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©2020ソワレフィルムパートナーズ

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居場所のない二人のかりそめの逃避行(映画『ソワレ』)

彼女に会ったのはある映画の現場だった。

彼女はブルーハワイのクリームソーダをニコニコしながら飲んでいた。

カメラが回れば彼女は話の中のヒロインとしてまた違う顔で生き生きしていた。巧いと思った。
お互いあまり話すことはなく、私は自分の出番がなくなり、先に現場をあとにしたのだが、笑顔で「お疲れさまでした」と送ってくれた。

あの日、名前を聞かないままだった彼女の名を知ったのはその映画が公開された時だった。
彼女の名前は芋生悠。これから紹介する映画『ソワレ』の主演女優だ。

外山文治監督の最新作は豊原功補、小泉今日子らが立ち上げた新世界合同社第1回プロデュース作品。ある男女の逃避行を繊細に描く。

あらすじ

俳優を目指して上京するも結果が出ず、今ではオレオレ詐欺に加担して生活している翔太。ある夏の日、故郷・和歌山の高齢者施設で演劇を教えることになった翔太は、そこで働くタカラと出会う。数日後、祭りに誘うためにタカラの家を訪れた翔太は、刑務所帰りの父親から激しい暴行を受けるタカラを目撃する。咄嗟に止めに入る翔太。それを庇うタカラの手が血に染まる。逃げ場のない現実に絶望し佇むタカラを見つめる翔太は、その手を取って夏のざわめきの中に駆け出していく。二人の「かけおち」とも呼べる逃避行の旅が始まった。

©2020ソワレフィルムパートナーズ

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人は自分の居場所を探す

自分の人生の主役は自分のはずだ。
だが、人は自分の居場所をいつも探す。

過去から今までずっと居場所を作ってもらえず、自分で作ることも出来ず自分の存在意義がわからないまま生きてきたタカラ。

役者としての居場所を求めて上京したのにその居場所にまともに居られず、故郷に帰っても居場所がない翔太。

彼らの逃避行は文字通り。ひたすら走る。
警察、現実、孤独…一体何から逃げているのだろうか。

恋人ではない二人がかけおちを装い、逃げる。
二人は逃避行のうちに自らと向き合っていく。自分が抱えている闇、自分への嫌悪感からお互いに自分のことを多くは語らない。考え方が違い、ぶつかる中でいつしかお互いが大切な存在になっていく。

この二人だから生まれた美しき映画

役者の夢を挫折しかけている翔太には外山監督の短編『春なれや』に続いてタッグを組む村上虹郎。タカラ役にはオーディションで選ばれた新鋭で映画、ドラマに出演が続く芋生悠が起用された。
二人だからこそ生まれる化学反応を見事に外山監督が映し出す。

走るタカラの背中が印象的だ。
役者に隙があるとしたらそれは背後だろう。
後姿までタカラとしての存在を放つことが出来る芋生悠の感性がすばらしい。

©2020ソワレフィルムパートナーズ

©2020ソワレフィルムパートナーズ

 

少し傾いた肩で翔太の後を走る。置いて行かれないように走る。タカラの背中に寂しさを感じ、今までの人生を想像せずにはいられない。

役者としての才能がないとわかっていながらあがく翔太。記憶に残りたいと願いながら、今の自分では誰の記憶にも残らないということも気づいている。タカラの思いを受け止める優しい男はタカラの手を引いたことで自らの居場所を探り始める。

©2020ソワレフィルムパートナーズ

©2020ソワレフィルムパートナーズ

 

二人は決してお互いの鏡ではない。だからこそわかる自分の大きさ。等身大の自分の居場所はどこなのか。自分は何なのか。この出会いが気づきをもたらす。

夜に行われる公演、夜明け前の時間。
『ソワレ』にはそんな意味がある。
多くを語らない二人の表情や行動から私たちはいろいろなことを想像する。それはどこか演劇的で、大人が観る夜の静かな芝居を思わせる。

夜明け前の空の色は美しい。しかし明けない夜はない。この一瞬、わずかなひとときに誰かが一緒にいてくれたら。またやってくる朝を迎えてこの世界で生きていく勇気が湧く。

胸がじりじりとしびれるような展開の最後に外山監督が蒔いた伏線の花が開く。
そのメッセージに涙が溢れた。

映画『ソワレ』https://soiree-movie.jp/ は8月28日(金)よりテアトル新宿他で全国順次公開。

東海三県では8月28日より伏見ミリオン座、MOVIX三好、イオンシネマ長久手で公開。
コロナシネマワールド(安城、小牧、大垣)でも順次公開予定。

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