
映画『ソローキンの見た桜』岐阜 大垣舞台挨拶レポート
映画『ソローキンの見た桜』の公開記念舞台挨拶が岐阜・コロナシネマワールド大垣で4月28日に開催された。
井上雅貴監督、岐阜県出身の益田由美子プロデューサーが登壇。撮影の裏側を語った。
映画『ソローキンの見た桜』は、日露戦争後の四国・松山が舞台。ロシア兵捕虜収容所に収監されたロシア兵ソローキンと、ソローキンの看護に当たった女性との愛を現代の女性記者が調べていく形で描かれていく。
井上監督
「昨日、モスクワから帰ってきました。3日前に第41回モスクワ国際映画祭でこの作品の上映がありました。モスクワ映画祭は世界4大映画祭の一つなんです。カンヌ、ベネチア、ベルリン、そしてモスクワが4大映画祭です。世界でも歴史の古い、注目される映画祭です。そこで上映されるというのは映画人にとっては名誉なことでロシアに関わりのある映画なのでモスクワ映画祭で上映されたことは非常にうれしいと思っております」
益田プロデューサー
「反応はいかがでしたか?」
井上監督
「映画人の方、評論家の方に観ていただいて皆さん泣いてました。日本の他の上映でも皆さん泣かれていましたが、同じシーンでロシアでも泣かれていまして。日本人もロシア人も気持ちは同じだなと感じました。作品の中に出てくるロシア人墓地についてすごく質問がありました。「実在するんですか?」「中学生がお墓の清掃などを今でもしているんですか?」と聞かれました。作品に出演している中学生は実際に清掃奉仕活動をしている勝山中学校の生徒さんです。半分ドキュメンタリーのように撮影しているんです。それを伝えたところ非常に驚いてそれは素晴らしいことだと。ロシアの方はあまり日露戦争のことは戦争があったことは知っていますが、あまり詳しくは知らないようなんです。そういう出来事があって、こういう捕虜収容所があったということ自体は非常に驚いていらっしゃいました」
益田プロデューサー
「役者の演技に対してはどんな反応がありましたか?」
井上監督
「役者さんの演技については皆さんすばらしいと。特にイッセー尾形さんの演技が素晴らしいと。ロシアにはスタニフラスキーシステムという演技メソッドがあるんですが、リアリティのある演技をするこの方法が100年ほど前に確立されまして、全世界の基準となっている方法なんですね。それをイッセー尾形さんは体現しているという評価がありました。イッセー尾形さんは昔ロシア映画の『太陽』という作品で昭和天皇を演じておられるんですね。そのことを映画祭でお話ししたところ「やはり」「さすが」という風にロシア人の方々は言っておられました」
益田プロデューサー
「その『太陽』という作品に井上監督は関わっていらっしゃったんですよね?」
井上監督
「私もスタッフで入っておりました。ボイスマン大佐役のアレクサンドル・ドモガロフさんは日本では知られていませんがロシアでは本当にすごい方なんです。ドモガロフさんがこの映画に出演するということでロシアの方はすごく驚いておられました。今回日本とロシアの懸け橋になる映画になるということとロシア兵墓地を今でも日本人が守っているということに感銘を受けてこの映画に彼は参加してくれました。そのことが先に決まっていまして。ボイスマン大佐に対峙する河野所長は日本の中途半端な役者さんでは太刀打ちできないなと思いました。日本を代表する役者さんに頼まないといけないと思って私が直々にイッセー尾形さんに連絡して「助けてください」とお願いしました。ロシアを代表する俳優さんが出演するので日本を代表するイッセーさんにお願いしたいという風に伝えたら脚本度返しで、ギャラも度返しで参加してくださいました。実際映画の中ですごく光る演技をしてくださっています」
ここで大垣の観客代表で大垣精工代表取締役会長の上田さんがトークに参加。
上田さん
「私も35年前にモスクワに滞在したことがあり、ロシアの通訳さんに質問したことがあります。日露戦争では日本が勝ったけれど、ロシアの方はどう思っていらっしゃるのかと。そうしたら、日露戦争は記憶がありませんと言われたんです。ショックでしたね」
井上監督
「ロシア人は見栄っ張りなところもありますので(笑)。負けたという表現をしていないところがあります。でも徴兵制がロシアにはありますので男性は戦争の歴史を知っています。日露戦争で日本が勝ったことも知っています。日本人だと話したら日露戦争で日本が勝ったということはすごいことだと言ってお酒をおごってもらったことがあります。親日家の方が多くて日本を尊敬しているところもあるんですが、見栄っ張りでロシアはすごいという考えが強いのでそうやって記憶にないとおっしゃられたのかもしれませんね(笑)。勝った負けたが大事ではないという表現を映画の中でもしておりますが、この時代は武士道と騎士道が微かに残る時代だったんです。兵士たちがお互いへの尊敬の念を持っていたんですね。実際旅順で戦争をした時も一旦戦争をやめてお酒を酌み交わしたという史実もあるぐらいです。兵士として個人の戦争ではなく国と国とが戦争をしていたということを兵士たちは理解していたわけです」
上田さん
「この映画は多額の資金が投入された映画ではないんですよね?いわば中小企業のような」

大垣精工 上田代表取締役会長
益田プロデューサー
「そうなんです。資金が足りなくてクラウドファンディングで資金を集めましたし、日本の企業にも協賛金をいただいて製作しています。ロシア第一放送からも資金をいただいています。今年は日露友好年で5月にモスクワから始まって日本でクロージングするんですが、その友好年にふさわしい映画を作りたいということで井上監督にお願いしました。井上監督の奥様は実はロシア人でロシアの映画のエキスパートなんです。夫婦で映画を作りながら会話が出来るので映像に不自然さがないんです」
井上監督
「映画の中で「ロシア人では自分でもわかんないくらい複雑なんです」というセリフがありましたが、日本人の脚本家からは出てこないです。衣装も100年前のものなので日本には存在しなくて資料もほとんど残っていないという中、この映画を製作しないといけなくて。海外の映画で日本の侍が出てくると何か違うなと思うじゃないですか。それと同じでこれはロシア兵に見えないと言われるのは避けたいと思って。衣装とかはロシアの軍事アドバイザーに全部観ていただいて、衣装もロシアから全部持ってきて製作しました。手作りではありますが、大手の製作会社ではできないことをこの映画ではやっておりますのでそこも楽しんでいただければと思います」
益田プロデューサー
「映画では描き切れないことはノベライズ本で克明に説明してありますし、映画パンフレットではロシア人収容所は松山だけではなく日本で29カ所ありました。その場所の説明もしていますし、史実をベースにした映画になっていますのでどこが史実でどこがフィクションかも説明されています。キャストインタビューや監督の制作に対する思いなども書かれていますのでぜひご覧いただければと思います」

益田祐美子プロデューサー
井上監督
「この映画は大手の映画会社ではできないことをやるために非常に少ない資金で製作しています。モスクワ映画祭の他の地域の監督とその資金の額の話をするとそれは低すぎると驚かれます。それはなぜかというと日本人が映画に興味を持っていないからなんですね。もっと日本人がお金をかけて映画を観れば世界に通用する映画を作れるんですが、日本人だけなかなか映画に興味を持っていただけない。衰退している状態です。映画というのは世界を舞台に日本のことをわかっていただける機会でもあります。皆さんなりの方法で周りに伝えていただいて、応援していただけると嬉しいなと思います。どうかご協力よろしくお願いいたします。

井上雅貴監督
映画『ソローキンの見た桜』 https://sorokin-movie.com/ は現在全国順次上映中。コロナシネマワールド大垣では5月9日(木)まで公開中。
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