
現代で新しく作り上げた川端康成の『古都』(映画『古都』)
京都という町は不思議なところだ。
古いものと新しいものが混在する。
町家の風景から一歩大通りに出るとコンビニエンスストアや
飲食店がある場所が多い。
現代の繁華街と寺や神社などの文化財が混在し、
昔からの文化が大切に伝えられていて
『ほんまもん』がたくさん集まる場所。
それが京都。
ここに行かなければないものもたくさんある。
しかし伝統を守るために活動する人もいれば
家業を継がず、伝統ある町家を売ったという人もいる。
様々な要因でそういう選択をせざるをえない人もいるだろう。
だからこそ。
伝統を守るために伝えたいことがある。
京都の今を映画で描きたいと思った人達が集結して作品は作られた。
日本の美をこよなく愛した川端康成が書いた『古都』は京都を舞台に
生き別れ、全く違う環境で育った双子の姉妹が出会い
過ごしたわずかな時間を描いた作品だ。
祭りの縁日で同じ顔の女性に出会った苗子はそれが自分の姉千重子であることに気づく。
千重子は呉服屋の娘として大切に育てられ
苗子は北山杉を伐採して生計を立てる家で育つ。
境遇の差も大きく描かれた作品だった。
この作品の最後で千重子の両親は苗子を引き取ってもいいと
言うのだが、苗子はその申し出を断り家に帰っていく。
過去には映画化(1963年・岩下志麻主演、1980年・山口百恵主演)も
テレビドラマとして映像化もされている作品だが
今回製作された映画『古都』は現代を舞台にしたいという思いから
川端康成が書いた千重子と苗子のその後を描く新たな『古都』になった。
新たな『古都』のあらすじ
生き別れになった双子の姉妹、千重子と苗子(松雪泰子・二役)が最後に会って別れてから二十数年後。
それぞれに結婚。大人の女性になった二人には娘がいる。
娘たちは自分たちがそうであったように人生の岐路に立っている。
千重子は代々続く呉服店を娘の舞(橋本愛)に継がせるつもりだったが、
親が決めたレールに乗りたくない舞から思わぬ抵抗を受ける。
北山杉で林業を営む苗子は絵画を志す娘の結衣(成海璃子)を快くパリに送り出したが、
結衣が自分の才能に疑問を持ち始めていることに気付く。
昔自分が下した決断に想いを馳せながら、二人は娘のために何ができるのかを考える。
『ほんまもん』づくしの作品
作品の随所に見える日本の美
京都でなければ揃わなかったものもある。
紅葉、竹藪、坂。山。
流れる川の水の響き。
流れ自体の美しさ。
自然がもたらす美しさ。
昔の五玉のそろばん、座禅、書道、華道
着物の色や柄行き。
帯結び、茶の湯の手前
先人たちが究めたものの作法の美しさ。
昔から続く和の文化の何か一本筋の入った
折目正しい美しさがこの作品には詰まっている。
美しさを描くために京都の『ほんまもん』が沢山登場している。
今回、千重子の家は実際に文化財として指定されている
室町通の町家・長江家が使用された。
土間のある昔ながらの建物だ。
作品内で千重子の夫・竜助が外国人に説明している通り
合理的に作られている中庭にも静かな美が存在している。
小さな場所にも気を遣える文化。
『おもてなし』にも通じる先人が培ってきた文化だ。
作品の中では町家や呉服屋を守るための苦労も描かれる。
ほんまもんを表現するためのキャスティング
同じ顔をした別の場所で生きてきた双子の姉妹。
里子としての思いを背負い続けてきた千重子と
自然の中でおおらかに暮らしてきた苗子。
一人二役で千重子と苗子を演じたのは松雪泰子。
Yuki Saito監督たっての希望で出演が決まった。
凛とした美しさのある松雪さんは着物を着ている姿も美しい。
お嬢さんの雰囲気を失わない千重子と
昔も察して身を引いたように
今も娘の微妙な変化に気が付くことができる苗子。
絶妙な違いがある。
その二役に挑んでいる。
所作に関しては相当学ばれたのではないかと思う。
動作が板についていなければ
『ほんまもん』に見えない。
学んですぐフィードバック出来るというのは
役者の素晴らしい技術だ。
娘にはこの二人。
舞を演じるのは橋本愛さん。
就職活動の葛藤の後、
日本の女性の美しさを表現したクライマックスシーンに
とても心を動かされた。
結衣が演じる成海さん。
大きく顔を動かさなくても心の中の葛藤が見える芝居が
とても好きだ。
母親の愛情がたっぷり注がれている娘の一面も可愛らしい。
そんな女性陣を男性陣がガッチリ支えている。
京都の映画にはなくてはならない栗塚旭さんをはじめ
奥田瑛二さん、伊原剛志さん、迫田孝也さん、葉山奨之さん。
随所で女性たちに大事なことを告げてくれる。
京都とパリ 2つの古都で描かれるストーリー
結衣の留学先はパリ。
Yuki Saito監督はリアルなパリをカメラに収めている。
その風景が見事に京都の風景にリンクしていく。
古都と称される二つの都市が次第に
ひとつに見えてくるそんなマジックがあるのもこの映画だ。
親が抱えた思いを子供たちが受け継ぐ。
伝統を守ることとはそういうことなのかもしれない。
温故知新。
古い作品をそのまま再現するのではなく新しい話へと昇華させる
文化の継承とはそういうものではないか。
若い人にこの映画を撮ってほしいと指名されたYuki Saito監督。
ハリウッドの技術も巧みに使い、この映画は完成した。
文化の継承はここでも行われている。
映画『古都』は
11月26日より京都先行公開中。
12月3日より新宿ピカデリー他で全国公開。
名古屋地区は12月3日よりミッドランドスクエアシネマ他で公開。
http://koto-movie.jp/
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