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あなたが私を覚えていてくれる ー夫婦の絆ー 映画『八重子のハミング』佐々部清監督インタビュー

『八重子のハミング』
特に好きなのは冒頭、八重子が誠吾の病気を知り、
寝るときになって泣いているのを誠吾が優しくなだめるシーンだ。
八重子が本当に可愛らしく、そんな八重子を誠吾がとても愛していることが感じられる。
寝室は夫婦が夫婦でいられる空間で佐々部監督のこの空間の描き方がとても好きだ。
『半落ち』『ツレがうつになりまして。』でも夫婦の愛を描いてきた佐々部監督の新作は
10年以上前から企画された作品だ。

あらすじ

山口県でのある講演会で妻の介護について話す老人がいる。
石崎誠吾は若年性アルツハイマーになった妻の八重子を12年間介護した。
その介護の経験を沢山の人に知ってもらいたいと講演会で話すようになった。
自身も再発するガンと闘いながら誠吾は
記憶をなくしていく八重子を介護したのだった。
観客に思い出の日々を語っていく。

原作は若年性アルツハイマーになった妻・八重子さんの介護の日々を
夫の陽(みなみ)信孝さんが三十一文字の短歌とともに綴った『八重子のハミング』。

 

妻・八重子さんを介護した4000日のうち、大半の時間が介護保険法が始まる前のことだ。
介護保険制度が始まったのは平成12年の4月からであり、
陽さんが介護にあたっていた頃は訪問介護や通所介護などの介護サービスはなかった。
家族の支えや周りの助けを受けながら日々を過ごしていく。
一歩一歩じっくりと歩んだ4000日。
八重子さんとの二人三脚はやはり愛がなければできなかった。
二人で一緒に歩を進めていく。
その日々を佐々部清監督がしっかりと描く。

4月6日、名古屋で佐々部清監督に取材を行った。
その模様をお届けする。

映画を作ることになったきっかけ

Q.映画を作ったきっかけを教えてください。

佐々部監督:
原作者の陽(みなみ)さんと知り合ったのが10年前です。
山口県の萩という所に2スクリーンを守って映画館を運営している人たちがいます。
陽さんはその映画館を守るNPOの理事をされているんです。
山口県出身の僕の特集を組んでくださった時に飲む機会があって仲良くなりました。
陽さんはがんに4回もなったのにタバコは吸うし、お酒も飲むし、女子は好きだし(笑)
とても魅力的なんです。その陽さんがある日、
「映画化されるんです。佐々部監督ではなく大手の映画会社で
違う監督なんですけどぜひ読んでください。」
と言って原作をくださったんです。その原作を帰りの新幹線で読んで涙が止りませんでした。

 

「これは撮りたいなあ。」と思ったんですが、監督が決まっているなら仕方ない。
翌年、陽さんと再会した際に「脚本家や監督は取材に来ましたか?」と聞いたら
「全くない。」と。心配になってその映画会社に確認したところ
「とっくにその企画はなくなった。」と言われてしまいました。
原作者に配給会社はそれを伝えていなかったんです。僕はそのことに憤りを感じて。
僕は原作にほれ込んだし、陽さんが好きだったから
「僕にこの原作をください。脚本を作って映画会社へのプレゼンまで自分でやります。」
と陽さんに言いました。

 

そこから交通費も宿泊費も全て自腹で取材に行って脚本を書いて。
映画会社を回るために台本も製本して1つずつ会社を回って4年かかりました。
でもどこにも振り向いてもらえず、残った20冊の台本を「僕が出来たのはここまでです。」
と言ってお渡しして一旦終了していたんですが、
3年前、升毅さんも出演していて僕が監督した
『群青色の、とおり道』の若いプロデューサーがこの台本を読んで
「絶対にやりたい。」と言ってくれました。
それで僕と一緒にプロデューサーになってお金集めをしてくれることになり、
撮影も終わって今に至っています。

今の時代に必要な映画を作る

佐々部監督:
自分の母親がおととしの夏に他界しました。
僕が撮影した映画を山口で上映する度に喜んでくれていたんですが
亡くなる3年位前から認知症が始まって、僕が山口に帰っても
最後の頃は母の施設に行って1時間ぐらい話をして帰る頃に
やっと息子が来たということがわかる感じで。
妹がずっと母のおむつとかを運ぶ世話をしていたんですが
元気な時は二人がぶつかり合うので心療内科に通うくらい妹が疲弊してしまいました。
こんなに身近に介護で大きな問題があるんだったら
これは今の時代に必要な映画かなと
母が認知症になった頃から感じていて背中を押されました。

原作をいかにわかりやすく伝えるか

Q.原作は短歌とエピソードが入ったものなんですか?

