Cafemirage

Cafe Mirage--岐阜発 映画・エンタメ情報サイト

カテゴリリンク

konosekai_chirashi

EntaMirage! Entertainment Movie

ポストホロコーストで残された人々を描く(映画『この世界に残されて』)

2020年米アカデミー賞国際長編映画賞ショートリストに選出され、ハンガリー映画批評家賞3部門を受賞した『この世界に残されて』が1月8日より東海三県で順次公開される。

ハンガリーはヨーロッパの国々の中でも争乱に巻き込まれることが多かった国だ。第二次世界大戦時にはナチス・ドイツによって約56万人ものユダヤ人が殺害されたと言われる。その後はソ連のスターリンの権利下に置かれ、共産主義は1980年代後半、鉄のカーテンが取り去られる民主化の動きが出るまで続いた。

ホロコーストの犠牲になった人を描く映画は多いが、ホロコーストから生き延びた人々のその後を描く映画は少ない。この映画はポストホロコーストにハンガリーで生きたユダヤ人を描く。

全てを失い、たった一人残された少女の抱えきれない悲しみを受け止めたのは同じ痛みを知る年の離れた医師だった。

あらすじ

終戦後の1948年。ホロコーストを生き延びたものの、家族を喪い孤独の身となった16歳の少女クララは両親の代わりに保護者となった大叔母にも心を開かず、同級生にも馴染めずにいた。そんなある日、クララは寡黙な医師アルドに出会う。言葉を交わすうちに、彼の心に自分と同じ孤独を感じ取ったクララは父を慕うように懐き、アルドはクララを保護することで人生を再び取り戻そうとする。彼もまたホロコーストの犠牲者だったのだ。だが、スターリン率いるソ連がハンガリーで権力を掌握すると、再び世の中は不穏な空気に包まれ、二人の関係はスキャンダラスな誤解を孕んでゆく。

年の離れた男女のかけがえのない共同生活

16才の少女と43才の医師の共同生活となれば、現代であれば恋愛映画になる題材だろう。しかし1948年のハンガリーを描いたこの作品はそうはならない。ホロコーストで家族を失い、孤児を養子に迎える人はこの当時多くいた。家族をなくし、一人でいることへのどうしようもない苦しさを感じているクララとアルドは心の奥底で共鳴して惹かれた。クララが自分の家で暮らすことについてアルドが受け入れたことは自然な流れだろう。そこからクララとアルドの日常が描かれる。

時には父と娘、時には恋人、時には同志。お互いの傷を癒やすかけがえのない時間が刻まれる。

konosekaini2

本作はこれまで短編映画での演出手腕が国内外で高い評価を受けてきたバルナバ―シュ・トートがメガホンを採った。製作にはベルリン国際映画祭金熊賞受賞作『心と体と』のプロデューサー、モーニカ・メーチとエルヌー・メシュテルハーズィが名を連ね、孤独な男女の心の結びつきを丁寧に描く名作を新たに世に送り出した。

少女クララを演じたのは、これが映画初主演となるアビゲール・セーケ。16歳にして家族を喪ったクララの悲しみや怒り、焦燥感をリアルに表現し、ハンガリー映画批評家賞最優秀女優賞を受賞した。アルドにはハンガリーを代表する名優カーロイ・ハイデュク。クララを支え無償の愛を注ぐアルドは寡黙だが、深い思いやりを感じさせる繊細な演技が素晴らしい。アビゲール・せーケの魅力を存分に引き立たせる緻密な演技を見せ、ハンガリーアカデミー賞およびハンガリー映画批評家賞で最優秀男優賞を受賞した。

アルドとの生活の中でクララは精神的な落ち着きを取り戻し、16才の女性としての美しさが現れる。クララが同年代の異性とのダンスをすることに少々腹立て気味の割には同年代の友人と付き合いなさいという矛盾した発言をするアルド、同年代には興味がなくアルドと過ごすことが楽しいクララ。共産党の動きからアルドは常にクララが幸せに生きることが出来る状況を考えていく。

