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映画『片袖の魚』名古屋シネマテーク 東海林毅監督 舞台挨拶レポート
映画『片袖の魚』の上映が名古屋シネマテークで9月18日から始まった。
この作品はトランスジェンダーの主人公が仕事で久しぶりに故郷に戻る様子を描く短編。
名古屋公開記念舞台挨拶が行われ、東海林毅監督が登壇。その様子をお届けする。
Q.映画制作の経緯などを教えてください
東海林監督
「この映画は短編映画なんですが、去年の夏ぐらいに短編映画を撮ろうと考えて、まず原案の詩を書いている詩人の文月悠光さんに、「文月さんの詩をベースに短編映画を撮ってみたいんです」とお声掛けして。二人で意思が一致したのがこの『片袖の魚』だったんですね。この詩で映画を撮るなら必ずトランスジェンダーで話を作りたいと文月さんに伝えたところもちろんいいですよと了承いただけて、企画が動き始めました。トランスジェンダーのストーリーをやるんだとしたら主人公役はトランスジェンダーの当事者にお願いしたいと最初から心に決めていて、初稿が出来るか出来ないかのうちにオーディション募集の文言を考えてSNSやネットで募集しました」
東海林監督
「第一の難関はそこでした。実はトランスジェンダー当事者の俳優を一般公募でオーディションするというのが日本では初めてのことで、実際やってみてももしかしたら当事者の方は表に出たがらない、集まらないんじゃないかという可能性もあり、不安ではあったんですが、募集したら北は北海道、南は九州まで20人前後の方から応募がありました。主役とバーの同僚役の二役を募集したんですが、映画の中で踊っていた彼女も採用して、当事者3名を起用して制作に入りました。日本映画だけではなく、世界中で問題になっているのはトランスジェンダーの表象を扱った映画、ドラマを作るときにトランスジェンダー当事者ではなくシスジェンダーがトランスジェンダー役を演じるというのが当たり前になっているわけです。それでは正しいトランスジェンダーの姿も伝わっていかないんじゃないか。トランスジェンダーで俳優を目指したい人もたくさんいるんですけど、そういう方の活躍の場が結果的に奪われてしまうのは問題ではないかと言われているんですね。その問題の解決の一歩として当事者には当事者をキャスティングして、表に出していく。皆さんの目に触れるようにこちらも後押ししていくということが大事だなと感じています。この映画でその小さな一歩が出来たのではないかと思います」
(観客から)
Q.彼女の学生時代からの心の葛藤がよくわかりました。こういった方々とどんな風に私達は接したり、お話すればいいんでしょうか?
東海林監督
「どういうシチュエーションで、どういうことを言ったら傷つけてしまうのかというのはやはり気になるところだと思います。ではどうしたら傷つけなくてすむのかということなんですが、それは一つ一つのケースによっても違い過ぎて正解というのがないと思うんですね。セクハラの問題と同じです。セクハラもここからここまでがセクハラという明確な線引きというのはないと思うんです。性的マイノリティの方に何を言ったら傷つけてしまうのかというのも明確な正解というのはないはずではありますが、僕がこれはやればいいんじゃないかと思うのは人権教育、人権について学ぶということです。人権だと性的マイノリティやセクハラのことよりも大きな枠組みだと思いますが、その大きな基本を押さえていけば、大きくおかしなことにはならないと思います。仮に「それは傷つきました。良くないことだと思います」と言われた時に自分の中に人権への意識があれば、「それは申し訳なかった、確かに傷つくよね」とこちらもすぐ理解出来るというか。人権もそうですし、ここから先は知識というか、いろんな人とふれあっていくという機会を設けることが大事だと思います。それが正解に近づけるといいますか」
Q.では信頼関係だとかコミュニケーションが大事ということですか?
東海林監督
「信頼関係がある中でそういった傷つきがあったとしたら、その後で話し合ったり、気づいてもらえたりがあると思うんですが、そうではない人というのはただ単に悪意で言ったりする場合もあるので、それは避けていきたいですね」
Q.主人公の職場で車椅子ユーザーの方が同僚として出てきていましたが、それは監督に何か考えがあってのことですか?
東海林監督
「仮面女子の猪狩ともかさんに演じていただいていますが、猪狩さん自身が事故に遭って車椅子で生活されています。最初から同僚の中に必ず車椅子の方を入れようとは決めていました。でも絶対にセリフでの説明や状況の説明として「この方は車椅子なんです」ということを説明しないようにしようと思っていたんです。車椅子の方はドラマや作劇の役割として出てきた時にすごくかわいそうな人という宿命を負わされてしまうんですね。キャラクターとしてかわいそうな役にされてしまうことがすごく多くて、それが僕はすごく失礼だと思うんです。僕もLGBTQの中だとバイセクシュアルなのでBなんですけど、だからといってかわいそうな人間かといえば全くそんなこともなく、日々楽しく生活していますし、どうしてもドラマだとマイノリティを出すとかわいそうな存在として描かれるのはおかしいよと言いたくて、車椅子のことには言及せずに同僚の一人として一緒に働いている人にしました」
Q.主人公が同級生や訪問先の方から投げかけられた言葉はインタビューや取材で得たことですか?
東海林監督
「あそこはハイブリッドで、僕自身が同級生に言われた言葉だったりとか、トランスジェンダーの友人から聞いたり、主演のイシヅカユウさんと話してどんどんセリフを変えていきました。いろんな人の経験が混ざっているシーンです」
Q.映像ではトランスジェンダーの表象の問題はあると思うんですが、ネガティブなものや死に繋げて描かれていることを観てきましたが、今回は映画を作成する中で特にトランスジェンダーの方の表象についてこだわったところはありますか?
東海林監督
「まず当事者が演じていることが重要なんですが、他に重要なのは職業です。トランスジェンダーの方はどうしても歴史的にセックスワーカーやナイトワークの方が非常に多くて。それはなぜかというと昼の一般的な職業に就こうとしたときに差別されて排除されたり、社会に出ていけないという事情があって夜の仕事に流れがちだったんですね。今回も同じことをやってしまうとまた偏見を強化してしまうわけです。今実際にトランスジェンダーの方も社会に出て働いていますし、むしろそっちの方向を伸ばしていかないといけないのにナイトワークみたいなイメージを印象づけてしまうのは良くない、性的な表現、セクシャルなアイコンとしてのトランスジェンダーにならないように気をつけています」
映画『片袖の魚』https://redfish.jp/ は現在名古屋シネマテークで公開中。
別府ブルーバード劇場は9/24~、浜松シネマイーラは10/1~、横浜シネマリンは11/20~上映予定。
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