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声から広がる作品の世界・中川龍太郎監督インタビュー(映画『四月の永い夢』)

世界四大映画祭の一つと言われるモスクワ国際映画祭で国際映画批評家連盟賞とロシア映画批評連盟特別表彰の二つを同時受賞という快挙を成し遂げた『四月の永い夢』の公開が6月2日から愛知・ミリオン座で始まった。

公開に合わせて中川龍太郎監督を迎えてティーチイン(観客からの質問に答えるイベント)が開催された。
中川龍太郎監督は現在28歳。17歳の頃に詩集を発売し、詩人として文壇にデビュー後、大学に入ってからは映画製作を行うようになった。

『四月の永い夢』の撮影スタッフは全員20代。スタッフの半分は愛知県出身が多く、現場では名古屋閥があったという裏話も。ティーチインでは観客から監督の普段の生活への質問やキャスティングに対する質問が出ていた。

 

Q.監督が思う日常の中で楽しいなあと思う瞬間は?

中川監督
「僕は空いた時間はラジオを聴きながら散歩して銭湯にいくという生活が好きなんですが、先日行った銭湯に冷凍サウナというのがあって。マグロを入れる感じの箱に入ると冷気が出てきて。その後にサウナに入るんです。すごい新鮮だなと思いました。すみません。あまり意味がないことを言いまして(笑)。それとさっき食べた味噌煮込みが美味しかったです」

 

Q.前作『走れ、絶望に追いつかれない速さで』を見ています。前作も友人の死がテーマになっていたと思うんですが今回もそれがテーマで続いているのですか。

中川監督
「親友が5年前に亡くなったんですが、前作は親友が亡くなってから1年のタイミングで撮影していて自分の生傷の心のままを残しておきたいという自分の回顧録的作品だったんですが、今回は3年たって距離を置いてみた時にその問題をどう描けるかというのがテーマになっています。自分とは違う性別だったり、立場だったりにしてもう一度見直してみようということで違う設定にしました。この作品でこのテーマには区切りをつけたいなと。今までのテーマはなぜ生きるかというものだったと思うんですがもう一歩踏み込んでどう生きていくのかというような作風に変えていきたいと思っています」

Q.キャスティングについて教えてください。

中川監督
「僕が一番好きなキャラクターは楓ちゃんです。楓ちゃんを演じたのは川崎ゆり子さんで「マブとジプシー」という劇団の女優さんです。初海ってなんか理想化された女性ですが絶対に面倒くさくて付き合いたくないでしょって思うはずです。年配の男性だとわかると思います。付き合うなら絶対に楓ちゃんとの方が楽しいと思います(笑)。キャスティングはあて書きだったのでオファーして受けていただきました。僕はあて書きで脚本を書いて映画を撮ることがほとんどなんです。イメージが合う方にオファーしています。この作品だと『かぐや姫の物語』を見て朝倉さんの声が素敵だなと思ったのでその方に合う声の方を選んだというのがあります。あとは面倒くさい人は起用しません。現場に来なくなってしまう人とか。気が小さいのでなるべく優しそうな人にお願いしています。それでなくてもスタッフの名古屋閥には逆らえないので(笑)」

中川監督
「名古屋は前の前の作品から上映をさせていただいている場所で自分にとっても、スタッフに愛知出身が多いという所をとっても思い入れの強い場所です。まだまだ未熟なところがある作品かもしれませんが皆さんのお声がなければ広がることのない作品ですので議論していただいたり、よくないことも伝えてくださったりなんでもいいですので広めていただければと思います」

ティーチイン後にはサイン会も開かれ、直接観客からの質問にも答えていた監督にさらに突っ込んだインタビューを行った。

中川龍太郎監督インタビュー

Q.当て書きされていると先程ティーチインで話されていましたがなぜ当て書きされるのでしょう?

中川監督
「全く知らないところから人物を創造するよりはある人を想定してその人に味付けしていく方が僕にとっては馴染みのあるやり方です。リアリティを求めていて結構役者さんと話しながら作っていくことが多いんです。今回の作品で言うと朝倉さんが普段使われている言葉遣いを作品に取り入れてますし、前の作品であれば主演の太賀さんとストーリーの部分も考えたり。当て書きすることで密なコミュニケーションが取れるのでそう言った効果もあって当て書きするようにしています。当て書きしてキャストをはめ込んでその後の調整を役者さんとしています。深いところまでは知りませんが、朝倉さんご自身の人格と性格と初海は近いところがあるんじゃないかと思っていて。意図的にそうしようとしたということもありますが。背筋がピンとしていて言葉遣いが物凄く綺麗じゃないですか。それは人間として成熟しているからそうなのではなくてむしろ壁を作ってしか他者とコミュニケーションが取れないという未熟さからバリアとして出来ていると思う。美しさとしてそれを描くのではなくてひとつの壁として描くように心がけました。初海は不器用だし、面倒くさい人間です」

