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声だけで想像することの満足感 ― 『VOICARION 「Mr.Prisoner」』

2016/09/26

観劇レビュー 『VOICARION 「Mr.Prisoner」』千穐楽

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あらすじ

小説家のディケンズはロンドン塔にある「決して聞いてはいけない声をもつ囚人」の
話を聞きにその囚人を知る婦人・レスに会いに来る。
レスは話始める。自分の知る囚人の話を。
声を聞いてはいけないという倫敦塔地下牢の住人とその世話をする牢屋番の孫の少女レス。
光の通らない牢にいる囚人252号(エドワード・ホークウッド伯爵)は
久しぶりに声を聞く。うっかりレスが声を出してしまったのだ。
牢屋番が死ぬとその家族もその家を失う。
レスは祖父の死を隠し声を出さずに囚人の世話をしていた。
囚人はいろんなことを知っていた。
「決して聞いてはいけない」と言われていた囚人の声はレスにとっては
かけがえのない師の声となる。
下層階級と知りながら囚人はレスを蔑むことなく純粋に生徒として接してくれたのだ。
様々な人の声を表現し、レスに色々なことを授ける先生。
ある日レスはロンドン塔にやって来た先生の過去を知る男性・ヘイスティングス卿に声をかけられる。
あの囚人は友人を死に追いやった。君もそうなるかもしれない。
ヘイスティングスの言葉を気にしていないつもりのレスだが…。

学ぶこととは?教えることとは?

勉強は一方的に教えるものではない。
問うことだ。問うて応える。

「レス、貴女の名前には音楽が溢れている。」
レスポンソリウム。ラテン語で「応唱」。
その言葉が私の頭の中に浮かんだ。

レスに教えること。それは自分自身にも問うことだ。
囚人である彼は教えながら自分にも問うていたに違いない。
教えるとは相手の人生への影響を考えること。
自分が教えたことが生徒の心の片隅に残ることを忘れてはならない。
それが良きことでも悪しきことでも。

学ぶとは教えられたことを鵜呑みにせず
周りの声に翻弄されず自分で見たものや感じたことで判断すること。
教えられたことの真偽を自分で見抜くこと。

教師と生徒は呼応することで成り立つ関係だと改めて思う。
暗闇のなか、顔も髪も瞳の色も知らない。
ただ先生の声を信じて学んできたレス。
それは先生も同じだったことだろう。
先生はレスにどんな色の服を着せたのだろうか?

凄すぎるキャスト

観に行ってから2週間は経過したであろうに未だに囚人252号の声が頭の中に響いている。
毎週日曜の朝にラジオ『Keep on smiling』を聞いているがやはり生で聞くあの声は別格だった。
囚人252号、それ以外にレスが囚人に頼まれて訪れる店の主人を筆頭に
9人の声を使い分けて演じたのは山寺宏一。
声優としては知らぬ人はいない。
昔『シティハンター』を見ているとキャストに毎週違う役でエンドロールにテロップが出されており
子供の頃の私にとっては不思議な人だった。
物まねもレベルが高い。
敏感な耳とそれを巧みに表現できる強い喉の持ち主。
どうやって声を変えているのかを間近で見てその思いは余計に強くなった。
引き出しの多さに唖然とする。

レス役は綾波レイ(『エヴァンゲリオン』)、灰原哀(『名探偵コナン』)と有名な役をいくつも担当する林原めぐみ。
『魔神英雄伝ワタル』ぐらいからずっと聞いていた声。
レスという一人の女性の少女時代から婦人時代まで。
山寺さんが様々な役で声の幅を表現しているのとは対称的に一人の人物の人生を
声で表現している。

ディケンズとヘイスティングス卿という違う時代で
「決して声を聞いてはいけない囚人」に執着する2人の男性を演じたのは上川隆也。
俳優としてだけではなく最近では『天元突破グレンラガン』、『ファインディング・ドリー』と
声優としても活動している上川さんが今回「胸を借りる」と言いながら演じた2役。
山寺さん、林原さんとは声の出し方が明らかに違う。
引き出しの種類の違いが観られた面白い場になった。
朗読劇だけど3人とも心のぶつけ方が凄い。
本当に操られるんじゃないかと思う時がある山寺さんの空気。
リアルに怖がる林原さん。
首から上が二人ともスゴすぎる。

台本を見ないまま二人のやり取りの間にページをめくっていく上川さん。
朗読劇でも丸暗記している。
朗読劇でも彼は身体中で二人を演じていた。
役によって微妙に立ち方や表情が違っていた。

1つの作品として隅から隅までがプロフェッショナル

上演前に私たちは暗示をかけられる
場内での注意アナウンスから物語は始まっていた。
私たちも囚人。そう、ロンドン塔の物語に囚われの身なのだ。
板の上に立つ3人の「決して声を聞いてはいけない囚人」に暫しの間
囚われていたのだ。
朗読劇なので3人は同じ場所からほぼ動いていない。
それなのに私たちが観ている場所は3人の台詞と生で演奏される見事な音楽で
確実に場面展開していく。
小杉沙代さんの作った音楽を表現した音楽チームのレベルの高さ。
ピアノを弾きながら指揮を振る斎藤龍さんに脱帽だった。

観ている人によってレスに自分を重ねる人も、
客観的に物語を観ていた人もいることだろう。
脚本と演出は藤沢文翁。
イギリスで成長した彼はヨーロッパのどこか重たくて不安になる空気を知っている。
嫌というほどヨーロッパで日本人として生きてきただろう。
だからこそ知っている人の冷たさ、温かさ。
作品のストーリーがしっかりしている上に私たちに訴えかける
メッセージも素晴らしかった。
すべての設定がそのメッセージに繋がったとき私は心の中で唸った。
それでいて最後までしっかり「声を聞いてはいけない囚人」の謎を残していく。
囚人252号は最後はどうなったのか。それは私たちの想像力にかかっている。
鳥と共に羽ばたいたのか。それとも?
朗読劇でこんなに高揚したのははじめてだった。
また観たいと思わせてくれる作品だった。

役者や声優ならこの作品に出てみたいと思うに違いない作品だったし
もっと他のものも観たい思いに駆られる。
すでに来年VOICALIONは再演が決定している。
果たしてこの作品が再演されるのか
新たな藤沢ワールドが紡がれるのか楽しみにしたい。

・公演記録
クリエプレミア音楽朗読劇
VOICALION(ヴォイサリオン)『Mr.Prisoner』
2016年9月3日~5日  東京 シアタークリエ
来年VOICARION再演決定→公式HP

 

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