
歴史を守る美術館の今(映画『グレート・ミュージアム ハプスブルク家からの招待状』)
オーストリアの首都ウィーン。
音楽の都と言われているが音楽の都になったのは
音楽家を保護した富裕層が住んでいたからであることを
忘れてはならない。
足を踏み入れた途端
中世にタイムスリップしたのではないかと
錯覚した記憶があるこの都市はハプスブルク朝の都だった。
それだけに沢山の歴史あるものが存在する。
ウィーンにまた行けるのであれば行きたいのは
今回紹介する『グレート・ミュージアム ハプスブルク家からの招待状』の舞台
ウィーン美術史美術館だ。
シェーンブルン宮殿同様、
日本人にも大変人気のあるスポット。
鑑賞するには少なくとも半日、じっくり見れば優に1日はかかる
大きな美術館だ。
ウィーン美術史美術館とは
1871年、ハプスブルク家皇帝フランツ=ヨーゼフ1世
(ミュージカル『エリザベート』で有名なエリザベート妃の夫)
の命により建設がスタートし、1891年に開館した。
13世紀からオーストリアを実質支配したハプスブルク王朝は
この後1918年、第一次世界大戦後に崩壊するが、
美術館は歴代の君主たちによる収集品をはじめとする数々の美術品を所蔵。
その数は絵画だけで7000点を超える。
ハプスブルク家の歴代皇帝たちが集めた膨大な数の美術品を所蔵し、
今年で創立125周年を迎えた。
収蔵作品は、クラーナハ、フェルメール、カラヴァッジオ、ベラスケスなどの名画から
絢爛豪華な美術工芸品まであらゆるものがある。
ブリューゲル・コレクションは世界最多を誇る。
「バベルの塔」はいつか直に見てみたい作品だ。
製作陣が見た偉大なる美術館の裏側
『グレート・ミュージアム ハプスブルク家からの招待状』は
創立120年の節目に取り掛かった大規模な改装工事に2年以上にわたり密着した。
天井画や壁画などまるで宮殿のような豪華な装飾だけでなく、
美術品の収蔵庫、修復作業場、閉館後の館内や会議室など、
通常は見ることのできない美術館の姿をとらえていく。
カメラとマイクがとらえたものが全て。
空間の広さや美しい絵画を直接自分の目で見ているような映像。
音楽やインタビューはない。あるのはこの美術館で聞こえる音。
宮殿のような広さの美術館を歩く足音、人々の会話。
そして。美術館運営の裏で展開される美術館を存続させるための
駆け引きの会話が聞こえてくる。
撮影と同時に録音を行い、ナレーションはつけないという「ダイレクトシネマ」
というドキュメンタリーの撮影方式でこの作品は撮影されている。
美術館で働く様々な人々
館長、学芸員、修復家から清掃員に至るまで。
美術館は個性的なスタッフたちが集まる小さなコミュニティ。
組織で働く苦労や、芸術を扱う仕事が持つ困難さをリアルに映し出す。
美術館のブランド戦略をめぐってもめる会議。
収支バランスばかりを気にする経営陣。
完璧主義の修復家。
いいものを見せたいと思う気持ちと
出来るだけ膨れ上がる予算を抑えたい気持ち。
どちらもよくわかる。
芸術にはお金がかかる。
守りか刷新か。
様々な思いが職員達に沸き起こっている。
伝統を守るために。
年々値上がりする入場料。
削られる予算。
やりたいことをやりたい。
でもお金には限りがある。
もっと美しく直したい。でも時間の限界がある。
限りがある中でそれぞれが自分の思いを
叶えたいと奮闘する姿をいくつも見ることができる。
過去の遺産をただ見せているわけではない。
美術館として建てられた場所だからこその利点と新しさの融合
昔のものを新しいものへと変換させる。
ウィーン美術史美術館は新たな時代に入っている。
『グレート・ミュージアム ハプスブルク家からの招待状』
http://thegreatmuseum.jp/
ヒューマントラストシネマ有楽町他で全国順次公開中。
名古屋地区では名演小劇場で12月3日より公開。
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