淵に立って描きたいもの(映画『淵に立つ』トークショー)
2017/04/11
岐阜の映画館で上質な映画を見てもらいたい。
その思いで立ち上がった岐阜新聞映画部。
岐阜新聞東京支社長が東京国際映画祭で『歓待』(2010年)を観てから
いつか必ず監督を岐阜に呼びたいと思っていたそうだ。
実現したのは『淵に立つ』の配給統括の増田英明プロデューサーが
岐阜出身だったこともある。
深田監督とも深い間柄の増田プロデューサーが
深田監督のお相手をする形で進んでいく。
映画の製作側と配給側での駆け引きも垣間見える
充実のトークショーの一部をレポートする。
(上映後のトークショーのため若干ネタバレあり)
CINEX映画塾 第9回
『淵に立つ』深田晃司監督×増田英明プロデューサー トークショー
2017年4月8日(土) 岐阜 柳ケ瀬 CINEX
『淵に立つ』を製作することになったきっかけ
深田監督:
「2006年にシノプシスと呼ばれる短い話を書いたのがきっかけだったんですが
今と比べてもキャリアが浅くてこれだけの映画を作る予算集めも出来ずに
もう少しコンパクトな映画を作ろうと思って『歓待』という映画を2010年に作りました。
小さな女の子のいる夫婦が働く町工場に流れ者がやってきてかき乱して去っていく
という『淵に立つ』の前半部分とほぼ同じストーリーなんです。
これを見たプロデューサーが「何か一緒に映画作ろう。」ということで
3年前ぐらいから脚本作りを始めました。
この映画に関わりたいというプロデューサーが何人か集まって製作委員会が
発足して企画が成立したんですが、増田さんは配給部分のプロデューサーです。」

深田晃司監督
増田プロデューサー(以下増田P):
「僕のことは別に紹介しなくってもいいんですよ(笑)
プロデューサーというのは表に出る人ではないんです。
プロデュースとはものを作ることです。
去年このCINEX映画塾でも上映した『あん』のプロジェクトチームがあって。
プロデューサーとかお金を出してくださった会社が中にはいるんですが
監督に何か作ろうと言った米満さんというプロデューサーが
『淵に立つ』という企画を「これどうですか?」とそのチームに
持ってきてくれたのがきっかけです。」
深田監督:
「米満さんから一緒にやるならということで他の原作も出していただいたんですが
僕はこのシノプシスをやりたくて出しました。
面白いからこれで行こうとはなったんですけど内心、女の子が可哀想な目に遭う
暗い、盛り上がりもオチもない映画が通るとは思ってなかったので
プロデューサーが集まったと聞いて驚きました。」
増田P:
「フランスからもお金が出ています。日仏合作なんです。
フランス側のプロデューサーは30年ぐらい向こうに住んでいる澤田さん
という方なんですが、澤田さんにも話を気に入っていただいて
話がさらに進んだ感じです。」
カンヌで認められるKを目指して
増田P:
「『あん』の河瀨直美監督はカンヌ国際映画祭で評価されている監督なんですけど
深田監督も日本の監督で世界に紹介していくべき監督だと盛り上がりました。
カンヌで評価されている日本の監督ってこれまで4Kと言われていたんです。
河瀨直美監督、黒沢清監督、是枝裕和監督、北野武監督。
大きな映画祭で話題に出てくる監督はこの4人。
深田監督も名前は晃司ですからKですし、次はFKだということで動き出しました。
海外では映画そのものをどう作るかというのを統括するプロデューサーがいるんですが
日本は監督がこういうものを作りたいというのを
プロデューサーが協力的に作っていくという感じなんです。」
深田監督:
「製作委員会の弊害をよく言われます。いろんな会社がお金を出していて
意見がバラバラになって作家性がなくなるとか、監督が作りたいことができない
というのが製作委員会のデメリットなんですけど
僕の場合は『淵に立つ』も含めて数本やっていますが、
やりたかったことに賛同してくださる方が集まっていたので
そういう弊害は撮影が始まるまでは特になかったですね。」
上映時間は長くては困る
増田P:
「配給側の役割が僕にはありました。
日本の映画館でかけていただく、いわゆる資金を回収する立場でもあったので