 

Q.撮影監督の平野さんは愛知県出身の方ということなので撮影監督とのやりとりを教えてください。

中川監督
「僕と彼との出会いは19歳の時からなのでもう長いんです。僕と彼は大学が違うんですが、僕の大学では映画を作っている人がいなかったので映画作りが盛んな彼の大学の人達と作るようになったんです。その中で非常に優秀なカメラマンがいると有名だったのが平野くんで、既に映画の現場で撮影助手もして活躍していたのは知っていて、いつか一緒にやりたいと思っていたんですが、僕は他の方と映画を撮っていたのでこれが初めてのタッグになりました。手ぬぐい工場のシーンは実際は色を確認する場所なので白色灯でないといけないんです。だから僕は白色灯でやってくれとお願いしたんですが、彼は二人の関係が縮まるシーンでこれだとロマンティックじゃないから暖色系の方がいいんじゃないかと言ってくれて。この色を作品の随所に混ぜています。二人が映っているところは暖色系、それ以外の部分は白色系にしています。こんなにも話し合って二人の意見を混ぜながら出来たのは初めてなのですごく感謝していますし、また次回も平野くんとやりたいですね。他の監督だったら僕は自分の意見を押し通してしまって、また違った作品が出来ていたと思います。照明さんと工夫しながら彼が撮ってくれたことで僕が考えていた現実と地続きのファンタジーな世界が出来上がりました」

Q.声が印象的な方が多いんですがこの作品だからこだわったんですか

中川監督
「声フェチなのでキャスティングコンセプトとしてはいつもあるんですが、声で明確に選んだのはこの作品が初めてです。三浦貴大さんと志賀廣太郎さんの声って深くてコクがある低い声ですよね。この作品は女性の物語なので男性が主張したり、パンパン速く話すよりは音楽で言えば通奏低音みたいな感じの声の方にしたかったんです。森次さんもそうです。それとは違って女性は朝倉さんの声とどう混じり合うかを意識していて。川崎さんは8歳年下の教え子の設定ですが実際は朝倉さんと同い年なんです。ただ話し方や声質で年齢って違って見えるのでこの設定にしています」

Q.詩人でもある監督が言葉についてこだわったのはどこですか

中川監督
「自分の詩的なことを考えられる作品ではないなと思っていたので朝倉さんが普段使っている言葉遣いをそのまま入れようと思っていました。お風呂から出た時に「いただきました」と言ったのは朝倉さんのアドリブだったと思います。あと「志熊さんは不思議な人だ」というセリフも別の機会に朝倉さんが「〇〇さんは不思議な人だ」と言っていたのを聞いて取り入れています。そういう日常的に使っているけど詩的だなと思う言葉をいいタイミングで使えそうだなと思えば取り入れて使っています」

Q.志熊さんって変わった名前だなと思いますがどこで思いつかれたんでしょうか

中川監督
「始めは実は『志熊藤子(しぐまとうこ)の休日』というタイトルだったんですよ。滝本初海じゃなくて志熊藤子という女の子だったんです。ごつい名字の志熊に藤子というおばあさんみたいな名前でそれをコンプレックスに持っていた女の子がその名前が好きだよと亡くなった彼氏に言われていた。その志熊藤子さんの休日という。『涼宮ハルヒの憂鬱』じゃないですが(笑)、始めはそんな感じのタイトルだったんです。その名前が残っていて名残で志熊藤太郎。名前を名乗って語り合う部分は始めのコンセプトが残っていたわけです。名乗り合うという文化はもうあまり日本には残っていないと思うんですが、人格のスタートである下の名前を男女で出会う時に名乗って話すというのをやって見たかったんです。古い価値観の中には素敵なものがいっぱいあって、そのものがなくなってしまっても映画として、映像として残る。映画にはタイムカプセルみたいな面があると思うので古い時代の価値観ややり取り、関係性みたいなものは映画を撮り続ける以上は残して行きたいと思っています」

Q.時間が止まっている初海とは違って変化した教え子の楓を登場させたのはなぜですか

中川監督
「中学時代の教師と教え子の設定なんですね。初海のパーソナルスペースをめぐる物語だと思っていて。彼女はモラトリアムな感じで自分の領域を出ないようにしていた女性なんです。そこへかつて自分が影響を与えた存在の楓ちゃんがどんどん入ってくる。志熊さんも新しい恋愛対象として意識するようになって自分のパーソナルスペースが揺らいでくるというコンセプトで。その変化のために性格が正反対の楓ちゃんには出てもらいたいなと思ったわけです」