佐々部監督:
原作は手記なんですね。短歌が一つあったらその短歌にまつわるエピソードが書かれています。
思いが羅列してあるので脚本にするときにはすごく悩みました。
原作のままではストーリーとして成立しないので観客が混乱しないように
誠吾を語り部にして現代の講演会のシーンで整理整頓していますし、
過去に戻った部分は年を表示したりしています。
80才近い誠吾が講演会で話すということを思いついたときに
この手記を脚本にできるかなと思いました。

 

描きたいのは夫婦愛

Q.介護の描き方は色々あると思いますが一番気を付けたことはありますか?

佐々部監督:
升さんや洋子さんに話したのは「熟年の純愛映画を作りたいんです。」と。
『半落ち』でもアルツハイマーを扱っていますが、あれも究極の夫婦の物語なんです。
十数年経ってまたアルツハイマーを背景にしています。
究極の夫婦の愛情物語ですがさらに膨らませたのが家族の愛も含めたところです。
5年前に撮った『ツレがうつになりまして。』もうつ病の映画ではなくて
‟結婚するっていいじゃん”という映画にしたかった。

この作品も年齢を重ねた夫婦が愛し合えている奇跡というのが伝わるといいなと。
見てくださった方が泣けたというんですが、心を浄化するみたいな感じでしょうか。
"知らない内に涙がこぼれる映画"と感想を書いてくださる方もいて。
介護は大きな背景ではあるけどこの映画は夫婦の愛の物語とその周りの家族の物語なんです。

 

キャスティングについて

Q.高橋洋子さん起用の理由を教えてください。

佐々部監督:
3年前に洋子さんには僕が携わっている海峡映画祭にゲストで来ていただきました。
30年芸能界から離れた方だし、60才超えていらっしゃるし、
「おばさんが来るのかな…。」と思ったんですけど実際お会いしたらキラキラされていて。
映画がお好きで旧作、新作に関わらずすごく見ていらして。
映画への思いも持っていらっしゃるし、チャーミングでかわいらしくて。
全然女優という空気が失われていなかった。

もし八重子さんを例えば大竹しのぶさんが演じたら
大竹しのぶさんが演じているって見てしまうんですが
30年この世界にいなかった高橋洋子さんが演じたら
最初から八重子さんだと思って見てもらえる気がしたんです。
洋子さんには升さんの芝居を受けることは役柄上出来ないので
「かわいらしい八重子さんを意識して演じてください。」としか言わなかったんですけど、
あれだけの朽ちていくというか人として魂をなくしていくということを
順撮りでもないですし、13日間しかなかったので1日ですごい分量を
撮らなければいけないのに完ぺきにやってくださった。
ああ、女優ってこういうことかと新たな女優像を見せていただいた感じです。

 

Q.井上順さん演じる市長は明るくていいですね。

佐々部監督:
市長の役は実は松方弘樹さんだったんです。松方さんも僕も萩の観光大使で。
出演も快諾していただいていたんです。
撮影は昨年の3月の予定だったんですが2月に病気で倒れられて。
萩でも松方さんが演じることをすごく喜んでくださっていたんです。
松方さんの代わりだからと言って急きょ知らない人をキャスティングすることは
時間的にも出来なくて。
全部事情を話してもここ8作連続で僕の作品に出ていただいている
井上順さんなら受け止めてくれると思ってお願いしました。
順さんは事情も全部承知ですぐに参加してくださいました。
重い介護の話なので真ん中あたりで順さんみたいな明るい方が出てくると
ほっとするなと思ったんです。順さんにお願いしてよかったです。

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故郷山口の皆さんの協力あっての映画

Q.山口の方はどう関わってくださったんでしょうか?