監督に物申してしまったことがあります。
一度編集して映画館で試写を見た時に2時間半ぐらいあって。
率直に『これ2時間ぐらいになりませんか。』と言っちゃたんです。」
深田監督:
「OKカットをつなげた段階で3時間ありました。」
増田P:
「仕事を受ける立場として映画館でこのままかけてもらうのは難しいなと思ったんです。
映画館は3時間になるとかけにくいんです。映画館が嫌がります。
同じ料金なら3時間のものよりも90分のものを2回かけた方が
収益性が高いかもしれないんです。」
深田監督:
「2時間以内というのはこの映画に限らずどこでも言われます。
2時間半ぐらいの段階のものはまだ長いものとこちらも思っていました。
撮影段階では言われなくても編集段階で製作委員会から言われることが他にもあって。
『もう少し希望のあるラストにできないか。』とも言われたんですけど
それはできませんと言いました。
でも編集段階での意見はありがたいんです。
僕の場合、編集は自分ひとりでやっています。
自分一人でやっていると客観的に見れなくなってしまいます。
この絵を残したいのは構成上必要なのか撮影の思い入れがあるから削りたくないのか
わからなくなるんです。脚本も読んでなくて現場にも来ていない編集のプロの方に
アドバイスに入ってもらっています。粗くつないだ段階で製作委員会でも見ていただいて
意見をもらえたのがとても助かりました。」
非常時に人はどんな行動をとるのか
増田P:
「いつも質問されるから先に答えておきましょうか。
最後の川のシーンで利雄が助ける順番について。」
深田監督:
「脚本では誰から助けるかということは指定していませんでした。
僕がやりたいと思っていたのは追い込まれた利雄(演:古館寛治さん)が
身近にいる人を助けるために右往左往している所で終わらせようとしたんですが、
現場のリハーサルの時にまず古館さんがああいう芝居をしました。
なぜ孝司(演:太賀さん)から助けたかを聞いてみたら、
『体勢的に自然だし、よそ様の子だからそっちから先に助けるんではないか。』
と思ったそうなんですけど、古館さん自身も明確に理由をもってやったわけではないと思うんです。
ああいう危機的な非日常的な状況で思いもよらぬ行動をすることはあると思うんです。
古館さんの芝居を見ていろんな解釈ができると思います。
よそ様の子だから助けたとか障がい者の蛍よりも
健常者の孝司を心のどこかで優先してしまったという
残酷な解釈をすることもできる。人間の不思議さが現れているシーンなので
編集の監修をしてくれた女性を説得してこのままにしました。」

(右)深田晃司監督 (左)増田英明プロデューサー
照明の明るさは心の変化や時代の変化を表す
観客:
「ものすごく室内が暗い気がするんですが。」
深田監督:
「自分のまず趣味的なところでもあるんですが。
日本家屋は全体照明なのでのっぺりとしちゃうんです。
絵として面白くないので撮影監督と照明の方と相談して
ヨーロッパの間接照明のような陰影の濃い絵にしました。
全体的に影が多くなっています。
実は後半の8年後のシーンの方が明るい絵作りになっていまして。
8年間の時間の変化、登場人物の心の変化を
視覚的にも映像で差をつけたいというのがあって。
工場も全体的に影の割合を減らしています。のっぺりとした光づくりにしていて。
はじめからフラットにしておくと変化がないので
大きめに前半と後半で差をつけました。」
増田P:
「今のテレビドラマだとすべてに光が当たっている感じで
それに慣れてしまってるんです。
機材がデジタルになってから光を取りやすくなっているので
ドラマも映画も明るくなっているんですがそこをあえて狙っています。」
伝えたいことよりも撮りたいものがある
観客:
「監督はこの作品で何を訴えたかったんですか。」
深田監督:
「私は自分が訴えたいこと、メッセージをお客さんに伝えることが
映画の仕事だとは思っていません。
観た人が100人いたら感想が100通り分かれるのが映画だと思っています。
映画は強力なメディアで一度に同じ気持ちにさせてしまうこともできるからこそ
危うさからは距離をとって作品を作らないといけないと考えています。
家族を描くことはとてもポリティカルなことです。
