葬儀の現場に涙は見せない(映画『ゆずりは』)
どの時代でも文化や仕事の技は受け継がれていく。
人から人へ。意思を継ぐ者達の命のリレーだ。
あらすじ
葬儀社のベテラン営業部長・水島(滝川広志)は常に冷静に仕事を進めるプロだ。ある日、彼の勤める葬儀社に茶髪にピアスの若者・高梨(柾木玲弥)が面接にやって来る。周囲の反対を押し切って水島は高梨に何かを感じて採用を決める。一見、軽薄に見える高梨だが実際は遺族にしっかり向き合い、自然体で心に寄り添う豊かな感受性の持ち主だった。職業柄数多くの死に接してきたため悲しみの心を押し殺してきた水島だが、高梨と接するうちに熱い心と、先立った妻への思いを取り戻していく。そんなある日、高梨がいじめを苦に自殺した故人に想いを寄せるあまり、参列者を罵倒するという騒ぎを起こしてしまう。その葬儀は水島にとっても複雑な思いを抱えながらの葬儀だった。

滝川広志って誰?
滝川広志とはものまねの世界で知らない人はいないものまねスター・コロッケの本名。
自身の独特な観察眼で様々なものまねを披露。アイデアも多彩でものまねをひとつのショーにしているものまね界のパイオニアである。特に顔面を自由自在に動かすことは他の芸人には出来ない職人技だ。今までもコロッケ名義で役者としてドラマに出演していたことはあったが、今回本名で初主演に挑む。撮影期間の間は日帰りで帰ることもできるロケ地に泊まり込み、水島が普段暮らしている場所で役作りに没頭した。役者として新たな道を開いた彼は冷静でほとんど気持ちを顔に出さない男を演じている。顔の動きを封印し、心で体当たりする演技は注目だ。ものまねで培った洞察力が演技にも生かされているのは間違いない。
行き届いた葬儀監修
葬儀を取り仕切る人たちは常に冷静沈着でなければならない。
家族がしっかり故人と別れが出来るように取り仕切る側は式次第がうまくいくように計画し、実行する。涙は決して見せてはだめだ。昔、少しだけ葬儀の司会の勉強をしたことがあるが、その時も絶対に泣いてはだめだと教えられた。
納棺師にスポットを当てた『おくりびと』がこの業界の作品では有名だが、この作品では葬儀会社にスポットを当てた。
作品に説得感を与えているのは現場監修がしっかりとされていることだ。
実際に千葉県八千代市にある葬儀会社が撮影に使用され、葬儀の合間に撮影が行われている。使用頻度の多い会場については友引に撮影された。友引には葬儀が行われることがないためだ。祭壇も小さいものから大きいものまで実際に使用されているものが使われている。葬儀会社の細かい指導が行き届いており、冒頭やラストにある導師入場までのエピソードは興味深い。また故人の紹介は司会者が遺族の話を聞いて原稿を作り話しているということもこの映画で知ることができるだろう。葬儀での司会者の話し方にも細かく指導が入っていることが感じられた。

ぶつかり合いながらお互いが変化する
水島と型破りな新人・高梨二人の変化が数年を通して描かれる。
水島は仕事以外の場でも自分の感情が動かないことに怖さも感じていた。十数年前の自分と妻の出来事も自分の感情が動かない理由で、いつになっても自分がしてしまったことを忘れることが出来ず新しいスタートが切れない。そんな時、感情をストレートに出してくる高梨がやって来たことで水島の心に少しずつ変化が訪れていく。
葬儀の現場を知っていくにつれ、遺族に向き合う正しい方法を知っていく高梨が幼くして亡くなった男の子の姉と話す場面は子役の演技も相まって涙なしには見られない。この映画、観る側は随所で自分の記憶と重なる人も多いのではないだろうか。

「ゆずりは」に込める思い。魂を引き継いでいくこと
葬儀会社にある「ゆずりは」はこの作品のために庭の池を埋めて植えられたという。「ゆずりは」は新しい葉が出てくると場所を譲るように古い葉が落ちる。そのため親が子を育てて家が代々続いていくように見立てられる。故人の思いを生きている人たちが引き継いで生きること、葬儀という日本独特の伝統を引き継いでいくこと。このどちらの意味にも取ることができるだろう。多宗教民族である日本人に対応して葬儀を取り仕切る葬儀会社も若い人材へと仕事が引き継がれていく。
社長役の勝部演之が静かにしっかりと水島や高梨達社員を見守り、最後の最後まで社長として、水島の義理の父親として存在してくれたことが作品に深みを与えている。
死を避けては通れない。いつか尽きる自分の命。
自分の思いを受け継ぐ次の世代を育てること。
これも今を生きる私たちの使命と言えるだろう。
映画『ゆずりは』http://eiga-yuzuriha.jp/ は6月16日より公開。
東海地区では名演小劇場、イオンシネマ(名古屋茶屋、常滑、豊田KiTARA、桑名)で6月16日より、イオンシネマ(長久手、豊川、岡崎市、各務原)は6月23日より、静岡・シネギャラリーは7月21日より公開。静岡・シネマイーラでも順次公開予定。
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