ラストシーンの「僕はいつも嘘つきだ」というアルドの表情がせつない。ポーカーフェイスな彼の心にクララという存在はどれだけ大きな安心感を与えていたことだろう。

クララはアルドをどのように思っていたのか。
アルドはクララをどのように思っていたのか。
この映画では言葉では語られていない。
しかし、私達は二人の姿から感じることができる。

konosekaini3

ラストシーンで見えるハンガリーの自由の光はその先のハンガリーの歴史を知る側から観ると胸が痛くなる。

一人では耐えられない時。
自分の気持ちをわかってくれる誰かと一緒に過ごしたい。そんな人がいてくれたら。
男女・年齢を超越する絆で繋がる人はきっとどこかにいるはずだ。

『この世界に残されて』https://synca.jp/konosekai/ は1月8日よりイオンシネマ名古屋茶屋、伏見ミリオン座、1月15日よりイオンシネマ津、1月23日より岐阜CINEXで公開。

-EntaMirage!, Entertainment, Movie

おすすめの記事はこれ!

ikiro3 1
沖縄戦時中の事実を知る (映画『生きろ 島田叡ー戦中最後の沖縄県知事』)

アジア太平洋戦争末期。すでに日本軍の敗色が濃厚だった1945年1月31日、一人の ...

sukutte1 2
金魚も彼女もすくいたい(映画『すくってごらん』)

映画紹介を耳で聴いてみませんか? stand.fmでCafemirage Rad ...

アーラ映画祭-1024x924 3
アーラ映画祭は3月20日から22日に開催!

アーラ映画祭が岐阜県可児市文化創造センターアーラで開催される。 今回は3月20日 ...

main 4
『his』撮影地でドライブインシアター開催!

かつて恋人同士だった男性2人の8年ぶりの再会から物語がスタートする映画、『his ...

IMG_20210117_204050 5
コケシに捧げる愛の歌?(映画『コケシ・セレナーデ』)

2019 年初の長編自主映画となる『みぽりん』がカナザワ映画祭2019「期待の新 ...

minori1 6
第46回CINEX映画塾『実りゆく』田中要次さん×八木順一朗監督トークショーレポート

第46回CINEX映画塾『実りゆく』上映&トークショーが12月6日岐阜C ...

konosekai_chirashi 7
ポストホロコーストで残された人々を描く(映画『この世界に残されて』)

2020年米アカデミー賞国際長編映画賞ショートリストに選出され、ハンガリー映画批 ...

no image 8
明けましておめでとうございます!

Cafe Mirageの記事をご覧いただいている皆様   あけましてお ...

burai 9
昭和から平成。裏社会を生き抜いた男の物語(映画『無頼』)

さまざまなアウトサイダーたちの姿を一貫して描き続けてきた鬼才・井筒和幸監督の新作 ...

©2020『喜劇愛妻物語』製作委員会 10
第45回CINEX映画塾『喜劇 愛妻物語』足立紳監督・代情明彦プロデューサー トークレポート

第45回CINEX映画塾『喜劇 愛妻物語』上映&トークショーが11月28 ...

title1 11
女ってなんでしょうね。(映画『タイトル、拒絶』)

『タイトル、拒絶』というタイトルがまず気になった。 「ワタシの人生に、タイトルな ...

onkyo1 12
そこは奇跡が起きる場所(映画『音響ハウス Melody-Go-Round』)

ビートルズがアビーロードスタジオを愛し、あの横断歩道を渡る写真のアルバムを始め、 ...

honki4 13
第43回CINEX映画塾 『本気のしるし 劇場版』上映&トークショー レポート

第43回CINEX映画塾『本気のしるし 劇場版』の上映が岐阜CINEXで開催され ...

mrsnoisy1 14
隣人はどんな人?(映画『ミセス・ノイズィ』)

集合住宅に住めば必ずいる隣人。 隣人との良好な関係を保つのも、生活をする上で大切 ...

©2019「ばるぼら」製作委員会 15
映画『ばるぼら』は大人のファンタジー(映画『ばるぼら』手塚眞監督インタビュー)

彼女は魔女かそれともミューズか。 都会の片隅で耽美派の小説家・洋介が出会ったばる ...

royal3 16
ホテルローヤルを映像化。武正晴監督のこだわりとは?(映画『ホテルローヤル 武正晴監督インタビュー』)

ラブホテルとは日常から切り離された場所だ。一種の別世界。ここでの二人の時間は他人 ...

goze1 17
瞽女として生きた一人の女性の物語(映画『瞽女GOZE』)

日本には、盲人ながら三味線や胡弓を弾き唄い、巡業を生業とした女旅芸人がいた。「瞽 ...