今の日本の家族制度は他の国に比べても普遍的で、
伝統的な教育制度が強く残っている国だと思います。
‟理想的な家族はこうなので皆さんもこうなればいいですね。”
っていう映画は作りたくないんです。
監督自身の家族観というのが問われて来るんですが
前半の夫婦の姿というのは自分の両親がモデルになっています。
物心ついたときから両親の会話は聞いたことがない。
本当に会話がなくて事務連絡しかしていない。
なんか皆さん引いてるかもしれませんけど(笑)
僕にはそれは何のトラウマにもなっていないし、
それが当たり前だと思っていました。
ドラマやCM、映画を見ると家族は
‟お父さんがいてお母さんがいて子供がいて仲がいい”のが
正しい形、理想的な姿になってしまっていることに違和感があって、
そうではない家族観を描きたいというのがありました。
メッセージとかは特にはありませんが
家族の奥にある人それぞれが抱えている孤独を描きたかったんです。
家族や宗教という共同体のつながりをはぎ取られた後に残る孤独。
夫婦でも隣にいる人が他人だなと思えてしまうそんな瞬間が
現代では多くなっていると思うんですがそれを描きたいと思いました。
増田P:
「初めに脚本を読んだときに文学的な話だなと思ったんです。
僕らが小さい頃はテレビや読んだ本に悲しい結末の話が普通にあったと思うんですが
最近ってないなあと思います。ポジティブで前向きなものばかりなんです。
スローガンとしてはあるのはいいと思うんですけど
なんかそれを押し付けられている感じもするんですよ。
映画を見る方は様々にいらっしゃいますが、
深いものがみたいという方も多いですよね。」
深田監督:
「いろんな映画が見られる状況は欲しいですよね。
仕事に毎日疲れていてつらい映画を見るのはつらいですけど
元気になる映画しか生き残れなくなるのは文化の貧しさだと思うんです。
こうやって岐阜で普段見ないようなものを映画塾で見ていただけるのは
すごいいい機会だと思いますね。」
岐阜でも映像のワークショップを
増田P:
「最後に監督のこれからの予定を。」
深田監督:
「この映画は実は小説になっていまして、また別のものとしてつくっています。
利雄と章江の出会いも書いてますし、映画と結末は違います。
こちらもよければ読んでみてください。
それと。新作を作る予定で来年公開できればいいなと思っています。
インドネシアオールロケです。」
増田P:
「そしてもう一つ。深田監督と一緒に会津若松の教育委員会と協力して
子供たちと映像を作るワークショップをやる予定です。
会津若松には映画館がないんです。
学校を回って体育館に暗幕を張って映画を見てもらっている状態です。
今回は深田監督に来ていただいて全員に映像を作ってもらおうと思っています。
監督が呼んでくださって一緒にやってくださる映像アーティストさんが
岐阜の可児市の方なのでぜひ岐阜でもやりたいなと。
将来的にまた岐阜からも映画監督が生まれればいいと思っていますし、
教育委員会の方にこの声が届いたらいいなと思っています。」
観客からの質問にも丁寧に答えた深田監督。
大幅に時間をオーバーしたが、その後もロビーで
一人一人から質問の受け答えを続けていた。

深田晃司監督
作品を見た後、すぐに忘れてしまう映画もある中で
深田監督の作品はなかなか忘れられない作品ばかりだ。
オルガンの音、草太郎(演:浅野忠信さん)の佇まい。
悔やんでも悔やみきれない後悔の重さ。今回もしっかりと心をつかむ。
作品を書くきっかけになることは山ほどあるという深田監督。
落ちないようにぎりぎりの淵に立って闇を覗き、人々を描く。
次はどんな忘れられない作品を世に出してくれるのか。

CINEXロビーにて
(左)増田英明プロデューサー (右)深田晃司監督
映画『淵に立つ』は4月14日まで岐阜CINEXで限定上映。
その後、5月3日にはBlu-RayとDVDがリリースされる。
カットしなければならなかった部分もメイキングでは収録されている。
詳しくは公式HP(http://fuchi-movie.com/)まで
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