Q.楓はなぜジャズシンガー志望なんですか

中川監督
「ジャズは即興性の高い音楽で。その場の空気に即応していくというか。初海さんはこの作品の中ではフルートのイメージだったんですね。劇伴音楽もフルートは初海のコンセプトでとか、音楽家さんに話して作っていただきました。初海さんはクラシック的な雰囲気。一つのことを一つのやり方で丁寧に直していく。クラシック的な彼女を作りかえるには全く違うジャズというメディアがいいんじゃないかと思ってジャズシンガーにしました」

Q.『カサブランカ』が登場して『As Time Goes By』が使われています。和訳は解釈がいくつかありますがどんな思いでこれを使われたのでしょうか

中川監督
「時の流れに身を任せる、身を委ねる。作品の中に出てくる手ぬぐいは色を染みこませるのにすごく時間がかかるんです。だから時間をかけるということに結びついたイメージに『As Time Goes By』だったり、『カサブランカ』という古典映画を出してきたりしています。『カサブランカ』も待つ話ですから。そういう意味で選びました」

Q.あれは楓役の川崎さんが実際に歌われているのでしょうか。プロフィールを見る限り歌手はやられていないように感じますが

中川監督
「撮影中に彼女にはすごくレッスンしてもらって現場で同時録音をしたものに似せてプロに歌ってもらっています。工程がかなりあるんです。出来れば川崎さんの本当の声でやりたかったんですが、プロであるという説得感も欲しかったし、映画の見せ場の一つでもあるので完成度が低かったら吹き替えようと思っていて。その時に単なる工夫のない吹き替えをやるとすぐわかっちゃうじゃないですか。そうならないように練習して彼女の声に合わせてやってもらうという選択が最終的にはよかったんじゃないかと思います。「ものんくる」というジャズユニットなので是非覚えておいてください。菊地成孔さんがプロデュースしていて、ボーカルの吉田沙良さんという方が吹き替えてくださっているんですが、吉田さんは元の川崎さんの歌ぴったりに唇を合わせて歌うことも出来るし、唇を合わせたまま元の歌い方を自分の歌い方でアレンジすることも出来る凄い方でした。作品ではその真ん中ぐらいの歌い方を取っています」

Q.ラジオが大切なポイントで出てきますが監督がきいていた思い入れのあるラジオ番組はありますか

中川監督
「『ヒダカトオルのオールナイトニッポン』と『ラジオ深夜便』が2大思い出に残ってるラジオ番組です。『オールナイトニッポン』で好きだった女の子に浪人時代に告白したことがあって、実はそれが今回の映画のラストの元ネタになっています」

Q.監督は若いと言われることにどう感じていますか

中川監督
「映画を作って公開する以上は若いから上映料金が安いというわけでもないですし、若いからこうだと言われるのはいい気はしないです。若いから嬉しいということはないですね。ただ責任はあると思っていて是枝監督みたいにすでに地位を確立された監督はこれからも偉大な映画を作り続けるだろうと思うんですが、それに頼っていては意味がないし、自分たちみたいに若い人間が是枝さんに負けないように「大丈夫です」と言えるような立場になるべく早くなりたいです。そういう面では対抗心もあります。是枝さんが賞を獲られてからどこへいってもその話をされますが、僕はそれを気持ちよく話を聞いているだけではいけないと思っています」

作品の美しさ、声や音へのこだわり、間の持つ意味。
静かな作品だがその作品の中に込められた思いはたくさんある。
とまった時計がゆっくりと動き始めるのを感じた。

『四月の永い夢』
3年前に恋人を亡くした初海(朝倉ユキ)は教師を辞めて今は蕎麦屋で働いている。
ある日蕎麦屋の常連の志熊(三浦貴大)に自分の手ぬぐいの個展を見に来てほしいと誘われるが昔の思い出が初海を躊躇させる。働いていた蕎麦屋が閉店になると突然告げられ、次の仕事を探すための休暇をもらった初海だったがなかなか動き出せない。そんな時、教え子だった楓(川崎ゆり子)と出会う。楓はジャズシンガーを目指していたが一緒に住んでいる恋人に暴力を振るわれていた。

tokyonewcinema.com/works/summer-blooms/

現在愛知・ミリオン座で公開中。岐阜、三重・伊勢進富座でも公開予定。

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