
「待ってください。ちょっと停めただけじゃない!」「いいえダメです」(映画『ミドリムシの夢』)
ミドリムシとは皆さん、なんのことかご存じだろうか。
普通はユーグレナのことだが今回はそれではない。着ている服の色からそう呼ばれている駐車違反を取り締まる駐車監視員のことを言う。あの違反切符を切る人たちのことだ。取り締まった相手からクレームを言われながらも違反切符を切る。
そんな駐車監視員を主人公に製作された『ミドリムシの夢』が東京公開を経て名古屋、大阪と連続で公開される。
あらすじ
2人組で駐車違反を取り締まっている駐車監視員(ミドリムシ)のマコトとシゲ。2人は毎日の様に、「ミドリムシ!」「税金泥棒!」と罵られている。真面目なマコトは男女構わずに厳しく取り締まるが、一方のシゲは女に弱くいい加減。そんな凸凹コンビの2人に、深夜勤務の話が舞い込む。とある夜、駐車違反を見つけ通常通り違反切符を切った2人は予期せぬ騒動に巻き込まれていくのであった…。
誰だって夢を持つ
夢は人それぞれだ。その夢はその人の人生経験から生まれ、その後の人生に大きく影響することは間違いない。決して若くない、かっこよくもないおじさんにだって抱き続ける夢はある。
駐車違反をとにかく厳しく取り締まるマコト、人がいい部分とお色気に弱く、融通が利いてしまうシゲのおじさんコンビが眠らない街・東京で駐車違反を取り締まったことが原因で騒動に巻き込まれていく本作。そこにはまさに人間交差点ともいえる東京だからこそ起こる、夢との葛藤、別れ、悩みを抱える人たちの4つの話が絡んで、問いかけてくる。「あなたの夢は何ですか?夢に向かって進んでいますか。今のままでいいですか?」と。
監督は今回が長編初監督となる真田幹也。演出家・蜷川幸雄氏の元で修行を積み、『バトル・ロワイアル』や『アウトレイジ』などに俳優として出演する一方で、2006年文化庁委託事業「若手映画作家育成プロジェクト」に選出され、『Life Cycles』を監督。以降、これまで20本におよぶ短編を手がけ『キスナナ the Final』で高砂市観光協会長賞、『オオカミによろしく』でちちぶ映画祭2014グランプリを受賞など高い評価を受けている。(なお、『キスナナ the Final』は名古屋のナナちゃん人形をテーマに撮影された作品で名古屋で撮影されているが、今作にも名古屋にからんだ設定が入っていて楽しませていただいた。)『ミドリムシの夢』はSKIPシティ国際Dシネマ映画2019国内コンペティション部門で正式上映後、池袋シネマ・ロサで公開された。
役者としても活動する真田監督だからこその個性的なキャスティング、スタッフ陣が集結している。
脚本はハロープロジェクトの舞台や映画『インターン!』などを手がける岐阜県出身の太田善也、音楽はタカタタイスケ(PLECTRUM)が担当。仕事に誇りを持つ駐車監視員・マコト役を『スペシャルアクターズ』の富士たくや、だらしないが憎めない相棒シゲ役を『おっさん☆スケボー』のほりかわひろきが演じ、今村美乃、吉本菜穂子、佐野和真、歌川椎子、仁科貴、長谷川朝晴、戸田昌宏と数々の作品で活躍中の演技派・個性派俳優陣の巧みな演技が全編楽しめる。
刑事ものみたいに大きな事件が起こるわけでもない。駐車違反を取り締まって嫌味を言われるばかりの職業である駐車監視員を主人公にした映画はこれが初めてだろう。駐車監視員だって人間。駐車監視員だって誰だって夢を持つ。そしてそれが生きる糧になる。大きな夢も小さな夢も。人々のある夜の出来事に観る人は勇気づけられるに違いない。
映画『ミドリムシの夢』https://www.midorimushinoyume.comは
2020年1月18日(土)~24日(金)連日17:40~名古屋シネマスコーレ
2020年1月25日(土)~31日(金)連日18:30~大阪シアターセブンにて上映
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