佐々部監督:
映画全てにです。お金集めをしようとしてまず萩の市長さんにお願いしましたが
全部は無理だと言われて。一部は行政ではなく民間で集めてほしいと。
目標金額まで集まったらあとは出すと言ってくださって。
まず地元の大手企業を回ったんですが簡単にはいかなかった。
でも会社でもないのでファンドみたいなやり方にはしたくないし。
脚本と僕の実績しかない中で個人や複数の会社の社長さんに少額の投資をお願いしました。
1年ぐらいかけて回りながら同時にクラウドファウンディングサイトを使わずに
映画の公式サイトを作ってそこでも協力をお願いしてかなりの額が集まりました。」

 

製作費は5000万。いかに節約するか。萩での撮影裏話。

佐々部監督:
撮影のために高校時代の親友に地元プロデューサーになってもらって
資金集めをしながら親友の車でロケハンもすべて済ませました。
病院での撮影の手配もしました。
病院を借りるので名前が入るようにサービスはしています(笑)

撮影中は萩の地元婦人部隊がご飯を作りに来てくださって。
25人の方が5、6人に分かれて作りに来てくださったみたいで
最後に「お疲れ会やるから監督来る?」と言われて行って初めて知ったんです。
平均年齢70歳ぐらいのおばちゃんたちが25人もいらっしゃるんです。
花束ももらっちゃったんで泣くしかないじゃないですか。
スタッフの弁当代が250円ぐらいしか出せないぐらいの状況で
おばちゃんたちが「家からお米持ってきたよ。」「これ持ってきたよ。」って言って
ご飯を作ってくださって、カメラマンは撮影中に4キロ太りました。(笑)

 

自分で会ってお願いする大切さ

佐々部監督:
誠吾さんが乗るその当時の車がなくて結局廃車されている車を車検して動かしたんです。
お金を払いに行ったら
「もういいよ。」と言ってくださって。
会社名をエンドロールに入れるだけでOKにしてもらったり。
これは全部自分で回ったというのもあるんです。普通、監督は自分で回りません。
宿に関してもフィルムコミッションにお願いしたら、一人一泊13000円ぐらいですって
言われたんですけど、僕は3000円ぐらいしか出せないので自分で探しました。
そうしたらあったんです。素泊まり3500円の所が。
「8人止めてもらうので3000円にしてください。」
と頼んだりして。分宿にはなりましたけど3000円で泊まれました。

 

繋がっていく支援の輪

佐々部監督:
協力していただいた皆さんを完成披露試写に無料で招待して。
升さんと洋子さんと一緒に行って挨拶しました。
口コミで広めていただいてチケットが2万枚売れました。
その後、新聞社やテレビ局にも取材していただいて
山口では『君の名は。』に続いて興行収入が2位になりました。
いろいろ切り詰めて僕が頑張っているのを取材してくださって
その記事でまた知った方が応援してくださるという繋がりが山口でありました。

 

見てほしいけどシネコンでは上映されない

Q.今回の経験は今後に影響しますか?

佐々部監督:
正直、もう(このスタイルでは)やりたくない。(笑)
ただこうやらないとこういう映画が撮れなくなっているという
日本映画の悲しさはひしひしと感じて。
「これは地味だから、中高年が主役だから観客が入らないからやらないよ。」っていうのが。
今はシネコンだとイケメンと女子高校生の恋愛ものばっかり。
それもあっていいんだけどこういう映画もないといけない。
シネコンでかけたくてもかけられないのが現状です。
試写をやるとたくさんのマスコミの方が紹介したいと言ってくださるので
沢山の場所で見ていただけるといいなと思って
僕は今命がけでこの映画の宣伝をやっています。」

佐々部清監督

佐々部清監督

 

沢山の印象に残らない映画より印象に残る1本の方がどれだけ大切か。

映画監督が撮りたいと思う作品が撮れない今の日本で
佐々部監督が撮りたいものに賛同した人々の力で
今の時代に必要な映画が完成した。

 

『八重子のハミング』http://yaeko-humming.jp/
5月6日より有楽町スバル座ほかで全国順次公開。

中部地区は5月6日より名古屋・名演小劇場で公開。
静岡シネ・ギャラリー、シネマイーラも順次公開予定。

また以下の通り、舞台挨拶も決定。ぜひ名演小劇場へ。

舞台挨拶情報
日程 :5月7日(日) 名古屋・名演小劇場にて
ゲスト:佐々部清監督、升毅さん (予定)
時間 :10時10分上映の回 上映後   12時25分上映の回 上映前

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