
-
23
-
「ジキル&ハイド」。観た後しばらく世界から抜けられない虜になるミュージカル
ミュージカルソングという世界を知り、大好きになった「ジキル&ハイド」とい ...
-
24
-
『オールド・ボーイ』のチェ・ミンシク久しぶりの映画はワケあり数学者役(映画『不思議の国の数学者』)
映画館でポスターを観て気になった2本の韓国映画。『不思議の国の数学者』と『高速道 ...
-
25
-
全編IMAX®️認証デジタルカメラで撮影。再現率98% あの火災の裏側(映画『ノートルダム 炎の大聖堂』)
2019年4月15日、ノートルダム大聖堂で、大規模火災が発生した。世界を駆け巡っ ...
-
26
-
松岡ひとみのシネマコレクション 映画『ベイビーわるきゅーれ 2ベイビー』 阪元裕吾監督トークレポート
松岡ひとみのシネマコレクション 映画『ベイビーわるきゅーれ 2ベイビー』が4月1 ...
-
27
-
映画『サイド バイ サイド』坂口健太郎さん、伊藤ちひろ監督登壇 舞台挨拶付先行上映レポート
映画『サイド バイ サイド』舞台挨拶付先行上映が4月1日名古屋ミッドランドスクエ ...
-
28
-
第72回CINEX映画塾 映画『雑魚どもよ、大志を抱け!』足立紳監督トークレポート
第72回CINEX映画塾が3月25日岐阜CINEXで開催された。上映作品は岐阜県 ...
-
29
-
片桐はいりさん来場。センチュリーシネマでもぎり(映画『「もぎりさん」「もぎりさんsession2」上映+もぎり&アフタートークイベント』)
センチュリーシネマ22周年記念企画 『「もぎりさん」「もぎりさんsession2 ...
-
30
-
カンヌ国際映画祭75周年記念大賞を受賞したダルデンヌ兄弟 新作インタビュー(映画(『トリとロキタ』)
パルムドール大賞と主演女優賞をW受賞した『ロゼッタ』以降、全作品がカンヌのコンペ ...
-
31
-
アカデミー賞、オスカーは誰に?(松岡ひとみのシネマコレクション『フェイブルマンズ』 ゲストトーク 伊藤さとりさん))
松岡ひとみのシネマコレクション vol.35 『フェイブルマンズ』が3月12日ミ ...
-
32
-
親子とは。近いからこそ難しい(映画『The Son/息子)』
ヒュー・ジャックマンの新作は3月17日から日本公開される『The Son/息子』 ...
-
33
-
先の見えない日々を生きる中で寂しさ、孤独を感じる人々。やすらぎはどこにあるのか(映画『茶飲友達』外山文治監督インタビュー)
東京で公開された途端、3週間の間に上映館が42館にまで広がっている映画『茶飲友達 ...
-
34
-
映画『茶飲友達』名古屋 名演小劇場 公開記念舞台挨拶レポート
映画『茶飲友達』公開記念舞台挨拶が2月25日、名演小劇場で開催された。 外山文治 ...
-
35
-
第71回 CINEX映画塾 映画『銀平町シネマブルース』小出恵介さん、宇野祥平さんトークレポート
第71回CINEX映画塾『銀平町シネマブルース』が2月17日、岐阜CINEXで開 ...
-
36
-
名古屋シアターカフェ 映画『極道系Vチューバー達磨』舞台挨拶レポート
映画『極道系Vチューバー達磨』が名古屋清水口のシアターカフェで公開中だ。 映画『 ...
-
37
-
パク・チャヌク監督の新作は今までとは一味も二味も違う大人の恋慕を描く(映画『別れる決心』)
2月17日から公開の映画『別れる決心』はパク・チャヌク監督の新作だ。今までのイメ ...